Vol.73 ミツメ – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。メディア立ち上げを記念した特別企画としてご紹介するのは、近年はミツメ☆dee jaysほか、メンバーそれぞれがDJ活動も行っている4人組バンド、ミツメ。

過去の作品においては、リバーブが利いたUSインディーズロックやチルウェイヴの影響も散見された彼らのサウンドは、作品を重ねるごとによりミニマルに、そして、抽象度を増していき、昨年のアルバム『A Long Day』はバンドアンサンブルが解体寸前の際でオブスキュアなポップ感覚やグルーヴを凝縮してみせた素晴らしい作品となった。

現在の彼らは、アルバムのツアーを一通り終え、次作に向けた準備段階とあるということだったが、エーテルのように漂うバンドのオブスキュアなムードをなんとかキャッチするべくインタビューを敢行。併せて制作していただいた貴重なDJミックスを通じて、ミツメというバンドの希有なセンスに触れ、さらに謎を深めたり、自由に楽しんでいただきたい。

Photo:Takuya Murata

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

同じものをおもしろがれるところが、ミツメでは重要かもしれない(川辺素)

— 以前、Time Out Cafeで、ミツメの4人がDJをやってる現場に出くわしたことがあるんですけど、ここ最近はバンドの活動はもちろんのこと、DJとしてもあちこちで名前を見かけるようになっていますよね。

nakayaan:僕と大竹くんはThe KONTというDJチームでも活動していて。きっかけは、去年6月にミツメでやった恵比寿NADiffのインストアライヴなんですけど、その時、オープニングDJだったモンドミュージックの小柳帝さんとジャーマン・ニューウェイブの話で意気投合して、音源を交換したりしているうちに、気づいたらDJチームになっていたっていう。かけているのは、アヴァン・ポップだったり、レコメン系だったり、ソフトロックにアンビエント……。

— 全体のテイストとしては、なんとも説明しがたい感じですね(笑)。

大竹:はははは。普通はDJでかけないような音楽ですよね。

— それからバンドでもミックスCDを作ったりしているとか。

川辺:ワンマンツアーをやる時、開場してからライヴがはじまるまでと、ライヴが終わってからお客さんがいなくなるまでの間にかけるため、メンバー4人がそれぞれミックスCDというかBGM集を作って、通販を買ってくれた人にプレゼントしてるんです。

nakayaan:『A Long Day』のツアーの時は、当初、アルバムにちなんだ曲を選ぼうっていう話だったんですけど、フタを開けてみたら全然関係なく、みんな勝手に好きな曲を選んでましたね。

— ミツメの作品は毎回やってることも違うし、聴いてる音楽もその都度変わってる印象があるんですけど、現時点で4人が聴いている音楽はどんな感じですか?

須田:このあいだThe KONTのイベントにゲストDJで呼ばれた時に、3~4年前のインドネシアツアーで買ってきたレコードを久しぶりに引っ張り出してきて。ツアー当時は、ネットで聴けるインドネシアの音楽って少なかったんですけど、DJ用の選曲をしている時に調べてみたら大量に出てきたので、そういう音源だったり、70年代のソウル、ファンク、ロックがごった煮になっているインドネシアロックのコンピレーション(アメリカのレーベル、NOW-AGAINからリリースされた『THOSE SHOCKING SHAKING DAYS – INDONESIAN HARD, PSYCHEDELIC, PROGRESSIVE ROCK AND FUNK:1970-1978』)をよく聴いてるかもしれないですね。あえてやっているのか、ナチュラルにそうなってるのか、インドネシアっぽさを全面に織り交ぜていつつ、かっこいい瞬間もあって、中毒性があるんですよね。

V.A.『THOSE SHOCKING SHAKING DAYS – INDONESIAN HARD, PSYCHEDELIC, PROGRESSIVE ROCK AND FUNK:1970-1978』
STONES THROW傘下のオブスキュアなファンク再発を軸とするNow-Again Recordsより2011年にリリースされたコンピレーション。アクの強いグルーヴとトリップ感覚が後効きする中毒的な作品だ。

