日本語で読むTrue Hip-Hop Stories – Greg Nice (Nice & Smooth)編

by Tomoki Ichikawa and Yugo Shiokawa

KRS-One率いるBoogie Down Productionsの一員で、ソロのラッパーとしても“Call Me D-Nice”というクラシックを残しているD-Nice。現在はフォトグラファーとしても活動する彼が、誰もが知る著名アーティストからブルックリンのホームレスMCまで、さまざまな人物にインタビューを行うヒップホップドキュメンタリー、それが「True Hip-Hop Stories」だ。
2006年から不定期で、D-Nice自身のYouTubeチャンネルにて公開されているこの素晴らしい作品をもっと広く知ってもらうべく、日本語での文字起こしを「日本語で読むTrue Hip-Hop Stories」として、連載形式でお届け。動画を再生しながら、豊富な独自注釈とともに楽しんでほしい。

今回は、2009年に公開されたNice & SmoothのGreg Nice編をピックアップ。愛嬌のある声とフロウ、そして執拗なディレイ使いで愛されるGreg Niceが語った、愛され系ラッパー界もうひとりの巨人、Biz Markieとの出会いやラップをはじめるきっかけなど、ベテランならではの貴重なエピソードをお楽しみあれ。

Translation & Text: Tomoki Ichikawa

動画本編

日本語訳

Hey yo
Dizzy Gillespie plays a sax
Me, myself, I love to max
Redbone booties I’m out to wax
Stick up kids is out to tax
Spring again and I’m feelin’ fine
That’s right y’all, it’s 2009

Nice & Smooth “Funky For You”
https://www.youtube.com/watch?v=61j3CxQLszU

Greg Nice
自分はノートにリリックを書くタイプじゃなかったな。頭の中で何度も韻踏んだりひねったりして、残ったやつがリリックになるっていう感じかな。

1983年とか84年ぐらいかな。ハーレムのIS 201(*1)でビートボックスのコンテストをやってて、Fearless Four(*2)のTito(*3)と一緒に行ったんだよね。Titoは俺のことを気に入ってくれていて、いろんなところに連れていってくれた。当時の自分の年齢じゃ入れないようなところにもね。
そのコンテストには、普通に遊びに行った感じなんだよね。ソロやグループのラップコンテストがあって、ビートボックスのコンテストがあって、みたいなイベントで。Titoは審査員をやってたんだよね。あとはMike & Dave(*4)とラップしたり。そしたらTitoに「お前出ろよ」って言われたんだよね。「大したやついないから、お前が賞金とトロフィー穫っちゃえよ」って。それで俺も出て、優勝した。今もそのトロフィーを持ってるよ。決勝戦の相手がロングアイランドから来てるやつだったんだよね。名前はBiz Markie(*5)。俺が勝ったんだけど、ビズは「番号交換しようぜ!今度遊ぼうよ!一緒にビートボックスのレコード作ろうぜ!」って感じでさ。連絡先交換して、それから遊ぶようになった。

4番線の167丁目駅でビズを拾ってDisco Fever(*6)に行ったりしたね。俺はビートボックスをやってたから、未成年だったけど店に入れたんだ。ダントツで年下だったな。あるときDisco Feverに行って、エントランスで「こいつビズって言って、今度Mr. Magic(*7)の番組にも出るやつなんだよ」って言ったんだけど「そんな人知らないからお金払って」って言われちゃって。そのころ俺はゴングショーで勝ちまくってたから、Sal Abbatiello(*8)とか店のみんなと仲良くなってて、VIPカードとかフリーパスのチケットを持ってたんだ。それをビズにあげてね。

それからQuarters(*9)でビズに会ったとき、あいつが”Make the Music”(*10)のインストを持ってて。「ビートボックスのレコード作ろうぜ!Marley Marl(*11)に会ったんだよ!」って言われたんだよね。「ビートボックスのレコードなんかやらねえよ」って言ったんだけど、もったいないことしたかな(笑)。

Smooth BはLance Romance(*12)ってやつを通じて知り合った。Lanceはめちゃいいやつなんだ。Smoothも俺と同じブロンクスの出身で、住んでるエリアも同じだったんだけど、あいつのことは知らなかった。俺は同じブロックにいたJune Loveってやつとデモを作ってて。もう亡くなっちゃたんだけどね。俺がビートボックス担当、あいつがラップ担当。ある日Juneが「お前もラップしろよ」って言ってきて、俺は「いや、いいよ。俺はビートボックスやるからラップはお前がやれよ」って言ったんだけど、一人でやるの嫌だからつって4小節ぐらいの短いリリック書いてきたんだ。「途中でビートボックス止めて、このバースだけやってよ」って。

バレンタインデーだったと思うんだけど、家で寝てたらあいつが来てさ。「こんな朝早くからなんだよ」「いいじゃん。お前の母ちゃんだって入れてくれたし」って感じで。そのあとおふくろがスーパー行くっていうんで二人でついて行ったんだけど、そのときあいつは「クイーンズの女の子と知り合ってこれから合うんだよね。帰って来たら遊ぼうぜ」って言ってんだ。でも戻って来なかった。

