実は、この取材の2週間前にもいちど、僕たちは浮舟に訪れていた。
梅雨入りしたばかりの東京は、まるでバケツをひっくり返したかのような大雨で、こんな日に取材だなんて……と、ひとりごちながら、お目当てだった当店の前に足を運ぶと、なんと店休日。こんな雨だし、個人営業だしな、と理解はできたものの、浸水したスニーカーと色が変わるくらい濡れたTシャツには正直食らった。
そんな洗礼を浴びてからのこの日も、図ったかのような雨。
2週間前と比べるとだいぶ弱雨だったものの、なんだか嫌な予感がするなー、怖いなー、などと考えながら足を運ぶと、遠目に看板の電気がついているのを確認でき、まずほっと一息。
カラオケが終わったタイミングで入店をする。(これはスナックにおけるマナーなので、覚えておくように)
比較的こじんまりした店内を切り盛りするのは、2人のママ。「あら、こないだも来てくれてたの? ごめんね〜、あんな雨の中お客さんなんて来ないと思って、臨時休業にしちゃったの(笑)。今日は、お詫び料としてちょっと安くするから、ゆっくりしてってね」と、くみこママ。
ここ浮舟のママ2人は、いわゆる”飲むママ”で、僕たちが入店した21時の時点で、4人いたお客さん共々、ママ含めハードに酔っている人しかいない状況。非常に盛り上がっておりました。
終始賑やかな店内。カラオケも止むことなく、常に誰かが歌っている。途中、酔いも手伝って、自分がいつの時代のどこにいるのかが分からなくなる。
「浮舟は、今年で32年かな。巣鴨でスナックをやって、そこを小料理屋に改装して、そのあと大塚で浮舟を始めたから、業界歴はもう50年以上になるの」
ママ同士も非常に仲が良く、見ていて微笑ましい。お客さんも、ガンガン絡んでくる。営業を開始した30余年前から、なにひとつ変わっていないんだろうなと、思わせてくれる。きっと、そんなことはないんだろうけど。
また、店名の由来を尋ねると「”何回沈んでも、浮いてくる”っていう意味。なんかいいでしょ? 心の拠り所のような感じがして」。オープンしたバブル真っ只中は、それはもう連日連夜盛り上がっていたそうだ。スナックというカルチャーも、例に漏れず、ここ浮舟も。