めくるめく「スナック」の世界。東京のスナック 第9回:中野区東中野・あんぽんたん

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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玉袋筋太郎曰く、”都内随一のスナック”

月曜22時頃の訪問にもかかわらず、店内には溢れんばかりの人・人・人。ざっと見る限り、みなさんだいたい60歳は超えているだろうな、といったご様子。

「いらっしゃい。あら、若いのね。今日はどうしてこんなお店に来たの?」

と、笑顔で迎え入れてくれたのがスナック歴42年、大ママの、のんさん。のんさんのほかに、チーママが3名、日替わりで店頭に立つそうだ。

溢れんばかりの人。内観は小綺麗な様子。

「あなたたち、何か取材とかでしょう? 顔見たら分かるんだから(笑)」と言われ少し面食らいながらも、淑女3人組と、おひとりでご来店のナイスミドルの間の席に座る。ちょうど、空席ができたようで、僕らが来店するほんの少し前まで満席だったようだ。

席数はおよそ20席ほど。計4人のママたちはお客さんとの会話や、リカー、フードのサーブで忙しなく動き回っているが、みんな楽しげな様子。繁華街に点在する”有象無象”な居酒屋なんかより、よっぽど勢いも活気もある。

「もちろんお腹すかしてきてるよね? 何か作るわね」と、のんママが手際よく用意してくれたのが、ナポリタンとおでん。どちらも手作りで非常に美味しい。

ガーリックを効かせたオリジナルのナポリタン。

「あなたたちは、何かで見てうちに来てくれたの? うちは、筋ちゃん(=玉袋筋太郎氏)もイチオシのスナックなのよ(笑)」

ひっきりなしに誰かが歌っているカラオケや、月曜から盛り上がっている店内。ママたちの接客もそうだし、料理やお酒の質とか、すべてを踏まえて、それもそのはず、と思わざるを得なかった。

ひたすら出てくる料理、チャーム、ちょうどいいタイミングで追加をしてくれる水割りを飲み進め、程よく仕上がってきた23時頃、津軽三味線を掲げた流離の演奏家が突如として来店。

東中野を中心に、流しで三味線を演奏しているそう。「リクエストにも応えますよ」とのこと。

「意外と生音でもデカいんだなー」などと考えながらぼんやりとその様子を眺めていたら、お次はテレビカメラを掲げた若い2人組がご来店。

「テレビ○京の○○○という番組で取材をしておりまして。自分の持ち歌を歌ってもらって〜……」

などと言いながら常連さんのカラオケとそれにまつわるエピソードを何曲か映像に収め、早々に退店していった。テレビマンはいつの時代も忙しい。

”宴もたけなわ”なムードが漂い始めた頃に、徐々にママたちが各々の持ち歌を披露してくれた。

流石の腕前。そして華がある。

少し怯むくらいに歌が上手すぎたのだが、聞くところによると、月に数度、劇場の舞台でお客さん相手に歌を披露しているとのこと。さらに掘り下げていくと、過去には有名なドキュメンタリー番組に出演した経験もあるそう。つまり、界隈(?)における有名人ということだ。

かつての、のんママの写真。

とてもお洒落なのんママ。服を選ぶ基準は、「その日の気分に決まってるじゃない(笑)」。

若く、エネルギッシュである秘訣を尋ねると、「人前に出ることね。あとは、ご飯をしっかり食べること。そうすると、歌うときに音程も乱れないし、お洒落する気分も湧いてくるのよ」。

3人のチーママたちも次々にマイクを握り、熱唱。

じょんから女節 / 長山洋子

24時を周った頃には、ほとんどすべてのお客さんが退店していた。この年齢になってこんな時間まで飲んで、歌えることは本当にすごいことだな、と若輩アラサーである僕らは毎度思うのであった。

退店時にはしっかりとママが見送ってくれる。