KRS-One率いるBoogie Down Productionsの一員で、ソロのラッパーとしても“Call Me D-Nice”というクラシックを残しているD-Nice。現在はフォトグラファーとしても活動する彼が、誰もが知る著名アーティストからブルックリンのホームレスMCまで、さまざまな人物にインタビューを行うヒップホップドキュメンタリー、それが「True Hip-Hop Stories」だ。
2006年から不定期で、D-Nice自身のYouTubeチャンネルにて公開されているこの素晴らしい作品をもっと広く知ってもらうべく、日本語での文字起こしを「日本語で読むTrue Hip-Hop Stories」として、連載形式でお届け。動画を再生しながら、豊富な独自注釈とともに楽しんでほしい。
最終回となる今回は、2010年に公開されたPharoahe Monch編をピックアップ。大ヒット曲“Simon Says”をはじめ、Organized Konfusionとしても多くのクラシックを残している稀代のラップ巧者が語った、自身のラップスタイルやヒップホップシーンの現状についての思い、そして持病のこと。クラシック誕生の裏側とともに、貴重なエピソードをお楽しみあれ。
Translation & Text: Tomoki Ichikawa
Oh no
Look at who they let in the back door
From Long Beach to Brooklyn they know
Queens salute to PharoaheCheck it out
Very contagious raps should be trapped in cages
Through stages of wackness, Pharoahe’s raps are blazin and it amazes
Me how you claim thug tut go two-ways without Skytel pagers
I’m intellectual, pass more essays than motorcade police parades through East L.AMos Def feat. Pharoahe Monch & Nate Dogg “Oh No”
https://www.youtube.com/watch?v=bYrmop7g2cU
Pharoahe Monch:
電話でMos Def(*1)が自分のバースを聞かせてくれて、これはすごいなって。コーラスのパートをどうしようかって話になった時に、「Nate Dogg(*2)はどうかな?」って言われたんですよね。「Nate…? たしかにいいかも…」って思って、LAに行って。彼があのコーラスを作ったんですけど、スタジオにいたみんな、脳みそがぶっ飛ぶって感じでした。完璧に噛み合いましたね。天才的に時代の先を見通してたというか、とくにあの時代にあってRawkus(*3)(という新しいレーベル)と、西海岸のオールドスクールなアーティストが一緒にやるっていうのが、素晴らしいブレンド具合だった。
They said, do not run too fast, stay off of the leaves
Do not play in the grass or climb the trees
You can’t breathe, let alone you get stung by bees
Lord Jesus, your chest just might freeze up
12 years old with lung disease that almost took my life twice, brought me to my kneesPharoahe Monch feat. Jill Scott “Still Standing”
https://www.youtube.com/watch?v=mVrgFl1w1Io
それ以前に曲の中で言ったこともあるんですが、『W.A.R.』(*4)に入れた曲が、今までで一番慢性喘息について正直な気持ちをラップしました。どれだけ苦しかったか、喘息のせいでどれほど(生活やアーティストとしての活動に)制限がかかっていたか。ツアーができなかったり、ライブをキャンセルしなきゃいけなかったり。普通に生活を送るだけでも困ったし。だからこのアルバムで、今まで以上に深く取り上げることにしたんです。
新しいアルバムのタイトルは”We Are Renegades”の頭文字を取って『W.A.R.』って言って、自由なマインドを持ったすべての人たち、アーティストとか音楽の世界でも何でも、確固たる信念を持ってそれを曲げない人たちすべてに向けたタイトルですね。この業界は、自由な発想をする人を邪魔者だと思っているふしがある。アーティスティックな考えを持ってる人のことを。求められているのは型にはまった人間で、体制側は「何も言わずに黙っててくれ」と思ってる。このアルバムは、音楽業界のそういう空気とか権力者に対して戦うような内容になってる。あと、自分自身に対する戦いでもありますね。具体的に言うと喘息なんですけど。
ヒップホップの現状についてですか。まあ、なるようになるんじゃないでしょうか。どこの地域とか、誰がやってるかとか、何を言ってるかとかは関係ないと思っていて。ドープな音楽はドープなんで。グッドミュージックならそれでいいと思います。
Simon says, “Get the fuck up”
Simon says, “Get the fuck up”
Throw your hands in the sky
Brooklyn is in the back sipping ‘gnac, y’all, what’s up?
Girls, rub on your titties
Yeah, I said it, rub on your titties
New York City gritty committee pity the fool that act shitty in the midst of the calm, the wittyPharoahe Monch “Simon Says”
https://www.youtube.com/watch?v=T7Fy5w2klbg
いろんなヴァースの集合というか、”Simon Says”(*5)のヴァースはOrganized Konfusion(*6)のころのヴァースや曲とはまったく違ったもので、さっきちょっとラップした”Oh No”(*7)とも違う。いろんなスタイルに手をつけて、それをものにしていくのが好きなんですよね。何かひとつにこだわるんじゃなくて。
*1:2011年にYasiin Beyと改名。2016年にラッパーおよび俳優としての活動からの引退を発表したが、現在もライブへの出演を行うなど活動を継続している。Rawkus Records時代はPharoahe Monchとともに同レーベルの看板アーティストとして活躍した。
*2:90年代に 従兄弟のSnoop Dogg、そしてWarren Gと213を結成し、アーティスト活動を開始。歌唱を取り入れたスタイルで、いわゆるG-Funkのアイコンのひとりとなった。Warren G feat. Nate Dogg “Regulate”は不朽の名曲。2011年に死去。
*3:90年代後半を代表するレコードレーベル。Pharoahe Monchをはじめ、Mos Def、Talib Kweli、Company Flow/El-P、DJ Spinnaなど、その後大きく活躍するアーティストを多数輩出した。レーベルの運営資金は、設立者であるBrian BraterとJarret Myerの友人であり、”メディア王”と呼ばれたRupert Murdochの息子・James Murdochの出資によってまかわなれていた。
*4:2011年にリリースされたPharoahe Monchのサード・アルバム。本インタビューはその製作中に行われたもの。
*5:Pharoahe Monchのファースト・ソロアルバム『Internal Affairs』収録。Monch最大のヒット曲であり、おそらくRawkus Records史上もっとも大きなセールスを記録した曲。リリース当時、NYのクラブやラジオでのヘビーローテーションっぷりはものすごいものがあったと記憶しています。”Simon Says”は、英語圏の子どもが行う命令遊び。
*6:Pharoahe MonchとPrince Po (Prince Poetry)によるラップ・グループ。3枚のアルバムを残し、1997〜98年に解散。Matt Reid a.k.a Matt Dooによるセカンド・アルバム『Stress: The Extinction Agenda』のジャケットはあまりにも有名(もちろん内容も最高です)。
*7:2000年にリリースされたMos Def, Pharoahe Monch, Nate Doggの3人のコラボによる曲。こちらも当時NYのクラブやラジオでかかりまくっており、もしかしたらRawkusで一番売れたのはこっちかもしれません。