Vol.75 Alfred Beach Sandal + STUTS – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回ご紹介するのは、今夏のサウンドトラックの決定版とも評されている初のEP『ABS+STUTS』をリリースしたばかりのAlfred Beach Sandal + STUTS。

2015年に「Fugue State feat. 5lack」を収録した最新アルバム『Unknown Moments」をリリース。ロックやラテン、ブラックミュージック、辺境音楽など、多彩な音楽要素をコラージュするように編み上げるフリーフォームな作風が高く評価された北里彰久のソロプロジェクトであるAlfred Beach Sandal。そして、2016年のアンセムとなった「夜を使いはたして feat. PUNPEE」を収録したデビューアルバム『Pushin'』で一躍注目を集めたビートメイカー、STUTS。異なるフィールドで活躍する2人がお互いの作品での共演を経て、さらなるコラボレーションを行った『ABS+STUTS』では、ceroの荒内佑、mitsumeのnakayaan、思い出野郎Aチーム、大比良瑞希をフィーチャー。生音のサンプリングを散りばめたSTUTSのメロウなトラックと高音の抜けが心地いいAlfred Beach Sandalのヴォーカルとスムースなメロディが魔法のような化学反応を生み出している。

今回はそのスムースかつメロウなタッチの源泉を探るべく、Alfred Beach Sandal + STUTSの2人にインタビューを敢行。DJミックスは、昨年好評を得たSTUTSに続き、今回はAlfred Beach Sandalに制作を依頼した。2つのミックスを併せて聴くことで、彼らの個性、その共通点と相違点を踏まえて、『ABS+STUTS』をお楽しみいただけるはずだ。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo:Takuya Murata

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「この2人でやればいい感じの曲ができるでしょ」っていう、それに尽きちゃうんですよね(Alfred Beach Sandal)

— 今回のEPは「移動」やメロウな「トリップ感」がテーマだったとか?

STUTS:テーマを決めて作りはじめたわけじゃなかったんですけど、完成したら、そういう感じの内容になっていたという。

Alfred Beach Sandal(以下ABS):ラップの場合は己について歌うと思うんですけど、俺の場合は歌だし、意図せず、自然とそういう作品になったんじゃないかなって。

Alfred Beach Sandal+STUTS『ABS+STUTS』
ビートと歌というフォーマットを超越したオーガニックかつメロウなグルーヴがSTUTSのビート主体の前半からAlfred Beach Sandalの歌心が際立った後半へと緩やかな流れを生み出す奇跡的なコラボ作。

— 他方でAlfred Beach Sandal単独の作品は、エキゾチズムやエスケーピズムが描かれていることが多いですよね。

ABS:まぁ、そうですね。ただ、自分一人で曲を作っている時とSTUTSと曲を作っている時の大きな違いは、STUTSの表現が外側に向けられているのに対して、俺は内向きだったりするので、その2つが合わさった時、いつものようなシュールな言葉が曲として成り立たないんですよ。だから、今回のEPではそういう言葉をあまり使っていないんじゃないかなって。

— つまり、ポップス的な、普遍的な歌詞世界になっている、と。

ABS:まぁ、最近の自分のモードも関係しているとは思うんですけど、それはSTUTSとの曲作りで生じた変化だと思います。

— では、STUTSくんから見て、Alfred Beach Sandalとの曲作りから引き出された新たな一面はいかがでしょう?

STUTS:ビーサンさんとやったことでトリップ感はより強く出たのかなって思います。自分一人だとエモーショナルなベクトルに向かうことが多いんですけど、今回はそこまで自分が全面に出てないのかなって。

— あえて言葉にするなら、このEPは2人の明確な意図を介在させない、自然な佇まいの作品ということになるんでしょうか?

