Vol.82 YOSA – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、DJ、プロデューサーのYOSA

2008年に19歳でヨーロッパのレーベルからリリースしたハウストラックがガイ・ガーバーやスティーヴ・バグ、ジョッシュ・ウインクら、世界中のトップDJたちから絶大な支持を得て、ダンスミュージックの最前線に立った彼は、その後、音楽性をシフトチェンジ。2014年の『Magic Hour』と2016年の『ORION』という2枚のアルバムでは、ラッパーやシンガーをフィーチャーしながら、サンプリングと生楽器を交えたトラックによって、ハウス、ディスコからヒップホップ、R&Bまで、しなやかなクロスオーバーを実践。パートナーであるDJ、プロデューサーのTAARと主宰するパーティ『MODERN DISCO』と併せて、ダンスミュージックシーンに新風をもたらしているYOSAのインタビューとDJミックスをお楽しみください。

Photo:Takuya Murata、Interview&Text : Yu Onoda、Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「自分が聴きたいアルバムを作ろうと思った時、それはDJツールとしてのダンストラック・アルバムじゃなかったんです」

— YOSAくんは、ヨーロッパで絶大な人気を誇るDJ、ガイ・ガーバーにピックアップされた2009年の”Mahogany”がきっかけとなって、活動初期は海外志向のハウスプロデューサーでしたよね。

YOSA:僕は大学時代にDJとほぼ同時期に曲を作り始めたんですけど、作った曲を出したいと思いつつも、日本でリリース出来るレーベルがないので、海外のレーベルに手当たり次第に送ったら、リリース先が決まって。それ以降、色んなレーベルからオファーがもらえるようになって、海外のリリースが続いて、その流れでヨーロッパツアーに行かせてもらいましたし、当時はワールドスタンダードっぽいクラブミュージックをやってました。ただ、その一方で僕は日本語ラップがずっと好きでしたし、普段家で聴く音楽は国内外問わず、歌モノが多かったので、いつかはそういう音楽を作りたいと思っていたんです。そして、シングルリリースを重ねて、アルバムの制作について考えた時、いわゆるDJツール的なトラックを集めただけのアルバムをみんな聴きたいのかな?って疑問に思ったんですよね。少なくとも自分はそういうアルバムを聴かないし、アルバムを出すなら、普段聴いている音楽の要素をミックスした内容にしたいなと思って、2014年に『Magic Hour』というアルバムを作りました。

— 反応はいかがでしたか?

YOSA:賛否両論でしたね。ハウス・プロデューサーとして認識されていたところで急に日本語ラップをフィーチャーしたアルバムを出したわけですから、「何やってんの!?」っていう反応があった一方で、それまで僕のことを知らなかった人が一気に目を向けてくれた手応えもあって。『Magic Hour』以降はクラブトラックを作ってもいいし、ヒップホップをやっても、ポップスを作ってもいい状態になって、2016年の『Orion』は前作以上に日本語ラップをフィーチャーしたアルバムでしたし、今に至るまで自由に音楽を作り続けていますね。

— 『Magic Hour』以前の海外リリースが続いていた時期、そのまま活動を続けていたら海外で成功していたと思うのですが。

YOSA:そう言っていただくことは多かったですし、そのまま続けていたら、海外でやれるかもしれないと自分のなかで一瞬思った時期もあったんですけど、自分のライフスタイルを考えた時、DJとして海外を飛び回ったり、移住したりすることがイメージ出来なかったというか、そういう生活をしたいと思わなかったんですよ(笑)。

— はははは。

YOSA:それで食っていくということは、一生そういう生活を続けるということじゃないですか。そういうライフスタイルが僕には向いていないと思ったんです。あと、自分は高校時代、フランスとイギリスに3年間住んでいたこともあって、海外に対する憧れが全くないんですよ。海外生活それ自体はいい経験になりましたけど、ずっと生活するのはイヤだなって(笑)。

YOSA『Magic Hour』
サンプリングのワンループを軸に、ハウシーなトラックにTOKYO HEALTH CLUB、The SAMOSのShigeoJDらをフィーチャーした2014年リリースのデビューアルバム。

— ただ、日本のクラブカルチャーと比較すると、ヨーロッパのクラブカルチャーは成熟していて、ビジネスとしても確立しているし、音楽の楽しみ方も自由でオープンじゃないですか。

YOSA:それはそうだと思います。ただ、その場が鳥肌立つほど美しければよくて、次の日のことは知らないという向こうのクラブ・カルチャーの突き抜けた快楽主義が自分には向いてなかったんですよ。あと、ビジネスとして確立している向こうのダンスミュージックに逆に閉鎖的なものを感じたということもあります。どういうことかというと、ルールがあまりに固まりすぎていて、例えば、曲の始めと終わりは32小節のドラムビートがないと売れないとか、繋ぎやすい曲を作らなきゃいけないとか。つまり、そこでいうところのダンスミュージックはツールなんですよね。それはそれで様式美として、すごく美しいものだし、自分も興味をもってやっていたことではあったんですけど、自分が聴きたいアルバムを作ろうと思った時、それはDJツールとしてのダンストラック・アルバムじゃなかったんです。

