MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、DJ、プロデューサーのokadada。
ネットレーベル、Maltine Recordsやbandcampからフリーダウンロードで作品を発表。その他にもdancinthruthenightsで共に活動するtofubeatsをはじめ、小泉今日子や東京女子流、餓鬼レンジャーやZEN-LA-ROCK、あっこゴリラらのリミックスやフィーチャリングを手がけるプロデューサーである彼は制作以上にDJとして精力的に活動している。そのフィールドは、大箱から小箱、ベルリンの若きカリスマ、Mr.Tiesとの共演からヒップホップ、K-POPのパーティ、アニソンのイベントまで、年間100本以上のギグは多岐に渡っており、現在、日本のダンスフロアを最も熟知しているDJの一人といえよう。
今年2月にリリースされたKick a Showのアルバム『The Twelve Love』で”0時ちょうど”のプロデュースを手がけたばかりの彼は、昨年1月からDJ WILD PARTYと共にCIRCUS Tokyoでマンスリー・レジデント・パーティ『AUDIO TWO』を主宰。新たな動きを見せているが、今回、依頼したDJミックスとインタビューを通じ、現在のokadadaの活動や音楽観について話を訊いた。
Photo:Takuya Murata | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— okadadaくんは毎月ものすごい本数のDJをやってますけど、パーティに合わせて、DJスタイルが変幻自在ですよね。
okadada:そこまで違うことをやってるつもりはないというか、結局、同じことをやってるなと、自分では思っているんですけど、スタイルが変わるところがコンプレックスでもあり、強みでもあり……。
— コンプレックスというのは?
okadada:1つのことを極められないし、分かりにくいじゃないですか。先日、K-POPだけのDJをやったんですけど、そこで楽しいと思ったお客さんが、別の日に僕がディープハウスをかけるパーティに来ても、つまらなく感じることも多いと思うんですよ。自分のなかでは一緒なんですけど、そう思うのもやっぱりしょうがないなって。
— 例えば、クボタタケシさんのように、オールミックスのDJとして認知されれば、そうしたことも解消するような気もします。
okadada:ずっとそれが狙いなんですけどね。なにせ飽き性で移り気なので、「あいつ、何やるか分からんけど、いつも良いしとにかく遊びに行こう」って思ってもらえるなら、その方が絶対いいですからね、変わることそれ自体を求められるというか。
— クボタタケシさんのプレイにクボタ節と呼ばれるものがあるように、okadadaくんは自分らしさを意識します?
okadada:意識してないというか、そもそもそれができなくて、自分らしさもよく分からないんですよね。個人的には無意識ににじみ出るものが最終的にはその人の個性になるんじゃないですかね。というか、もともと、僕はヒップホップが好きでDJを始めたんですね。それは2000年代初頭、ジャスト・ブレイズやカニエ・ウェスト、スウィズ・ビーツの時代だったんですけど、根本的にミーハーというか、その時に流行っている音楽が好きで、ずっとビルボードチャートはチェックしてて。自分の場合は高校生の頃の感覚のまま聴いている音楽が拡張した感じなんですよね。大学の時、ベタな音楽だけだとさすがにつまらないなと思って、大学のリスナー・サークルに入ったんですけど、そこにはハウス聴いている人やデトロイトテクノ聴いている人、ジャズ聴いている人、ノイズ聴いている人、ネオアコ、ソフトロック、モッズ、プログレとか、まあ色んな人がいて、それが一気に入ってきたので色んな音楽に並列に触れるようになったんです。
— つまり、アンダーグラウンド指向、アート指向で音楽を捉えていないと。
okadada:そういう感覚、あんまりないんですよ。でも、逆に言えば、めっちゃポップ指向でもないんですけどね。DJの時に色んな音楽をかけるとはいえ、そのジャンルのルールは重要視していて。やっぱり、ジャンルを完全に無視するというのは、不遜なことやし、いい状態で音楽をかけるにはルールが必要だと思うんですよ。音楽が良いって思う理由はつきつめていくと大体ルールにあるなと思います。ルールに則るからこそ、逸脱も出来るし、例えば、ディープハウスのルールに則ってプレイしていれば、そうじゃないレコードをかけてもディープハウスに聞こえるということが起こりえるじゃないですか。だから、各ジャンルのルールが分かれば、好き嫌いはともかく、色んな音楽が聴けるし、そのなかから自分の好きなものをピックアップした自分なりのアーカイブから選んで曲をかけているので、それぞれの曲のジャンルが違っていたとしても、そこには統一感があると思います。
— okadadaくんはパーティによって選曲をがらりと変えるところもそうですし、自分のスタイルを一方的に提示するんじゃなく、フロアを楽しませるエンターテイメント感覚も際立っている気がします。
okadada:選曲を変えているのも、やっぱりコミュニケーションだし、それが好きだから、自分がやっていることを分かってもらうにはまず人を掴まないと来てもらえないですし、とにかく楽しく踊ってて、気づいたら全然違うところにいるっていう音楽体験を楽しんでもらうには間口の広い入り口から入ってもらう必要があって、そのために言語を合わせる感じ。「通じてるかな?」っていう人とのの対話があって、「じゃあ、この曲かな」って感じでかけているので、「この曲があんな感じで聞こえるとは思いませんでした」って言われるとうれしいんですよね。
