Vol.78 VIDEOTAPEMUSIC – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回ご紹介するのは、約2年ぶりとなる新作アルバム『On The Air』を通じ、ビデオテープをサンプリング・ソースとした新感覚のエキゾポップを展開するVIDEOTAPEMUSIC。

ceroや坂本慎太郎、小島麻由美らのミュージックビデオを手がける映像作家でもある彼が映像と音楽を行き来するように、古今東西のビデオテープをサンプリング・ソースに時代や空間を飛び越えて表現する音楽世界は、新作『On The Air』でさらに進化。ムード音楽やラウンジミュージックのマナーでラテンやスウィングジャズなどの要素を織り込んだサウンドスケープは、トークボクサーの鶴岡龍やラッパーのNOPPAL、思い出野郎Aチームのメンバーらによる生演奏に加え、郊外で採音したというフィールド・レコーディングの素材を散りばめることで、見慣れた日常と地続きの異国世界へ聴き手を誘う魅惑の作品となっている。

今回は、初めてDJミックスを制作するという彼がターンテーブル上で紡ぎ出す“『On The Air』の向こう側の世界”をゆったりと堪能しつつ、音の彼方に立ち上るエキゾチックなサウンドスケープをガイドしてもらったインタビューをお楽しみください。なお、DJミックスのマスタリングは、『On The Air』のミックスも手がけた得能直也氏にお願いしました。

Interview & Text : Yu Onoda | Mastering (DJ Mix):Naoya Tokunou | Edit:Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「知らないものをただおもしろがるというより、自分の身の回りから地続きなエキゾチックなものを探したいんですよね」

— アーティスト名にもある通り、VIDEOTAPEMUSICはビデオテープからのサンプリングが作る音楽の個性になっているわけですが、ビデオテープには固有の音の質感があって、音がいいという話もありますよね。

VIDEOTAPEMUSIC(以下、VIDEO):そうですね。マスタリングをする時にわざわざビデオテープを使う人もいますからね。

— ビデオテープというメディア、その音質についてはどう捉えられていますか?

VIDEO:音質や、ビデオテープというメディアの付加価値については、じつは後から付いてきた話なんですよね。最初は、身近にあるものから音楽を作ろうという発想でビデオテープのサンプリングをはじめて、試行錯誤の過程であれこれ考えるようになったんですけど、ビデオテープはレコードとも違う、磁気テープならではの音の粒子だったり、ノイズの入り方があるとは思いますし、たまたま持っているジャマイカのダンスホール・レゲエのVHSはめちゃめちゃ音が太かったりしますね。
ただ、以前のライヴではVHSビデオを使っていたんですけど、機材のトラブルがあまりに多すぎて、今はサンプラーを使っているということもあり、あまり語る資格はないですけどね。

— でも、VIDEOくんはレコードを掘るように、VHSを日常的に掘っているわけですよね?

VIDEO:そうですね。音楽モノに映画、人からもらったホームビデオ、テレビから録画した番組やCM……VHSに記録された、ありとあらゆるものをつねに掘っているし、こういう形態で活動していると、ありがたいことに人からもらう事も多くて、自分の意思を超えて様々なところから集まってくるという。以前だと本秀康さんからいただいたり、HALFBY高橋さんがハワイで買ってきてくれたり。こないだは川辺ヒロシさんから70、80本くらいいただいて、今回のアルバムではそれが活躍しましたね。

VIDEOTAPEMUSIC『ON THE AIR』
エキゾミュージックとしての甘美なエリントン・ジャズやラジオノイズの彼方から現れる、いつかの時代、見知らぬ国の音楽。フィールドレコーディングされた郊外のサウンドスケープとそこに隠された異世界への入り口。作品のあちこちに溶かし込まれた音のアイデアが聴き手の想像力を刺激する最新作。アートワークはミュージックビデオや共作盤でコラボレーションを行っている坂本慎太郎が担当している。

— ただ、針を上げて、サンプリングできそうなポイントを探せるレコードに対して、VHSはスキップできないので、頭から観て、探すしかないですよね?