川辺:僕は小柳帝さんが90年代に書かれていた『モンド・ミュージック』を読んだりしているうちに、昔のディスクガイドとか昔の雑誌の音楽特集でまとめて紹介されてるアルバムを聴くのにハマってて。古本屋で雑誌の面白そうな音楽特集号を買ってきては、片っ端から聴いてますね。いま人気がある音楽ばかりというわけじゃないから、レコードも安かったりするし、昔の雑誌は記事にお金がかかっていたり、熱量もすごくて、レビューの内容も濃かったりするので興味を惹かれるんですよ。

— それは効率良く、違ったアングルで新しい音楽と出会う面白い手段ですね。

川辺:あと例えば、細野(晴臣)さんの『Omni Sight Seeing』とか、CDでしかリリースされてないアルバムってあるじゃないですか? 完全に主流がLPからCDに切り替わった時期のアルバムだったり、いま聴くと最高なのに時代と時代の谷間の時期にリリースされたせいで脚光を浴びなかったアルバムだったり、あんまり積極的に紹介されてこなかった、少し不遇な感じも含めておもしろいなと思ってて、そういうアルバムを探しているんですよね。

細野晴臣『Omni Sight Seeing』
CDのみでリリースされた1989年作。プロトテクノ、アンビエントとワールドミュージックが出会うマージナルな領域をゆったりとクルーズするユニークな観光音楽体験を味わえるアルバムだ。

— レコードマニア的には、CDの再発はレコードの再発ほどには盛り上がらなかったり、見落とされがちだったりしますもんね。nakayaanはどうですか?

nakayaan:この1年は、小柳帝さんだったり、いろんな人との出会いがあって、インプットが増えて、自分の好みがごちゃごちゃになっちゃっているんですけど、最近、こんなすごい音楽を作りたいなと思っているのが、60年代のソフトロックグループ、The Millenniumですね。アルバム『Begin』は何回も聴いて、ベースラインを全部コピーしたりもしているんですけど、コーラスから上モノから何から、カート・ベッチャーはスゴいなって。その後、絵本作家になったサンディ・サルスベリだったり、メンバーのソロも聴き応えがあるし、そこからChad & Jeremyだったり、凝ったアルバムが多いソフトロックも掘ったりしてますね。

The Millennium『Begin』
1968年のリリース当時、かなりの予算をかけて制作した商業的失敗作にして、90年代以降、脚光を浴びたソフトロックの名盤。実験性とポップスとしての完成度を高い次元で兼ね備えた1枚だ。

— 大竹くんもインプットは増えました?

大竹:そうですね。でも、いろいろ増えつつも、一貫してどこか孤独感が漂う音楽が好きなのは変わらないですね(笑)。ソロ形態もそうですし、ジャケットにぽつんと一人で写ってるようなアルバム……アシッドフォークだったり、へんてこな宅録物とか、電子音楽、ボサノヴァとか。

Suzanne Ciani『Buchla Concerts 1975』
イギリスのディープな再発レーベル、FINDER KEEPERSから昨年リリースされた女流電子音楽家の未発表ライヴ音源。ライヴとはいっても、汗飛び散る臨場感は皆無のブックラシンセサイザーによるソロパフォーマンスで、ギターの大竹雅生が好む孤独臭に満ち満ちている。

— ミツメの音楽同様、4人ともそれぞれ何とも言い難い音楽を聴いているわけですね。ここ最近は、小柳帝さんをはじめ、COMPUMAさんやMOODMANとディープハウス・パーティ〈SLOWMOTION〉をやってるDJのミノダくんだったり、トンチとセンスが利いた年上のDJ、聖おじさんたちと絡む機会も多いとか。

nakayaan:ミノダさんに誘われて、東高円寺のGRASSROOTSでDJやらせてもらったり、みんな、優しくしてくれるんですよ(笑)。あと、LIQUIDROOMの存在も大きいですよね。そういう年上の方たちと一緒にDJをやらせてもらったり、LIQUIDROOMやKATA、Time Out Cafeの周りにいる人たちにお世話になっていますね。そうかと思えば、須田さんはshimokitazawa THREEでDJしてるよね?