— 特に東京は音楽人口が多いこともあって、特定のジャンル、サブジャンルだけのパーティが成立する環境なので、ジャンルが分断しているし、もっと言えば、シリアスなパーティが多いですよね。
okadada:シリアスなものが流行るだろうなって、3年くらい前によく話していたんですよ。2010年ぐらいに何でもありな感覚でやってた僕らの下の世代は、振り子の原理で僕らの時代でいうTHA BLUE HERBみたいな真面目さを格好いいと感じるようになるだろうから、時代は変わるっていうか、そっちに戻る。自由と規律は両軸になってると思うので。俺みたいにヘラヘラ楽しくやってるのは格好よくないってなるだろうな、と。実際、今勢いあるもっと若い新しい勢は”格好いいから格好いい”って感じで、割とシリアスじゃないですか。もちろん、そういう音楽好きですけど、僕のなかではエンターテイメント的な感覚とアーティスティックな感覚は対立概念ではなく、同じ意味やと思う。
— 1回1回違う現場で、その時の状況に応じて弾力的に対応しながら、自分のやりたいように盛り上げていくのが総合的なDJのアートであり、エンターテインメントですからね。
okadada:DJ WILDPARTYも僕も、もう何年も年間100本以上DJをやってるんですけど、こういう風になれたのもDJが上手いかどうかよりもそもそも、ずっとやってて飽きひんのと、たまたま、人が盛り上がる音楽が好きなだけやったなって話しますね。運がよかった。そうじゃなかったら、DJを商売に出来てなかったと思います。
— 日本においてはクラブカルチャー受難の時代と呼ばれている今、その状況を日々のDJを通じて、どう盛り上げていこうと考えていますか?
okadada:昔はなんとなくクラブに対する憧れがあったし、自分より上の世代にはそういう気持ちがもっとあったと思うんですよ。かっこいい場所だったりするというか。でも、今の20代にはクラブへの憧れは、まぁ、ないでしょうね。うるさいし、酒高いし、行ってもどうしていいか分からないし、そりゃ、来ないですよね。でも、自分にもクラブ行くよりモノとして残るレコードを買う方がいいと思っていた時期もありますし、そういうモノじゃなくて音楽体験に金を払う意味が本当に分かったのはいくつの時かなって考えるんですよ。クラブは、そこにおることが大事というか、おるだけでいいんやって思えたというか。飲む、聴く、話す、会う、踊る、っていう楽しみ方の選択肢の一番上が実は「居る」っていう娯楽なんじゃないかなと思ってて。大学の先輩でましゅっていう人がいて、ナイトメロウっていうイベントを一緒に長年やってる人なんですけど、僕が20歳くらいの時、その人が「クラブは楽しい。女の子いるし、友達がいるし、酒飲めるし、あと、音楽あるし」って言ってて、「え、音楽は4番目!?」って思ったんですよね。それで「クラブって、そういうことか」って思いました。僕は田舎の音楽オタクで、そういう感覚の人だとクラブは「音楽を聴きに行く場」って思ってる所があって、盛り場っていうイメージのクラブはなんか音楽に対して凄く失礼な事をしてる、音楽に向き合ってない! チャラい! みたいに思いがちだと思うんですよね。でも、そういう風な音楽の捉え方はすごく素晴らしいな、と思いました。音楽だけが大事じゃないけど音楽は基礎でいいという。音楽のそういう遊び方、幅広い捉え方がただちに分かるかっていったら難しいですけど、そういう体験に金を払う人が増えるように、DJ側もとりあえずその日ウケるウケないじゃなく、そういう部分の質を高めていった方が長い目で見たらプラスになると思うんですけどね。そのことが1人でも分かってもらえたら……自分に出来るのはそれくらいかなと。「僕が全部なんとかします」とはとても言えないし、そんな力もないので。でもこういう感覚が好きなので残って欲しいし、これはみんなでやらんとあかんことなので、そこは地道にやっているつもりなんですけども。
— ヒップホップが好きでDJを始めたokadadaから見て、今また波が来ているヒップホップのお客さんはいかがですか? クラブで発展してきた音楽にもかかわらず、クラブイベントでもお客さんの多くはライヴを観に来てて、全然踊らないですよね。
okadada:それは実はあんまり昔から変わってないんじゃないかと思うんですけど、こないだ考えてたのは”日本語ラップ”って言葉があるじゃないですか。自分にとっては”日本語ラップ”っぽいものとそうじゃないものがあって、試しにリストアップしてみたら、ダンスミュージック感が脱臭されているのが、俺にとっての”日本語ラップ”やなって。例えば、最近だとゆるふわギャングやKOHHは自分的にはダンスミュージック感があるから、自分のなかでは日本語ラップっぽくないなて思ったりするんですけど、あくまで個人的な雑感ですが。それって多くの人は日本語でラップを聴く時にダンス感覚は邪魔だったからじゃないかって思います。
— その時々の風潮がありますしね。ただ、踊る楽しみもあるよっていう。
okadada:そういう提案はしたいんですけどね。ただ、そう言いつつも、みんなが基本的には「踊る」ことを恥ずかしいと思っているということを定期的に思い出さなとあかんなって。
— 例えば、BEN UFOのように作品を出さず、DJだけで高く評価されているDJもいますけど、こと日本においては作品を出さないとDJがなかなか商売になりにくい現状がありますよね。作品を出しつつも、多作家ではないokadadaくんはその点いかがですか?
