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Photo:Shin Hamada | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— 12年ぶりとなる今回のアルバムは多面的な作品だと思いました。まず、最初に思ったのは、”CHANGE THE MOOD”をはじめ、過去にシングルやコンピレーションで発表した曲の再録から新たに作った新曲まで、これまでのキャリアを総括する作品なんだなということ。そう言葉にするのは簡単ですけど、新旧の曲に時座や温度差がなく、一貫したテンションが維持されているところに奇跡的なものを感じました。
今里:ありがとうございます。総括的な作品を作るにあたって、シングルやコンピレーションの曲を録り直す場合、格好良くないものになったりするじゃないですか。だから、そこは余裕で超えていこうと思ってました。というのも、もちろん、自分は昔の音楽も大好きですけど、バンドでも何でも、今その瞬間の表現が最高じゃないですか。それなのに「昔の方がよかった」って言われてしまったら、バンドが止まっちゃったということだし、バンドとしては終わりですよね。だから、昔の曲を再録するにせよ、新しいことをやるつもりで臨みました。
— 制作は昨年の初夏から断続的に行われたそうですが、約1年に渡ったスタジオワークを振り返ってみていかがですか?
今里:毎週、スタジオに入って、曲を録音しながら、ライヴもやっていたんですけど、ある時期から(ギターの)グッチンが突然大量の新曲を作り始めたんですよ。それがことごとくものすごく格好良くて、バンド内が盛り上がっちゃったんです(笑)。だから、今回のアルバムに入れられなかった曲が沢山あるというか、ぎりぎりの状態でレコーディングしていた今までとは違って、気持ちのうえで初めて余裕が持てたし、アルバムに入れる新曲を選べたんですよ。そして、今回、ミックスはグッチンが担当して、俺はほぼ立ち会ってただけなんですけど、その作業が笑っちゃうくらい面白くて。ミックスが出来上がった曲をプレイバックした時、俺が「ここはこうした方がいいかな」って思った箇所をグッチンがずばり指摘したり、逆に俺が指摘した箇所をグッチンが「俺もそう思ってた」って。そういうやり取りをひたすらやってたから、意見の相違がなく、スムーズだったし、その答え合わせのような作業が面白くて、ミックス作業中はずっと笑ってましたね。
— そして、STARRBURSTのビートが収録されていた前作EP『CUT YOUR THROAT.』がそうであるように、今回もSTRUGGLE FOR PRIDEの作品であると同時にDJ HIGHSCHOOL、BUSHMIND、DRUNKBIRDS、FEBBといった他アーティストの楽曲も収録したコンピレーション・アルバムの側面もありますよね。
今里:個人的にコンピレーションが好きだということもあるし、コンピレーション的な側面もあるNIPPSのアルバム『MIDORINOGOHONYUBI MUSIC / ONE FOOT』を初めて聴いた時、「こういうやり方もありなんだ」って思ったんですよね。そんなこともあって、『CUT YOUR THROAT.』を作ったんですけど、「バンド名義のEPなのに他の人の曲が入ってるのが意味分からない」みたいな感想を人づてに聞いたりもして。でも、今となっては、ラッパーやビートメイカーのミックステープはほとんどコンピレーション的な体裁だったりしますよね。他にもフィル・スペクター名義のアルバム『A Christmas Gift for You from Phil Spector』は、本人がやっていることといったら、朗読だけで、歌ったり、演奏しているわけではなく、曲を書いて、プロデュースした曲を収録したコンピレーションだったりして、ああいうアルバムもいいなと思ったんです。
— ”TOKYO WALL OF SOUND”の謳い文句にはそんな意味合いもあるわけですね。今回の多岐に渡る参加アーティスト、楽曲ですが、それぞれの個性を活かしながら、アルバムの大きな流れのなかで違和感なく自然と耳に入ってくるのがこの作品の特別なところだと思います。前作『YOU BARK WE BITE』はハードコアパンクやヒップホップ、レゲエ、ダンスミュージックなど、先鋭的な音楽が響き合っていた2000年代前半の時代の空気を象徴するアルバムとして捉えられていた作品でもありますが、STRUGGLE FOR PRIDEのそうした視野の広い音楽性はどのように培われたんだと思いますか。
