めくるめく「スナック」の世界。東京のスナック 第4回:渋谷区代々木・甲斐

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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代々木のビル・エヴァンス

カウンターには、生鮮食品用のガラスショーケースと、メニューが書かれたおびただしい数の短冊。あまりのフードの充実ぶりに「スナックぽくないな……」と侮るなかれ、平日にも関わらず完全に仕上がっている数人の常連客の前には、焼酎のボトルとマイク、そしてカラオケのデンモク。

お店に立つのは、手際よく切り盛りする2人のママとマスターを務める敏男さんの3人。21時現在、マスターはしっかりめに飲まれていたようで、常連客と同様、完全に仕上がっておりました。

「君たち、うちに来るのは初めて? ここは老人ホームだから60歳未満は入れないんだけどな(笑)。今日は特別だよ」

お客さんの年齢層は確かにやや高め。年季を感じる店内は、スナックと居酒屋の中間といった佇まい。

まずは、豊富に取り揃えられたフードメニューから、『トロホッケの塩焼き』と『ベーコンエッグ』をオーダー。

店内に散見されるのは、ゴルフコンペのペナントや、トロフィー、額装された賞状。

「昔はお客さんをたくさん連れてゴルフしに行っていたよ。そこで開催してたコンペが”甲斐マスターズ”ね」

さらに、昔は高価なカラオケマシーンの導入が難しく,敏男さん自らピアノで伴奏を弾き、それに合わせてお客さんがカラオケをしていた。「これも趣味みたいなもんだわな」と敏男さんは言う。

この日もお客さんからのリクエストがあり、敏男さん伴奏による、生ライブが始まった。(※曲名は失念……。)

どうやら、このピアノ演奏はここ甲斐における名物のようで、常連客も毎度心待ちにしているご様子。

また、もともと長年常連としてお店に通っていた2人目のママは、気が付いたらお店に立つことになっていたそう。

「ごく自然な流れでした。お手伝いさせていただくのは楽しいですよ。たまに、君たちみたいな若い子たちも来るし(笑)」

クラシックな雰囲気の店内に赤いシューズがよく映える。

酔いが積み重ねっていくにつれて「天皇陛下は俺の後輩」「ホヤが好きな人はスケベな人が多い」など、そのほかここではとても書けそうにない数々のパンチラインを叩き出してくれた敏男さんだが、その元気の秘訣を訊ねると、「毎日お酒を飲むこと。あとは、熱中できる趣味を持つことだな」と即答してくれた。歳を重ねるということも、案外悪くないことなのかもしれない。