Photo:Atsushi Fujimoto | Text&Edit:Nobuyuki Shigetake
— ファッ子さんは出身はどちらなんですか?
マザーファッ子:八王子市です。結構、卍な感じで(笑)。
— (笑)。その卍な感じには、馴染んでいたんですか?
マザーファッ子:全然。中学校にも通わず、ずっとネット漬けでしたからね。厨二病でしたし。でも馴染んでいなかったからこそ、マザーファッ子が誕生した感じはします。
— 名前の由来も聞いていいですか?
マザーファッ子:クラブに通いまくっていた時期に、DJやってる友達に「興味あるなら(DJ)やってみなよ」って言われて、やりたい、じゃあ名前どうする? ってときに「あ、マザーファッ子で」と、パッと思いつきで。友達からは「マジで変えた方がいいよ」とよく言われます。もし仮に運良く、広告系とかのパブリックイメージが問われるお仕事を頂いたら、全然本名に切り替えるつもりです。
— (笑)。このコロナ禍はいかがお過ごしでしたか?
マザーファッ子:5月中はロケ撮影などの、現場系のお仕事は全部ストップしてしまったので、家でずっと『あつ森(あつまれ どうぶつの森)』をやってました(笑)。結構廃人のような生活をしていたのですが、6月には稼働が再開したので、いまは撮影やら編集やらにかなり追われていますね。
— 普段の撮影はロケが多めですか?
マザーファッ子:基本的にはロケが多いのですが、ここ最近は人数を絞ってスタジオでの撮影も増えつつあります。
— スタジオでの撮影のノウハウはおそらく、以前に所属していた映像制作会社で学んだのかと思いますが、失礼ながらその経歴を少し意外に感じました。
マザーファッ子:よく言われますね(笑)。最近は独学でやってる人も結構多いですからね。
— ファッ子さんが独立をしたきっかけは?
マザーファッ子:もともと映像に興味を持ったのも音楽、MVがきっかけだったので、自分が作る映像作品も音楽ありきだと考えているのですが、20歳頃からクラブに通い詰める生活を続けていて、2016年頃にY2FUNX(※編集部注 シンガーのKick a Showらが過去に所属していたグループ。『Mastered Mix Archives』はこちらから。)のライブに行った際にトラックメイカーのSam is Ohmさんと知り合って、話しているうちに「初めてなんだけどビデオ作りたくて、誰か作れる子知らない?」って話題になったんですよ。で、「あ、わたしやったことないけど、できるかも」って手を上げまして。それで出来上がったのが、Kick a Show”友達以上恋人未満”のMVです。これ以降、いろんな方々からお声がけいただけるようになって、結果として独立に繋がりましたね。
— ”友達以上恋人未満”といえば、アニメーションを使用したサイケデリックな世界観が印象的です。
マザーファッ子:あれはロトスコープという、実写映像を元にアニメーションを作る手法を使っています。当時は制作会社に在籍していましたが、MV撮影のノウハウは分からず、カメラマンの知り合いもいなくて、「できるって言っちゃったけど、どうしよう?」みたいな。それでいろいろと考えていたときに、唯一形にできそうだったのがこのやり方で、かなり苦肉の策ではありましたね。いま見ると、荒削りだなーと感じる部分もあったりしますが、最初期に作ったものだから思い入れはありますね。
— コンセプトのようなものはあるんですか?
マザーファッ子:1970年代から2000年代前半までアメリカで放送されていた『Soul Train』という、ソウルやダンスミュージックを紹介する番組があるのですが、それっぽくしたいなと。陽気で、ちょっと懐かしい感じの(笑)。
— ぼくがファッ子さんを知ったのがSIRUP”LOOP”のMVだったのですが、大々的にロトスコープを使用した”友達以上恋人未満”とは打って変わって、こちらでは部分的にロトスコープが使用されていますよね。
マザーファッ子:ロトスコープって、カメラで撮影した映像を1秒につき12枚の静止画にコマ割りして、それをペンタブで1枚ずつトレースするのでかなりしんどいんですよ(笑)。なので、フルで使うより、エフェクト的に使うことが多いですね。
— なるほど。しかし、本当に良いPVですよね……。
マザーファッ子:ありがとうございます(笑)。まだ全然駆け出しでしたけど、少しずつ実績も増えてきて、少人数ながらちゃんとチームを組んで撮影ができるようになってきた頃でした。そのMVをいま、こうやってたくさんの人に観て頂いているのは、とてもありがたいですね。
— この他にも多数のMVを手掛けていますが、ファッ子さんの映像作品の特徴といえば色調やノスタルジックなエフェクト、ユニークな小道具なのかな、と。これらのルーツは?