今里:音楽の繋がりがあると同時に友達の繋がりがあって、友達が何かやってるみたいだから、遊びに行こう、と。そこで「一緒にやらない?」っていう話にもなるじゃないですか。東京は狭い街だし、人の繋がりも被ってますからね。カオスUKとマッシヴ・アタックのアートワークが共通しているのも地元のブリストルで通ってるバーが一緒で仲が良かったからということらしいんですけど、その話と同じだと思います。
— つまり、パーソナルな人と人の繋がりがSTRUGGLE FOR PRIDEの音楽性を育んだ側面があるわけですね。ワシントンDCで同じ街出身のマイナースレットとトラブルファンクが対バンしたり、MC5がデトロイトで何度も対バンしていたサン・ラの詩をもとに”Starship”を書いたり、一見あり得ないアーティストが繋がっているのもそういうことだったりしますもんね。
今里:過去のフライヤーを見ると面白いじゃないですか。そのことからも分かる通り、2000年代の東京で特別に起こったことでなく、音楽の歴史においては常に起こってきたことだと思うんですよ。
— 特別なものではなく、バンドを取り巻く日常における多様な音楽風景の記録。それが2018年の東京をレップするアルバムになっている、と。個人的にはプリンス・バスターの”NOTHING TAKES THE PLACE OF YOU”に80年代後半の東京を代表するモッズ・バンド、THE HAIRの元ヴォーカリスト、杉村ルイさんが参加していることに驚きました。
今里:東京のモッズシーン、そのなかでもルイくんの周りの”ハードモッズ”の人たちは、グラフィティやスケート・カルチャーとも繋がっていて、ルイくんとは、子供の頃からの友達なんです。去年のMODS MAYDAYで僕がDJをやらせてもらったのも、ルイくんの誘いなんです。
— 90年前後のモッズのなかにガラージハウスやヒップホップを聴く人たちがいた話は聞いたことがあるんですけど、グラフィティやスケートカルチャーとも繋がっていたという話は初めて知りました。それこそ東京ローカルの繋がりを象徴するエピソードですね。しかも、この曲の演奏はフォークロック・バンド、OHAYO MOUTAIN ROADという。
今里:OHAYO MOUNTAIN ROADの酒井くんはかつてBREAKfASTと並行してEXCLAIMっていうハードコアバンドをやっていて、俺たちのことを同世代のシーンに引き入れてくれたんですよ。彼はその後、耳を悪くして、激しい音楽が出来なくなってしまったんですけど、激しい音楽をやってなくても酒井くんのやっていることには常に興味があって、新小岩のBUSHBASHで一緒に『THE WORLD IS NOT ENOUGH』っていうパーティをやっているし、100%の信頼を置いている彼にこの曲の演奏をお願いしたかったんです。
— そして、カヒミ・カリィさんはSTRUGGLE FOR PRIDEの作品の常連ゲストでもありますが、過去にはフランク&ナンシー・シナトラ”Something Stupid”とホークウインド”Silver Machine”、そして、今回はボストンのパンクバンド、ブルーザーズ”You May Be Right”(原曲はビリー・ジョエル)と、彼女に歌ってもらったカヴァー曲は振り幅が大きいですよね。
今里:いや、ホント懐が深いですよね。今回の”You May Be Right”はブルーザーズのヴァージョンで初めて聴いたんですけど、金曜日にパーティをぶっ壊して、土曜日に謝りに行って、日曜日にまたぶっ壊すっていう歌詞がめちゃくちゃよくて。それでアルバム『Glass Houses』に入ってるビリー・ジョエルの原曲を聴いたんですけど、そっちはガラスが割れる音から始まるんですよね。
— 『Glass Houses』のジャケットもまさにガラスを割ろうとしている瞬間の写真が使われていますもんね。
今里:そうそう。それで『ガラスのニューヨーク』っていうよく分からない邦題がついてるっていう(笑)。この曲はニューヨークで元チボ・マットの本田ゆかさんのお宅にあるクローゼットにマイクスタンドを立てて、ヴォーカルを録ったんです。
