Vol.80 asuka ando – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、メロウにとろけるラヴァーズロック満載の新作アルバム『あまいひとくち』を2018年1月6日(土)にリリースする女性シンガーソングライター、asuka ando

思い出野郎Aチームや井の頭レンジャーズ、EVISBEATSとのコラボレーションを経て、前作『mellowmoood』から約3年ぶりとなるこの作品には、7インチシングルでリリースされ、瞬く間にソールドアウトとなった3曲"かなしいほんと"、"今夜がトロピカル"、"ふゆのおわり"に加え、マリー・ピエール"CHOOSE ME"と岡村靖幸"だいすき"のカヴァー、90’sアーバンミュージックの影響を織り込んだ"ミス・アプリコット"など全10曲を収録。LITTLE TEMPOやReggaelation IndependAnce、KODAMA AND THE DUB STATION BAND、光風&GREEN MASSIVE、FRISCO、やっぽー!バンドのメンバーらをフィーチャーし、レゲエの奥深さとポップスとしての洗練を奇跡的に共存させた珠玉のアルバムとなっている。

今回は、BUSHMINDによるマニュピレーションのもとで制作された貴重なDJミックスとともにasuka andoの素晴らしき音楽世界を掘り下げるべくインタビューを行った。

Photo:Takuya Murata、Interview&Text : Yu Onoda、Edit:Keita Miki、Mix manipulated by BUSHMIND、Special Thanks:udo

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「生き様はヒップホップだけど、やってる音楽はレゲエとか、そういう価値観が自分のなかで当たり前になってきているし、レゲエシンガーであることにようやく折り合いがついてきましたね」

— レゲエは、歌詞は甘いのに、ベースがヘヴィーだったり、逆に音は甘いのに、歌詞はハードだったり、そういう裏腹さが面白い音楽だったりもしますけど、メロウなラヴァーズを歌っているasukaさんもルーツは実はヒップホップにあるとか?

asuka ando(以下asuka):そうなんです。中学の時、BUSHMINDくんが学校の後輩にいて。彼からDigable Planets、The PharcydeやArrested Developmentをはじめ、ヒップホップのCDを何枚か貸してもらったんです。そのCDは後日返すことになっていたんですけど、ずっと聴き続けていたら、「もう待てないんで、俺、LPで買いましたから」って言われて。結果的に頂戴してしまったんですけど(笑)、それが私にとって、今の音楽に通ずる入り口になりました。そして、そこからヒップホップを聴くようになったんですけど、90年代にヒップホップとレゲエが融合するじゃないですか?

— ブシュ・バントンとバスタ・ライムズ、ケイプルトンとメソッドマンとか、時期的には90年代中期ですね。

asuka:その頃、渋谷のFAMILYで友達がレギュラーパーティをやっていて、そのなかの1人のDJがヒップホップにダンスホール・レゲエを混ぜてかけだしたんです。で、当時、ヒップホップのダンスをやっていた私は、踊りやすい音楽としてのレゲエに開眼しつつ、その後、R&Bのインスト・トラックの上で歌うようになりました。周りでは、ディーヴァ系シンガーが流行っていて、MISIAやSugar Soul、ACO、UA、Birdが聴かれていたし、私も聴くのは好きだったんですけど、その一方で竹内まりやさんが好きだったり、歌謡曲でも育ってきた自分にはソウルフルな歌い方が合わなくて。そういう自分とブラックミュージックのちょうどいい接点をすごく探していて、レゲエのインストに歌を乗せてみたら、意外とイケるかもって。そこからレゲエで歌うようになりました。

— レゲエのゆったりしたグルーヴだったら、ディーヴァのように声を張らず、自分らしく気持ち良く歌える、と。そんなasukaさんが歌い始めたきっかけというのは?

