1LDK report.〜現代東京シーンを牽引するセレクトショップ、1LDKの真価に迫る〜

by Mastered編集部

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以前に実施したインタビューにおいて、そのショップ作りの本質を大いに語ってくれたクリエイター集団Alphaのクリエイティブディレクター/1LDKのディレクター、南貴之。前述したとおり、ある種の完成形とも言える店舗を生み出した彼が今何を考え、想うのか。まずは今回のレポートにおいての核とも言える、このインタビューから報告をスタートさせるとしよう。

僕らは1LDK apartments.というデベロッパーであって、そこに洋服屋さんと雑貨屋さんとカフェを入れた。そういう考え方です。

— 以前のインタビューの際には面白い物件があれば、随時お店は出したいと話していましたが、今回の1LDK apartments.に関してはいつ頃から出店が決定していたのでしょうか?

:1LDK apartments.の話をする前にまずはお礼を言わなければならないことがあるんです。あのインタビューをやってから青山に1LDK aoyama heights.を出したじゃないですか? 実はそれ、あのインタビューのお陰だったんですよね(笑)。

— どういうことですか?

:いや、実はあのインタビューを見たユトレヒトの江口さんが僕に連絡をくれて。それであの場所に出店が決まったんですよ。その節は本当にありがとうございました(笑)。
今回に関しては2月ぐらいですかね、あの物件を見つけたのが。

— 今回も名古屋や青山の時のように、誰かから声を掛けられて、という流れだったのでしょうか?

:いえ、今回は違いますね。前からずっとあの場所にお店を出したいと思っていたんです。

— あの場所って以前は何がありましたっけ?

:昔はたしかガールズバー(笑)。
元々は一棟まるまるじゃないと貸りられない物件だったんですよ。でも僕が2月に見つけた時には2階、3階が既に埋まっていて、1階だけのテナント募集の張り紙が出されていて。もう、すぐに電話しましたね。それで今に至るという訳です。

— 既にお店があるエリア、しかも既存の店舗の真正面に新店舗を出すという発想は通常だとなかなか生まれないと思うのですが、どうしてあの場所を選んだのでしょうか?

:元々僕はこの“1LDK”というプロジェクトを、将来的に“衣食住”全てを含んだ形にしたいと考えていたんです。これはお店の構想段階からずっと一貫して考え続けてきたことですね。ただ、いざやるとなるとそれ相応のスペースも必要だし、なかなか最初からそう上手くはいかないじゃないですか? でも、最近は1LDKというセレクトショップが、始めた当初よりもある程度広く認知されてきたし、それに伴って様々なベースも出来上がってきたので、そろそろファッション以外の分野を融合したお店をどこかに出しても良い頃なのかなと。そんな折、タイミング良く向かいが空いたので…(笑)。
というのは冗談ですが、向かいに1LDK apartments.を作ることによって、1LDKもその中の1つであるように見せることが出来るんじゃないかなと思って。逆に真正面であるからこそ、あの場所に決めたという部分はあるかと思います。

— 外観や内装といった素材自体はもともと良かったんですか?

:いや、それはもう全然。今回は外観も全部1から作りなおしたので、相当大変でした。

— 基本的なコンセプトはこれまでの1LDKと変わらない?

:うん、そうですね。衣食住を1つの“全体”として訴求させる意味ではある意味での完成形として考えてはいるんですが。かといってこれで終わりという訳では無く、以前のインタビューでも言いましたが最終的にはやはりホテルをやりたいですね。

— 新店舗のプレスリリースには「ぼくらはただの飲食店、雑貨店をやるつもりはありません」といった一文が入っていましたが、ただの飲食店、ただの雑貨店というのは具体的にどういうことでしょうか?

:例えばの話ですが、飲食店の人はやはり何をやるにしても飲食店の価値観でやりますよね? 同じように雑貨店は雑貨店の価値観でやるし、洋服屋は洋服屋の価値観でやる。でも僕には基本的にそういう価値観やルールと言ったものが無いので、雑貨店で取り扱っている食器やカトラリーがカフェで使われていたりするし、逆にカフェで出てきたお皿が可愛いと思えば隣の雑貨店で買うことが出来るっていう環境を作りたいと思ったんです。もちろん、既成の概念からものすごく逸脱したものをやる訳では無いんですが、そういう小さなことをデザインしたかった。だからやっぱり気にしたことっていうと“デザイン”の一言に尽きるのかな。

— 言い換えるなら「1LDKの価値観でやる飲食店や雑貨店」と理解してもよろしいですか?

