Vol.74 tofubeats – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasterdがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Masterd Mix Archives」。メディア立ち上げを記念した特別企画としてご紹介するのは、5月24日に新作アルバム『FANTASY CLUB』をリリースしたtofubeatsと、盟友のDJ NAGASHIMA。

新作アルバム『FANTSY CLUB』では、客観的な視点のもと、最大公約数のポップミュージックへ歩み寄り続けていた以前までの流れを反転させ、主観的かつパーソナルな表現世界を模索。さらにビッグネームを多数起用していたフィーチャリング・ゲストも、今回はラッパーのYOUNG JUJUと女性アーティストのsugar meこと寺岡歩美という2組のみで、tofubeats自身の歌とラップの比重を高め、サウンド面においても、多幸感と共に開かれた作風はエモーショナルな抑揚を利かせた内省的なアプローチへとシフトチェンジしている。

はたして、この変化は何を意味するのだろうか? tofubeatsの紹介で依頼した謎のDJ、NAGASHIMAによるミックスをサウンドトラックに、新作アルバムの理解を深める手がかりをインタビューから読み取っていただければ幸いだ。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo:Takuya Murata

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

歌が上手くなりたいとは思ってないけど、曲は人に聴いて欲しいという矛盾。それについてどう思う?という自分やリスナーに対する問いかけでもあるんですね

— 今回の新作アルバム『FANTASY CLUB』は、これまでの流れとは異なる作品ということもあり、過去3作を振り返っていただけますか?

tofubeats:インディーズで出した一番最初のアルバム『Lost Decade』は、卒業制作みたいな感じの作品ですね。それ以前にもアルバムっぽい作品はネットでリリースしていたんですけど、このアルバムはCDでリリースすることを意識した最初の作品、つまり、品番が付けられて流通して、不特定多数に届く可能性があることを念頭に置いたものですね。その次の『First Album』は、メジャーデビューを経て『Lost Decade』をアップデートしながら、いろんな人に自分の音楽が伝わるようにできないかという試み。そして2015年の『POSITIVE』は無駄を省いて、人に伝わりやすい部分を強調していった作品ですね。だから、これまでの流れというのは、トライ&エラーによってバランスを調整しながら、自分の音楽をポップな方向に絞り込んで、いろんな人に届けようと試行錯誤した軌跡ですね。

— 『POSITIVE』以降、今回のアルバム完成までの1年4ヵ月は以前と比較すると、アーティストのプロデュースやリミックスを控えていた印象があるんですけど、ご自身にとってはどんな期間でしたか?

tofubeats:『POSITIVE』をリリースした後、私事ではあるんですけど、レーベルの契約更新でちょっとした一区切りがあり、新たな契約期間がはじまって新しいアルバムの制作へ向かっていく際に、『Lost Decade』をJ-POPに寄せていったこれまでの流れを続けていくのは、一度考え直そうと思ったんです。それと同時にアニメや広告の仕事だったり、これまで訓練してきた成果が出せる仕事をいっぱいいただける機会があったので、そっちに集中していた時期もあって。それが終わってアルバムのことを考えた時、『Lost Decade』を出す前の自分を見つめ直してみたんです。つまり、もともと自分が持っていて、メジャーではまだ出していなかった要素を形にしたらおもしろいんじゃないかという発想が、今回の『FANTASY CLUB』の発端になったんですよ。

tofubeats『FANTASY CLUB』
1年4ヵ月ぶりの新作アルバム。トピック満載の歌詞にどうしても意識が向かいがちだが、作品を流れるゆるやかなうねりのなかで、R&B、トラップからベースミュージック、ハウスミュージックまで、そのグラデーションの絶妙なタッチやどこかメランコリックな響きなど、サウンド面の充実も特筆すべき作品だ。

— 分かりやすく言うなら、パーソナルで主観的な作風ということですよね。

tofubeats:色々勉強して、ポップスと呼ばれる音楽にトライしてみて、「よう分からん」という心境に至ったということも大きくて。去年起きたピコ太郎の現象を端から見ていてもそう。よく分からないんですよ。ポップスというのは、ちゃんとやってたら、どこかで引っかかるかもしれないっていう音楽であって、そこでは技術も必要とはされているけど、最後は運だったり、音楽以外の別の力学が関係しているのかもしれないと思って。それなら、分かりやすく即効性のある音楽じゃなくても、イケるんじゃないか、と。そこで想定したのは、孤独感ということでなく、部屋で一人で聴く作品、「分からない」ということにちゃんと向き合った作品だったんです。実際、今回は「SHOPPINGMALL」をはじめとして、歌詞でも「分かんないんだよね」ってことを繰り返し言ってると思うんですけど、それをどうでもいい“歌詞のノリ”でなんとなくやり過ごすんじゃなく、分からないということにちゃんと向き合ったら、今の時代の音楽らしく響くんじゃないかなって。

