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Photo:Takuya Murata | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— 先日、東京にライブで来ていたラッパーのCampanellaと話したら、「横浜の方で電車に乗っていたら、MC KHAZZらしい人を目撃した」という話題になったんですけど、ここのところ、よく東京に遊びに来ているそうですね。
MC KHAZZ:横浜? あ、それ、僕かもしれないですね。最近、東京に行っては(DJ HIGHSCHOOLとBISONからなるバウンスDJデュオ)FOOTCLUBの2人だったり、(下町を代表するスケーター、竜人こと藤井竜太郎を擁するDJチーム)THE TORCHESによく遊んでもらっているんですよ。
DJ HIGHSCHOOL:地元の名古屋でばったり会うのもかなりレアなのに、すごい話ですね。でも、ここ最近は、Campanellaしかり、NERO IMAI、RAMZA、Mikumari、ATOSONE……名古屋のラッパー、DJが個々で来るようになりましたもんね。
— MC KHAZZとDJ HIGHSCHOOLの最初のコラボレーションは、去年、MC KHAZZが出したアルバム『SNOWDOWN』でDJ HIGHSCHOOLがビートを提供した”Start me!!”になりますが、あの曲はかなり混沌としたビートですよね。
DJ HIGHSCHOOL:「あの曲なんなんですか?」ってよく言われるんですけど、作った俺自身もよく分かってないっていう(笑)。まぁ、でも、あの曲ではマライア・キャリーをサンプリングして、そこにキツいエフェクトをかけて早回しにしてるだけで、それ以外の音は加えてないんですよ。
— ネタが原形をとどめてない……(笑)。
MC KHAZZ:あの曲、すごい好きなんですよ。毎回聴くと、遠くに飛ばされちゃうっていう(笑)。
DJ HIGHSCHOOL:あのビートは俺が2010年に出したビート集『BEDTIME BEATS VOL.1』に入っているんですけど、当時はビートの作り方がよく分かってなかったので、気の向くままに作っていたんですよね。
— 『SNOWDOWN』のリリース後、次の作品の構想はあったんですか?
MC KHAZZ:いや、『SNOWDOWN』を出した後、次のリリース・プランに関しては全くなにも考えていなかったんですけど、東京でHIGHSCHOOL氏と遊ぶ機会が増えて、その流れで曲を作ろうということになったんですよ。
DJ HIGHSCHOOL:俺は2015年に何人ものラッパーをフィーチャーしたアルバム『MAKE MY DAY』を出したので、次は1人のラッパーと組んで作品を作ってみたかったんですね。そう思ってる時、東京に遊びに来るようになったカズオと作った今回のEPはその第1弾にあたる作品なんですよ。
— ここ最近のDJ HIGHSCHOOLはビートを提供しつつ、プロデューサーとして全体をまとめる役割にシフトしつつありますよね。
DJ HIGHSCHOOL:そうなんですよ。今回の作品に関しては、カズオのライブを観ていて、土臭いサンプリングを活かしたアルバムの曲に交えて、(NYのラッパー)ボビー・シュマーダ”Hot N*gga”のインストでもラップしていたので、その2つを橋渡しながら、ライブ映えする作品を作りたかったんです。
— カズオくんは普段どんな作品を聴いているんですか?
MC KHAZZ:DatPiffに上がってるミックステープを聴くことが多いです。ニューヨークだと、NEEK BUCKS、TROY AVEとか、アトランタだと、HOODRICH周辺のやつとか。それから、最近 、RYO KOBAYAKAWAに教えてもらったUKのEBENEZERとか、DJ WHOOKIDのG-UNIT RADIOを遡ったり、TRU LIFEが気になってたりしますね。
— では、そうした音の好みを踏まえつつ、今回組んだHIGHSCHOOL氏のビートはどういうところに惹かれますか?
