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Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— これまで共同名義でDJミックスやビートテープはリリースしていたのに、ラッパーをフィーチャーしたプロデューサーとしてのアルバムは今回の『Twice As Nice』が初めてだったんですね。
DJ Scratch Nice:そう、出してなかったんですよ(笑)。
— 大阪にて、5MC3DJのグループ、COE-LA-CANTHでの活動を皮切りに、その後、東京、ニューヨークと一緒に移住するほど仲が良い、同い年のお2人であることを考えると意外な気がしました。
DJ Scratch Nice:いや、あのね、実は時期がズレてて、一緒ではないんですよ。
Gradis Nice:俺は20歳くらいの時に東京に出てきて。
DJ Scratch Nice:僕はその全然後で、25歳くらいかな。ニューヨークに行ったのもGradis Niceが先で、俺はその2ヶ月くらい後(笑)。
— では、2人のなかでは、プロデューサーユニットとして一緒に活動しているつもりもない?
DJ Scratch Nice:そうですね。ただ、まぁ、周りの友達は2人とも共通しているから、2人の関係性は……うーん、どう言ったらいいんだろ(笑)。少なくとも常に一緒に動こうと思っているわけではないんですよ。
— 名前も似ているし、共にニューヨーク在住ということもあって、てっきり……。大変失礼いたしました(笑)。
Gradis Nice:いえいえ。今回のアルバムに関して言うと、この時、たまたま一緒に曲を作っていたんですよ。
DJ Scratch Nice:そう。Gradis Niceの家に遊びに行った時、これといった目的もなく曲を作っていたりはして、その時のセッションが貯まりまくっていたので、それをもとにアルバムにしようということになったんです。
Gradis Nice:2人の間で、アルバムを作ろうという目的で曲作りをしたことは一度もないですね。
DJ Scratch Nice:DJミックスは、DOGEARから出した『TWICE IS NICE』だけ、ノリでやったら一気に出来たんですけど、それ以降、2人で一緒に作ろうと何度やっても全然上手くいかなくて(笑)。
— 奇跡的に波長が合わないと作品にはならないと。ちなみに今回のビートは具体的にどういう状況で作られたものなんですか?
Gradis Nice:ゲームをしてる時ですね。
DJ Scratch Nice:そう。片方がゲームをやってる間にもう片方がドラムを組んで、切りがいいところで交代したら、最初にゲームをやってた方が今度は上ネタを扱うっていう。そんな感じでやってて、気づいたら、ビートが貯まってたっていう(笑)。
— ちなみにその時やってたゲームは?
Gradis Nice:『Call Of Duty』ですね。ゾンビモードでゾンビを殺しまくってる間に、さくっとドラムを入れて、またゲームに戻るっていう。
— ははは。そういうノリでここまでドープなアルバムが出来るとは……。
Gradis Nice:今回のアルバムは氷山の一角で、実はこういうビートがたくさんあって、その断片が今回のアルバムのスキットだったりするんですけどね。
— そして、お2人について、ご確認させていただくと、DJ Scratch Niceは名前に”DJ”と付いているように、ニューヨークではDJを生業にされているんですよね?
DJ Scratch Nice:そうです。
— DJを生業にしているということは、最新のトラップからヴィンテージのソウル、ファンクまで幅広くプレイされている、と?
