by
and
Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki | 衣装協力:rajabrooke
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— まず、今回、ご自身のレーベル、Onda Bubblesを立ち上げることになった経緯を教えていただけますか?
CH.0:振り返ると、レーベル立ち上げを思い立ったポイントと決意したポイントがあって、最初はロサンゼルスに住んでいた2016年くらいの頃、ほぼ音楽漬けの日々で、たまにDJをやったりしつつ、今はなくなってしまったLow End Theoryだったり、毎日どこかでやってるパーティにただひたすら遊びに行ってたんですね。そんななか、Stones Throw、Ubiquity、Alpha Pup、Brainfeeder、老舗のDelicious Vinylをはじめとする西海岸のいいレーベルやそのアーティストの在り方やプロップスを肌身で体感して、日本にいた時、良く捉えすぎていた部分、逆に自分が全然気づいてなかったいい部分を知ったり。あと、ちょうどその頃は(ラジオショーを皮切りに、ネットに軸足を置いたLAのレーベル)SoulectionがLow End Theoryを超越するような勢いで注目度が高まっていく時期で、従来のレーベルらしいレーベルと新興のネットレーベルの対比を間近で見るなかで、自分もレーベルをやりたいなと思うようになりました。
— では、レーベル立ち上げを決意したポイントというのは?
CH.0:きっかけは、Febbが亡くなったことですね。DJというのは、一晩のパーティを通じてコミュニケーションを図ったり、パーティが表現の場そのものであって、そのはかなさが良さでもあるんですけど、終わってしまえば、記憶には残っても形に残るものはなかったりするので、パーティを重ねるなかで、個々のアーティストとコミュニケーションを図る場が他にもないだろうかと考えるようになって、何か自分でも形に残そうと曲を作り始めたんです。そんななか、2018年にFebbが亡くなった時、後悔の念が生まれたというか、「あいつと何か一緒にやりたかったな」って。そう思いながら、自分で曲を作ってもDJで培われた自分の雑食なテイストを表現するには限界がある。それを深めていくのが表現者ではあるんですけど、自分の好きなものをより幅広く表現するとなったら、レーベルを立ち上げるしかないなと思ったんです。
— そして、Onda Bubblesは、配信も行いつつ、ヴァイナル・リリースが主軸のレーベルなんですよね?
CH.0:そうですね。レーベルをやるなら、その矛先はDJだったり、フロアに向けたかったというか。例えば、今はサブスク全盛の時代で、どんどん曲が短くなっていると言われるなかで、今回の作品は片面10分の曲が入っているんですけど、それも端からDJに矛先が向いているからということ。そして、データというのはハードディスクを飛ばしてしまったら、一瞬で思い出も消えてしまうような儚いフォーマットだと思うんですよ。モノというのは天下の回り物なので、それを手放す時の儚さもあるんですけど、またどこかで出会えるかもという期待もあるし、そういったこと込みで音楽を形あるものを手にできるところがフィジカルの良さだと思うので、ヴァイナル12インチは自分の意志を示すうえで一番いいフォーマットやったということが今回のヴァイナルリリースに繋がりましたね。
— 一方で、レーベルに所属しない個人でも手軽に配信で作品がリリースできるようになった今の時代、特に若い世代にとってレーベルは意味合いが希薄になってきているような気もするんですけど、今、25歳だというdhrmaくんはそのことについていかがですか?
dhrma:たしかに作品は自分で出そうと思ったら出せるんですけど、自分では出きひんところ、例えば、アートワークであったり、きっちりお金をかけて作るビデオ、それこそ、プロモーションもそうなんですけど、自分1人では限界があるというか、作品を出すたびにもうちょっと出来たんじゃないかなっていう部分が毎回出てくるんですよね。そういう部分を誰かにお任せしたり、提案してもらったりして、自分は作品制作に専念する方がスムーズなんじゃないかなって。あと、僕はヴァイナルをディグる時に好きなレーベルのロゴを見つけたら、そのレコードを手に取ったりするので、自分にとってレーベルという一つの括りは意味深かったりするんですけどね。
— ヴァイナルもdhrmaくんにとって身近なものなんですね。
dhrma:自分が音楽を始めるようになったきっかけは、ヴァイナルで音楽を聴くという行為の特別感に食らったからなんですよ。「この溝を針がなぞると音楽が流れるんや」っていう、そういうヴァイナルの好きなフレーズを1個1個集めて、自分だけのビートを作ることにワクワクしたというか、買ったレコード、その限られたソースを工夫して、ビートに仕立て上げていく過程に魅せられたというか。だから、レコードショップに行くようになって、そのオーナーに「自分も音楽を作りたいです」って伝えるところから音楽制作を始めて、その後、ヴァイナルを買わない時期もあったりはしたんですけど、振り返ると常にヴァイナルは自分と共にありましたね。
CH.0:dhrmaの地元、加古川のやつらはみんなそうやんな?