部屋で横になってAwesome Two(*13)の番組聴いてたら電話がかかってきて、電話口でなんか泣いてるのね。よく分かんないから切ったんだけどまたかかってきて、また泣いてるのね。で、また切って。そんなことやってたら家に誰か来たんだ。DJ Holidayっていう友達だったんだけど、泣きながら「Juneが殺された」って言われた。それが初めての大人の経験というか。おばあちゃんやおじさんの葬式に行ったことはあっても、毎日一緒にいる人が亡くなるっていうのは子どもには考えられないことだから。これがきっかけでクレイジーなことをガンガン言っていこう、自分をもっと表に出していこうって思ったんだ。

Eddie O’Loughlin(*14)との契約が決まりかけてたときなんだけど、T(*15)、Joyce Sims(*16)、Ron Resnick(*17)、Virgil Sims(*18)と一緒にリムジンでボルチモアのチェリーヒルのイベントに向かってたんだ。みんなが出るライブがあったんだよね。高速を走ってるときに自分のデモ・テープをかけたんだ。そしたら「これ誰?」ってなって。「俺と相方だよ」「いや、そうじゃなくてこのラップしてるの誰?」「だから俺と相方だってば」「は?」「今度Next Plateau(*19)と契約するんだよ」「なんでだよ?俺たちファミリーだろ?なんで俺たちのとこに来ないんだよ?」「いや、だって俺なんかガキって感じでぜんぜん興味なかったじゃん」ってことがあってさ。次の日Sleeping Bag(*20)のオフィスに行って、覚え書き書いて、もらった金をSmooth Bと山分けして。まあすぐ使っちゃったよね。結局レコードの契約するまでそこから2年かかったけど(笑)。

注釈

*1:中学校の名前。ISはIntermediate Schoolの略。

*2:Devastating Tito, The Great Peso, Mighty Mike C, Krazy Eddie, DLB, Master OCの6人から成るラップグループ。Kraftwerkの”The Man-Machine”をサンプリングした”Rockin’ It”で有名。

*3:前述のDevastating Tito。

*4:Mike & Dave RecordsのMix Master MikeとDisco Daveのこと。

*5:ご存知The Diabolical。

*6:サウスブロンクスにあったナイトクラブ

*7:ラジオDJ。ニューヨークのラジオ局WBLSにて、初めてのヒップホップ専門番組である『Rap Attack』のホストを務めた。Marley Marl(後述)はこの番組でDJを務めていた。

*8:Disco Feverのオーナー。音楽プロデューサーやFever Recordsのオーナーとしても知られる。

*9:おそらくLatin Quarter(マンハッタンにあったナイトクラブ)のこと。

*10:Biz Markieのファースト・シングル”Make the Music with Your Mouth, Biz”のこと。

*11:80年代を代表するDJ、プロデューサー。Mr. Magic、Biz Markie、Big Daddy KaneらとJuice Crewを結成し活躍。

*12:アーティスト、プロデューサー。Greg Niceによるプロデュース曲(“Brother With Soul”)もあり。

*13:ラジオ番組『The Awesome 2 Radio Show』のホスト。

*14:レコードレーベルNext Plateau Entertainmentの創設者。

*15:“It’s Yours”でおなじみ、T La Rockのこと。Greg Niceはラッパーとしてデビューする前に、T La Rockの曲(“Bass Machine”, “Back To Burn”)にヒューマンビートボクサーとして参加している。

*16:シンガーソングライター。代表曲に“Come into My Life”など。

*17:プロモーター。Sleeping Bag Recordsの副社長を務めた。

*18:Sleeping Bag RecordsのA&R。

*19:Ultramagnetic MC’s作品のリリースなどで知られるニューヨークのレコードレーベル。

*20:Nice & Smooth, Mantronix, EPMD, T La Rockなどが所属したニューヨークのレコードレーベル。Nice & SmoothはSleeping Bagのサブレーベル、Fresh Recordsからデビュー。

番外編:いつか使えるかもしれないNice & Smoothの3大豆知識

備えあれば憂いなし、そんな3つの豆知識。3大と銘打ちましたが、3つしか思いつかなかったのが実際のところです。

その1:『今夜はブギー・バック』のSmooth RapバージョンとNice VocalバージョンはNice & Smoothからきている
SDPも小沢健二もNice & Smoothがとても好きだったようです。“Cake and Eat It Too”なんかはモロにブギー・バックのスタイルですね。

その2:専属のコーラスグループがいた
5人組(ぐらい)のグループで、名前をPure Blendといいます。“Cake and Eat It Too”や“How To Flow”、そしてその名もズバリな“Harmonize”などでその美声を聴くことができます。

その3:Smooth BはBobby Brownのゴーストライターをしていた
セカンド・アルバム『Don’t Be Cruel』のラップのリリックはすべてSmooth Bの手によるものらしいですが、当然クレジットはなし。昔からの繋がりとかそういうわけではなく、あくまでもお仕事だったようです。
それでは『Don’t Be Cruel』より大ヒットナンバー、“Every Little Step”をどうぞ。