めくるめく「スナック」の世界。東京のスナック 第1回:杉並区高円寺・のんの

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

諸説はあるけど、全国に約16万軒以上存在していると言われており、コンビニが全国で約6万軒だから、その2倍以上の数。途轍もない数字であることは、言うまでもない。日本中"どこにでもある"けど、日本にしかない、日本独自の文化。それがスナックだ。
日常的に目にしているはずなのに、僕たちは思っている以上に、その実状を知らない。それどころか、一度も行ったことない、なんて人も多いのではないだろうか。それは、もしかしたらとても損をしているかもしれない。
この連載では、東京近郊のスナックにフォーカスし、名物ママへのインタビューや店舗の情報など、スナックに行く上で知っておいた方が良いことを、撮り下ろしの写真とともにご紹介。第1回は、杉並区高円寺が誇る老舗スナック、のんの。さあ、重い扉を開き、中へと入ってみよう。

Photo:Atsushi Fujimoto | Text&Edit:Nobuyuki Shigetake

1 / 3
ページ

創業から50周年、高円寺で最初にオープンしたスナック

バンドマン生息率および、メンヘラ生息率ともにおそらく日本一であろう、東京を代表するサブカルタウン、高円寺。駅を出て、線路沿いを阿佐ヶ谷方面へ歩くと、”高円寺ストリート”と名付けられた、いわゆるガード下の飲食店街が見えてくる。

左右の飲食店から際限なく発せられる煙と酔客の怒号をくぐり抜けること約3分、左手の赤い階段を上がったところが、2020年で創業から50周年を迎える、高円寺で一番最初にできたスナック、のんのだ。

店内に入るとまず目に飛び込んでくるのは、ワインレッドカラーで統一された華美な柄の絨毯、ベロアのソファ。重厚なカウンターの向こうには、常連客の名前が書かれたJINROやチャミスルがズラッと並ぶ。いわゆる”スナック”を想像するときに、まず頭に浮かぶような、完璧なまでのオールド・スタイルのインテリアたちが迎え入れてくれた。

酔客が書いたであろう、個性豊かな”タギング”が微笑ましい。

席数は約30席、6~8人の団体が3組入っても決して窮屈にならなそうな、広々としたソファがなんとも居心地がいい。ただ、1人で回すのには、いささか広すぎるようにも思う。

ママによると「昔は、5人くらいかな? 女の子を雇ってお店に立ってもらってたこともあるよ。でもここしばらくは、ずっとひとり。もう、自分の手が届く範囲でしかやりたくないの(笑)」。

この日も、週末に取材を敢行したため、夜が更けるに連れて、ママに会いにきた常連さんで店内が賑わってきた。スナックと言うと、平均年齢40歳以上のミドル層のお客さんが多いイメージだが、最近は若い男女のグループも増えているらしい。話を聞いてみると、「なぜか昔から、女性のお客さんが多いの。だから、ここで知り合って、付き合って、結婚した人たちもいるよ」。男子諸君、急いで来店した方が吉となりそうだ。

余談だが、確かに、この日も若い2人組の女性が、MISIAの”Everything“をカラオケで熱唱していた。おそらく、僕らと同年代だろう。

店内の至る所にぬいぐるみや置物が並ぶ。実家のような、馴染みのあるアンバランス感。

ビリケンさんもいた。