dhrma:そうですね。
CH.0:Factory No.079っていうお店に行って、そこで音楽を教えてもらうっていう。
dhrma:そこはインポートもののアパレルのセレクトショップ兼レコードショップで、ずっとDJをやってて、地元のキーマンでもあるDJ GREENWORKSという人がオーナーなんですけど、自分の音楽を考えるうえで、そのお店は大きいですね。
CH.0:今回リリースする作品の鳴りのチェックもそのお店でやらせてもらったんですよ。
— そのお店にはいいサウンドシステムも備えられていると?
CH.0:そうです。ちょっとしたクラブにあるような、立派なシステムがあって。だから、Factory No.079は今回の作品にも深く関係しているんですよ。
— そして、Onda Bubblesの方向性に関わってくるCH.0くんの音楽テイストについてもお伺いしたいです。
CH.0:ヒップホップだけを聴いていた頃は「ハウスとかテクノなんて聴くかよ」って思っていたんです。舐めてたというか、無知がゆえのイキがりですよね(笑)。でも、ヒップホップ熱がちょっと冷めたタイミングで自分のなかに他の音楽を楽しむ余裕が出来て、ヒップホップとダンスミュージックがクロスオーバーしたKaytranadaのようなアーティストを聴きながら、かつて、かつてダンスミュージックに感じていた嫌悪感を払拭して、スッと入ってきたのが、デトロイトのディープハウスでした。それ以前から僕はJ DillaやGuilty Simpson(ギルティ・シンプソン)をはじめとするデトロイトのヒップホップがずっと好きで、デトロイトという土地にもなにか特別なものを感じていたなかで、MoodymannやAndrés(Slum VillageのDJ Dez)、Theo Parrish(セオ・パリッシュ)、Kyle Hall(カイル・ホール)、Amp Fiddler(アンプ・フィドラー)なんかが作るダンスミュージックはディープハウスなのにBMP90くらいのビートトラックが入っていたり、初めて聴くような気がしなくて、そうした音楽との出会いが転機になりましたね。
dhrma:僕がダンスミュージックにハマっていく過程もCH.0さんと近いんですけど、自分にとっては友達のSullenが入っているクルー・HHBushがやっていたパーティがデカくて。とにかく格好いいダンスミュージックがずっとかかっていて、そういう夜遊びの実体験、めちゃくちゃ格好いいやつらがめちゃくちゃ格好いい音で踊っている光景やヒップホップとは全然リズムは違うのに、音の汚し方だったり、ブラックネスが表現されているところに共通するものを感じて、自分の価値観が変わっていったんです。だから、今思い返すと、地元のみんながいなかったら、今もヒップホップしか聴かない人間やったかもしれないなって思いますね。
CH.0:今のdhrmaはハウスをサンプリングして、ヒップホップのブーンバップのビートにしてるもんね。
dhrma:そうですね。ハウスのトラックはヘンテコなベースやパーカッションなんかが入っていて、めちゃくちゃ格好よかったりしますからね。
— 過去には、同じシカゴ繋がりということで、Fingers Inc.”Mystery Of Love”をはじめとするハウスクラシックのサンプルを散りばめたKanye West(カニエ・ウェスト)の”Fade”が話題になったりもしましたしね。
dhrma:僕個人の話をすると、J DillaのSlum Villageが”Raise It Up”でDaft PunkのThomas Bangalter(トーマ・バンガルテル)の”Extra Dry”をサンプリングしていて、そういうのもアリなんやって思ったのがダンスミュージックに開眼するきっかけやったんですよ。
CH.0:まぁ、打ち込みの音楽をサンプリングするというのは、背徳感あったりするんですけど(笑)、だからこそ、面白かったりしますよね。
— ヒップホップとダンスミュージックを行き来するアプローチに共感を覚えて、CH.0くんはレーベルの第1弾リリースにdhrmaくんを選んだと?