VIDEO:そうなんですよ。だから、他の作業しながらダラっと流しておいて、気になる音が出てきたらサンプリングする時もあります。あとは勘ですね(笑)。

— あと、VHSはレコード以上に場所を取ると思うんですけど、何本くらいお持ちなんですか?

VIDEO:数えたことがないんですけど、家に収まらなくなったら実家に持っていって、親が困ってるという。クローゼットの中には前から持ってたものも段ボール箱に詰まっていて。なかなか捨てられない性分だったりするんですけど、最近はさすがにデータ化した後で捨てたりもしてますね。
あと、自分が活動を始めたタイミングというのは、ちょうど世の中的にVHSからDVDへの移行期だったんですね。だから、どこのレンタルビデオ屋やリサイクルショップでもVHSがたたき売りされていて、すごくいいものが安く手に入ったんですけど、それから10年くらい経った今、安いものはゴミのように売られているし、DVD化されていなかったりで貴重なものはプレミアがついた状態で価格が固定化されてしまっているので、以前ほどの収穫がなくなったんですよ。そんなこともあって、今回のアルバムではVHSだけじゃない、いろんなソースをもとに作品に作ってみようと思ったんです。

— 時代の変化に呼応して、作品制作のスタイルも変化している、と。

VIDEO:そうですね。前作『世界各国の夜』では生演奏の比重が増えたし、今回はさらにフィールドレコーディングで採取した素材を加えているんです。古い映画を通じて触れた、今まで知らなかった音楽や文化をサンプリングして自分のもとに引き寄せることで、新しい要素を足していこうとしていた以前のやり方の延長として、フィールドレコーディングを捉えて。もともと散歩というか、街を歩くのが好きということもあるんですが。

VIDEOTAPEMUSIC『世界各国の夜』
カクバリズムからの初リリースとなる2015年作。LUVRAW aka 鶴岡龍や思い出野郎Aチーム、漫画家でもある山田参助らをフィーチャーしながら、時空を超えた夜の世界のドラマとダンスミュージックとしてのラテン音楽をテーマに制作された。

VIDEO:そうやって、街歩きのなかで見かけた異国的なもの、たとえば、4曲目の曲名にもなっている「ポンティアナ」というのは、埼玉の国道沿いにある熱帯魚屋の名前なんですけど、その店名を調べたらインドネシアの街の名前であることや、その街に伝わる妖怪のことが出てきたり、その妖怪を題材にしたポンティアナック映画という一大ムーブメントがマレーシアにあることを知ったり。
3曲目の「Ushihama」も、米軍基地がある福生市に実在する牛浜という地名からなんですけど、その周りの風景であったり、映像を通じて出会ったものと並行して、街の風景から出会った知らない文化や過去の出来事とのリンクを作品に落とし込みたくて、街の音をハンディ・レコーダーやビデオカメラを使ったフィールドレコーディングで採音するようになったんです。
ちなみに牛浜の横田基地の祭に行った時は、若い子がドレイクやリアーナの曲をコンポでかけて、歌詞と関係ないことをわーわー喚きながら、踊っているところに遭遇して。それをたまたまビデオで録っていたので、その音声をサンプリングしたりもしましたね。

— サンプリングでは、オリジナルの文脈を剥ぎ取った音の使い方もできますし、その文脈とリンクさせた音の使い方もできますよね。

VIDEO:インタビューでは伝わりやすさを考えて、意味や文脈を含めたサンプリングの話をしてますが、実際には僕はどちらも好きです。自分の作品では文脈を剥ぎ取った音を組み合わせて、別の音を作り上げるおもしろさも追求していますし、音の組み合わせとしてはあり得ないけど、意味や文脈で組みあせて、ストレンジなものを生み出すおもしろさっていうのも同時に追求していますね。ただ、自分の性格的に意味を考えがちではあって、サンプリングする時にあれこれ考えることは多いかもしれないですね。

— たとえば、ヴェイパーウェイヴにおけるサンプリングは意味性を剥ぎ取りながら、消費社会に対するシニカルなスタンスをにじませていますけど、VIDEOくんのサンプリングは何かと何かを接続していて、シニカルさは希薄だと思うんですよ。