DJ Scratch Nice:そうです。ニューヨークは日本と比較にならないくらい色んな人が遊びに来るので、色んな場面を想定して、対応出来るようにはしてますね。
— かたや、ビートメイカーに軸足を置いているGradis Niceが作るビートは、今回のようなブーンバップからFebbとの『L.O.C. – Talkin About Money-』ではトラップをやっていたり、作風に幅があるじゃないですか。そういう2人が今回のアルバムにまとめられたビートがブーンバップだったのはどういうことなんだろうなって。
Gradis Nice:実際、自分で曲を作る時、その8割ぐらいはトラップですし、2人で作ったビートもほぼトラップなんですけど、たまたま、今回のアルバムをまとめた時の気分でローファイなビートに統一しました。クラブプレイは全く想定してなくて、家でゆっくりしながら聴くリスニング用の1枚ですね。
— クラブプレイもイケる曲だと個人的には思うんですけど、それはつまり、今のニューヨークの現場でブーンバップはプレイされていないということなんですかね。
DJ Scratch Nice:いや、ブーンバップがかかる現場は全然ありますよ。ブーンバップの方がむしろニューヨークサウンドだと思うし、僕らの間でブーンバップもトラップも区別なく、時と場合によるけど、DJの時もブーンバップは普通にプレイしてますよ。
Gradis Nice:でも、(ドラムマシーンのTR-)808のサウンドが聞こえてくるとストリートやなって思います。
DJ Scratch Nice:うん、まぁ、それはあるかな。
Gradis Nice:808が鳴ってると、とにかくストリートのタフな匂いがする気がする。今回のアルバムは808をそんなに強調していないのは、ストリートのアルバムを目指していたわけではないからなんですよ。
DJ Scratch Nice:そうだね。808は車から聞こえてくるイメージ。
Gradis Nice:808が鳴ってるとアガるよな(笑)。
DJ Scratch Nice:確かにそれは言えてる。
— なるほど。それはいい話ですね。ちなみに、808が鳴りまくったアルバムといえば、Gradis NiceがFebbと作ったトラップアルバム『L.O.C.』は、トラックもラップも典型的なトラップのスタイルではないですよね。あれがNYのスタイルなのかなって。
Gradis Nice:A Boogie(With Da Hoodie)みたいな?
DJ Scratch Nice:A Boogieは俺のなかではメインストリームど真ん中ってイメージなんですけど、もうちょっと、アンダーグラウンドな、フッドなラッパーを見ていると、完全なトラップではないというか、アトランタのフレーバーも入っているし、脈々と続くニューヨークのフレーバーも入っていて、その狭間をいくのが今のニューヨークのスタイルなのかなって思いますね。Febbのあのアルバムもそういうところを目指したんじゃないかなって。
— かたや、リスニング向けだという今回のビートは2人の間でどのように進めていったんですか?
Gradis Nice:ほぼドラムありきで決まる感じですね。
DJ Scratch Nice:で、ネタをチョップしていれるっていう。
Gradis Nice:作ったのは3年ぐらい前なんですけど、その時は俺がドラムを組んで、Scratch Niceがサンプル切ってるよな?
DJ Scratch Nice:そういうトラックが多い。で、C.O.S.A.をフィーチャーした”Chef Style Heaven’s Door”はベースをGradis Nice、それ以外は俺かな。
Gradis Nice:トラックに関しては聴いてもらえば分かるんですけど、全部、クオンタイズしてないオフビートなんです。クオンタイズする時は1音1音細かく微調整するので、グルーヴを作るのに時間がかかるんですけど、オフビートはその場のノリがそのままグルーヴになっていて。そこにメロディーやコード、ベースラインをを足すことで、さらにグルーヴを生み出していくんですけど、そうやってビートを組む時はスピードが早いというか、1曲を30分以内ぐらいで仕上げるようにしています。
DJ Scratch Nice:「これ、アカンかも」っていうセッションを一応保存しておいて、別の日に聴いたら、「あ、これ、ヤバかったわ」ということでアルバムに入れた曲も何曲かはあったりするんですけど、基本的にドラムのシーケンスを組むのはスピードが命ですね。
— サンプルのチョイスに関しては?
Gradis Nice:iTunesやYouTubeから雰囲気にマッチしそうなサンプルを適当に探すんですよ。まぁ、でも、どんなネタでも基本的には合うし、サンプルをフリップして合わせるんですよ。
DJ Scratch Nice:何でもいいってわけではないけど、そのセンスはお互い信頼してますからね。
— 1990年代のブーンバップにおいては、音質、盤質のいいオリジナルのヴァイナルからサンプリングしたものでないと認めないっていう厳密なルールに則ったビートメイカーが少なくなかったと思うんですけど、いまお話をうかがう限りだと、2人はiTunesやYouTubeだったり、サンプル・ソースはなんでもいいというスタンスですよね?