ABS:STUTSはどうか分からないですけど、自分はそんな感じでしたね。こちらから「こういう曲にしたい」っていう要望を強く言うこともできたんですけど、それだと一緒にやる意味はないし、お互いの持っているものが自然に出た方が、結果的にいいものができるんじゃないかなって思ったんですよね。

— 一音一音積み上げ、作り込んで曲を完成させるビートメイカーにとって、今回のようにゆるく自然発生的な曲作りというのは、そうそうあることではないような。

STUTS:たしかに最初の段階は自然に作っていく感じなんですけど、完成させるにあたって、作り込んでいく作業ももちろん必要だったりはするんですけどね。

ABS:そして、作り込む作業に集中するSTUTSを、あまりに没頭しすぎないように、俺が「OK、OK」って感じでいなす段階もあったりはするんですけど(笑)、2人での曲作りでは、それぞれの持ち場がはっきりしていて、自分の担当である歌とメロディライン、歌詞にSTUTSがタッチすることはほとんどないし、意見交換はあっても、ぶつかることはほとんどないんですよね。

Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』
STUTSがプロデュースを手掛けた「Town Meeting」や5lack参加曲「Fugue State」を収録した2015年リリースの傑作サードアルバム。トリオ編成のバンドを起点に、逸脱や脱線を繰り返しながら、まだ見ぬ素晴らしき音楽風景を目指して奇想天外な脳内旅行が展開される。

— ただ、この作品の素晴らしさは、役割分担はあったにせよ、トラックとそこに乗る歌の単純な足し算では成立しえない、2人の音楽世界の一体感にあると思うんですよ。

ABS:トラックに歌を乗せて、それだけでいい曲が生まれることも多々あると思うんですけど、歌には構成が必要なので、2人の間でその調整が必要になってきたりもするし、STUTSとの作業は後者でしたね。単純な足し算ではなく、もうちょっと有機的な感じで一緒に作っている感覚が強かったです。

STUTS:あと、ビーサンさんとは、いいと思う音楽の価値観が近いのか、説明しなくても思い描く曲のゴールが共有できていて、やりとりがスムーズだったんですよね。

ABS:他の取材では、そのスムーズなやりとりに関してなんとも言葉にできなくて、「グルーヴが合ってるから」っていう説明でひたすら押し通しちゃったんですけど(笑)。

STUTS:僕からすると、2人の間で“気持ちいいグルーヴ”が共通しているのはたしかなんですけどね。

ABS:まぁね。バンドやってても、そのグルーヴが合致しない人と演奏するのは大変だったりしますからね。それが合う合わないというのは、体の感覚のちょっとしたタイミングとか感知する曲の温度感とか、いろんなことが関係していると思うんですけど、STUTSとはその点を共有できたのが一番大きかったのかな。そもそも、他に何か強い目的意識があって組んだユニットという感じではなかったですからね(笑)。

— たしかにいい意味で、この2人から壮大な野望や野心はまったく感じられないですもんね。

ABS:はははは。だから「この2人でやればいい感じの曲ができるでしょ」っていう、それに尽きちゃうんですよね。ただまぁ、お互い畑違いなところで活動しているから、毎回取材では「なんで一緒にやるんですか?」って聞かれるんですけど、それぞれ何かを背負って音楽をやってるわけじゃないですから、かっこいいことが言えないっていう(笑)。

— 逆に、2人の違いに関してはどうですか? 根本的なところでいうと、STUTSは理系、Alfred Beach Sandalは文系だったりして、それが発想や捉え方の違いに繋がっているような気もするんですが。

ABS:そうですね。グルーヴは合っているけど、それ以外の違いを感じることは多々あって。STUTSは感情のグラデーション、喜怒哀楽の間にある、感情の微妙なニュアンスがサウンドのなかにある人だなって。それをあらわすために、こだわってトラックを作り込むんだと思うんですよ。

STUTS:あぁ。0.01秒ずらすような作業を延々とやってたりとか、そういうこだわりはたしかに理系っぽいのかも。

ABS:ミュージシャンそれぞれにこだわりはあると思うんですけどね。でもSTUTSのように、そういう微細なレベルまで顕微鏡で拡大するように作業し続けている人で、他にはなかなかいないなって思いますね。トラックメイカーにはキックでバーンとか、スネアでバーンとか、もっとデカい部分での質感で勝負している人もいますけど、STUTSはもっといろんな音を入れるし、その微妙な色味にこだわり続けているところが他にはない個性になっているんじゃない?

