めくるめく「スナック」の世界。東京のスナック 第3回:新宿区四谷・プレジデント

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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街から色気が消え去っていく

多くの常連客の存在で成り立つスナック業だが、やはりここプレジデントも同様。この日は、店に訪れていた2人の常連さんとお話をさせてもらった。

カラオケに合わせて延々とタンバリンを叩き続けるFさん。

「遺影にするよ!」と豪快に笑うケーリーさん。

グラフィックデザイナーのFさんと建築士のケーリーさんは、西新宿時代から数えて、もう数十年来の常連だ。

Fさん「僕らは、多分君たちのお父様より年上かもしれないな。でも毎日飲んでるし、週に一度は必ずここに来ているよ(笑)」

ケーリーさん「僕はここの店内の内装をやったの。ママにはいつもお世話になってるからね」

よく歌われる人気曲は赤文字で書かれている。

”デンモク”などのツールが無かった時代、ご存知だとは思うが、カラオケは、番号を手入力していた。新曲の更新のたびにアップデートしたお手製の”カラオケ本”は「今はもう使っていないけど、捨てられません。これは、長年この商売をやってきた私にとって、財産みたいなものです」。

さらに、当時の常連さんたちの”持ち歌リスト”がびっしり書かれた分厚いファイルには驚いた。

「みんな、お年寄りだから自分の歌っている曲を覚えられないんです(笑)。これを見ると懐かしい気分になるの。あの人元気かなとか、お体は壊されてないかしら、とか。もちろん、亡くなっちゃった方もいますけどね」

44年間に渡り西新宿で酔客の心の拠り所としての役目を果たし、ここ荒木町に移ってから、もうすぐ1年が経とうとしている。再開発は致し方がないことだけど、街から”色気”が消え去り、無味無臭になっていく実感は、やはり拭えないようだ。

重厚感のあるインテリア。