— というと?

tofubeats:例えば、Instagramだったり、音楽を無線で飛ばして聴くような風潮を揶揄して「世の中が軽薄化してる」なんてみんな言ったりしますけど、自分もInstagramをやってたり、MP3で音楽を聴いたり、人のことは言えないんですよね。でも、そういう矛盾はみんなが抱えているものであって、そういうことを形にできれば、普遍的であって、ポップになり得るんじゃないか、と。制作の中盤辺りから自然とそう考えるようになって、それを作品全体に反映させたんです。

— 同じリリックに極論を並列させるアプローチはKOHHと近くもあるんですけど、聴き手へのインパクト重視で、無責任にその手法を振りかざしている節がある彼に対して、この作品は相対化した価値観に対する足掻きが感じられるところが決定的に違うな、と。

tofubeats:KOHHはロックスター、トリックスター感がありますもんね。開いているか閉じているか。出てきたものはそこまで大差ないかもしれませんけど、そこがオタクとの大きな違いかな、と。何かを放り込んで、その反応を見てやろうってことじゃなく、自分は実際にそのなかに入っていますし、そこでの足掻きが、オタクなのにベースがやたらデカいっていう無駄な過激さにも繋がっているっていう。

— アルバムの制作で、最初に取りかかったのはどの曲だったんですか?

tofubeats:「FANTASY CLUB」と「OPEN YOUR HEART」の2曲は、前作『POSITIVE』が出来る前からあった曲なんですよ。ただ、『POSITIVE』はポップスにフォーカスしたアルバムだったので、内容にそぐわなかったその2曲はひとまず除外して、いつかどこかのタイミングで出そうと思っていたんです。そんななか今回の作品コンセプトが決まり、アルバムに入れられるかもしれないと思って、その2曲に手を加えるところから制作をはじめたんです。そして、その作業を進めているうちに、アルバムのフックになりそうな「BABY」ができて、その3曲がアルバム制作の導入になりましたね。

— そして、以前はご自身で書いた歌詞をヴォーカリストに託すことが多かったと思うんですが、「BABY」しかり、「SHOPPINGMALL」しかり、YOUNG JUJUをフィーチャーした「LONELY NIGHTS」しかり、今回の大きな特徴であるご自身のヴォーカル、ラップを作品の軸にすることは早い段階から決まっていたんですか?

tofubeats:いや、そんなことはなくて。今回のアルバムが出た後でさえ、自分が歌うのはあまり好きじゃないっていう(笑)。やっぱり、自分の声は自分が作品を聴く際に邪魔になるし、そのことを考えたら、人に歌ってもらった方がいいですよ。ただ、自分が言わなきゃ成立しないことは自分で歌うしかないし、アルバムのテーマもあって、今回は自分が歌わざるを得なかった。オートチューンも、ラッパーのそれと決定的に違うのは、僕は自分の声を入れたくないから。それに、歌が上手くなりたいとも思ってないんですよ。でも、そういう歌を聴かせるのもアルバムのテーマと繋がっていて、歌が上手くなりたいとは思ってないけど、曲は人に聴いて欲しいという矛盾。それについてどう思う?という自分やリスナーに対する問いかけでもあるんですね。

YOUNG JUJU『JUZZY 92’』
KANDYTOWNからIOに続いてデビューを果たしたYOUNG JUJUの初ソロ作。B.D.やMASS-HOLE、DJ Scratch Nice、Fla$hBackSのJJJとFebbらをフィーチャー。聴きやすさとドープな指向が同居した作品世界が今後を期待させる。

— トラップからベースミュージック、ハウスまでの振れ幅がまとめられているサウンドのアプローチに関しては?