MC KHAZZ:音の出し方が独特というか、低音の主張が強いところが最高に格好いいですね。聴いてると意識もってかれちゃう系というか(笑)、聴くたびに「この音、前は気づかなかった!」っていう発見があったり。HIGHSCHOOL氏も現行の最新のものが好きだし、いい具合のチャラさがあったりするところにも惹かれますね。
— 特に近年のビートは、ベースが強烈というだけでなく、そのうねり方が立体的になっていますよね。
DJ HIGHSCHOOL:ようやく、シンセサイザーを導入したことも影響としては大きかったですし、ここにきてようやく機材の使い方が分かったというか、トラックの作り方を習得したという感じかな、と(笑)。特に去年は毎日ワンループ作ろうと取り組んでいた時期があって、それによって、自分が機材化したというか、その経験を踏まえて、感覚的に作れるようになったんです。
— トラップでラップするとなると、フローが変わると思うんですけど、ラップのアプローチに関してはいかがですか?
DJ HIGHSCHOOL:カズオのラップはストーリー性があるから、トラップのようにフレーズを繰り返すようなスタイルは合わないだろうし、BPMもトラップよりアップテンポにした方がいいと思ったんです。
MC KHAZZ:トラップを聴きつつもその真似は出来ないというか、オリジナルなスタイルが一番強いと思っているので、それはそれ、これはこれという感じで、自分はトラックに対して直感的に言葉を乗せてますね。というか、それしかできない(笑)。
— バウンスはしつつも、トラップの定型をはみ出しているトラックにも同じことが当てはまりますよね。
DJ HIGHSCHOOL:トラップというと3連符のラップが量産されていますけど、日本語の特性を考えるともうちょっとテンポが早い方がラップしやすいのかなって。そうやって作ったトラックはトラップと同じ音色を使っていても、ハイフィーに近いトラックになったりするっていう(笑)。
— 3曲目の”Tsukishita Hoo-Bangin’”は、これはハイフィーだなと思いましたね。
DJ HIGHSCHOOL:Keak Da Sneakに通じるガナリ声の持ち主であるハラクダリとMIKUMARIをフィーチャーした、あの下品な感じもハイフィーのベイエリアのノリに通じるものがあるなと思います。あの「Tsukishita」っていうのは何なんですか?
MC KHAZZ:ハラクダリが以前働いていた”月下美人”っていう店の名前から取りました(笑)。
DJ HIGHSCHOOL:(笑)。内容的にも夢も希望もないし。いつか、ハラクダリ、MIKUMARI、ILL-TEE、CENJUがマイクを回す曲をやりたいですね。
— 史上最高……というか、最低なゲスい曲が出来そうですね(笑)。ちなみに今回、HIGHSCHOOL氏からカズオくんに対する具体的なディレクションというのは?
DJ HIGHSCHOOL:1曲目の”Not Give A Fuck”は夜遊びの始まりというイメージがあったので、(RC SLUM主宰のパーティ『METHOD MOTEL』の拠点である)名古屋・栄の丸美観光ビル周辺の様子を歌って欲しいというお題を出しました。
— カズオくんにとって、丸美観光ビルはどんな場所ですか?
MC KHAZZ:中学校かな。
DJ HIGHSCHOOL:定時制高校(笑)?
MC KHAZZ:……の部活みたいな。丸美観光ビルには、今はナイトクラブが4軒で、バーが2軒、ライブハウスが1軒あって、17、18歳ぐらいからずっと自分にとっての夜の遊び場です。めちゃくちゃ嫌な思いもしたし、最高な思いもしたし、とにかくいろんな経験をさせてもらってますね(笑)。ここ最近は店舗が歯抜け状態になってて、潰れたスナックは、METHOD MOTELの時に、控え室というか、溜まり場みたいな感じで使わせてもらったりとか(笑)。この先もずっとあって欲しいですね。じゃないと困る(笑)。
DJ HIGHSCHOOL:この曲から始まって、アルバムは曲の並びが時系列になっているよね。
MC KHAZZ:クラブに行って、友達と遊んでそのまま朝を迎えて、彼女に会うっていう。2曲目の”WHITE GIRL”を録った辺りから全体のストーリー性を意識するようになって。
DJ HIGHSCHOOL:ワンループのトラックを渡して、録り自体はかなりサクサク進みましたね。その時点でラップは完成されていたので、録ったラップに合わせて、展開を付けていくやり方で曲を仕上げたんですけど、改めて聴くとカズオのラップは情景が浮かびやすい曲だな、と。
MC KHAZZ:状況説明というか、報告ラップって感じですよね。
DJ HIGHSCHOOL:例えば、『SNOWDOWN』は車の中のシチュエーションが多かったと思うんですよ。
— でも、『SNOWDOWN』の時に乗ってた車と今回出てくる車は違いますよね?