okadada:めっちゃ自分の曲が嫌いで、今まで作った曲は全部いつ聴いても下手やなって思うんです(笑)。粗しか見えないんですよ。DJは客観作業なので、DJのやりすぎで、曲作りの時に大事な思い込みがすぐに冷めちゃうというのもありますね。
— そう言いつつも、okadadaくんの作風は時を追うごとに変化していて、初期はヒップホップ的なカット&ペースト、その後、リエディットやニューディスコ的なトラックがあり、最新作のKick a Showの”0時ちょうど”は現行のヒップホップ、R&Bをベースにしつつ、エスニックな要素が加わった新境地的な1曲ですよね。
okadada:去年はUKのアフロビートものを結構聴いていたんですよ。ああいうテイストは、意外とみんなやってないし、音と日本語の相性もいいと思ったんですよね。それにちょうどKick a Showくんは俺にとってはやりやすいキャラ、曲のイメージ上だけで格好つけられる男前じゃないですか(笑)。だから、彼とはもう2、3曲やりたいですね。やったら、もっとよくなるやろうなって。ここ3年くらいは悩みの時期だったというか、色んなものが一段落して、一回立ち返らなだめな時期だったんですけど、今年、来年はまた何かが始まるような気はしてますね。
— 新たな動きを楽しみにしてます。ちなみに今、okadadaくんがやってるレギュラーパーティーは一体いくつあるんですか?
okadada:定期レギュラーは、毎月第2土曜日にCIRCUS Tokyoでやってる『AUDIO TWO』が実は初めてですね。他は全部不定期なんですよ。『ナイトメロウ』は夏だけ2、3回やるAORメインのイベントで、東心斎橋STOMPで今は不定期にやってる『now romantic』。それからtofuとDJ WILDPARTY、tomadとやってる『LOST DECADE』も完全に不定期だし、MONKEY TIMERS、YOSHIROTTENとやってる『LESS』もホントはやりたいんですけど、なかなかスケジュールが合わず、3回くらい日付を決めてはバラしてますね。
— 唯一の定期レギュラーパーティー『AUDIO TWO』のテーマは?
okadada:毎月やる! ですね(笑)。今、特定の小箱とかを除いて、毎月遊びに行けるレギュラーパーティって少ないし、そうやって遊んでる人は俺らのお客さんにはいいひんちゃう? って話になったんですよ。WILDPARTYは横浜の子で、大学生の時、(横浜の名物パーティ)『HEY MR.MELODY』に毎月遊びに行ってた経験がめっちゃデカかったし、僕はSTOMPだったり、『FLOWER OF LIFE』とかあの周辺で遊んでたんですよね。でも、今は、確かにライヴっぽいお客さんが増えて、フェスっぽいイベントにしか人が入らないって言われてますけど、じゃあそれ以外の試みとか提案をそんなにやっているかっていったらあんまりやれてないんじゃないかって。ライヴをいっぱいやって、フロアを沢山設けて、DJがめっちゃ沢山いるイベントは人が入るから、みんななんとか騙し騙しやっていますけど、それは収穫し続けてるだけで、種を蒔いてない気がして。
— つまり、『AUDIO TWO』は意識的にオーセンティックなパーティをやってると。
okadada:そこまであんまり大袈裟なものでもないですけど……。まあ自分たちの為にちょっとは幅を広げておきたいという。個人的には、DJでフックをあちこちに散りばめて、人をどんどんもっていくのが得意やし、それが楽しかった、楽しいんですけど、プレイスタイルや反応がどんどん同じになってしまっていたから、一回4つ打ちに立ち返って、もう1回じっくり基礎を作っていかないとだめやろなって。自分的には修行というか。ちょうど、CIRCUSの方からもレギュラーの話があったので、じゃあ、やってみるかって。最近は音質をちゃんとせなあかんなって思うようになったんですよ。去年末にSeihoと(ベルリンのDJ)Mr.Tiesと一緒にパーティをやったんですけど、Tiesが音量コントロールの話をしてて、音像のコントロールはめちゃ気にしてたんですけど、そういえば、音質、音量のコントールは今までちゃんとやってなかったなって思ったんです。そういう意味ではまだまだこれから修行が必要だと思います。
— さらなる進化を期待しつつ、今回、お願いしたDJミックスについて一言お願いします。
okadada:テーマはディープハウスでいかかがですか、とお題を頂きましたけど、やはり、いろいろ考えていくうちに脱線してしまいまして……。拡大解釈気味ですね。自分なりにディープハウスに向き合う良い機会になりました。ここ1年くらいの新譜中心に良いものができたと思うので、散歩しながらとか、ゆっくり聞いてもらいたいです。