tofubeats:これまでのサウンドもその時々のトレンドは気にしていたし、クラブミュージックをやる以上、リズムの斬新さがなければ曲としての価値はないと考えているんですけど、その新しさがどこから来るのかという話で。例えば、「SHOPPINGMALL」はトラップっぽいビートではあるんですけど、その特徴となる音色は使わず、ベースはハードシンセで作ったものだったり、ラスト曲の「CHANT #2」でもアナログのドラムマシーンを使っていたり、その新しさに自分らしさを介在させるため、ソフトではなくハードウェアの使用比率を高めたりして、現在の主流であるドライな音像に対して、このアルバムは意識してウェットに仕上げましたね。これは昔から変わらないんですけど、自分は「それっぽいもの」を作る人になりたいわけではなく、自分になりたいんですよ。それっぽいものが作れるのは取り替え可能な技術であって、作品を聴きたくなる魅力や個性にはなりませんからね。

— ウェットな質感や歌詞がそう思わせるのか、作品全体では明るすぎず暗すぎない絶妙なタッチと、どことなく孤独感が漂っているような、そんな印象を受けました。

tofubeats:それ、すごく言われるんですけど、僕は『POSITIVE』よりはるかに外向きだと思っていて(笑)。なんでかというと、『POSITIVE』は「こういうの好きでしょ?」って出してた作品だったというか、今考えると、ある意味失礼だったとすごい反省したんですよ。そう思うのは、自分が一体感を信じてないから。それなのに一体感を打ち出して、「これならみんな好きになってくれるかな?」って。なるわけないのに、やり方が卑怯だった気がしたんですよね。だから、一体感を信じていない自分が音楽で聴き手の背中を押すとなったら、このアルバムで歌っているように「みんなも矛盾を抱えていますよね?」っていうことなんですよ。それって、『POSITIVE』よりよっぽどポジティヴじゃないですか?

— いや、孤独がネガティヴなものだとは思っていなくて、90年代初頭の名作ハウスアルバムであるリル・ルイスの『Journey With The Lonely』であるとか、最近だとFade To Mindのオーナー、Kingdomの『Tears In The Club』であったり、ある種の孤独感がクラブミュージックと結びついた時のマジックが、今の時代にフィットするような気がするんですよね。

tofubeats:たしかに。ファストになりたくないのに、そうなってしまった、と。でも、もう元には戻らない、と。このアルバムに含まれている、そういう感覚は孤独ということでもありますからね。

— そして、部屋で聴かれることを意識して全体的に抑制が利いたアルバムにあって、「WHAT YOU GOT」と「THIS CITY」は大きな流れのなかでのピークポイントが設定されていますよね。

tofubeats:アルバムでは明るい曲調の「WHAT YOU GOT」と、神戸市からの依頼で作った「THIS CITY」は、作品に入れるかどうしようか迷った時期もあったんですけど、アルバムにおけるカタルシスを持たせるためにその2曲を繋ぐ「WHAT YOU GOT」のリプリーズをわざわざ作りましたし、前半の「OPEN YOUR HEART」もそうなんですけど、気持ちがぐっと持ち上がるように、音量でも調整してもらったんです。

— 今回のマスタリング・エンジニアの得能くんは、昨年手掛けた仙人掌のアルバム『VOICE』でもアルバムのストーリー性と抑揚を意識したアプローチでしたもんね。

tofubeats:そう。今回のアルバムは全曲の音量をあえて揃えていなくて、強調したい部分の音量は実際にデカく鳴らして、そこに山が来るような作りにすることで、アルバムが流れで聴かれることを意識しました。

— 「LONELY NIGHTS」にフィーチャーしたYOUNG JUJU、そして「YUUKI」で歌っているsugar meの2人は、どのような経緯で参加が決まったんですか?

tofubeats:まず、YOUNG JUJUはKANDYTOWNが同じレーベルということもあってその存在を知ったんですけど、KANDYTOWNのアルバムでボツになったYOUNG JUJUのヴァースが後に限定CD-Rだけに収録されていて。そのヴァースにオートチューンがかかっていたんですけど、それがめっちゃ良かったんですね。だから、こちらから提案して、オートチューンをかけたヴァースを蹴って欲しいとお願いしたんです。

tofubeats:sugar meは、単純に昔からファンだったんですよ。彼女のプロフィールには「英仏日三カ国語の歌を使い分ける」って書いてあるのに英仏の歌しか出してなかったので、長らくお仕事をお願いしたいと思いながらもなかなかオファー出来ずにいて。でも、去年の年末に出したミニアルバム(『6 FEMMES』)でいきなり岸洋子さんのカヴァー(「夜明けのうた」)をやっていて、これなら日本語の曲を歌ってくれるぞ、と。それで知り合いだったレーベルの人を通して、お願いしたんです。ゲストに関しては、前作で実現出来なかった若手のフィーチャリングを、今回、こうして形にすることができました。

sugar me『6 FEMMES』
キーボーディストの堀江博久とのコラボ作品もリリースしている寺岡歩美のソロプロジェクト。王舟とのデュエットや初の日本語曲である岸洋子「夜明けのうた」をはじめとしたカヴァーなど全6曲を収録した2016年作。tofubeatsも魅せられた歌い手としての魅力が際立った作品だ。