VIDEO:そうですね。自分の音楽はヴェイパーウェイヴっぽいと言われることも多いんですけど、好き嫌いということではなく、自分としては違うのになって思っているんですけどね。

VIDEOTAPEMUSIC 『7泊8日』
ceroの高城晶平と橋本翼、Kashif、MC.sirafuらが参加。ビデオの旧作レンタルとリゾート逃避行のダブルミーニングである“7泊8日”をテーマに、サンプル・オリエンテッドな世界が広がる2012年作。

— サンプリングをベースにしたエキゾチカというのは、エスケーピズムを箱庭的な世界に投影した作品が多いと思うんですけど、この作品におけるフィールドレコーディングは現実世界との接点として機能していますよね。

VIDEO:そうですね。自分としては、知らないものをただおもしろがるというより、自分の身の回りから地続きなエキゾチックなものを探したいんですよね。たとえば、自分が住んでいる街の日常的な風景も別の人にとってはエキゾチックな、異国的なものだと思うし、最近渋谷を歩いていても、多く見かける外国人観光客にとっては、よく分からないアジアの異国に見えているんだろうなって思うんですよね。そういう意味で自分が住んでいる街も改めて捉え直してみれば、エキゾチック化するわけで……身近なアーティストだと、たぶんceroもそういうことを意識している部分はあると思うのですが、今回のアルバムではそういう感覚がより強調されてきている気がしますね。

— つまり、異国への入り口は日常のあちこちにあるということですよね。VIDEOくんは映像作家でもあるわけで、音楽をミュージックビデオに変換する際、日常の風景からおもしろい風景を切り取る個性的な視点が問われるが多いと思うんですけど、その意味において、VIDEOくんの音楽制作と映像制作は共通するものが大いにありそうですね。

VIDEO:だから、自分にとって当たり前に感じる生活圏の音をフィールドレコーディングしてみると、違う文化圏の人や何十年後の人がそれを聴いたら、その人にとっては思いもよらないエキゾチックなものになりえるんじゃないかなって。そういう話だと、僕はここ最近は、デューク・エリントンの音楽をよく聴いているんですけど、エキゾチカの元祖と呼ばれているマーティン・デニーの登場以前、コットンクラブで白人相手に黒人だけのビッグバンドでジャングルミュージックと呼ばれる音楽、そこには人種差別的な話も絡んできてしまうとも思うんですけど、自分たちが黒人であることを誇張した音楽をエキゾチックなものとして演奏していたんですね。

— エリントン作のジャズ・スタンダード「Caravan」を引用した5曲目の「密林の悪魔」は、まさにそのエリントンへのオマージュですよね。

VIDEO:だから、今回の作品の根底にはデューク・エリントンの事もテーマとしてあって、僕は僕なりに街を歩いて、フィールドレコーディングしながら、自分が住んでいる風景を違う文化圏の人が見た時、どうエキゾチックに感じるのかということを考えましたね。

— マリー・シェーファーが提唱したサウンドスケープ=音の風景という考え方は、80年代以降、環境音楽の盛り上がりとともに研究が進んで、『波の記譜法』であったり、近年、音楽家としても再評価されている吉村弘さんの『都市の音』といった専門書が刊行されていて、文化や生活圏と聞こえる音の周波数帯の違いを解析していたり、掘り下げていくとおもしろいんですよね。

VIDEO:ああ。たとえば、国道沿いでフィールドレコーディングしていると、奥の方から車のエンジン音が低音として薄く入るんですけど、今回の曲にはそういう音を聞こえるか聞こえないかのレベルで入れたりもしているし、今回は夏に録っていたんですけど、フィールドレコーディングした素材の後ろにセミの鳴き声が入ってて、その時にはあまりに当たり前すぎて気づかなかったけど、ちょっと間を置くだけで、急に気になるようになったり。この作品では、そういう音を加えたら、どうなるんだろうっていう、そういう地味な実験もしていたりしますね。

