Vol.98 CHIDA – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、2011年12月以来、2度目の登場となる日本が世界に誇るディスコ、ハウスDJのCHIDA。
DJ NOBU、POWDERの世界的成功に象徴される日本人DJの海外進出が活発化した2010年代のクラブミュージックシーンにあって、自身主宰のレーベル、ENEの運営を行いながら、その先陣を切ったパイオニアの1人である彼はマネージメントに所属せず、日本と海外を頻繁に行き来する7年半の活動を通じ、世界中のパーティフリークたちの揺るぎない信頼を獲得。ドイツ・ベルリンを代表する世界最高峰のクラブ、Berghain併設のPanorama BarのDJブースに立った数少ない日本人DJとなり、その活動範囲は近年成長が著しいアジア圏にまで広がっている。
今回、メディアでなかなか語られることがない彼の海外での活動ぶりやアジアシーンの現状をうかがうとともに、過去7年半の軌跡を結晶化したDJミックスを提供してもらった。長年に渡って叩き上げ、研ぎませてきたDJのみが持ちうるプレイの説得力、その一端をご堪能ください。

Photo:Takuya Murata | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「音が良ければ、国籍や世代、性別は関係ないんだなと思えることが自分が活動するうえでの財産というか。」

前回、Chidaくんがこの企画に登場してくれたのは2011年12月なんですよね。

CHIDA:じゃあ、ちょうど、COS/MESの5iveと2人で初めてヨーロッパでDJをした年ですね。

— 翌2011年にリリースされたAndrew Weatherall(アンドリュー・ウェザオール)の3枚組ミックスCD『Masterpiece』にChidaくんのトラック”Dança”が収録されて。今回のインタビューでは、その後、海外でDJする機会が一気に増えたChidaくんの活動について聞かせてください。

CHIDA:『Masterpiece』の1件が追い風にもなって、その後、2012年はツアーの規模が拡大したんです。ヨーロッパを12箇所回って、クロアチアのフェスでForce Of NatureのDJ KENTと同じ現場になったり、ベルリンのCockTail d’AmoreやZur wilden Renateでプレイするようになった2013年以降もヨーロッパへは定期的に、アメリカやメキシコ、アジア各国にも行くようになりましたね。

— ヨーロッパというと?

CHIDA:ドイツだとベルリン、Public Possessionっていうレーベル兼レコードショップがあるミュンヘン。それからフランスだと、パリの他にはスローモーディスコ・レーベル、La Dame Noirが運営する同名のクラブがあるマルセイユ、ポルトガルは自分のレーベル、ENEから作品をリリースしたTiagoがレジデントを務めているクラブ・Lux Fragilがあるリスボンとか。

Andrew Weatherall『Masterpiece』
レイヴ以降のイギリスのダンスミュージックシーンのトレンドを切り開いてきたカリスマティックなDJ、プロデューサーが長きに渡るキャリアを総括した2012年リリースの3枚組ミックスCD。世界的に高評価を得たこの傑作にChidaのディープかつスローモーなアシッドトラック”Danca”がピックアップされた。

— Lux Fragilはヨーロッパに名だたる名クラブですね。

CHIDA:リスボンは人口50万人の小さな街なのにLux Fragilのキャパシティは2000人。20年間続いているのも驚きですが、毎週木曜から盛り上がってるんですよ。しかもメインフロアがオープンするのが午前1時。で、朝7時過ぎまで多くの人が踊り狂ってる(笑)。日本に情報が入ってこない都市に限って凄く良いシーンがあったりするんですよ。例えばリトアニアのビルニュス、セルビアのベオグラード、ロシアのサンクトペテルブルグ、エストニアのタリン、ルーマニアのブカレストとか……どんな感じなのかは全く想像つかないですよね?

