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Photo:Takuya Murata | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— まず、フレシノくん、CH.0くんが2017年8月に大阪のCIRCUSで始動したパーティ『OFF-CENT』のコンセプトについて教えてください。
KID FRESINO:今はヒップホップとハウスのクロスオーバーを意識しているんですけど、パーティを始めた当初は特にコンセプトはなかったよね?
CH.0:そう。単純にパーティをやりたいねっていうことだった。
KID FRESINO:C.O.S.A.くんを迎えた初回はハウスをかけたなかったし。
CH.0:ただ、ちょうどその頃、聴いていたヒップホップに、KAYTRANADAをはじめ、ハウスに通じる曲が増えてきて、ダンスミュージックに興味を持ち始めた時期と『OFF-CENT』を始めた時期がたまたま被ったというか。
KID FRESINO:KAYTRANADAの存在は『OFF-CENT』を語るうえでかなり大きくて、そこからエンジニアの得能さん、Seihoくんとか、周りの人たちから曲を教えてもらいつつ、好きなレーベルを見つけたら、そこを重点的に掘ってみたり、新譜情報をチェックしている間に2人ともプレイ出来る曲が増えてきて、それだったら、『OFF-CENT』はヒップホップとハウスをコンセプトに出来るじゃんって。
— そして、2017年10月にOCTAVE KYOTOで開催した第2回目のゲストにBUSHMINDをゲストに迎えたと。
CH.0:ブッシュマさんを迎えた『OFF-CENT』では、佐々木(KID FRESINO)はがっちりディープハウスのDJをしたんですけど、自分はハウスっぽいヒップホップとかビートがしっかりしてるブギーディスコを混ぜたりすることで、偶然にも帳尻が合って、いい雰囲気になりましたね。
KID FRESINO:あの時はJay Daniel”Squeaky Maya”をかけたな。
— フレシノくんがよく挙げてるデトロイトハウスの新世代、Jay Danielは、どういう部分に惹かれたんですか?
KID FRESINO:いわゆるハウスは聴いた瞬間にハウスだと認識出来るじゃないですか。でも、Jay Danielのトラックは聴いた0.5秒で、「あ、ヒップホップかも!?」って思ったんですよ。だから、俺にとって、Jay Danielはハウスというよりヒップホップの延長線上にある音楽だったりするし、その曲からミックス出来る曲がハウスだったりして。そうやってハウスが聴けるようになったんですよ。
CH.0:ハウス、ヒップホップを行き来出来るという意味ではデトロイトのMoodymannとAndrésに同じものを感じますね。
— AndrésはDJ Dez名義でSlum Villageにも参加している人ですからね。
KID FRESINO:そうなんだ! それは面白いですね。
— それからフレシノくんはデトロイトテクノやインダストリアルの影響が大きいVince Staplesの『Big Fish Theory』も絶賛していましたよね。
CH.0:『Big Fish Theory』はクレジットを見ると、デトロイト出身のJimmy Edgarも参加していますもんね。
KID FRESINO:『Big Fish Theory』でKendrick Lamarをフィーチャーしている”Yeah Right”がSofieとFlumeのプロデュースなんですよ。そこからSofieのインダストリアルっぽい曲を経て、Brainfeederから出たLittle Snakeの”HXD”に繋いでみたり、そうやってヒップホップとハウスを橋渡しするのが今の『OFF-CENT』のやり口なんですよね。あと、ジャンルを無視して、サウンドの相性だけで繋いだミックスという意味では、DJ Sprinkles”House Music Is Controllable Desire You Can Own”からA$AP Rocky”L$D”への繋ぎが自分のなかでハウスとヒップホップの初めての繋ぎ方だったんですけど、こないだ、福岡の『OFF-CENT』にゲストで出てもらったHIKARUさんがハウスからA$AP Rockyの”A$AP Forever”を繋いでて、それを聴きながら、自分のやり方は間違ってないって思いましたね。
— ビートやグルーヴを途切れさせずに、ジャンル関係なく、曲を混ぜられるのがDJの醍醐味でもあって、HIKARUくんはそのスペシャリストというか、予想外の繋ぎが楽しいDJですもんね。
CH.0:そう、めちゃめちゃ楽しかった。
— 横町くんは同じ『OFF-CENT』クルーのDJ2人がダンスミュージックに傾倒していく様子をどう見ていたんですか?