— そういうフィールドレコーディングの音は、録音した人からすれば、何の音か分かると思うんですけど、聴く人にとっては説明がなければ、何の音か分からないことも多いですし、その得体の知れないノイズがまた想像を刺激するという。

VIDEO:なにかの気配が感じられれば、それはそれでいいと思うんですよ。あまりに説明的になってしまうと、サウンドアートになってしまうので、あくまで普通に気持ちよく聴ける音楽のなかに気配だけを忍び込ませていて。今回の『ON THE AIR』というアルバムタイトルでは、その見えない、得体が知れないおもしろさを表してもいるんですけどね。

坂本慎太郎×VIDEOTAPEMUSIC『A Night in Bangkok』
映画『バンコクナイツ』のトリビュート作品として発表された2016年作のヴァイナル限定盤。EM RECORDSのタイ音楽アーカイブ音源をサンプリングし、レゲエやラテン、エレクトロと接続することで、いい湯加減が持続するサイケデリックな1枚だ。

— アルバム・タイトルからラジオを思い起こす人も多いと思うんですけど、ラジオというメディアについてはどう思われますか?

VIDEO:あたりまえのように享受しているけど、よくよく考えると、空気中に電波となって漂っている音をアンテナで受信して聴くラジオの仕組み自体が、おもしろいというかロマンチックだし、今回のアルバムで考えていたこととも繋がるかなって。まぁ、ラジオは子供の頃から好きで、当時、音楽を聴くといったら、ラジオだったので、その頃のことを思い出したりもするし、その頃のラジオは局を探す時にアナログ・シンセのような音がしたじゃないですか? でも、今のラジオは性能がいいから、ラジオ局を探すのもデジタル表記でぴたっと合うし、それ以外の周波数ではノイズがなかったりする。だから、昔と今とではラジオの捉え方が変わってしまっているんじゃないかなって。

— radikoの登場以降、日本ではラジオ文化が復活してますけど、かつての趣がなくなってしまいましたよね。

VIDEO:そうですよね。チューニングが合った時、ノイズの奥から音楽が聞こえてくる感覚は失われてしまいましたよね。別に昔のものがいいと言いたいわけではなく、それはそれでおもしろかったというか、自分なりの音楽にまつわるロマンがそこにはあったと思っているので、ノイズのなかから音楽が聞こえてくるというような、そういう感覚を作品にも反映出来たらいいなって思ったんですよね。

— ラジオもそうですし、VIDEOくんの作品に含まれているジャズやラテン、エキゾチカの要素もノスタルジックなものとして安易に結びつけられがちですけど、以前、インタビューしたMockyが「フランク・シナトラがレコーディングで使っていた、ノイマンのコンデンサーマイクは当時としてはかなり画期的な機材で、彼の音楽は当時最先端のテクノだった」と語っていて、捉え方を変えれば、昔の音楽も新しいものとして聴けますよね。

VIDEO:それはそうですよね。1930年代にアメリカに入ってきたラテン音楽も当時最新のダンスミュージックで、ソン、ルンバ、マンボ、チャチャというような新しいリズムが次から次に生まれて。今みんなが夢中になっているダンスミュージックと考え方は同じですし、スウィングジャズも当時の不良のダンスミュージックなんですよね。ナチス政権下のドイツを舞台にした『スウィング・キッズ』っていう映画があって、ダンスホールで踊っているとナチスが入ってきてみんな捕まっちゃうんですけど、スウィングジャズはそれに反抗して、隠れて踊る音楽として描かれているんですよね。

— 映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』のN.W.A.みたいなことですよね。

VIDEO:でも、今はスウィングジャズというと、もうちょっと上品な音楽みたいな捉え方だったりするじゃないですか。でもそうじゃない捉え方もあったりはするし、なにより自分はスウィングジャズやラテン音楽が流行っていた時代を経験しているわけではないから、懐かしいということではないし、むしろ、自分としてはフレッシュなものとして感じたいと思っているんですけどね。

