原宿の地で30年という長きに渡り存在し続ける名セレクトショップ、キャシディ。その名物スタッフとして各メディアでも引っ張りだこの八木沢博幸氏ディレクションによる新店舗「キャシディ ホーム グロウン」が、既報のとおり原宿に本日オープン。というわけで、早速取材に向かいました。
店内の様子はもちろん、八木沢氏へのインタビューも実施。開店準備で多忙を極めるなか、開店への経緯や現在の原宿に対する思いなど、貴重なお話を伺ってきました。
普段気兼ねなく着られる価格帯のもので、もっと欲しいもの
— まずはオープンにいたる経緯をお伺いできますでしょうか。
八木沢博幸氏(以下八木沢 敬称略):会社がちょうど30年目なんですけど、そんなタイミングでオーナーから「君の好きな店をやってみたら?」と言われまして。それで、ちょうどキャシディも若い子たちだけで出来るようになってきていたので、やらしてもらうことにしました。面積もキャシディの半分以下くらいなんですけど、そこで僕の好きなものだけ並べてやってみようかなと。
— なるほど。八木沢さんはキャシディに開店当初からいらっしゃったんですか?
八木沢:そうですね、オープン当時から。キャシディっていう名前も、私がつけさせてもらいました。それで、前にいた方がすぐ辞めちゃったりして、いきなりバイイングなんかをやらせてもらえる機会に恵まれて。
— 先ほど「八木沢さんの好きなものだけ」とおっしゃってましたが、新しいお店の商品構成は具体的にどのような感じになるのでしょうか?
八木沢:一時期アメカジ色が濃くなりすぎちゃっていたりした反動で、ちゃんとトラッドに戻ってやりたいなという感じもありまして。最近ニューヨークにフリーマンズ・スポーティング・クラブとかJクルーのリカーストアみたいなお店もできているので、そういうのに憧れたりもした一面もあるんですが。そういう、好きなモノだけ置いて並べている、みたいな感じでやれればと。
キャシディのバイイングも、数年前から僕じゃなくて他の若い人たちに行ってもらってしたりしているので、もうおじさんが出る幕じゃないかな、と(笑)。自分は自分でやらしてもらおうかなって思って。
— キャシディといえば、アメリカからイタリア、さらにはイギリスなど、世界各地のものを新旧問わず偏りなくセレクトしている印象ですが、今回のお店もそういう感じなのでしょうか?
八木沢:基本的に私は何でも好きなんですけど、基本的にはあんまりクリエイティブなものとかアバンギャルドなものは…。ただ、ちょっと「遊びたい」という思いは強いんですよね。そういう気持ちで選んだアイテムをお客さんに買っていただくと、本当に嬉しいんです。
あとは、普段気兼ねなく着られる価格帯のもので、もっと欲しいものがないかな、と思って。もちろん良いものは良いもので欲しいんですけど、もっと身近というか、いわゆるファストファッションは着たくないけど、こういう世界的な経済状況のなか、あまりに高価なものはどうかな、という。まぁみんなうまく組み合わせてるとは思うんですけど、普段着るものはもうちょっと買いやすいものでもいいかなぁと思いまして。
— 確かに価格はすごく抑えられていますよね。
八木沢:でもクオリティは出来るだけがんばって、ほとんど日本で作ってます。だから、従来のマッキントッシュとかラベンハムとか、そういうものは今までどおりキャシディで買っていただいて、僕の方はちょっとB級というか、逆に少しハズしたものを並べようと。今回セレクトした『セロ』のシャツのように、懐かしいけど今っぽいもの、古くならない良いものを見つけていきたいですね。まぁ、若い方にはあんまりわかんないかなぁって感じもあるんですが(笑)。でも逆に昔の人として、そういう歴史みたいなものを若いお客さんにも伝えていければいいかなと思っています。
— 「ホーム グロウン」の方は、オリジナル以外も価格帯は押さえ目なのでしょうか?
八木沢:意識的に低くしているわけではないのですが、結果としてあまり高価なものは無いですね。
— キャシディーとの差別化については、特別意識されてはいないのでしょうか?
八木沢:そうですね。実際そんなに大きくは変わらないと思うんですけど。
— より「八木沢イズム」が濃くなると。
八木沢:そうですね。ちょっとおじさんバージョンみたいな感じで。まぁ原宿自体いろんないいお店があるんですけど、ちょっとトラディショナルでいいものを盛り上げていこうかな、と。昔は近くに「バークレイ」とか「クルーズ」とか「リトルアイランド」とかトラッドなお店が多かったので、昔のアイビーみたいな感じではないですけど、そういうテイストをある程度ブルックス(ブラザーズ)とかラルフ・ローレン以外で表現できればなと思っています。
あとは、先ほどのフリーマンズ・スポーティング・クラブじゃないですけど、ハンティングだとか釣りだとかが好きな仲間同士が、週末を楽しむ為に集まるような店にしたいなぁっというのがありますね。共感出来るものがあるたまり場というか。
— 昔の原宿にもありましたよね。服を見るというより、話をしにいくっていうお店が。
八木沢:そうですね。うまくおもてなしできれば、みたいな。なかなか今はそういうのがなくなっちゃったんで。モノじゃなくて話というか、せっかく長いことやってきたので、それにまつわることとか、そういうことがお伝えできればと思っています。
— それだけでも価値がありますね。30年間原宿を見てきたなかで、最近の原宿についてはどう感じられますか?
八木沢:そうですね、お店がいっぱい増えたのは事実ですよね。僕なんかは仕事以外であまりこの辺を出歩かないので、原宿で一番田舎者かなって感じなんですけど(笑)。休日に来たりすると、なんか驚きながら歩いてますよね。気後れしちゃってビクビクしながら歩いてます(笑)。でもやっぱりエキサイティングな街だし、素晴らしいなぁと思うし。変わっていくのを見ていくのは楽しいですよね。良いお店はたくさんできてるんで、また原宿をオシャレでカッコイイ街にするのに、自分たちも協力出来ればなと思っています。
— 期待しています。ありがとうございました。
原宿を見守り続けてきた八木沢氏が示す新機軸。確かにそこには、スペック至上主義とは一線を画す、ファッションが「楽しく」なるアイテムが並んでいました。しかも価格は極めてリーズナブル。開店時ならではの掘り出し物も見逃せません。早速今週末のお買い物ルートに加えてみてはいかがでしょうか。
東京都渋谷区神宮前4-29-8 MAP
Tel:03-3470-6970
営業時間:12:00?20:00(木曜定休)
http://www.cassidy.co.jp/