KID FRESINO:『OFF-CENT』が回を重ねるなかで、ハウスにいい反応してくれるようになりましたよね?
日本横町:そうだね。もともと、ヒップホップじゃなきゃダメというわけではなく、フラットに音楽を捉えていて、どんな音楽がかかってても楽しい時は楽しいからね。それよりも『OFF-CENT』に参加した当初はもっと身内のパーティになるのかなって考えていたけど、回数を重ねていくなかで、全然そんなことないんだなって思うようになりましたね。僕は会場の後ろの方でTシャツを売っているんですけど、そのお客さんの相手をしつつ、フロアを俯瞰で眺めながら、ふとした瞬間に耳に入ってくる音楽がいいなって。
— 今まで触れてこなかったハウスを聴くようになっていかがですか?
日本横町:僕はゲストDJについては詳しくないし、ハウスについて、そこまで理解はしてないんですけど、パーティの一部始終をフロアの後ろから眺めていて、MOODMANさんに交代したら、しばらくして、お客さんがみんな踊り始めて、「あ、これはいいDJってことなんだ!」と驚かされましたね。
— みんながガン踊りしてるヒップホップのパーティは少ないでしょうし。
KID FRESINO:確かに。トラップがかかるクラブイベントでは、もっと、みんなメチャクチャになってたりするのかなって思ったりしますけど。
— ライブではそうなってたりはするけど、ノリ方もライブのタテノリなんですよね。
日本横町:DJがメインのパーティは少なくなってる気がしますよね。DJとラッパーがブッキングされたイベントに行くと、みんなライブを観に来てるんだなって思うことが多いですもん。
— そういうお客さん相手に『OFF-CENT』を1年間続けてきていかがですか?
KID FRESINO:お客さんはそれぞれ踊ってはいるけど……。
CH.0:まだまだ模索中ですね。
KID FRESINO:ヒップホップからハウスに移っていく流れだったり、その逆もしかりなんですけど、その流れが不自然にならないようには意識していて。
CH.0:お互い、その場で「これ、いけてる?」っていう安全確認はしてるよね?
KID FRESINO:はははは! でも、その甲斐あって、1回1回前進はしていて、「あ、この曲はこのタイミングでかけちゃダメだ」っていうのが分かってきて、それこそ、大阪でSTONES THROW/Boiler RoomのSofieをゲストに迎えた回では、プレイとお客さんの反応から今日はハウスをかけない方がいいなと判断して、結局、ハウスは1曲もかけなかったんですよ。そうやって臨機応変に対応して経験を重ねつつも、毎回、状況が変わるので、同じルーティンを繰り返すことが出来ないところにDJの面白さがありますね。
CH.0:でも、6月に福岡のKeith Flackやった回が一番良かったよね?
KID FRESINO:そうだね。
CH.0:福岡では早い時間に佐々木のライブが終わったタイミングで、別会場のKeith Flackでオープンから地元のハウスDJにいい流れを作ってもらっていたので、俺らはその流れにすっと乗らせてもらったんですけど、ゲストに迎えたHIKARUさんのDJにはぶちアゲられましたね。
— 『OFF-CENT』では毎回DJをゲストに迎えていますけど、BUSHMIND、MOODMAN、DJ HIKARUというフロアを知り尽くした先輩DJを迎えてみていかがですか?
