こんにちは。ここ最近めっきり冷えてきましたが、クラブでは年中半袖の今井です。
前回のようなディスク・レヴューだけでなく、色々な面白いことを取り上げて行きたいと思います。
というワケで、今回は11月9日に渋谷のWOMBで行われたパーティ・レポートをひとつ!
Felix Krocher @STERNE 2008.11.09
石野卓球が主宰する日本最大級の屋内レイヴ『WIRE』に06、07と連続出場を果たしたテクノ界随一のもやしっ子、フェリックス・クロヒャー(Felix Krocher)。
初登場となったWIRE06ではセカンド・フロアにもかかわらず、狂気染みたサウンドでクラウドをノック・アウト(VJの宇川直宏も大絶賛!)。そのスタイルに刺激を受けたDJ達が、すぐパーティを立ち上げたことは記憶に新しいです。
そして翌年にはなんとメインフロアの大トリに大抜擢。見事それに応え、1万5000人以上の観客を熱狂の渦に巻き込み、横浜アリーナを大型脱水機へと変貌させてしまったヤツが再び来日!との報を受け、早速渋谷WOMBの人気パーティ『STERNE』に突撃してきました。
そもそも、彼のサウンドはテクノの中でも“シュランツ”と言われるジャンルに属します。簡単に説明するとハード・テクノ、ハードミニマルから派生した、BPM140〜170の超高速テンポで展開されるエッジィかつ攻撃的なサウンド。WOMBの紹介文中にはBPM180とありましたが、それだともうドラムンベースの域。リリースされている音源を見てもだいたいBPM150前後を行き来する感じなので、それぐらいで捉えておくのがベターでしょうか。
楽曲を例に挙げてみると、
Felix Krocher “Travel Pussy”
これがフェリックス自身による、王道とも言えるシュランツ・サウンド。
そしてジャンルは違えど、石野卓球がシュランツの影響を受け自身の解釈で作ったんじゃないかな? と個人的に感じている、ファッションリーダーでありダンス・ミュージック好きとしても知られる木村カエラの“Jasper”(卓球プロデュース)
この2曲はともにBPMが約150なのですが、かなりイメージが違いますよね?
ひとつは工事現場感丸出しのストイックなビート、もう一方は跳ねるようなポップな仕上がり。ここまでイメージが違うのも、両アーティストのオリジナリティの賜物でしょう! どちらともハードテクノのクラシック入り内定ですね。
さて、ここあたりで本題のパーティ・レポートを。
今回のフェリックスは2:30〜5:00までのDJセット。WIRE07時のように、彼にしてはゆっくりめなBPM130あたりのテンポからスタート。そのうちダムが決壊したような怒涛の流れに持っていくのだろうと期待して踊っていたんですが、2時間半のあいだず〜っとBPM135あたりをキープ。なんとこれといった流れも作らないまま、ついには持ち時間いっぱいの5時を迎えてしまい、適当にテクノ・アンセムのDJ Roland a.k.a. Aztec Mysticの“Knights Of The Jaguar”
をスピンしたので、プンスカしながら帰路に着きました……。
Eric Sneoとの作品や彼のMySpace、そして最近のDJセットの音源などから彼のモードが変化していってるのは分かっていたんですが、過去に3度も最高なDJプレイを体感しているのでちと残念な気持ちに……。
今回のようにアゲアゲな選曲でクラウドをアップリフティングさせるのではなく、黙らせるようなドS展開で客がオーガズムに達して発狂し、それがウイルスのように感染しフロアがカオスになっていった、『Mixrooffice』でのあの一夜。それが嘘だったかようなパーティでした。
シュランツ・テイストが薄れてしまった要因として、現在のミニマル・ムーヴメントに影響を受けた結果ということは正直否めません。かといって、いつまでもあの感じを続けられたら今度はこちらが味気ないと感じるようになっていたでしょう。
でも、彼が生み出したあのサウンドは、今聴いても目を閉じれば景色を吹っ飛ばせるほどのエナジーに溢れた素晴らしいものだと思うんです。ガリガリの華奢な身体から繰り出されているとは到底思えない、コンクリートばりに硬い超高速のキックと、淡々と刻まれる鋭利なシンバルが奏でる轟音は、今でも私の心を揺さぶってきます。
今回のピークタイムのトラックが、皮肉にも翌日の同会場でDJを行ったDubfireが手がけたRadio Slave「Grindhouse」のリミックス
であったということが象徴するように、正直消化不良だった今回のプレイ。でも、彼なりのネクスト・ステップを模索中なんでしょう……。
私の愛情にも似た期待は見事に裏切られましたが、恋愛のようにさらに彼に対する気持ちが燃え上がってしまったのでした…。