asuka:小学校の時に演劇部、その後、中高はミュージカル部、大学でも演劇を専攻して、ミュージカル『キャッツ』でお馴染みの劇作家、T・S・エリオットをテーマに卒論を書いたりしてて、もともとはミュージカルの世界、ブロードウェイに行きたかったんです。でも、例えば、ミュージカル『コーラスライン』のキャスティングではアジアの人たちはルックスの違いで選考で切られたり、そういう厳しい世界だったりするんだろうな、と予想して、わたしは傷つくことをおそれていたし、どうにか競争せずにやっていけたらいいのになと思いつつ、クラブで遊んでいたら、そこにはシンガーが自由に歌う世界があって。自分もクラブで歌えばいいんだって思ったんです。

— 演劇、ミュージカルの世界と夜遊びの世界を行き来していたとはまた極端な話ですね。

asuka:今考えると無駄なことはなかったなって思うんですけど、大学には女子大生っていう格好で行ってた時もあるし、その日にダンスの練習があったら、ジャージで行ってた時もあって、結構しっちゃかめっちゃか(笑)。でも、母からTPOをわきまえるようにと教えられてきたので、当時からその使い分けは楽しくやってましたし、もしかすると、その使い分けは演じるのが好きだったことも関係しているのかもしれないですね。

— ミュージカルから音楽、ヒップホップからレゲエと、やりたいことが明確になっていったわけですね。

asuka:ただ、自分のなかでは、レゲエ・シンガーを名乗るには、現場をボス出来ないとダメだと思っていて。持ち歌もないし、盛り上げる術も持ってない自分がレゲエ・シンガーを名乗っちゃいけないなって思ってた時期が長かったんですけど、渋谷のファイヤー通りにあったレゲエ専門のAQUARIUS RECORDSに通っているうちに、恵比寿のみるくでやってたレゲエのパーティ、『MAD POP REGGAE』に誘ってもらって。そこで初めて、バンドで歌うようになったんです。しかも、ダンスホールだけではなく、ゆったり目のものだったり、ルーツっぽい演奏だったりして、それが面白くて、バンドで歌う機会が増えていきました。

asuka ando 『mellowmoood』
2015年リリースのファーストアルバム。ルーツレゲエの名曲、In-Crowd「BABY MY LOVE」、大貫妙子「くすりをたくさん」、ドラゴンボール・エンディング曲「ロマンティックあげるよ」という広範なカヴァー曲からも柔軟なセンスが感じられる国産ラヴァーズのマスターピース。

— そして、レゲエのなかでもラヴァーズロックがしっくり来た?

asuka:もちろん、ラヴァーズは大好きな音楽なんですけど、メロウな音楽を意識して作っているわけではなく、もともと激しい音楽が好きではなかったり、痛い音も苦手だったり、そういう偏った音の好みもありつつ、自然と出てきたのが私の音楽になってきたのだと思います。そして、色々やった前作『mellowmoood』に対して、今回のアルバム『あまいひとくち』はレゲエのアルバムが出来ちゃったなって思っているんですけど、その一方でレゲエの決まり事を破りたい自分もいて。いいものは取り入れたいからサンプリングもしたいし、カヴァー曲もレゲエ・シンガーが誰も歌っていない曲を取り上げたいと思っていて。今回のアルバムでは、カヴァー曲2曲のうち、マリー・ピエールの”CHOOSE ME”はラヴァーズロックのカヴァーですけど、もう1曲の岡村靖幸”だいすき”もそうですし、ライヴで取り上げるカヴァー曲もいろいろ下調べをして、レゲエでカヴァーされていないことを確認してから取り掛かることにしています。

— asukaさんの場合は、レゲエの魅力を損なうことなく、どこか歌謡曲的な歌詞世界と都会的なポップス感覚が共存していて、その絶妙なさじ加減が他にはない個性になっていますよね。

asuka:そこに気づいてくださって、ホントうれしいです。かつて、私はダブポップバンドがやりたかったんですね。例えば、Bird”桜”のマッド・プロフェッサー・リミックスとかエイドリアン・シャーウッドがプロデュースを手がけたACOさんの『Material』とか、そういう尖ったアーティストの先例はありますけど、ダブとポップスのクロスオーバーはまだまだ少ないと思ってて、自分でもそういう音楽がやりたかったし、今もそのスタンスは変わってなくて。つまり、自分としてはポピュラーミュージックを歌っているけど、演奏しているのは本物のレゲエ・ミュージシャンという在り方ですね。だから、私としてはレゲエ・マナーを前面に打ち出したくないし、普通に楽しんでもらえる音楽であって欲しくて。とはいえ、最近は「ヤーマン」とか言っちゃったりしてますけど(笑)。