— 一方でダンス音楽としてのVIDEOTAPEMUSICは、現行のビートを巧妙に避けていますよね。

VIDEO:好きは好きですし、クラブでライヴをやることもあったりはするんですけど、自分がやるとしたら、そこから逸れたものを作りたいという気持ちもあるし、自分は一人で音楽を聴くことが多いので、強いビートや跳ねたリズムは落ち着かないということもあったりはします(笑)。あと、今回のアルバムでは1曲だけNOPPALにラップしてもらった「Her Favorite Moments」という曲があって、その曲はダンスミュージックではあるんですけど、先ほど話した福生の米軍基地の路上でドレイクやリアーナがかかっていたのがすごく良くて、クラブのような密室じゃなく、自分の知ってる風景で鳴ってる感じがぐっときたんですね。

— 「Her Favorite Moments」もいってみれば、ブロックパーティを思わせるオールドスクールなラップチューンだ、と。

VIDEO:ブロックパーティを、景色のなかでダンスミュージックが鳴っている状態として捉えれば、フィールドレコーディングの延長としてアプローチできるんですよね。ただ、これは性格的なものが大きいのかもしれないですが、リズムが跳ねたり、グルーヴしすぎちゃうと照れが生まれるので、この曲はうまく着地させるのに苦労しました。

NOPPAL『SUMMER EP 2015』
富山出身の女性MC、NOPPAL初のフィジカル作。SoundCloudにアップされるビートジャック曲で頭角を現し、LUVRAWこと鶴岡龍率いるレーベル、IMAGE CLUVよりデビューを果たした。VIDEOTAPEMUSICは「Lazy Sun Day」のトラックを提供している。

— ちなみに福生の街は、VIDEOくんの地元なんですか?

VIDEO:隣町ですね。物心ついた頃、福生っていう街があることを知って、遊びに行くというか、景色を見によく行ったりしていました。僕の実家から見た西側が福生なんですけど、基地の明かりでずっと西の空が赤いんですよね。それがすごい不思議で、子供の頃、あっちには得体の知れないなにかがあるというか、魔界の入り口があるように思ったんです。その後、どうやら基地の街らしいということを知ったし、基地の街の歴史や文化、出来事や事件があることを学んだんですよ。

— ザ・ゴールデン・カップスの映画『ワンモアタイム』では横浜の「フェンス越しのアメリカ」が描かれていましたけど、福生の街もそういうことですよね。

VIDEO:だから、自分の身近、歩いて行ける距離に自分の知らない異文化が存在しているということが子供心におもしろいと感じたし、当時感じた違和感を、良くも悪くもそのまま音楽的な好奇心に置き換えてやっているということもあったりはしますね。

— つまり、エキゾチックな音楽の原点ということですよね。

VIDEO:そういうことに意識的になったのは、クレイジーケンバンドがきっかけだったりもして。あのバンドの作品は、(横山)剣さんが住んでいる横浜にある異文化や、エキゾチックなものを独自のフィルター越しに表現したものだと思うんですけど、横浜ほど派手なトピックはないにせよ、自分が住んでいる街からエキゾチックなものを抽出して表現しているのは、クレイジーケンバンドに触発された部分は少なからずありますね。

— そして時を経て、VIDEOくんがクレイジーケンバンドの映像作品『20/20 Video Attack! Live at 神戸 CRAZY KEN BAND TOUR 香港的士 2016』に映像制作で関わっているわけですもんね。

VIDEO:そうなんですよ。クレイジーケンバンドの仕事と今回のアルバム制作を並行して進めていたので、今まで以上にこれまでクレイジー・ケン・バンドから触発されてきたものが自分の作品に浸食している気はしますね。

CRAZY KEN BAND『20/20 Video Attack! Live at 神戸 CRAZY KEN BAND TOUR 香港的士 2016』
今年結成20周年を迎えたCKBが昨年行ったライヴを収録した映像作品。VIDEOTAPEMUSICは、過去20年分の映像を駆使した2本のミュージックビデオと映像ジングルの制作を担当している。

