昨今、携帯電話並の普及率でiPodが普及した。電車に乗ればどこかしらには必ずあの白いイヤフォンを見る、と言っても過言ではない。今や『俺持ってるんだぜ!』と、見せびらかさんばかりに首からぶら下げている者なんて、すっかり見る影も無い。このようなことが示すように、音楽はより生活に密着してきているはずだ。しかし耳にするのはこんな話ばかりーー『CDの売上は落ちる一方だ』と。
その一因がインターネットの普及によるものであるということは、音楽関係者だけでなく、誰の目にも明らかだろう。今やパソコンが各家庭に1台以上ある時代で、みな自由に音源をパソコンにリッピングし、誰かに頼まれればすぐCD-Rに焼いて(もしくはデータのまま送信して)、誰もが手軽にコピー出来てしまうのだから、売上は落ちるに決まっている。
数年前、音楽業界は違法コピー問題に立ち向かうべく、コピーコントロールCD(CCCD)に光明を見いだした…が、今となってはすっかり過去の物となっている。これも結局、iPodをはじめとしたいわゆるデジタルオーディオプレーヤーが普及したおかげで、「パソコンに取り込むことのできないCDはゴミ同然」となってしまったからということに他ならないだろう。現在、CCCD君はすっかり中古屋のエサ箱常連になってしまい、その見るも無残な姿には同情すら覚えるが、当時は本当にピリピリしていたものだ。
そもそも、この時代にアナログ盤(ヴァイナル)を買う必要はあるのだろうか? アナログとデジタル(MP3等のデータ)の簡単な比較をすると、「ジャケット」「価格」「音質」の3つがキーポイントになると私は思う。購入時の労力、保存や持ち運びの手間など語れば切りが無いのだが、今回はこの3点において考察してみたい。
まずはジャケット。これはアーティストが自分の音楽や自分自身を表現する上で重要なファクターのひとつ。アナログ盤には『ジャケ買い』という言葉が存在するように、音を聞かずともその中身をイメージさせることも出来る。他にも、歌詞を見ることができるものもあるし、作曲者などのクレジット表記は、より深いディグへと繋がる大事なものだ。
反対にデジタルの場合は、データなのでジャケットそのものが存在しない。必要最低限のデータ(ジャケット写真、アーティスト、タイトルなど)はあるし、持ち運びも楽々で場所をとらない(エコ!?)。
次に価格。現在12インチシングルの価格は、1枚1,300円あたり(今は円高の影響もあり1,100円あたり)である。
一方デジタルであれば大概曲単位で購入できるし、どこのサイトでも1曲150円くらいのものだ。つまりコンビニでおにぎりをひとつ買うのと同じくらいだ。
ヴァイナルでは片面プレスで1300円なんてものもザラだから、同じ曲でも1,000円もの価格差が生じることもしばしば。この不景気のご時世にこの価格差は、なかなかトンでもない額だ。
そして音質。多くのダンスミュージック・フリークに惜しまれながら今年の6月に閉店となってしまった老舗クラブ、西麻布『YELLOW』での田中フミヤのDJプレイを聴いた時、普段コーヒーを飲まない私でも“違いがわかる男”となった。つまり、私が今までYELLOWで見てきたさまざまなパーティとは、いわゆる「音圧」が段違いだったのである! もちろん田中フミヤが使用していたのはすべてヴァイナルであった。
多くの場合そもそもの音源はアナログな状態である。それをCDやデータにする為デジタル化する際、どうしても周波数をカットする必要があるため、鳴らなくなってしまう音がある。ただ、正直このデジタルとアナログの音質の違いは、自宅で聴く分には超高性能の音響環境が無ければ容易く判断は出来ない。
しかし、一度大音量でこの差を味わってしまうと、なかなかその感覚は忘れがたいものがある。この差については、伝える側(アーティスト)はもちろん、聴き手側(リスナー)も認識しておかなければならない重要なことだと思う。
とまぁ、軽く比較してみたが、そもそも便利なものは普及していくし、不便でもイイものは残っていく。「結局そんな当たり前のことかよ!」とツッコまれてもしかたないが、タイム・イズ・マネーの現代社会において、取捨選択のポイントはそこに尽きると思う。
これは音楽ソフトに限った話ではない。自宅に居ながら24時間いつでもショッピングが出来るのは本当に便利なことだと思う。CDはもちろん、洋服、食品など全てのものが、日本のみならず世界規模で買えることになるとは、小さい頃には想像だにしていなかった。それが今や、今までネットで頼んだ商品はもう数え切れないほど。部屋を見渡せば通販で購入したものがどこかしこにもあるーーこの文章を今読んでいる方も、きっとそうではないだろうか?
セレクトショップやドメスティック・ブランドがウェブ上で気軽に購入できる(篠原ともえのブログが素敵な)『ZOZOTOWN』の売上は好調のようだし、中古レコードショップでも実店頭よりネットオークションでの売上のほうが多い店舗もあると言う。「アマゾン」と言えば70〜80年代はもちろん仮面ライダーであったはずだが、00年代の今ではもちろんこちらの方が広く認知されているだろう。
インターネットの普及により選択肢が大幅に広がったことで、どこでも好きな時間に試聴(服であればサイジング、またはカラーの判断)が出来、これが購入の一つの基準になることは間違いが無いし、使わない手はない。こうして、商品との距離は確実に縮まっているのだが、洋服と音楽には決定的な違いがあるーー音楽はレコードやCDなど現物の“モノ”ではなく、データになってしまったことだ。そのため、音楽との接し方が00年代にグッと変わり、その波に乗り切れなかったCISCOは倒産に追い込まれてしまった…
…と、CISCO倒産に至るまでの経緯について考証してみましたが、これから先はもう少し長くなってしまいそうなので、今回は一旦ここまで。まだまだ伝えたいことがあるので是非時間のある時に後編も覗いていただけたら幸いです。
後半は“これからの買い物スタンス”についてーー洋服と音楽の共通点など、私なりの視点で考えてみたいと思います。
ちなみに今回のタイトルはTHEE MICHELL GUN ELEPHANTの曲より引用させていただきました。
倒産のニュースを聞いたときにはこの動画みたいに叫んでしまいましたが、冒頭の小西さんのコメントのように、また新装開店してくれることを心より願っております。