asuka ando 『あまいひとくち』
リー・ペリー「5 Cardiff Crescent」に触発された「あまいひとくち」、「Won’t You Come Home」リディムを用いた「あなただって、そうでしょ」など、レゲエの土台は揺るぎなく、そして、ポップスの軽やかさも兼ね備えた2018年の最新作。カジュアルにもディープにも楽しめる大人のレゲエ・アルバムがここに。

— はははは。今回のアルバムだと後半がダブで展開する”アツイヨルノウタ”がasukaさんのいうダブポップに近い楽曲なのかな、と。

asuka:あれはロングのダブミックスをやってもらいたくて、BIM ONE PRODUCTIONのe-muraさんにお願いした曲ですね。前半は私の歌で後半はダブというアレンジ構成は、前作でもBUN BUN the MCをフィーチャーした”Baby My Love”でやっているんですけど、ライヴではなかなか難しいことをああいうディスコ・スタイルでやったのは、ポピュラーミュージックでありたいと言いつつも、レゲエが好きな人にも楽しんでもらいたかったから。そういう意味で私の音楽は欲張りなものでもあるんですけど、色んな側面を盛り込むことで、聴く人それぞれの解釈で楽しんでもらえるんじゃないかなって。

— 90’s R&Bのマナーを織り込んだ”ミス・アプリコット”もまさにそんな曲ですよね。

asuka:作ったのは、前作で”煙の中のマーメイド”や”ロマンティックをあげるよ”を手がけたFRISCOのHatayoungなんですけど、彼はキーボードだけじゃなく、DTMも出来る方で。この曲はレコーディングの終盤までなかなか出来なかったんですけど、今回のアルバムのなかでは一番キャッチーというか、ポップスとしても楽しめる曲になっているんじゃないかな。

— そして、ラヴァーズ・ナンバー”ふゆのおわり”は冬という概念がないジャマイカでは成立しない日本ならではの曲ですよね。

asuka:確かに。まず、プロデューサーであるARIくんに「冬」というお題をもらったことと、昔、Little Creaturesの青柳拓次さんとパードン木村がコラボレーションした『Frozen Hawaii』という最高なアルバムがあって、それを聴いて以来、「ジャマイカに雪が降ったら……」っていう曲をやりたいなと思っていて。そのアイデアを当時、一緒に音楽を作ってた友達に話したら、「ジャマイカに雪なんて降らないよ」って一刀両断されたんですけど(笑)。いや、そういうことじゃないんだけどなって思ったんですが、”ふゆのおわり”には、あのアルバムのイメージがどこか重なっている気がします。

— その解釈しかり、ご自身がレゲエ・アルバムだと形容する今回のアルバムは必ずしも直球なレゲエ・アルバムではないにせよ、変化球がスタンダードになった、そんな作品であるように思いました。

asuka:そうですね。ど直球なレゲエは誰でも出来るじゃないですか。だから、この曲しかり、自分なりに隙間の表現を探しているし、色んな音楽を聴いている人に「にやり」としてもらえるポイントを狙っているんです。でも、イギリスやニュージーランドだったり、世界各国のレゲエは解釈のユニークさが個性になっていると思うし、本場ジャマイカの模倣じゃない日本でレゲエをやっている意味を追求したいと思っています。

— その最たる曲が、岡村靖幸”だいすき”のカヴァーだと思うんですけど、さらに男性が女性に向けて歌ったこの曲を女性のasukaさんが歌っているところも興味深いな、と。

asuka:私は「僕」を主人公にした曲がどうしても照れてしまって書けないので、「僕」を一人称にした男性の歌をカヴァーで取り上げてみました。あと、岡村ちゃんの曲は、子供が聴いちゃいけない、ある種のタブー感がある特異なものだと思うんですよ。そういう子供が聴いちゃいけないような歌に憧れがあって、”今夜がトロピカル”も同じ視点で書いた曲ですね。私が幼稚園に通っていた時、佳山明生(と日野美歌のカヴァーがよく知られる)”氷雨”が流行っていて、それを友達と2人で歌っていたら、母に「そんな曲を歌っちゃダメよ」って言われて、めっちゃドキドキしたんですけど、同じ気持ちを今の子供たちにも味わって欲しいなって(笑)。