:そうですね。カフェのメニューとかには当然既成のものもありますが、あくまでも僕らの価値観でやるというのが1つの手段としてあります。「カフェだけ全然違うね。」とか、「雑貨屋だけは別だね。」という感じではなく、全てが「あぁ、1LDKだな」と思えるような空間にしたかったんです。

— では将来的には、1LDKの名前がついているけど、洋服屋では無いという店舗が誕生する可能性も?

:もちろん。あとは組み合わせ方も自由自在ですよね。例えばレディースと雑貨店だけ、テイクアウトできるコーヒーの店とメンズ、飲食店と本屋とか。まだ具体的に計画が進んでいる訳では無いですが、そういう風にこれから色々なことが出来るようになるかなと思っています。

— なるほど。では1LDK=洋服屋という認識で無くても構わないという訳ですね。

:うん。1LDKは「店」ですから。売っている物が何であれ、1LDKは1LDKの色になるのかなと思っています。

南貴之
Alpha.co Creative Director/
Branding Director
H.P.FRANCEにてCANNABIS,FACTORY,Sleeping Forestを立ち上げすべての店舗のバイイング、ディレクションを行う。2008年1月H.P.FRANCEを退職。同年同月、Alphaを設立。ショップのディレクションのみならずブランドのコンサルティング、空間デザイン、パーティのオーガナイズ等、多岐にわたり活動中。2012年6月、1LDKとしては4店舗目となる新店「1LDK apartments.」を東京・中目黒にオープンした。

— レディースの店をやりたいという想いは昔からあったんですか?

:そうですね。レディースに限らず、子供服もやりたいし、やりたいことは山ほどあります。例えばXLサイズの洋服しか置かない“XLDK”とか。

一同笑

:僕みたいに、マイノリティーな人たちがくる店(笑)。
XLからXXXLぐらいまでの品揃えで、素敵な物があるっていう。そこまでやればある種、1つのテーマと言えますよね。

— それは楽しみです。ただブランドのラインナップだけを見ると、1LDKとあまり変わっていない印象を受けました。その辺りは狙い通りという感じですか?

:いえいえ、全然。そんな狙って物事を進めたりは出来ませんよ、僕は(笑)。
でも、たしかにそれは自分の中でやりたかったことの1つで、出来るだけレディースだけをやっているブランドは避けたかった。本当はメンズしか作っていないようなブランドさんにレディースをやってもらうっていうのがやりたかったんだけど、なかなか最初からは難しいですよね。でも今後はそういうものも考えていきたいと思っていますよ。青山にお店が出来てから結構女性のお客さんも来てくれるようになったんですが、「このデザインでレディースがあったら欲しいのに」っていう声が意外に多かったんですよね。

— 南さんが考えるレディースのファッションとメンズのファッションの違いはどんな部分ですか?

:スカートとワンピースがあるところじゃないでしょうか。

— …そこだけですか(笑)?

:そうですね。あとはヒールの靴があります。良くレディースはジャンルが広すぎるとか、価格の問題があるとか言いますが、それはメンズでも一緒ですもん。あとはなんだろう…バッグも違いますね。だからメンズと同じように楽しいですよ。

— 以前、“ユニセックス”って言葉が嫌いだと仰ってましたが、それはどうしてなんですか?

:え、なんだろう…響きですかね(笑)?
いや、ユニセックスってサイズ感が無いものを指す言葉じゃないですか。そういうことじゃないんですよね。サイズ感の問題では無いと思うんです。例えばファッションの1つのスタイルとして、大きいものを選んで買うってことはユニセックスではないじゃないですか? 別に女性が男性の服を着て、格好良ければそれで良いと思うんです。そもそもレディース、メンズっていう概念が必要なのかと言われると、疑問ですね。1つのスタイルとして、そういう時代でも無いんじゃないかなと思うし、ある程度年齢も重ねて、たくさんの洋服を見てきている女性だと単純に「可愛くて今っぽいものが欲しい」ってことじゃ無くなってくるんじゃないかな。もちろん流行の流れは男性よりも早いし、影響力も強いと思うけど、そういうのはそれを追いかけられるお店がやってくれれば良いだけの話であって、僕らには出来ないし、やる必要も無いと思っています。メンズ的な目線、価値観の女性がいないとは思わないので、そういう人たちに向けてものを見せていきたいですね。提案というか、ある種のアンチテーゼみたいなところもやっぱり含まれているとは思いますけどね。僕はあまり意思が無い店はやらないタイプなので。

— 今回1LDK apartments.を作るうえで、どこか参考にしたお店はありますか?