— さらに、基地の街、福生の隣町出身ということは、郊外育ちということでもあるわけですよね。

VIDEO:郊外であって、ロードサイド、車移動の文化ですよね。日本もその大半は郊外なので、そういうことを描いた小説や映画はいくつかあったりもしますし、いくつかの好きなアーティストやヒップホップの作品では、郊外の車移動中心の身体感覚を感じるものは多いですが、もっと広い範囲の音楽の中では自分の思うその郊外の感覚が描かれることは少ないと思っていて。だからこの作品では、エキゾチックでありながら、郊外の景色も反映したものにしたいと意識しましたね。アルバムでインタールード的に入ってる「モータープール」は、ロードサイド文化の原風景を単純に音に変換してみました。

— VIDEOくんの地元がどこかは知らなかったんですけど、作品にそこはかとない郊外の空気が感じられたんですよね。

VIDEO:そう思ってもらえるとすごくうれしいです。今までのアルバムもそれはそれで気に入っているんですけど、自分の作品を聴きながら、馴染みの風景を車で走ってても、部屋で作った作品ということもあってか、どこか馴染まなくて。だから、今回は自分の原風景に馴染む作品を作りたいと思ったんですよね。渋谷とか世田谷あたりにいると感覚が狂っちゃうんですけど、日本の大半が郊外だったりするし、たまに実家に帰ると、電車で1時間くらいの距離なのに、その落差にびっくりするんですよ。

— 郊外の文化に意識的になったきっかけというのは?

VIDEO:以前、クラシックバレエのビデオ撮影の仕事をしていて、その時は毎週、全国各地の郊外にある市民文化会館でやってるクラシックバレエの教室で撮影しては、郊外のビジネスホテルに一人で泊まって車で帰ってくるという生活だったんですけど、ライヴで回るような主要都市じゃない、あちこちの郊外に行くなかで感じたことを曲にしたかったんですね。それがここに来て、ようやく形になりはじめました。

VIDEO:今は音楽に集中していて、その仕事はやっていないんですけど、そういう郊外の景色を見ないと、日本の今の景色を感じられない気がして、時間ができると、ひとり観光地でもない郊外へ車で行くんです。リサイクルショップに行ったり、ミュージックビデオのロケハンだったり、いろいろ兼ねてはいるんですけど、郊外の風景はつねに見ているし、それを前面に押し出すつもりはないものの、そういう感覚をどこかで反映した作品を作りたいなと思っていて。それが身近な景色をエキゾに捉える延長だったりするんですよね。

— 今回の作品は、サウンド面において、VHSからのサンプリングがあり、生楽器があり、フィールドレコーディングの素材があり、それぞれ質感の異なる要素をひとつにまとめるにあたっては、ミックスを得能直也くん、マスタリングをクラブ畑出身でシャーデーからFKAツイッグス、DJハーヴィーまで幅広く手がけているロンドンのメトロポリススタジオのジョン・デイヴィスさんが担当されていますが、どんな仕上がりをイメージされたんですか?

VIDEO:得能さんに作品の細かいコンセプトは話さなかったんですけど、メールでやり取りしつつ、うちに泊まりにきたこともあったし、参考音源を送り合ったりもして、サウンドの面ではだいぶ親密に進められましたね。自分ひとりだとまとまりきらない部分を、得能さんの耳で気持ちよく聴きやすく仕上げてもらいましたね。ジョン・デイヴィスさんは得能さんのアイデアだったんですけど、僕は高音を強くするのが苦手で、そうするとレンジが狭いものになってしまうんですけど、今回は低音の幅を広げることで、ハイがなくても、音が広く感じられるものにしたくて。それを得能さんに相談したら、ジョン・デイヴィスさんにお願いしたら、その感じが出せるんじゃないかという話になり、マスタリング後はいい意味で沼のように、ずぶずぶな音像になったんじゃないかなと思います。

— 最後に得能さんがマスタリングを施してくれたVIDEOくんのDJミックスについて一言お願いします。

VIDEO:ミックスを作ったのは、今回が初めてなんですけど、実際の元ネタというわけではなく、今回のアルバムの音楽性に近い曲を選びつつ、ゆったりと聴けるもの。なおかつ、アルバムでも使ったフィールドレコーディングの素材も使ったりしていて、アルバムのアザー・サイドとして楽しんでもらえたらうれしいですね。