— しかも、この曲はBBHのビートを下敷きに、元デタミネーションズの大野大輔さんがドラムを叩いています。
今里:最初にカヒミさんが歌うためのガイドトラックをBBHに作ってもらって、歌を入れた後、カヒミさんの(名曲レゲエ・ナンバー)”Still Be Your Girl”を意識しつつ、BBHにリミックスしてもらっていたんですけど、去年の夏に大野さんが大阪でやった俺らのライヴを観に来てくださって。そこで久しぶりに話しているうちに、ドラムを入れてもらうことを思いついて、お願いしてみたら、あっさり快諾してくれて。デタミネーションズがずっと使っていたスタジオでドラムを録音したんですけど、ベースラインを変えた方がこの曲は良くなるというアドバイスをいただいたので、そこでDOWN NORTH CAMPのCHANG YUUにベースラインを組み直してもらいました。
— そして、ベニー・シングスの洗練されたポップス名曲”MAKE A RAINBOW”を爆発的に増幅させたバンドサウンドにせめぎ合うように歌っているのは、デタミネーションズとの名共演曲”A Love Song”でもお馴染みEGO-WRAPPIN’の中納良恵さんです。彼女との出会いについて教えてください。
今里:中納さんとの出会いは、共通の先輩に紹介してもらったのが最初です。その後、家が近所だったこともあって親交を深めるなかで、僕の大好きなベニー・シングスの”MAKE A RAINBOW”のカバー曲で歌ってもらうことをお願いしました。そうしたら、しばらくして、中納さんから電話があったんです。「明日、ベニー・シングスと飲みに行くんだけど、一緒にどう?」って(笑)。どうやら、中納さんが歌うという話が人づてに来日中の本人の耳に入ったみたいで会う機会をセッティングしてくれたんです。
— それからビートメイカーにして、GROUPやStimでドラムを叩いているTaichiさんを擁するDRUNK BIRDSは今回初めての音源を提供していますけど、彼らはThe Erexionalsと共に、TOK¥O $KUNXの流れを汲むバンドなんですよね?
今里:本人たちが意識しているのかは分からないですけど、2010年代以降、The ErexionalsやDRUNK BIRDSがそういう新たなシーンを形成しているのが面白いですよね。DRUNK BIRDSは、マサスケっていうヴォーカルとウクレレの奴がかつて仲間たちと下北沢のファーストキッチン前にたまっていて、バンドを始めてから下北の商店街がやってる下北沢音楽祭でライヴをやるというので、場所を聞いたら、そのファーストキッチン前だったんですよ。「超熱い!」と思って、観に行ったら、すごい良かったんですよね。昔、仲間うちで良く聴いてたフェアグラウンド・アトラクション”Perfect”のカヴァーをやったり、色んなものが詰まってて。彼らが下北沢で日曜昼にライヴをやると、古くからの友達がみんな子供連れで遊びに来て、これこそ、フッドの音楽だなって思うんですけど、下北の人たちは、すぐにバンドをやらなくなってしまうので、ずっと活動してて欲しいなって思いますね。
— 仲間といえば、アルバムタイトル曲”WE STRUGGLE FOR PRIDE”は、RC SLUMのMC KHAZZ、スケーターの竜人さんを擁するDJチームのTHE TORCHES、LIL MERCYや大柴裕介さんらが大挙してコーラスで参加していますよね。
今里:面白い面子が揃ってますよね(笑)。『YOU BARK WE BITE』再発盤に収録したMOBS”NO MORE HEROES”のカヴァーでやってもらった掛け声的なコーラスの録りがすごく面白くて、この曲でも集まってもらったんですけど、今回は旋律のあるコーラスだったから、みんな照れていて(笑)。その照れる様を見るのがすごく面白かったです。
— そうかと思えば、小西康陽さんの朗読とMOONSCAPEのHATEさんによるメタリックなシャウトが同居した”全ての価値はおまえの前を通り過ぎる”のあり得ないゲストの並びに感覚が揺らされたり、要所要所に挟み込まれるDJ HIGHSCHOOLとBUSHMINDのサイケデリックなビートも激烈なバンドサウンドとのコントラストで重力が狂うような感覚を覚えたり。