KID FRESINO:遊びつつ、毎回勉強会を開いているような気分というか。
CH.0:胸を借りるつもりでやってますね。
KID FRESINO:3人ともどういうことを考えながらDJやっているのかが理解出来ないくらいスゴいというか。特にHIKARUさんはとんでもなかったですね。だって、レゲエの後、Vince Staplesをかけて、またレゲエに戻るっていうかけ方をしてて、流れはめちゃめちゃなのに、フロアは爆アガりしてて(笑)、HIKARUさんのDJは面白かったです。ていうか、HIKARUさんのDJを初めて聴いた時、ちょうど出た直後のPharrell Williams”Happy”をかけてて、俺はHIKARUさんのことを「”Happy”を日本で一番最初にかけたDJ」として認識しているんですけど(笑)、その経験があったから、福岡では出たばかりのChildish Gambino”This Is America”を絶対にかけると思ったんですよ。で、実際にかけて、「お、かけたな」と思って、DJブースに行ったら、その曲をレコードでかけてたんですよ。「えっ!?」って思って、「そのレコード、どうしたんですか?」って聞いたら、あの人、自分でレコードを切ってたんですよね。
CH.0:データを持っていったら、アナログレコードを1枚から制作してくれる工場が福岡にあるんですって。
— 福岡のShemer-recordsですね。
日本横町:HIKARUさんに聞いたら、早起きして、そこでレコード作ってきましたって言ってたんですよ。
KID FRESINO:その時にかけるヒップホップのレコードを片面に1曲ずつ4枚ぶん作って、『OFF-CENT』に臨んでくれたんです。Childish GambinoとVince Staples、あと、DJ ShadowとAction Bronson。長年、DJをやってても、人のパーティにゲストで呼ばれた時、そういう気持ちでフロアに立ち向かっているDJがいるんだなと思ったら、背筋が正されるというか、HIKARUさんのようなDJを前にしたら、俺はまだまだDJなんて名乗れないなって。本当のDJの心意気、その夜をいい夜にしたいという気持ちの強さはとんでもないなって思い知りましたね。「いいパーティだった!」って、みんなハッピーになって終わって、「さあ、松屋に行きましょう!」っていう、そんな感じ。だから、本当のDJというのは、人のことが好きなんでしょうし、俺はその部分が欠如しているんだと思う。そういう意味では、CH.0くんもまだまだ自分本位だよね。自分がいいDJできた、みんなもちょっと喜んでる、じゃあ、いいじゃんっていう感じじゃない?
CH.0:そうなんですよ。まだまだ、マインドがヒップホップ的というか、自分のヤバいスキルやセンスを証明したいっていう感じなんですよ(笑)。
KID FRESINO:俺らはまだまだ自分本位なんだよね。でも、『OFF-CENT』を1年やってきて、周りのことがちょっとずつ考えられるようになってきた感じというか。
日本横町:俺はみんなのこと考えてるよ。
KID FRESINO:そこが同じクルー内でのバランスなんですよ。その人はDJである必要はないし、でも、毎回、クルーの一員として動いてもらってるし。
日本横町:俺はなんで参加することになったんだっけ? 『OFF-CENT』を始める前にCH.0が東京に来て、みんなで話し合ったよね。それで自分で刷ったTシャツを持って、初回の大阪に行って、そこからなんとなく毎回参加するようになったんですけど、その都度、発見や学ぶべきところがあるので、それが自分のためにもなっているし、僕がやってるMarfaは取扱店舗がないじゃないですか? でも、その取扱店舗を全国に持つ代わりに『OFF-CENT』で全国を回れば、Tシャツを買ってくれるお客さんに品物を直接渡せるわけだから、そんな感じでいいんじゃないかなって。
— 横町くんが毎回シルクスクリーンの手刷りで作ってるTシャツは毎回どんなイメージでデザインしているんですか?
日本横町:『OFF-CENT』に対する僕の勝手なイメージですけど、未来感とチーム感は意識してデザインするようにはしてます。あと、カラーリングはその時のフライヤーで自分に強く印象に残った色をグラデーションにしてますね。
— 横町くんにとって、『OFF-CENT』は未来的なパーティ?
日本横町:僕も普段ヒップホップを聴いているんですけど、『OFF-CENT』を始めた頃、現行のヒップホップは音数が減っているように感じていたんですよ。そんななか、佐々木やCH.0からハウスも聴かされるようになって、ちょっと昔のSci-fi映画や外国人が撮った東京のクラブの様子を観ているような、そんなイメージがあって、Marfaよりも実験的なことを考えていますね。
— でも、今のヒップホップはライブ中心に回ってるじゃないですか? そういうタイミングで、敢えて、パーティをやろうと思ったのはどういう理由から?