— 好きだ嫌いだじゃ片付かない情感豊かな大人のラヴソングは昭和の歌謡曲の大きな特徴ですけど、その影響を強く感じさせるasukaさんの歌詞は大人の切なさがありつつ、ユーモアを交えた筆致には、作家性の高さを感じます。

asuka:ありがとうございます。今回のアルバムでは、そこまで悲しい曲は書かなかったんですけど、私の歌詞で描く切なさは大好きなアンデルセンの『人魚姫』が根底にあって。その影響もあってか、報われないものに美しさを感じていて、それが歌詞に表れていると思います。そのうえで、私の書くラヴソングは友達から聞かせてもらっている数々の恋愛話が元になっているんですけど、もう周りのみんなもそこまで不幸ではなかったりするし(笑)、すごく不幸な曲は昔の中島みゆきさんなどの作品があればいいというか、あまりにヘビーな話になると当事者の気持ちが分からなかったりもしますからね。ただ、最近は周りで浮いた話が少ないので、曲の題材を募集中です(笑)。

— 以前はレゲエ・シンガーと名乗ることに収まりの悪さを感じていたとのことですが、このアルバムが完成した今、その収まりの悪さは少なからず解消されましたか?

asuka:はい。年を重ねるごとにこうじゃなきゃいけないということが少なくなっていくじゃないですか。今はむしろ、こうだと一つに決めないことが格好いい気がしているし、生き様はヒップホップだけど、やってる音楽はレゲエとか、そういう価値観が自分のなかで当たり前になってきているし、レゲエシンガーであることにようやく折り合いがついてきましたね。

— 実際、ここ最近は再びヒップホップをよく聴いているとか。

asuka:そうなんです! Apple Musicのおかげで、今までチェックしきれなかったアーティストがチェック出来るので、マメに聴いてますね。ここ最近だと、SIMI LABのMARIAさんのアルバムもよかったし、ゆるふわギャングも大好きで。あと、PSGだとGAPPERさん派でして、水を飲んだ後みたいな彼の発声が好きです。そうかと思えば、ビート・アルバムも好きで、今回、MAHBIEさんにお願いして、”SPACE BROTHERS”のインストをお借りして、ミックスで使わせてもらったりしてますね。

— そのミックスですが、マニュピレートはかつての後輩、BUSHMINDが手がけていますね。

asuka:BUSHMINDくんと今回初めて一緒に「音楽的作業」をさせていただきましたが、彼との会話の中と、いままでの作品から学ぶことが沢山ありました。彼と会っていなかった20数年の間に、彼にもわたしにも様々な経験があったんだなって。そんなタイミングでご一緒できることに驚きつつも、こころから嬉しい限りです!

— 最後にその内容に関して一言お願いいたします。

asuka:大きく前半と後半で、レゲエの好きなところとヒップホップの好きなところを詰め込みつつ、年末の大掃除のBGMに合いそうな、そんなミックスなっています。ホウキを置いて踊れるし、黙々と拭き掃除するにもぴったりだと思います!

asuka ando ライヴ情報

1月7日 良音祭 京都 MUSE、West Harlem w/ BASI & THE BASIC BAND, PUNCH & MIGHTY, Ricke-G and more
1月13日 福岡 The Dark Room
1月14日 佐賀 King Kitchen
1月15日 福岡 Green Room
1月18日 代官山蔦屋書店(インストアライブ)
1月21日 立川 Cafe Garge w/ LITTLE TEMPO
2月04日 吉祥寺 Warp w/ KARAMUSHI & SUPER FRIENDS
2月7日 横浜 Grass Roots
3月2日 Motion Blue Yokohama

http://www.mellowmoood.com/