:特に無いですね。ただ「レディースをやるからレディースらしい外観を」とかそういう事は一切考えずに、可愛らしい感じは全て排除しました。本当に無骨なつくりにしたかったんですよ。だから、この建物はイギリスの工場の作り方で作ってあるんです。全部鉄筋で。なんか軍の収容所みたいな雰囲気ですが(笑)。

— それはどうして?

:なんというか、なるべく外観でカテゴライズされたくないんですよね。内装に関しても普通は洋服屋で使わないような内装にしたかった。それが僕の空間作りのテイストっていうところもあるとは思うんですけど。

— レディースはメンズ以上に見た目でカテゴライズされますもんね。逆に外観でカテゴライズする人たちは来なくてもいいという考え方なんでしょうか?

:…そこに関しては全く考えてなかったです(笑)。
レディースにはどうしても甘い部分があって、それは大事にするべき部分だと思うんですよ。男性には無い感覚だから。そういう甘い部分が並んだ画を考えたときに、空間は僕にとってキャンバスのような考え方で、色をつけて絵を描くなら、キャンバスはハードな物の方が素敵かなと。中にあるものが逆に引き立つように思えたんです。

— 先ほど仰っていたイギリスの建築手法を用いたというのもそういう理由からなんですね。

:イギリスどころか、建築手法はイギリスの工場の作り方で、中の部材はアメリカの地下鉄のタイルをシカゴから空輸して入れて、床のモザイクタイルはスペインのもの。世界中の素材と日本の技術が融合した素晴らしい店舗です(笑)。

— 今までの店舗で面積は一番広いですよね。

:うーん…たしかに広いんですが、洋服屋だけで全てを使っている訳じゃないですからね。狭い洋服屋と狭い雑貨屋と40席近くのカフェがあるだけなので。なので個として見た時に「広いお店を作っている」という感覚は無かったですね。

— だからapartments.なんですね。

:そうなんです。僕らは1LDK apartments.というデベロッパーであって、そこに洋服屋さんと雑貨屋さんとカフェを入れた。そういう考え方です。実はこれは全国のデベロッパーに対するアンチテーゼでもあるんですけどね。まず自分達の空間ありきで考えるべきだし、そこに違う要素のものをどう入れれば面白くなるのかって考えるのがデベロッパーの役割だと思うんですよ。中にもともと格好良いものを入れるだけのデベロッパーなんて要らないんじゃないですかね。

— 確かに。そう考えると強烈なアンチテーゼですね。これで中目黒が2店舗、青山、名古屋と計4店舗になった訳ですが、次に出店するならどの辺りに?

:実は7月にもう1店舗出来るんですよ。埼玉の熊谷にニューランド(NEWLAND)っていう複合商業施設が出来るんですが、そこに出店します。7月8日にオープンするんですよ。

— それは全く知りませんでした。どんな施設なんですか?

:元々クレーンの教習所だった場所をリノベーションした施設なんですが、泊まれるところとギャラリーとお店が入っていて。僕らの他にはカレー屋さんだとか、レストランとかクリーニング屋さんだとか、本屋が入るって聞いてますね。恐らく「1LDK for NEWLAND」という形でやるかと思います。詳しくはニューランドのウェブサイトが完成しているので、そちらを見て頂ければと。

— 全く予想していませんでしたが、良いネタが頂けました(笑)。今後、1LDK apartments.でも中目黒の1LDKのようにポップアップショップやイベントを開催していくのでしょうか?

:そうそう、面白いのはプロダクトと食を絡められるってことですよね、食育のようなことも出来るし、ファッションデザイナーから料理人まで、色々な人が関わってやっていくというか、その“動いている感じ”というのはすごく大事な気がします。簡単に例を挙げれば、カフェのものがメニューや食器も含めて1つのブランドにジャックされたりだとか、コーヒー染めの洋服の横でそのコーヒー豆も売るだとか。そういうことを洋服屋の観点からだけではなく、やっていけたら良いかなと思っています。

— それは面白そうですね。

:あとは1LDK自体も今までよりも少し男性的なものというか、僕が思う“男らしさ”みたいな部分を表現できる場所に出来れば良いなと。シェービング用品であったり、シューケア用品であったり、男が決める時の洋服というのを少し増やしていきたいとは考えています。

— 極端に言えばスーツであったり?

:そういうのも含めてオーダーが出来れば最高ですよね。基本的にはメンズまでを入れた総称を1LDK apartments.としているつもりなので、そこに先ほど話したようなイベントやカフェを絡めていけるのが理想ですかね。

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