— ただ、日本において、メジャー発信のダンスミュージックは、長らくゲストのネーム・バリュー頼りで、その状況が一向に変わってないんですよね。だから、個人的にはtofuくんにそれを打破する期待感を抱きつつ、そうはいってもレコード会社からはビッグネームとのコラボレーションは求められるじゃないですか。

tofubeats:まぁ、多少はね(笑)。ただ、今回は出していたオファーが上手くまとまらず、それが幸いしたというか、決まらないっていうのは、そういう時期なんだなって思ったんですよ。じつはこのアルバムのスキットや、最後の「CHANT #2」は、ゲストを呼ぶつもりでその部分を空けておいたんですけど、結局決まらず、空けたままで完成させたんですね。そしてそれが、覚悟を決めて自分で歌うことにも繋がったし、作品のテーマをまとめることにもなったわけで、今はそういう時期なんだなって、ポジティヴに転換することが出来たんです。

— いつも語り口が理路整然としているので、プラン通りに制作を進めているのかと思いきや、制作過程で見えたものやアクシデントも作品には含まれているわけですね。

tofubeats:そうですね。制作は毎回一生懸命なので、こうして話すことで、どんなアルバムなのか自分でもようやく分かってきたりもしますし、その時に起こるアクシデントはその検証も含め、制作において大切にしていることなんですよ。

— アルバムをまとめるにあたっては、他にどんなことを意識されました?

tofubeats:アルバムを締めくくる「CHANT #2」のアウトロですね。あそこで鳴ってるのは、1週間かけて神戸のあちこちでマイクを立てた、フィールドレコーディングの音で、しかも1箇所じゃなく、僕が好きな場所、4箇所の音を重ねているんです。今回のアルバムは聴くのが大変な作品だったりすると思うし、ハシゴを外して「解散!」と言って終わるわけにもいかず、アルバムの世界からそのまま出て行くような感じで、車のドアを閉めて、外に出ていくイメージで終わらせたんです。でも、後から気づいたんですけど、じつは車から出て外からドアを閉めた音じゃなく、あれは外にマイクを立てるのを忘れて、中からドアを閉めた音が鳴ってるんですよ(笑)。

— ははは。となると、作った本人も意図せず、じつは謎な終わり方をしたアルバムだと。

tofubeats:でも、自分としては扉を閉めて、外に出ていくイメージだったし、みんな、そう思ってくれているようで良かったです(笑)。

— それが意図的したものではなかったにせよ、ドアの音ひとつとっても解釈はひとつではないというか、この作品では、そういう多面的な表現を提示しつつ、解釈したり、想像する前に情報で埋め尽くされてしまいがちな余白がきっちり残されています。

tofubeats:でも、一方で情報が想像力を掻き立てている側面もあるし、フェイクニュースもその一種だったりもしますからね。ただ、多面的な表現については、その良さについて主張していかないと、そういうものがなくなっていってしまいそうなので、「意識して言葉にしよう」と、この作品ではそんな気持ちでしたね。

tofubeats『tofu recipes – tofubeats Remix Ep』
2014年に12インチヴァイナルのみでリリースされたリミックスEP。SEMINISHUKEIからBBHとしても活動しているBushmind、DJ Highschool、Starrburstからなるサイケデリック三銃士やMASS-HOLE、ENDRUNら、ビートーメイカーのセレクトからもtofubeatsのヒップホップに対する愛情のほどがうかがえる。

— では、最後にDJミックスについてなんですけど、今回はtofuくんの推薦でDJ NAGASHIMAさんに依頼させていただきましたが、彼と彼が作ったミックスについてコメントをいただけますか?

tofubeats:今回は友達のDJナガシマ君にミックスの制作をお願いしました。彼とはここ1年くらいFANTASY CLUBにまつわるデモなんかも送りながら、ちょいちょい連絡を取っています。今回アルバム製作中に渡していたトラックなんかも織り交ぜつつ、僕の好きそうな曲を中心に、一緒にミックスを作ってくれました。結構昔に作った僕の曲も入っているのですが、結構FANTASY CLUBと近い雰囲気のものもあるなと、自分でも気づかされました。

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