— IT大国化した東欧、ロシアの盛り上がりは、10年代のダンスミュージックシーンにおける大きなトピックでしたけど、ちょっと想像がつかないですね。

CHIDA:ですよね。ミニマルテクノ/ハウスシーンではルーマニアンサウンドの大きな波があったり、ロシアといえばNina Kraviz(ニーナ・クラヴィッツ)が若手アーティストをフックアップしたりという状況があって。でも、そんな目まぐるしく変化し続ける中で僕が最も手応えを感じる事のできる場所は、やはりベルリンですね。2016年春からプレイしているBerghain/Panorama Barは間違いなくベスト・クラブですが、それ以外にも素晴らしいヴェニューやパーティで溢れていて。特に2013年以来、定期的にプレイし続けているDiscodromoがオーガナイズするパーティ『CockTail d’Amore』はBerghain/Panorama Barと同じく、土曜の夜から月曜にかけて36時間ぶっ通しで盛り上がっていて。ここ数年は5iveとのユニット・Mascarasとしても毎年1度はプレイしているんですが、長い時で10時間プレイするんです。全力で踊り続けるマッチョなフロアを相手にDJプレイに集中していると、10時間もあっという間に感じます。そんな状況でのロングセットはベルリン以外の都市ではなかなか無いですよ。

— 海の向こうでの活躍はまとまった作品を出したり、積極的なメディア・プロモーションするDJじゃなければ、なかなか伝わってこない話でもあると思うんですけど、この7年半の間にChidaくんの主戦場は海外になった、と。

CHIDA:海外に頻繁に出て行くようになって、海外と日本との温度差や違いに悩んだりもしたんですけど、そもそもクラブやパーティの捉え方、日常生活においての根付き方が全くの別物だから、まぁ、それは悩んでもしょうがない事だし、受け入れてもらえる場所を開拓して頑張っていこうと。あと、ここ2、3年で明らかに変わったのは、インドネシアやベトナム、韓国とかアジアのパーティシーンかな。2011年頃、SPACE SYSTEMをきっかけに知ったインドネシア・ジャカルタのシーンは、当時は小規模なものでしたけど、海外でもブレイクして、今はシンガポールに拠点を移したJonathan Kusuma(ジョナサン・カスマ)やKomodoことGerhanという2人のローカル・ヒーローの周りに良いバンドやプロデューサーが集まって居たり、アンダーグラウンドなシーン全体が盛り上がってきてます。

— ベトナムは?

CHIDA:ハノイにはSavage、ホーチミンにはShhhhhくんがレジデントを務めているThe Observatoryっていうクラブがあって。そのクラブのオーナーで仕掛け人は日本だとDommuneやこないだの『FFKT』にも出演したりしているスイス出身のHibiya LineというDJで。ベトナムは元フランス領だったこともあって、ヨーロッパから移住してきた人が始めたクラブにヨーロッパのお客さんとローカルのお客さんがうまく混ざり合って発展しているし、香港にはこの前の大晦日に『Future Terror』のゲストとして来日したDJのMr.Hoがレジデントを務めるMIHNっていうクラブや、フェスで言えば『Organik Festival』や『Equation』がシーンを活性化させてますね。それから韓国は伝説的なディスコ王の息子で『The Monkey Bussiness』や『Dub Plate』というパーティをオーガナイズしているFFANっていう重要人物がいて、僕やForce Of Nature、瀧見さんなどの日本人DJや海外のDJを積極的にブッキングしているし、中国、台湾……アジアのパーティーシーンは一時期のEDMブーム以降、アンダーグラウンドシーンがどんどん進化しているのを感じますね。シーン全てを見たわけじゃないけど、どこの国に行っても現場の体感としてものすごく盛り上がってきてるなと……。

— インターネットで情報格差が解消されて、なおかつ、アジアの盛り上がりの要因は経済発展が要因として大きそうですね。一時期のカナダ、オーストラリアもそうでしたけど、音楽シーンの活性化とその国の経済状況は密接にリンクしていますからね。

CHIDA:そう。DJで色んな国に行くと、街に活気があって活き活きしているし、ヨーロッパは日本より物価が高かったりするんだけど、それだけ給料も高かったりするし、アジアも物価がどんどん日本に迫りつつあるというか。逆に日本はデフレで物価が下がってきていて、だからこそ、インバウンドが増加しているし、海外から来たDJに日本の外食代が安いことにびっくりされるっていう。でも、日本は相変わらずクラブの入場料が他の国に比べてだいぶ高いんですよね。

— 日本にいると、なかなか体感しにくいかもしれないですけど、実際に海外に出ると、街の活気もそうですし、日本が疲弊しているのは事実としてあって。

CHIDA:かたや、中国しかり、インドネシアにしても人口が2億5千万人いて、人口分布的に20代から40代にかけての層が厚いこともあって、高齢化社会に突入して経済的に若者が抑圧されている日本と比べたら、音楽シーンが活性化するのも納得というか。

