現代の東京において、まことしやかに囁かれる都市伝説のようなゲーム『名刺じゃんけん』。お互いが持ち合わせている名刺の中から、有名な会社に努めている人物、またはその人自身が有名な人物の名刺を出し合い、その有名度によって勝敗を決するという、世にも悍ましい遊戯であります。
そんな『名刺じゃんけん』を良い子のEYESCREAM.JP読者の方々に向け、ユニークかつ、お茶目、そしてスタイリッシュにアレンジしたのが、この『Tシャツじゃんけん』。
EYESCREAMブログや連載『先月のバズワード』でもおなじみのAkeem the Dream氏と、コンセプトブランド[TILT]のデザイナーであり、DJとしても広く知られるEZ氏をホスト役に迎えてお届けする『Tシャツじゃんけん』ですが、ルールはいたって簡単。
毎回テーマを1つ設定し、様々なゲストクリエイターがテーマに沿った「とっておきの1枚」を持参。Akeem氏とEZ氏が持参した「とっておきの1枚」と合わせて、それぞれのTシャツを皆で品評していきます。
第3回目となる今回のゲストは、伝説のショップ、VINTAGE KINGのバイヤーを経て、1994年に[realmadHECTIC]をスタートし、現在は[M.V.P.]のデザイナー、A-1 CLOTHINGの創設者としても知られる真柄尚武氏。テーマは”ヒップホップTシャツ”です。
Photo:Masaya Fujita
Text&Edit:Keita Miki
■『Tシャツじゃんけん』第3回 ヒップホップTシャツ編
Akeem:はい、気付けばすっかり秋になってしまいましたが、第3回目となる『Tシャツじゃんけん』です。今回のテーマは”ヒップホップTシャツ”。まずは、真柄さんのTシャツからいってみましょうか!
真柄:Ron GのTシャツです。最初に手に入れたやつ。
Akeem:そういえば昔、一緒にニューヨークでRon Gの実家みたいな所に行きましたよね。あの時に買ったものですか?
真柄:いや~、その時だったっけな……。たしか、あの時に買ったのは帽子とかだった気がする。
Akeem:なんかボロボロの家で、麻薬を売ってるトラップ・ハウス調でしたよね。超失礼ですけど(笑)。なんで行くことになったんでしたっけ?
真柄:何回か直接コンタクトをとって、彼のカセットテープのコピーを買ったりしていたんだけど、その時は家にテープだか、グッズだかをピックアップしに行くって話になって。
Akeem:結構怖かった思い出があります。
真柄:まぁ、Bボーイの実家に行くことなんて、あんまり無いからね。
Akeem:でも、すごく良い人でしたよね、Ron G。丸くて小さくて、なんか可愛い。キッチンにお邪魔したと思うんですけど、そこら中にレコードが詰まったクレートが置いてあって、そのレコードを見ると、使い込みが激しすぎてスリーブが全部破れてた(笑)。当時はすごく忙しかったはずですよね。
真柄:DJでカレッジを週に3回周ってるって言ってたからね。
Akeem:ミックステープ界の中では相当上の方にいた時期ですしね。
真柄:テープではかなり名前が売れてたよね。ブレンドの元祖というか、そんな感じだった。
Akeem:そうですよね。彼の独特なブレンドがNYで話題になってる時、Biggie(The Notorious B.I.G)の歌詞に”Ron G, Brucey B, Kid Capri Funkmaster Flex, Lovebug Starsky”って出てきた時はびっくりしました。テープ、たしか1本10ドルぐらいで売ってましたよね? 多分、原価が高くても2ドルくらいだから、1本売ったら8ドル。1000本売って、8,000ドル。
真柄:そう考えると結構良い商売かもね。
Akeem:僕らが実家に行った時は、まだお母さんと一緒に住んでましたけど。
EZ:うわ~、それ良い話。めちゃくちゃ良い話。
Akeem:デザインの話をすると、ちょっと怖そうなデザインですね。映画『Boyz n Da Hood』のタイトルロゴのサンプリングかな?
EZ:恐らくそうだね。悪魔との契約みたいな。
Akeem:これは買ったんですか? 貰ったんですか? 相当着込んでますけど。
真柄:全然覚えてない……。
EZ:結構着てた記憶があるもん。これボディは[Champion]?
Akeem:僕も一瞬[Champion]っぽいなって思ったんですよ。洗いに洗いをかけた事によって、分厚かったラバープリントが丁度良い塩梅になってますね。
EZ:こういう緑とか紫とか臙脂って、アメリカのTシャツって感じがするよね。日本で売ると全然売れない色。
真柄:それはすごく分かる。
EZ:アソートで届くと「あ、緑来ちゃったよ……」って思うもんね……
一同笑
Akeem:バックには”Ron G NEWYORKS NO.1 DJ”の文字。これまた、言いますね~(笑)!