STUTS:僕から見たビーサンさんも言葉だったり、歌へのこだわりは自分にはできないなって思うんですよね。

STUTS『Pushin’』
2016年発表のデビューアルバム。Alfred Beach Sandalをフィーチャーした「Sail Away」やPUNPEEを迎えた「夜を使いはたして」ほか、JJJ、KID FRESINO、Campanellaといったラッパーとの熱いコラボ曲を収録。サンプリング精神と溢れるポップセンスが絶妙なバランスで同居した1枚だ。

— 今回の作品の耳触りのスムーズさは、言葉のチョイスや歌い方の繊細なニュアンスに負うところも大きそうですよね。

ABS:自分なりのメソッドがあるわけではないんですけど、たしかにその点はこだわっていて。言葉のなかにはリズムやメロディがあるし、それをどう扱うか、その乗せるタイミング、発声やマイクとの距離とか。そういう細かい積み重ねによって最終的な聞こえ方が全然変わってくるので、その作業は家で一人延々とやってるし、そういう神経質な作業はお互い立ち入らず、それぞれに任せた方が上手くいくんですよ。

STUTS:ヴォーカルに関していうと、最初に録ったテイクがいいとか、ビーサンさんの家で録ったテイクがいい感じだったり、今回の作業を通じて、コンディションによって、歌は大きく変わるんだなって、実感しましたね。

ABS:他の人はどうか分からないんですけど、俺の場合、できるだけ人がいない環境で録った方がいいものが録れるんですよ。だから、歌を録る時、ホントは誰もいて欲しくないっていう(笑)。あと、誰かと会話するとダメなんですよ。会話した後に録ると歌も会話みたいに、よそ行きの声に変わってしまうので、誰かを意識していない状態で歌そのものを録りたいなって。ディアンジェロもヴォーカル録りの時、スタジオ内にテントを立てるらしいですからね。その気持ちはよく分かりますよ。人がいると、ちょっとした歌のタイミングもすごく変わっちゃいますからね。聴いてる人にとっては分からない程度の、ホントにちょっとした違いなんでしょうけど、やってる本人としては、そういう細かい部分がどうしても気になってしまうっていう。

— あと、今回のEPは夏に聴かれることが念頭にある作品だと思うんですけど、夏を満喫しきった世界ではなく、歌詞には切なさや後ろめたさも含まれていますよね。

ABS:それは自分の性格がそうさせているんだと思います(笑)。そんなハッピー一辺倒では終わらないというか、終われないっていう。じつはデモ制作の段階で、4つ打ちのディスコトラックもあって、この2人からそういう曲が生まれるとは誰も想像してないだろうし、「いいんじゃない?」って自ら言ったものの、あまりに歌詞が思い付かなくて、結局、ギブアップしたんですよ。

STUTS:BPM120とか、ものすごいアッパーな曲でしたよね?

ABS:そうそう。だから、コード進行をもうちょっと渋い感じにしてくれないかとか、そういう試行錯誤はしたんですけど、結局、無理だったなー(笑)。4つ打ちは自分にとって鬼門ですね。

— STUTS主導の前半3曲を経て、Alfred Beach Sandal主導の後半3曲、特に「Quiet Blue」と「A Song of Last Things」はBPM120のアッパーなダンストラックとは真逆の、夢っぽい幻想小説的な世界観ですもんね。

ABS:その辺が普段の自分に近い世界観だなって思いますね。

STUTS:ビーサンさんの歌詞は情景が浮かびやすいですし、特に「Quiet Blue」は自分の内面を旅しているような、真っ暗闇で聴いているとどんどん引き込まれていくような感覚があったり、ふとした時に歌詞のフレーズを思い出したりもしますし、すっと入ってくるのに印象が強い言葉が多いのかなって。