CH.0:dhrmaとは知り合ったのは4年前くらいですかね。
dhrma:2017年に僕らが加古川のBar Antonioでやっているイベント『CERF CAMP』にCH.0さんたちを呼ばせてもらった時ですね。
CH.0:Campyくん(Campanella)、Ramzaくんに混じって、僕は佐々木(KID FRESINO)と一緒に行って、その頃はdhrmaのことは深く知らなかったんですけど、今回のリリースは、実はdhrmaがA面に収録されている”Sunday I was empty, might cry with demon”の元となる曲をSoundCloudにアップしていて。それを聞いて、「これの12インチを出そう」とDMを送ったんです。既にアップされている曲だったんで断られるかなとも思ったんですけど、快諾してくれて。このリリースを取っかかりとして、最終的にはアルバムリリースまで持っていくのが当面の計画ですね。
— SoundCloudにアップされている曲を聴いてどう思われたんですか?
CH.0:Slum VillageのオリジナルメンバーだったWaajeedは今がっつりディープハウスを作っていて、J Dillaが今も生きていたら、恐らくは今こういう音を作っていたんじゃないかって想像したりするんですけど、dhrmaのトラックは僕のイメージに近いものがあって。かといってヒップホップからかけ離れたことをやっているわけでもないし、その絶妙なバランスを保ちながら活動しているビートメイカーは関西だとdhrmaが頭一つ抜けているように思ってますね。
dhrma:僕がダンストラックを作り始めたのは2年くらい前になるのかな。僕は音楽を作るうえで、マンネリ化しないようにずっと模索を続けているんですけど、ヒップホップのトラックのようにドラムを叩かずに、クリックに合わせて、ひたすらドラムを打ち込んでいくダンストラックの制作プロセスが面白いというか、フレッシュに感じて。そうやって作ったものを何も考えずにアップしたのが始まりなんですよ。
— A面の”Sunday I was empty, might cry with demon”はサンプルの巧みなさばき方と低音の独特な鳴らし方にdhrmaくんの個性が出ているように思いました。
dhrma:この曲はタイトルにも匂わせているんですけど、土曜日にめちゃくちゃ遊びまくった次の日に寂しさを感じながら作った曲で、沈んでいくようなディープなベクトルですよね。
CH.0:コロナ前に彼らがやってたパーティはとにかく長いんです。ヒップホップのパーティって、大体5時頃に終わると思うんですけど、彼らのは7時、8時くらいまで続くんですよ。それって、ダンスミュージック特有の文化だし、遊びに来た人の記憶に残る体験だったりするからこそ、終わった後、儚さを強く感じると思うんです。
dhrma:まさにそんな感じですね。まず、タイトルが先にあって、声ネタをそのタイトルがイメージさせる流れに沿って散りばめていったんです。それからヒップホップのインストを作る時にもやっていることなんですけど、ここで盛り上がりが来ると見せかけて、肩透かしするような裏切り方を意識して作っていたら、気づいたら10分のトラックが出来ていたという感じですね。あと、ベースに関しては、J Dilla以降のヒップホップにおけるサブベースというか、サイン波のアプローチで構成しました。
CH.0:この曲はdhrmaがヒップホップで表現してきた良さ、サンプリングを多用しつつ、それをいかにもサンプリング然として聞かせないエディットのスキルの高さがダンストラックに上手く昇華されているんじゃないかなって思っていますね。
— 一方のB面の”riot”と”I am the slave of I was”はヒップホップのインストトラックとしては尺が長くて、聴き応えがある構成になっています。
CH.0:A面に長尺のダンストラックを収録して、B面にはdhrmaが得意とするヒップホップのインストトラックを入れようと、僕の方からお願いしたんですけど、それはDJが使う際の12インチの機能性、とりあえず、レコードバックに入れておいて、タイミングによって、どちらの面も使える1枚になったらいいなということでもありますし、ヒップホップが好きな人、ダンストラックが好きな人どちらにも聴いて欲しいなって。
dhrma:B面の2曲は、A面を完成させた後に作り始めたんですけど、CH.0さんからは「DJユースで3分半以上の尺が欲しい」と言われて。ただ、ビートトラックで3分半の尺は自分にとって長いので、、ローを抜いて、上ネタだけのセクションを設けたり、普段やらないアプローチというか、ある意味でダンスミュージック的な手法を織り交ぜましたし、”I am the slave of I was”というタイトル、サウンドもA面に通じるダウナーなニュアンスだったり、1970年代のメロウなソウルをサンプリングしたビートとは違った無機質なものが作りたくて。B面の2曲はどちらもサイン波のコードを使っているんですけど、それを自分のトレードマークにしていきたいと考えていますね。
— DJとして、新たにレーベルを立ち上げるオーナーとして、コロナ禍における音楽の在り方について、CH.0くんはどう考えられていますか?