マザーファッ子:過去に見たMVからの影響が大きいかもしれませんね。厨二病を患っていた10代前半のJ-POPを完全に避けていた頃に、周りの子たちは知らないだろうな、と思いながら見たAphex Twin(エイフェックス・ツイン)やThe Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)のMVが、邦楽のものとは違いすぎてかなりの衝撃を受けたんですよね。映像に興味を持ち始めたのもこの頃です。それと、ドラッグカルチャーやLGBTを描いた映画が好きで、そこから受けた影響もかなり大きいです。ストーリーや映像表現も面白いんですけど、衣装やロケ地、セットや照明の感じがかなり独特なんですよね。
— 作品でいうとどのあたりですか?
マザーファッ子:マコーレー・カルキンが主演の『パーティ★モンスター』、少し古いですが『ロッキー・ホラー・ショー』とか。若者がやらかしちゃって破滅していく映画が好きですね(笑)。自分は引きこもりのオタクなので、憧れなのかもしれませんけど。
— 命を切り売りしてる感じですよね(笑)。
マザーファッ子:そう。「かっこいいなー」と思いながら見ています。あとは、Vaporwaveから生まれた映像や画像からもかなりの影響を受けました。既に消費されて忘れ去られた過去の文化を今の技術で再構築することで生まれる、違和感や壊れた雰囲気というか。そういうものに美学を感じますね。
— Vaporwaveと言うと比較的近年に世界中で起こった音楽のムーブメントですが、ビジュアル面のアプローチもかなり独特ですよね。
マザーファッ子:いちばんハマっていた2012年頃に、Tumblrで画像を掘りまくってました(笑)。ブラウン管テレビやVHSなど、物理メディアを映像に取り入れ始めたのも、Vaporwaveがきっかけだったりします。
— なるほど。ちなみにファッ子さんは、長尺の映像に興味があったりはしないんですね。
マザーファッ子:そうですね。あくまでMVで。
— ライブのフライヤーデザインやCDジャケットのアートワークなど、映像以外のアウトプットも音楽関連のものが多い印象です。
マザーファッ子:今でこそ映像をやっていますが、もともとは音楽関連のデザイン系の仕事に就きたいと考えていたんですよ。中学生の頃、BECK(ベック)の『Midnite Vultures』のジャケットを見て「かっこいい!」と思ったのがきっかけですね。ピンクのパンツを履いている男の人の股間がアップになってるやつなんですけど(笑)、こういうのもアリなんだなと。”ジャケ買い”はもちろん、TSUTAYAで”ジャケ借り”するほどCDジャケットが好きだったから、グラフィックデザイナーになるために大学でデザインを学んだんですけど、あんまり向いてなかったんですよね。なので、いまは趣味程度でやっている感じです。
— 向いていないと感じたのはなぜですか?
マザーファッ子:うーん……。あくまで肌感なんですけど、グラフィックデザインって頭の中にある3Dの絵を2Dに落とし込んで、差っ引いていく作業が必要で、そこがちょっと難しいなと。映像の方が自由度が高く、より感覚的な表現ができそうだと思ったんですよね。
— では最後に、これから映像で表現してみたいことってありますか?
マザーファッ子:テクノやハウスの、四つ打ちの曲のビデオはやってみたいですね。曲の構成がミニマルな分、映像で表現できる部分も多いのかなと。
— 意外と日本だとがっつり作っているものが少なくて、海外の楽曲が多い印象ですね。
マザーファッ子:そうですね。Major Lazer(メジャー・レーザー)のビデオとか、超頭悪そうなんですけど、めっちゃお金かかってそうで羨ましいです(笑)。あとは、セットをイチから組み立てて撮影してみたいですね。いまは既存のロケ地を飾り付けて撮影をしているので制約があったり、表現しきれない部分もあったりして。美術班の方々など、関わる人数も多くなるから予算的に難しいところではあるんですけど、いつかやってみたいと、あれこれ考えています。