『水沢ダウン』の生産拠点、DESCENTEの水沢工場に行ってきた

by Keita Miki

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今回は、岩手県にあるDESCENTE(デサント)の水沢工場へ。2025年7月1日より稼働を開始した、『水沢ダウン』の新たな生産拠点をレポートします。

Text:Sumida Tetsu | Edit:Keita Miki

言わずと知れたDESCENTEのシグネチャーであり、看板商品である『水沢ダウン』。水沢工場の話に入る前に、あらためて『水沢ダウン』がどんな存在なのかをおさらいしておきましょう。

まず、『水沢ダウン』の“水沢”は地名です。旧水沢市(現・奥州市胆沢)で1970年より操業している水沢工場で生産されていることから、『水沢ダウン』と名付けられました。端的で、力強いネーミングです。

2008年に誕生したこのダウンの最たる特徴であり革新的な点が、優れた防水性と耐水性。それまでのダウンジャケットは雨や雪など、とにかく水に弱かった。雨天や降雪時に着ているとダウンパックのステッチの隙間から水が侵入して羽毛が濡れます。そうすると本来の保温性を発揮できません。さらには中に封入されているダウンが抜け落ちやすいという欠点もあります。縫い目がある=”極小の穴”があるということですからね。そりゃそうです。

というわけで、『水沢ダウン』はこの縫い目を極力減らすというアプローチをとったわけです。糸で縫い合わせていた箇所は特殊な熱圧着技術に置き換え。袖やフードなどの縫製が必要不可欠な箇所には縫い目を塞ぐようにシームテープを貼ることで高い防水性と耐水性を実現しました。

こうして生まれた『水沢ダウン』はどれも一見してミニマルで、いかにもハイテクそうな佇まい。

昨年、稼働を開始したばかりの新しい水沢工場は、30億円もの費用をかけて作られたとか。新工場は、きっと最新の機械やロボットを使ってダウンジャケットを作りまくっているに違いない…なんて想像していました。

ところが、実際に現地を訪れてみたら……。

オートメーション化された、いかにも未来的なファクトリーを想像していましたが、まったく違いました。予想に反してかなりアナログな工場だったのです。そう、『水沢ダウン』は高機能ゆえにその製造工程もかなり複雑。そのため(ほぼ)手作業で作られているのです。

ちなみに、ハイスペックモデルのマウンテニアの場合、1着あたり163種のパーツ、94種の副資材、280もの工程を要し、完成までにおよそ50人のスタッフが関わっているとか。その工程の大半は今なお手作業で行われているというから驚きです。

生地の裁断から、ダウンパックの形成、熱圧着加工、そしてダウンの封入まで、各工程を担っているのは、長年経験を積んできた職人たちの手仕事です。温度や圧力、素材のわずかな個体差を見極めながら、一着一着、慎重に仕上げられています。

さて、新・水沢工場は具体的にどのようにリニューアルされたのでしょう? 製品開発課の及川さんに案内していただきました。

デサントアパレル株式会社 製品開発課の及川主計さん。

「もともとこの敷地内には8棟の工場がありました。セクションごとに分かれていたんですね。今回のリニューアルではその8棟を1棟1フロアの広大な空間へと再編しました」と、及川さん。

生産効率を上げるのには導線は重要。原材料の入荷から製品として出荷されるまでの動線を根本から見直しています。しかしながら「あくまで生産量の拡大が主たる目的ではないんです」と続けます。

そうなんですか! 新工場の延床面積は、建て替え前の約1.5倍にあたる5098平方メートル。工費はおよそ30億円。なのにもかかわらず、生産量を増やさないのなら、一体何が目的なのでしょう?

「新たな水沢工場は、従業員が不自由なくモノづくりに没頭できる環境を目指して再編されました。目指したのは、生産量の拡大を目的とした効率化ではなく、より高度でクリエイティブなモノづくりを支えるための環境づくりです。もちろん、動線も整い、機械も刷新し、生産効率は向上しましたが、その余力は数量の拡大ではなく、一点一点のクオリティをさらに高めること、そして付加価値の高いアイテムを生み出すために充てたいと考えています」。

引き続き工場内を案内していただきます。しかしどこをとっても綺麗で、”工場”から想起される雑多さや冷たさをまったく感じません。

140人が同時に着席できる食堂に加え、ひとりで過ごしたいときや横になりたいときに利用できる休憩ラウンジ、体調不良時に使用できるベッドルームも設けられています。ベッドルームは男性用1室、女性用3室とし、現場の実情に即した配慮がなされています。

見慣れない設備ですが、空調です。地下水を利用した”輻射熱方式”と呼ばれるものを採用しており、一般的な空調のように風を起こさないため、羽毛の飛散や縫い糸のブレを防ぐと同時に、オペレーターの身体への負担も軽減します。工場内は年間を通して安定した温度が保たれ、集中力を妨げない環境が整えられています。

『水沢ダウン』の年間生産量は10年ほど前から約2万5000点と定められており、現在も変わっていません。人気商品のため、各取扱店から増産を求める声が上がることもあるそうですが、あえて供給量をコントロールし、希少性と品質を守り続けているのです。

2008年の誕生以降、品質を最優先に掲げ、着実に評価を積み重ねてきた『水沢ダウン』は、今やDIOR(ディオール)やJJJJound(ジョウンド)といった、Masteredでもお馴染みの海外ブランドとも協業しており、もはやスポーツやアウトドアといったジャンルでは括れない存在感があります。これは日本発のダウンプロダクトにおいては本当に稀有なことです。

”ほぼ手作り”と聞いていた『水沢ダウン』でしたが、これほどまでに人の手によって作り出されているとは……正直、圧倒されました。再編された水沢工場は現在、2026年秋冬モデルの製造にフル稼働。今後、どのようなプロダクトがここで生み出されていくのでしょうか。『水沢ダウン』、ひいてはDESCENTEのこれからに期待が高まりますね。

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