CH.0:振り返ると、コロナ禍の影響を食らって、この1年はドラムレスな音楽、生音とかアンビエントしか聴けない症候群というか、音楽鬱状態というか、かなり深いところにいってて、ダンスミュージックを聴けるようになったのはここ2、3か月の話だったりして。そんななか聴いたものだと、Barkerの『Utility』には救われましたね。このアルバムは、キックドラムを一切使っていなくて、家でも聴けるし、クラブで聴いても最高なんやろなって。
— 昨年以降、コロナ禍の影響で、ダンストラックを作っても、プレイできなかったりするわけで、DJとしてはさすがに厳しいものがありますよね。
CH.0:フロアがイメージできないわけで、どう頑張っても、そこに向かっていくモチベーションは湧いてこないのは当然ですよね。だから、自分がレーベルを作ったのも都会に疲れて、畑やり出すやつ、みたいな(笑)。都会の野菜は信用できないからワシが作る! っていうような感覚はあるのかもしれない。
— こういう状況下にあって、トレンド云々、イケてるイケてない云々は意味をなさないというか、もっと地に足がついたものが求められているなかで、リスニングにもフロアにも対応した今回の作品は、ディープな、ダウナーなムードのなかに力を宿していて、個人的には今の時代の空気に自然と馴染んでいるように感じます。
CH.0:今の自分は、何かを打算的に考えないことが大切だと思っているんです。大きな組織では1年だったり、もっと長いスパンで考えた中長期的な計画に則って、大人が動いていて、その計画に沿った動きが止められずに現状と齟齬が生まれたりしているじゃないですか。でも、自分のレーベルはそういうことがないので、今の気分にとことん素直になって、作品をリリースするお手伝いをしたいですね。ヴァイナルを作るとなると、とにかく手間と時間がかかるので、スピーディーな動きは出来ないんですけど、その分、その時その時で自分にしっくりくる音楽を丁寧に色濃く形にしていきたいと思っています。
— では、最後に2人にお願いしたDJミックスについてコメントをいただけますか?
dhrma:偶然手に取っていたり、待ちわびた出会いだったりしたレコード達を中心に選曲しました。自主でbandcampにリリースしたビートも忍ばせつつ(笑)。自分が好きな温度感を保ちつつ気に入った曲を詰め込みました。楽しんでいただければ。
CH.0:レーベルとしてまだ1枚も作品をリリースしてないのに、これだけの長尺インタビューを買って出てくださったMasteredさんと、ここまでご覧いただいた読者の皆さんにまずは大きな感謝を。DJミックスの前半パートを担当してくれたdhrmaの型破りなスタイルと、黒光りする彼のセンスにまずは驚いていただきつつ、好きな音楽に正直であり続けたいレーベルオーナーとしての気概とわがままさ加減を、是非その選曲から汲み取っていただければ嬉しいです。
2021年10月23日(土)リリース予定
品番:ODB-001
価格:2,200円(税込)
■収録曲
A1. Sunday I was empty, might cry with demon
B1. riot.
B2. I am the slave of I was
Artwork by Akihiro Kuroda
Mastered by Naoya Tokunou
Released by Onda Bubbles