DJ HIGHSCHOOL:(笑)。ヤバいっすね。そのマニアックなチェック具合。
MC KHAZZ:(笑)。そうなんですよ。黒のダイハツに変わりました。でも、今回は『SNOWDOWN』ほど、車は出てこなくて、ただただ遊んでる描写になっているんじゃないかな。
— ハードな快楽主義者の独白ですよね。
DJ HIGHSCHOOL:歌詞の意味が乏しい曲が多いトラップに対して、今回のリリックは説明的な言葉数が多いだけで、意味がないことを歌っているという意味ではトラップと変わらないっていう(笑)。
MC KHAZZ:はははは! 要はヴァイブスってことですよね。
— でも、楽しく遊んでいる時って、ぱっと過ぎてしまうというか、リリックにしにくい瞬間でもあるのかなって。それを克明に描写しているところが、MC KHAZZの個性でもあり、そういう時はどんなことを考えているのか。また、それをどうリリックに落としこんでいるんですか。
MC KHAZZ:ラップのことは、常に考えているんですよ。仕事中、遊んでる時、ご飯食べてるとき、寝る前とか。そういう時に、遊んでて、忘れられないぐらい楽しかったこととか、おもしろかったことが自然と出てくるんだと思います。遊んでると、仲間内でスラングとか生まれるじゃないですか? すごいパンチラインがでてきたりとか。リリックを書き始めるとそういうことを思い出すんですよね。だから、遊ばないと僕は書けないです(笑)。
— カズオくんにとって、ラップはこうあるべきという理想は?
MC KHAZZ:等身大であることですかね。それとオリジナルであること。僕は存在あっての言葉だと思ってるので、その逆はありえないんですよね。「ラップが上手い」のと「ラップがカッコいい」というのは、やっぱり全然違うし、別物だと思うんです。「ラップがカッコいい」っていうのは、その人が純粋にカッコいいからであって、ラップするその人自身がどうなのかってことだと思うんです。全然話題になってないラッパーが人気ある風な、売れてる風なプロモーションしているのば、結局、それって嘘だし、ダサいなって。僕は地でいく歌い手であるべきだと思っていますね。
DJ HIGHSCHOOL:あと、カズオのラップはフレーズの繰り返しで盛り上がりを作るんじゃなく、フローで聴き手を盛り上がりに巻き込んでいくんですよね。
MC KHAZZ:トラックの展開でメリハリつけることは意識してますし、意識せずとも自然とレコーディングの時にそうなったりもします。ここで踏むだろう思わせておいて、ハズすとか、歌っちゃったほうが自然だな。とか、この曲は間を多用してみようとか。自分なりにアップデートはしていきたいって思っていますね。
— そして、作品後半は一転して朝を迎えるわけですが、OS3をフィーチャーした4曲目の”CLOUDIN’ AT THE KITCHEN”は、60’sのサイケポップを思わせるどこかノスタルジックでコミカルなビートがユニークですよね。
DJ HIGHSCHOOL:(現在はウェブショップに移行した横浜・綱島のスケーターズ・ブックストア)FEEVER BUGで毎回中古CDを買ってはトラックを作るという遊びをやってて、そうやって作ったうちの1曲ですね。
MC KHAZZ:この曲ではHIGHSCHOOL氏やBISONがいるサウス杉並を行き来しながら遊んでた時のことを歌っているんですけど、部屋で騒いでいると怒られるので(笑)、タイトル通り、キッチンでチルしているシーンですね。
— ラッパーはフッドを大切にしているものですし、特に名古屋のラッパーはその意識が強いじゃないですか。そんななか、頻繁に上京して遊んでいるカズオくんにとって、東京の街はどう映っているんでしょうか?