— 経済も社会状況も一朝一夕で変わるものではなかったりしますけど、ただ、大不況時代にイギリスからレイヴカルチャーが立ち上がったように、日本のアンダーグラウンドシーンも変化の前夜というか、実際、20代の良いDJがどんどん出てきていますよね。

CHIDA:若手パーティクルーのCYKや解体新書、MAYURASHKAがWWWで始めたパーティ『KRUE』とか。そういう新しい世代のパーティが大きなうねりになったら面白いだろうし、長らくDJを続けてきた自分はどういうことが出来るのか。海外で得た経験を踏まえつつ、試行錯誤を続けていますね

— DJは知識と経験がプレイに生かされるアートフォームですからね。

CHIDA:実際、海外では、圧倒的に20代のお客さんが多いんですけど、音が良ければ、国籍や世代、性別は関係ないんだなと思えることが自分が活動するうえでの財産というか。知識と経験値は豊富であることに越したことはないし、当たり前ですが才能さえあればチャンスはいくらでもあるかと。最近の僕の周りだと、Beats In Spaceのレーベルが新たに始めたミックス・シリーズの第1弾『Powder In Space』をリリースしたPowderのここ数年の活躍はものすごいですね。地道に作品を作って、リリースしたレコード2、3タイトルが海外のいろんなDJにサポートされたのをきっかけに、SNSやメディアを介した情報発信は殆どしないまま、気づけば数ヶ月先までの海外ギグのスケジュールが埋まるほどのトップDJに登りつめていて。ワン&オンリーな個性、才能と実力とセンスが買われてブレイクスルーした彼女の活躍は近くで見ていて爽快だったし夢があるなと。勇気と希望をもらっています(笑)。

POWDER 『POWDER IN SPACE』
Tim Sweeney(ティム・スウィーニー)主宰のミックスラジオショー、Beats In Spaceのレーベルが2019年にスタートさせたミックスシリーズ第1弾はDJキャリアわずか3年弱でワールドワイドなブレイクを果たした日本人女性DJ、POWDERが担当。メロディックな要素と耳触りのいいビート、柔らかいグルーヴの繊細なセレクトとミックスは醸し出されるムードに彼女の際立った独創性が感じられる。

— Chidaくんの今後の予定は?

CHIDA:20年来の音楽仲間でもあるMoochyのJ.A.K.A.M.名義のアルバム『COUNTERPOINT』に収録の”Shadow Dance”のリミックスをやらせてもらって、つい先日ENEからアナログをリリースしました。そのリミックスがきっかけでMoochyがMackachinと組んだユニット・Zen Rydazの”Beginning”もリミックスしたんですけど、これからアナログも進行します。ENEからは他にも4タイトルの12インチヴァイナルを進行中です。Cocktail d’Amoreのレーベルからは僕とCOS/MESの5iveのユニット、MASCARAS名義でのEPのリリースも控えていて、そのEPの1曲にPowderが参加しているのと、Mascaras × Powderでの新曲も制作中です。パーティーは青山のZEROで自分が主催する『DANCAHOLIC』を不定期で続けているし、表参道のVENTでは7月6日(土)に『inipi』っていう新しいパーティを、ベルリンで経験を積んで帰国した若手のアーティストでDJのMu-Rakiと始めます。1回目はVisionquestのShaun Reevesがゲストです。そして夏にはまたアジアやヨーロッパへ出かけますよ。

— じゃあ、最後に今回のミックスについて一言お願いします。

CHIDA:自分の手掛けたリミックスやオリジナル曲、話の中で登場したJonathan KusumaやPowder、Cos/MesやENEの新作など、前回のインタビューからこれまでの7年半の活動の結晶的な内容のミックスに仕上げました。ぜひ聴いてみてください。

inipi feat. VISIONQUEST

開催日時:2019年7月6日(土) OPEN 23:00
開催場所:VENT
料金:2,000円(当日)、1,500円(前売)

▪️ROOM1
Shaun Reeves(VISIONQUEST)
Chida(Ene / Mascaras / inipi)
Mu Raki(inipi)

▪️ROOM2
Timothy Really Lab.(Ngton, Sisi, Tosi, kon, y.)-3hours set-
Tomomi(is-ness / moov) -3hours set-

▪️Abstract Paintings Exhibition
Yusuke Muraki

▪️Instaration
HOOAH art experiment

▪️VJ
HAKAAKI & Hide-Low