今里:そういうグニャる瞬間はレコーディング期間中にも何度かあって。マスタリングのために、桜が満開の京都へ行って、得能(直也)くんの自宅兼スタジオの環境に飛ばされたのもそうだし、去年11月に所沢で『BEDTOWN』っていうパーティでDemon & Naomiの来日公演を見た時もそうなんですけど、「ここどこ? あれ、何してるんだっけ?」っていう、そういう感覚というか(笑)。
— 質感の異なる曲をまとめ上げた得能くんの素晴らしいマスタリングワークしかり、今里くんのセレクター、プロデューシングしかり、1曲1曲に込められた思いや曲にまつわるエピソードがこうして寄り集まったことでストーリー性が際立った作品になっていると思います。そして、本編の2枚のアルバムに加えて、NIPPS、GORE-TEX、KNZZが参加した曲は作品に封入されているダウンロードコードを通じて、配信されるんですよね。
今里:そうなんです。映画によっては、本編があって、エンドロールが流れた後に、またちょっとだけ話が始まる作品があると思うんですけど、このアルバムもそういう2部構成で考えていて、本編がFebbで終わって、エンドロール後のワンシーンはNIPPSから始まる、そんな流れになっています。
— そして、アルバムのラストはFEBB”TRUE TO MY TEAM”、そして、ライヴ盤冒頭にはECDさんのシャウトがフィーチャーされています。
今里:石田さん(ECD)が2003年に出したベスト盤『MASTER』は、以前、石田さんとライヴで一緒になった時、僕が「次はECDです」と言っているライヴ音源から始まるんですよ。それがすごくうれしかったので、今度は僕らのライヴで石田さんに「次はSTRUGGLE FOR PRIDEです」と紹介してくれませんかとお願いしたんです。そして、石田さんがいなくなったすぐにFEBBもいなくなってしまって、2人とも東京を代表するラッパーという以前に友達だったので、いまだになんとも言いようがなく、すごく残念です。今回、東京について考える機会が多かったのに、その街がどんどんなくなってしまうような気さえするんです。
— 今回のアルバムのテーマでもある”東京”についてはどんなことを思われますか? ここに映し出されている東京の音楽風景は多彩にして多面的ですが、個人的には、かつて交わり、混在していた東京の音楽シーンは近年細分化が進んでいる気がするんですよ。
今里:こないだ大阪でEBBITIDE RECORDSの5周年記念パーティにDJで呼んでもらったんですけど、昔から仲がいい大阪のハードコアバンド、FEROCIOUS XとPSYCHOPATHがライヴで出て、俺がDJをやってる時は隣にRIGIDっていう若いハードコアバンドの子がいてくれて、その子はFEBBが大好きだったりして。そこで思ったのは、名古屋のRC SLUMがやってるイベント、METHOD MOTELもそうだし、大阪、名古屋の方がちょっと進んでるなと思いました。いまだにジャンル云々って言う人がいる東京に対して、大阪、名古屋はそんなのとっくに飛び越えてると思います。
— 音楽人口が多い東京では、特定のジャンルでイベントが成立するのに対して、地方は同じ箱に色んな人が出入りしていたり、人ありきで繋がっているし、東京で生まれ育った今里くんが見ている東京も人の繋がりがありきのローカルな東京なのかなって。
今里:どの街にもローカルのシーンがあるように、僕にとっての東京もローカルというか、地元の街以上でも以下でもなく。そこには昔からの友達との繋がりがあって、嘘をついてもバレるし、今回のアルバムにしても知り合いにしか声をかけてなくて、それがそのまま作品になりました。僕らはそういう風にしか音楽はやれないし、そうしないと意味がないなって思うんですよね。
— 最後に、今回のDJミックスは、今里くんとのDJデュオ、ETERNAL STRIFEでも活動されているGRIN GOOSEさんにDJミックスをお願いしました。依頼の際にはメアリー・J・ブライジ”MY LIFE”の歌詞世界であったり、歌詞を踏まえたDJにおけるストーリー性についての話題になったんですが、今里さんの方からGRIN GOOSEさんと今回のミックスをご紹介いだけますか?
今里:GRIN GOOSEは出会った時から現在までずっと傍にいて守り続けてくれている大切な兄弟です。この街で一番の選曲家の、素晴らしいミックスをお聴きください。