— かたや、国内シーンに向けた作品を作るとなると、海外シーンの評価軸から外れることにもなりますよね。

YOSA:でも、海外にも色んな人がいて、いわゆるアンダーグラウンドなテクノが好きな人もいれば、日本のポップカルチャーに興味を持っている人もいるわけで、自分の価値観を分かってくれる人は国内外問わずいると思っているし、音楽を届ける範囲を限定せずに、やりたい音楽を自分なりに追究して、理解者を増やしたいんですよね。

— 今は世界的に1980年代の日本で独自に発達したシティポップやニューエイジ、アンビエントが注目されていますもんね。

YOSA:ホントにその通りで、当時のミュージシャンは海外にうけることを考えて、音楽を作っていたわけではなく、自分が好きな音楽を作っていただけですからね。当時は世界に発信する手段がなく、世界に発見されるまでたまたま30年かかりましたけど、今は海外に発信する手段はいくらでもありますし、今となっては日本がどうこう、世界がどうこうとは全く考えてなくて、自分が好きな音楽を作って、それをより多くの人に知ってもらう努力をしようとシンプルに考えていますね。

YOSA『Orion』
NOPPAL、OBKRこと小袋成彬、ZOMBIE-CHANG、SALU、韻シストのBASIといったラッパー、シンガーをフィーチャーしながら、生楽器を交えたメロディアスなトラックに磨きをかけた2016年リリースのセカンドアルバム。

— そういう意味で、YOSAくんはポップス的発想のプロデューサーでもある、と。

YOSA:でも、多くの人に届けるために、音楽性を変えようとは全く思ってなくて。いま流行ってるテイストをそのまま楽しめる人間だったらいいんですけど、残念なことに自分はどうやらそういう人間ではないらしく(笑)、ポップでありつつも、ちょっとズレてるんですよね。でも、そのズレを好きだと思ってくれる人がいるかもしれないし、そういう人に自分の音楽を知ってもらうために、こうしてメディアに出させてもらったり、見え方をポップにしたり、はたまた、block.fmで番組をやらせてもらったり、そういう活動を続けながら、名刺代わりになるアンセムが出来たらいいなって思っていますね。

— 音楽的には、サンプリング主体の『Magic Hour』からギターやキーボードだったり生楽器をフィーチャーした『Orion』へ作風の大きな進化がありますよね。

YOSA:まさにその通りで、『Magic Hour』はそれ以前のダンストラックを作っていた時期のノリを引きずったまま作った作品で、ワンループのトラックが多かったですし、4つ打ちが多かったんですよね。『Orion』はのビートはヒップホップなのかどうかは分からないですけど、BPMでいうと90から105くらい。僕は楽器も出来ないし、譜面も読めないんですけど、フィーチャリングに近い感覚でギターやキーボードもがんがん弾いてもらうことで楽器が出来る人の音楽とも全く違うし、今まで自分が出来なかったことを盛り込むことで自分の個性はそのままに作品のレベルも上げることが出来るので、今もそのやり方で制作を続けていますね。

— そんなYOSAくんはレーベル、OMAKE CLUBの所属アーティストでもあります。

YOSA:OMAKE CLUBは、レーベルオーナーにしてTOKYO HEALTH CLUBのTSUBAMEくんが良き相談相手なんですよね。僕が『Magic Hour』で日本語ラップを乗せることを躊躇していた時に「やりたいんだったらやったほうがいいよ」って背中を押してくれたし、TOKYO HEALTH CLUBをフィーチャーした”Coin Laundrry”は僕の作品のなかで一番人気がある曲にもなったので、困った時は彼に任せれば助けてくれるんじゃないかなって(笑)。レーベルにはジャンルレスに色んなアーティストが集まっていて、そのなかに僕もいるし、一人で活動するのとは違うレベルで輪が広がっているし、その一方でTSUBAMEくんは、「OMAKE CLUBは踏み台レーベルだから人気が出たら、すぐ次に行ってくれ」って言ってて、「そろそろ、YOSAの番だよ」と肩を叩かれているんです(笑)。

— OMAKE CLUBはヒップホップ・レーベルという印象があるんですけど、ダンスミュージックにも理解があるんですね。

YOSA:そうなんですよ。TSUBAMEくんはかつてROCTRAX所属のエレクトロ・デュオ、MYSSで活動してて、もともとは4つ打ちの人なんですよ。だから、今はヒップホップをやってるけど、僕のことをよく分かってくれてるし、自分とスタンスが似ているんです。

— かつて、THE LOWBROWSで活動していたChaki Zuluもそうですよね。

YOSA:まぁ、Chakiさんは格好良すぎますけどね(笑)。あと、僕はgrooveman Spotさんも大好きなんですけど、ダンスミュージックやヒップホップ、ポップスなどジャンルの枠を超えて、自分が好きなことをやってる人にシンパシーを感じますね。

— そして、音楽制作と並行してYOSAくんが相方のTAARくんとSOUND MUSEUM VISIONで主催しているパーティ『MODERN DISCO』についてですが、そのコンセプトは2000年代以降のニューディスコとも異なるものなんですよね?