KID FRESINO:それはね、小金稼ぎをしたかったっていう(笑)。
— はははは。身も蓋もないですねー。
KID FRESINO:そう、そこがダメなところなんですよ。でも、最初から「お客さんを楽しませたい」って考えていたら、このインタビューは成り立たないじゃないですか。だって、今まさにそのことに気づいてるわけだし。うん、だから、最初の動機は小金稼ぎだったと敢えて言っておきますよ。
CH.0:まぁ、パーティを始めた動機は不純だったかもしれないですけど、俺としては佐々木のDJが聴きたかったんですよね。それ以前、佐々木はライブでちょいちょい京都に来てて、夕方のイベントが終わった後、その時に一緒だった僕と佐々木とArµ-2の3人でお客さんはほとんどいなかったのに、ただただ遊びで朝までDJして。かけてたのは、当時聴いてたソウル中心だったんですけど、その後、色んな経験を経て、色んな音楽を聴くようになった佐々木のDJが聴きたかったから、自分にとって、『OFF-CENT』を始める理由はなんでもよかったんですよ。
— そもそも、フレシノくんは、ビートメイカー、ラッパー以前にDJとしての活動が出発点だったんですもんね。
KID FRESINO:いやいや、そんないい話じゃないですよ。安井(Febb)が高校生の時にやってたイベントで、オープンのDJがいなくて。一番下っ端の俺がやるしかなかっただけっていう。
CH.0:まぁ、最初のきっかけがなんだったにせよ、今も続けているわけだから、佐々木はDJが好きなんですよ。
KID FRESINO:俺にとっても、CH.0くんはDJが良かったから、ライブの時のバックDJもお願いしているし、小金稼ぎをするパートナーにも誘ったという(笑)。
CH.0:でも、全然稼げない(笑)。
KID FRESINO:採算合ってないですからね(笑)。
CH.0:でも、小金稼ぎが全てだったら、パーティを止めててもおかしくはないと思うんですけど、何かしら面白みを感じて、2回目、3回目と続いて、8月に大阪CIRCUSで1周年を迎えるっていう。
— 邪な動機で始めたパーティに気づいたら、夢中になっていた、と。
KID FRESINO:個人的には、普段、ただ誰かと遊ぶためだけに外に出ることは少ない自分にとって、『OFF-CENT』はみんなと会ったり、遊んだりするいい機会でもあったりするし、DJに対するマインドもまさに変わりつつあるところですね。
— 『OFF-CENT』と並行して、フレシノくんの音楽活動もバンドやSeihoくんとコラボレーションしたり、新しい試みが続いていますよね。
KID FRESINO:で、まぁ、Vince Staplesは違う方向に向かって、全然売れてなかったりはするけど、そういう感じでいいのかなって。ベルリンとロンドンでレコーディングしたA$AP Rockyの『Testing』もそうですけど、周りにいる人間が変わったことも影響しているじゃないですか。俺の音楽性も周りにいる人間が変わったことが影響していますからね。そうやって状況が変化することで、BAD HOPみたいなスタイルともっとオルタナティヴなスタイルに二極化していったら、面白くなると思うし、そうなっていくんじゃないですかね。
— 新しいことを始めると理解してもらうまでが大変だったりもしますけど、ここ最近の作品やライブ、『OFF-CENT』の反応を見る限り、やろうとしていることが浸透しつつあるように思います。
KID FRESINO:ライブの時、ステージからフロアを観る限りだと自分より年齢が上の人たちも楽しそうにしてくれているのがうれしいですね。
CH.0:時代が変わる瞬間に立ち会ったことがない若い人たちはこれから佐々木が一緒に連れていくんでしょうし、そういう瞬間に一度や二度立ち会ってきた年配の人たちにとっては「それ、もう一回見られるの?」っていう期待感があるんじゃないかなって、素直にそう思いますね。
— では、最後にCH.0くんに制作をお願いしたDJミックスについて一言お願いします。
CH.0:最初、佐々木から「この曲入れたい!」って送られてきた楽曲を聴いたとき、正直これがどうまとまっていくのかは全く想像がつかなかったです。あえてパートはきっちり決めず、乗りたい流れがあればそれに乗り、乗れてきたところでパスを回す。それを何回か繰り返したら、自分たちの好奇心がギュッと凝縮された、1時間余りの普通じゃないミックスが完成しました。HIPHOPヘッズ必聴。
開催日時:2018年8月18日(土) OPEN 23:00
開催場所:Circus Osaka
■DJ
KID FRESINO
CH.0
KINO Mikihiro
■SHOP
Marfa by Kazuhiko Fujita