MC KHAZZ:電車とタクシーで移動しながら、遊ぶのが新鮮ですね。女の人も綺麗だし、美味しい蕎麦屋もいっぱいあるますしね。「同い年でこんなおもしろい人いるんだ!」って感じで、かなり刺激を受けてます。それから、FOOT CLUBの兄さんたちにしろ、THE TORCHESの兄さんたちにしろ、当たり前のようにHIP HOPが大好きで、音楽が大好きで、僕が知りたいことをいっぱい知ってるんです。MORE THAN MUSICというか、「最近なに聴いてます?」、「ですよね~!」っていうやり取りも純粋に楽しいし、知らなかったアーティストやそのアーティストにまつわることを教えてもらってる時、僕、たぶん目をまん丸にして聞いてると思います(笑)。CAM’RONのピンク色の意味とか、頭の片隅にあった疑問が解けたりとか、遊んでもらうたびにクールなアンサーをもらってますね。お酒を飲みながら好きなモノの話をとことんするところは普段名古屋にいる時と変わらないんですけど、東京は夜が長いなーと(笑)。
DJ HIGHSCHOOL:いや、わざわざ遊びに来てるから長く遊んでいるんであって、普段はそこまで長くないから!
— おもてなし?
DJ HIGHSCHOOL:ですね(笑)。ただ、東京で会って、頻繁に遊んではいたんですけど、作業は別々だったんですよ。
MC KHAZZ:効率は良かったですね。ただ、会って一緒に遊ぶのはやはり大事だと思いましたね。いいヴァイブスを共有しないといいものは絶対作れないですよ。
— そして、5曲目の”FRFR”はSTRUGGLE FOR PRIDEの新作アルバムに続いて、BUSHMIND、STARRBURSTとのユニット、BBHがサイケデリックなバウンスビートを提供しています。
DJ HIGHSCHOOL:こうやって、一緒に曲を作ることで、そろそろ、BBHを再始動させたいという思惑もありつつ(笑)、ひさびさに共同作業をしてみると、BBHの曲作りが以前よりも客観的に捉えられるようになりましたね。理想的なやり方としては、まず最初にSTARRBURSTに何曲かビートを送ってもらったら、良さそうなビートとそのビートを構成するサンプリングネタをバラした状態を俺が組み替えて、最後にBUSHMINDに展開を付けてまとめてもらうのが作業としてはスムーズなんですよ。
MC KHAZZ:この曲は彼女についてというか……チルについて歌っているんですけど、”FRFR”のビートはほんとに最初聴かせてもらった時、「インストのほうがいいんじゃないかな?」て思って。とにかく乗せてみて、1ミリでも微妙だと思ったら、インストでお願いしますって言おうと考えていましたね。でも、この曲で終わらずに、ラストの”I’M YA BOY”でまた遊びに行くっていう(笑)。だから、この作品をリピートで聴くと、ずっと遊んでいることになるんです。
DJ HIGHSCHOOL:そうやって繰り返し聴くことで中毒性が高まる作品ですからね。
— 今回、名古屋と東京が繋がって、『I’M YA BOY』がリリースされたり、名古屋と大阪が繋がって、MIKUMARIとPSYCHO PATCHのILLNANDESの『GAZZA CROOKS』がリリースされたりと、今年に入ってRC SLUMの活動は外に向けて広がっていますけど、MC KHAZZの今後の予定は?
MC KHAZZ:せっかく、ライブ映えする作品が出来たので、今はとにかくライブをバンバンやりたいですね。
DJ HIGHSCHOOL:そういう経験が次のアルバムに繋がっていくんじゃない? 俺もこのEPを皮切りに、ラッパーと1対1で組んで作品を作ったり、BBHもそろそろ始められたらいいなと思いますね。
— では、最後にそのBBHにお願いさせてもらった久々のDJミックスについて一言お願いします。
DJ HIGHSCHOOL:東名高速ドライブからの栄、RC Slumと合流的なイメージとなっております。BUSHMIND→STARRBURST→HIGHSCHOOL各20分ずつくらいミックスしていて、featuring Yota Squadです。よろしくお願いします。