ABS:そうやって褒めてくれるととても嬉しいですね(笑)。

— 個人的にAlfred Beach Sandalが愛読書を紹介しているホンシェルジュの連載が大好きで、そこでは南米のマジックリアリズム文学から携帯小説、ハードコアな哲学書までのあり得ない幅で書籍が取り上げられていて、この人の頭の中はどうなってるんだろう?と思っていて。

ABS:本や音楽問わず、10代の頃から脳がパカーンと開いたり、広がる感じが自分にとっては快感だったりして。

— ただ、自分で音楽を作ったり、歌詞を書く際にいかにして、そういう瞬間を作り出すのか。自分で生み出すもので自ら脳がパカーンとなる作品というのは難易度が高そうですよね。

ABS:計算して、それをやろうとしてもダメじゃないですか。それはただのエゴなんで。そうじゃなくて自分の気持ちに素直に、自分は自分にしかなれないっていうフィーリングで普通に音楽をやることで、脳がパカーンとなる音楽に……なったらいいなって感じなんですよね。

— キャプテン・ビーフハートにサン・ラ、カエターノ・ヴェローゾ、モノ・フォンタナといった妖精みたいな人たちが作る音楽に触れてきたビーサンの日常が、その作品にナチュラルなねじれを生み出している、と。

ABS:妖精っぽい人を見かけると「うわー、この人すげーおもしろい!仲良くなりたい!」って感じで、なんかうれしくなっちゃうんですよ(笑)。まぁ、俺から見ると、STUTSはまさにそういう人間なんですけどね。

STUTS:え、マジですか。僕もそういう人に憧れを持っているんですけど。

ABS:いや、みんなそう思ってるんだよ。でも、そのナチュラルなねじれこそが、音楽では強みだったりするし。

STUTS:恐らく、そのねじれは自分では絶対分からないところなんでしょうね。

ABS:そう、自分では自分のことは分からないんだよ。でも、例えば、STUTSは「悔しいなぁ」って、よく言うでしょ。

STUTS:たしかにそうかもしれません。

ABS:そういう悔しさがSTUTSのエモーショナルな部分の原動力だったりするんだと思うし。

Mono Fontana『 Ciruelo』
アルゼンチン音響音楽の名作にして、Alfred Beach Sandalが愛する妖精音楽の決定盤といえる1998年作。パーカッション、チェロを交えた3人編成で紡ぎ出されるシンセサイザー奏者の奇跡的な世界はフィールド録音された様々なSEを溶かし込み、夢のような心象風景を映し出す。

— Alfred Beach Sandalの音楽の原動力は?

ABS:世の中に対する不満は……だいぶあるかもしれないですね(笑)。すごく些細なことですけど、生まれ育った静岡から東京に引っ越した時、都会のノリに全然付いていけなくて「あーなんかつまんないな」みたいな、そういう思いがなかったら、音楽をやってなかったんじゃないかなって思ったりもしますし、「なんか面白くない」って思いは常にあって。それはつまり、自由にやらせて欲しい、自由に生きたいっていうことであって、世の中もそうであったらいいのになって思うんですよ。法律も何もない、完全に自由な状態はあり得ないとしても、個人が個人として生きられないような社会や日常に疑問はあって。

— それが妖精音楽の自由な佇まいに惹かれるところでもある、と。2人ともこうして、質問に対しさらっと答えてくれるんですけど、他の人と異なる部分を真っ先に口にするタイプではないし、それでいて、奥に秘めたエモさが作品に反映されているような気がします。

ABS:まぁ、2人ともそういう性格なんですよ。言葉にして分からせてやる、みたいなことより、この先も音楽で、作品で自分たちの思いを体現したいですね。

— では、最後にAlfred Beach Sandalに無理を言って依頼させてもらったDJミックスについて、一言お願いします。

ABS:慣れてなくてヒーコラでしたけど。こんな音楽聴いてるんだなー、みたいにゆるっと楽しんでもらえたら嬉しいっす。