YOSA:そうですね。『MODERN DISCO』のコンセプトは、『EDEN』という映画で仮面を被る前のダフトパンクの2人がハウスパーティで出来たばかりの”Da Funk”をかけるシーンがあって。その瞬間に「何この曲!?」ってなって、ちょっと知ってる風の奴が「これはモダン・ディスコって言うんだ」って語るくだりが由来なんですよ。自分たちとしては、新しいものが生まれる瞬間になればいいなと思って付けたパーティ名なので、ディスコだけしかプレイしないわけではなく、その時々のフレッシュな音楽とかDJとかをピックアップする場になればいいなと思ってます。

FKJ『French Kiwi Juice』
「フレンチタッチ2.0」とも評されるレーベル、Roche Musiqueを主宰するパリのプロデューサーにしてマルチ・イントゥルメンタル奏者のファーストアルバム。自身による生楽器とサンプリングによって織り上げた楽曲はダンスミュージックシーンからヒップホップ、R&Bシーンまで広範な支持を得た。

— 『MODERN DISCO』にも出演したフランスのFKJが所属するRoche Musiqueはダフト・パンクに象徴されるフレンチ・タッチのバックグラウンドをもったレーベルだと自ら謳っているじゃないですか。でも、彼らはフレンチハウスのリヴァイヴァルを意図しているかというとそういうことはなかったりしますよね。

YOSA:そうなんですよね。今はまたちょっと違うんですけど、一時期、Roche Musiqueは”フレンチ・タッチ2.0”と呼ばれていながら、FKJはダフト・パンクの影響を全く受けていないんです。でも、ダフト・パンクが作ったシーンが何世代か下までずっと続いていて、FKJよりさらに若いPETIT BISCUITのような10代のプロデューサーが登場してきているんですよね。

— FKJしかり、フランスの新しい音楽にはヒップホップやR&Bの要素が織り込まれているところに個性がありますよね。

YOSA:そう。ハウスのプロデューサーは4つ打ちの音楽しか作らないというスタンスがフィットしない自分にとって、その自由度の高さが好きなんですよね。でも、日本でそういう柔軟なスタンスの若いDJやプロデューサーはtofubeatsくんぐらいで、まだまだ少ない気がするんですよね。

Petit Biscuit『Presence』
フランスの新世代を切り開く18歳のプロデューサーがリリースした2017年のデビューアルバム。Isaac DelusionやPanama、Lidoといったバンドやシンガーをフィーチャーしたトラックはゆるやかなグルーヴにキャッチーなメロディが映える作品だ。

— 日本のヒップホップはライヴ主体だから、ダンスミュージックとのクロスオーバーはなかなか難しそうですよね。

YOSA:ホントそうなんですよ。ライヴのイベントにDJが入っても、なかなか場が盛り上がらないんですよ。でも、フェスになったら、みんな踊ったりするわけだから、かなり難しいことではあるんですけど、そうなったら絶対面白いはずだし、地道な積み重ねで状況を変えていきたいと思ってますね。

— 現在は『MODERN DISCO』の相方であるTAARくんと新作アルバムの制作中とのことですが、どんな作品になりそうですか。

YOSA:1つのパーティーをクルーでやってる人たちはどの国、どの世代にも沢山いるんですけど、1つのパーティを軸に、曲を作れるレジデントの2人がそれぞれ作品を出したり、一緒にラジオ番組をやったりしている動きは他にはない特殊なものだと思うんです。だから、その個性を突き詰めるべく、2人の共作で作品をパーティで発表しようと、去年くらいから作業してきたんですけど、ようやく少しずつ形になってきたので、今年の夏くらいにはリリース出来たらと思ってますね。

— では、最後に制作をお願いしたDJミックスについて一言お願いいたします。

YOSA:最近自分がよく聴いているもの、DJとしてよくかけているものを、ある一定のBPM感の中でミックスしました。本当はもっと色んな曲を入れたかったんですけど、そうするとあまりにも長くなってしまうので(笑)。タイトルコールのシャウトはTOKYO HEALTH CLUBとkiki vivi lilyさんに入れてもらいました。今の自分の名刺代わりのミックスとして聴いていただければと思います。そして是非、自分のDJの現場にも遊びにきてもらえたら嬉しいです。