DJ Scratch Nice:そう。全く気にしないですね。
Gradis Nice:昨日リリースされた曲でもいいし、1時間前にInstagramにアップした誰かが歌っているような映像でもいいし、ピンと来たら何でもいいんですよ。変な縛りを設けると作るスピードが落ちるし、スピードが落ちる時点で作るムードじゃなくなるし、自分にとって、そういう縛りは必要ないですね。むしろ、どんなソースであれ、自分のビートに昇華していくスキルこそがプロデューサーとしては重要だと思う。オリジナルのヴァイナルなんて金を出せば手に入るじゃないですか。そうじゃないところでいかにしてオリジナリティを出すのか。特別な機材もいらないし、家にあるPCにソフトウェアをインストール出来ればそれで十分作れるんですよ。自分たちのサンプルソースなんて、mp3がほとんどだったりするし、作ったビートもmp3からマスタリングしてる状態だったものもあって。でも、アルバムを聴いても分からないでしょ? mp3がサンプルソースであっても、それをプラグインやミキシングでいい鳴りにする、そのスキルが今の時代の基本なんですよ。だから、その結果が全て。仕上がりが問題なかったら、それでいいんですよ。もっと言ってしまえば、いいサンプルを見つけてもその使用許諾がクリア出来なかったら意味がないし、クリアしたところで著作権料として90%取られてしまうんだったら、利益に繋がらないし、時間も無駄じゃないですか。だから、著作権フリーのサンプリング・ソースを自分で作ってる連中が今のゲームを動かしていってるんですよ。
— そして、今回のアルバムはビートが作られたのが3年前ならば、ラップもKID FRESINOをフィーチャーした”24/7”は本人に聞いたら録音は3年前だったとか。
DJ Scratch Nice:そう。あれは佐々木(KID FRESINO)がニューヨークにいた時で、一番最初に録った曲だったから、それくらい前ですね。まさにその時、「アルバムを出そう」ということになって、作業を始めたんですけど、そこから時間がかかってしまって(笑)。
Gradis Nice:制作を進める際にA&Rがいなくて、自分たちで全部やっていたので、ニューヨークで日本のラッパーをフィーチャーした曲を作るとなると、どうしても時間がかかってしまって、途中からWDsoundsのMercyくんに入ってもらって、ようやく完成したんですよ。
DJ Scratch Nice:ホントに感謝感謝。
— フィーチャーしているラッパーは、日本を代表する最高のリリシストたち、BES、ISSUGI、KID FRESINO、C.O.S.A.、仙人掌、B.D.、JJJが勢揃いしていますが、その人選やその組み合わせに関してはいかがですか?
Gradis Nice:全員ヤバい。
DJ Scratch Nice:みんな友達なんですけど、自分たちがラッパーに求めるのもスピードかな。
Gradis Nice:曲を作るスピードが早いというのは、つまり、録音の場数をこなしているということですからね。
DJ Scratch Nice:ニューヨークのアーティストは、毎日何かしら録音していたり、スタジオに行く回数も多かったり、自分の体感として、アーティストと制作現場が近いんですよね。だから、制作のスピードも自然と早くなるっていう。
Gradis Nice:音楽は食べ物と一緒なんですよ。だから、毎日作って、聴いて、作る時の鮮度も重要になってくるし、今回のアルバムに参加してくれたのは、そういうスピード感が備わったラッパーなんですよ。
— なるほど。今回はホーム・リスニング向けのアルバムということなんですけど、もし、たくさんストックがあるなら、今度は808が鳴ってるストリートに向けたアルバムのスピードリリースを期待したいところではあります(笑)。
DJ Scratch Nice:今はそういうアルバムを出そうというテンションにはなっているんですけど、そこからどうなるかは、まだ、分からない(笑)。今までの経緯を考えるとそう言っておいたほうがいいかな。
Gradis Nice:ビートは既にあるので、アルバムリリースのために予算を組んでくれる方がいたら連絡ください。絶賛募集中です(笑)。
— 個々の活動はいかがですか?
Gradis Nice:今年は自分でコンポーズしたサンプルパックを出せるように頑張りたいと思います。
— DJ Scratch Niceは制作を全面サポートした仙人掌のアルバム『BOY MEETS WORLD』に続き、JJJとのビートアルバム『Only』がリリースされたたばかりですよね。
DJ Scratch Nice:Febbが亡くなって、それを機にJと電話で色んな話をするようになって、その流れでビートを送り合って、「ここにベースを入れてくれ」とか、そういうやり取りをしていたら、そういうトラックがどんどん貯まっていって。その後、Jがニューヨークに遊びに来て、その時にも2、3曲出来たので、ドライブの時にいい感じで聴いてもらえるようなビートアルバムとしてリリースしたんですよ。あと、この先、リリースが決まっているのはミックスCDですね。Fitz Ambro$eのレーベル、PBMから出る予定です。
— 最後に、そのミックスCDのリリースを前に、今回制作していただいたDJミックスについて一言お願いいたします。
DJ Scratch Nice:道を歩いてたら聞こえてくるような感じをミックスしてます。