真柄:まぁ、言ったもん勝ちみたいなところはあるからね。
Akeem:当時は独自のブレンドだったり自分しか持っていないプロモのレコードをミックスに入れるのがDJの勝負でしたよね。DJがそのミックステープを流通させてみんながヒップホップを耳にしていたので、テープが当時のSound Cloudだったんですよ。
EZ:ニューヨークでは、ガムテープを売ってるような店でもすごい量のブート・テープが並べてあったよね。HOT97とかのミックスショーの。
真柄:あったね~。
Akeem:で、それを買って日本に持って帰ってきて、コピーして、更に売るっていう(笑)。ニューヨークの海賊版ビジネスを見習って[HECTIC]でも展開しましたね(笑)。あとは、ファイヤー通りのDJ’s CHOICEとかでも買えた。
真柄:CISCOはそういうの、やってなかったもんね。
Akeem:「海賊版いっぱい作って本当にすみませんでした!Ron Gさん!」(笑)
真柄:今みたいにウェブから買ったりできない時代だったしね。ヒップホップTシャツは、レーベルがプロモのレコードと一緒にレコード屋に販促として送った時、そこのおやじが気に入らないから店で売っちゃうみたいなことが無いと手に入らなかった。
EZ:やたらと良いTシャツを着てるレコード屋のおやじ、いたもんね(笑)。
真柄:あとはアーティストのライブの時に買ったり、イベントの時に買う。Rock Steady Parkとかに行くと、Rock SteadyのTシャツが貰えたりして。入手方法はそれぐらいだった。
Akeem:まだTシャツを売るって概念があまり無かった頃ですよね。そういう意味では、これはレア度が高いです。
真柄:けど、ニューヨークでこういうTシャツを着ていると、どう思われるのかって気にならなかった?
Akeem:それはありますね。あいつクルーなのか?的な。絶対違うんですけどね。(笑)まぁ、実家に行ったし、ほぼクルーってことで(笑)! 今年着たい度はいかがですか?
真柄:うーん……、着なくても良いかな(笑)。
Akeem:何度も強めの洗剤で丁寧に洗った後の、質感と保存状態は素晴らしいですけどね。
EZ:まさしくミントコンディション。
Akeem:じゃあ、次はEZさんのTシャツにいきましょうか。
EZ:見ての通りBeastie Boysだけど、前にプリントが入った普通のモノじゃなくて、Brooklyn Dust Musicのプロモ版。ロングスリーヴも持ってたんだけど、そっちは売っちゃった。
真柄:おー、すごいですね。
EZ:胸にBrooklyn Dust MusicのロゴだけのTシャツもあって、昔はそれも持ってたんだよ。
Akeem:プリントの入り方オシャレですね。どこで手に入れたんですか?
EZ:当時はLAしか行って無かったから、LAなのは確かなんだけど、詳細は全然覚えてない(笑)。Grand Royalの本の創刊パーティーをゴルフ場でやったこととかは覚えてるんだけど、これはBrooklyn Dust Musicだから、また違う時に貰ったはず。
Akeem:『Check Your Head』ってGrand Royalから出てるのかと思っていたんですけど、違うんですね。
EZ:Grand RoyalとCapitol RecordsとBrooklyn Dust Musicで3社提携みたいな感じだったと思うけどな。
Akeem:長年の洗濯でヨレてるけど、シミが無くて綺麗ですね。
EZ:背中がちょっと焼けてるぐらい。
Akeem:この[Hanes]の感じは久々に見たかも。90年代っぽくて可愛いですね。
EZ:この他にもTシャツとか、帽子とか、『Check Your Head』のグッズは4種類ぐらい持ってるよ。
Akeem:『Check your head』って出る時、超期待してました。
EZ:[XLARGE®]のオープンも重なって、すごく派手にプロモーションをやってた。
Akeem:Haze(Eric Haze)のジャケデザインも含めて全部が完璧でしたよね。実際セールスも凄かっただろうし。ところで、このTシャツ、ちゃんと写真の下にGlen E. Friedmanってクレジットが入っているんですね。
EZ:そうそう、この写真はPaul(Paul・T)の実家の2ブロック先ぐらいにHazeの家があって、その前で撮ったんだよ。
Akeem:ちなみに、今年着たい度は?
EZ:BeastieのTシャツは復刻モノがたくさん出て、今はどこでも売ってるから、ちょっと着られないかな……。
Akeem:レア度は高いですけどね。保存状態は……当時だいぶ着てたっぽいですね(笑)。着用感があります。
EZ:昔は[BEN DAVIS]を穿いて、BeastieのTシャツばっかり着てた(笑)。
Akeem:次は僕の番ですね。最近、友達がLAで見付けて、買ってきてくれたモノです。
真柄:うわ、なんですかコレ(笑)。
Akeem:Cam’ronがPVで着用していた手作りエアブラシTシャツを再現しているんだと思います。[D-BRUZE]っていうニッチなブランドが数量限定で作っているっぽいんです。触ると、ちゃんとエアブラシを使って1つ1つ作っていることが分かります。
EZ:グラデーションで版代取られなくて良いね。2度と同じモノは出来ないかもしれないけど(笑)。
Akeem:たしかに。どうやって作っているのか分からないんですけど、見ていて飽きないんですよね。
EZ:キラキラしてるのは、東急ハンズで売ってるラメのチューブのやつだよね?
Akeem:そうですそうです! ジュエリーのマークもDipsetのモノになってるんですよ。
EZ:いつ頃買ったの?
Akeem:去年ですね。派手すぎて、いつ着れば良いか分からないから、まだ1度も着ていないですけど。今日、着て帰ろうかな(笑)。今年は絶対着ます。今年着たい度は高いです。
EZ:Ed Rothとか、RatFinkの手描き感に近いかもね。
Akeem:そうそう! まさに! 同じです。更に80年代のエアブラシアーティストのShirt Kingsとかにも似てたりするんですよね。
EZ:こういうキレイに作る感じって職人っぽいよね。LAのパンクのヤツらとかは、みんなマジックで描いたりしてる。DIYが適当過ぎるんだよ(笑)。
Akeem:普通に売ってたので、レア度は低いですが、先ほども話した通り、今年着たい度は高いですし、保存状態も良いです。
真柄:ミントコンディション?
Akeem:いやいや、未使用ですから(笑)。