須田:THREEは、KONCOSのTA-1さんが毎週水曜日のバータイムに働いていたり、ライヴハウスとして積極的にいろんなことを打ち出しているし、そこに集まってる人たちが話したり、飲んだりしているのが純粋に楽しいんです。なので、スタジオの帰りに寄って一杯飲んだりとか(笑)。たまにDJもさせてもらっています。

nakayaan:須田さんの活動が一番ユースカルチャーって感じがするね(笑)。

— そうかと思えば、ミツメは恵比寿にバンドの溜まり場があるんですよね?

川辺:練習で使っているリハーサルスタジオがすぐ近くにあるので、その溜まり場というか倉庫に機材を置いてあって、スタジオから帰ってきたらそこで話したり、土日に集まって曲作りやアレンジを進めたり。メンバー全員で話をするためだけにいちいち飲食店に入るのは大変だったりするので、そういうストレスがないのはホントに大きいし、長くいられる場所だったするので、情報交換っていう仰々しい感じではなく、ゆるい感じでバンドの空気を共有できる場所だったりはするのかな、と。

— ミツメは4人それぞれの個性が濃厚にありつつ、作品はゆるかったり、ミニマルだったりして、直接的な影響は投影されていないですよね。

川辺:そういう要素は入ってきづらいですよね。昔の作品でいったら、例えば、チルウェイヴを思わせるアプローチがあったりもしたんですけど、特定の作品のこういう音像に近づきたいというような、そういう考え方にはならない4人なんですよね。まぁ、ひねくれてるところもあったりはするんですけど(笑)、素直にやろうというのがここ最近の僕のテーマだったりもするので。

— そのこころは?

川辺:ミツメでは、歌が歌の体を成してない曲をがんばって作ろうとしてきたし、実際にそういう曲をたくさん作ってきたと思うんですよね。その一方で僕がソロの弾き語りをやる時には手癖でぱっと作った曲をやったりするんですけど、ある時、そうやって作った曲を聴かせたら、マネージャーの仲原くんから“いいじゃん!”って言われて(笑)。そう言ってもらえるなら、奇をてらわずにやるのもいいのかなって。

— 去年リリースの最新作『A Long Day』は、ミニマルにひねくれた作風が極まった、そんな高い完成度のアルバムでしたもんね。

川辺:ただ、素直にやってみると、ポップになりすぎたりもするので、この先どういう感じで曲を作っていこうかなって。

nakayaan:でき上がってみたら結局、ひねくれて、こねくりまわしたものになっていたりしてね(笑)。

須田:これまでも素直なデモが来ると、めちゃくちゃ試行錯誤して、おかしなアレンジになるか、お蔵入りになるかのどちらかでしたから(笑)。まぁ、それがミツメらしさということになるんじゃないですかね。

ミツメ『A Long Day』
ライヴでの再現性を念頭に、ミニマルかつフィジカルなバンドアンサンブルを磨き上げた2016年の最新アルバム。反復する演奏がじわじわとズレや違和感を生み出すように構築された静かに過激なバンドアレンジとそれを曲として成立させる歌の奇妙にして絶妙な関係が作品に深みをもたらしている。

— でも、せっかく作ったデモがバンドで無残な姿になっていくのを、川辺くんはどう思っているんですかね?

川辺:おもしろいですよ。あ、こんなことになるんだって(笑)。

— 例えば、『A Long Day』に入ってる「漂う船」で、ディスコのリズムに乗せたギターは相当ふざけているじゃないですか。あのギターをニヤニヤしながら弾いてるのか、それともシリアスな顔で弾いてるのか、想像するだけでおかしくて。

須田:あのギターは本当に変ですよね(笑)。倉庫でのアレンジ作業の時点であのギターが炸裂して、笑ってました。

大竹:笑いが起きたから、良かったんだって判断しましたね(笑)。

— そういう、いい具合の脱線具合が聴いていて楽しいんですけど、そうして生まれる抽象的な表現もアートワークやミュージックビデオが寄り添うことで、ポップに伝わってくるし、そういう作品をカメラマンのトヤマタクロウさんやデザインの関山雄太さん、グッズ担当のGung Pangなど、チームで作っているところもミツメらしいですよね。

川辺:おもしろがっているものが近い人がまわりにたくさんいると、グルーヴ、波長が合っていい感じなんじゃないかなって。そういう意味で、同じものをおもしろがれるところがミツメでは重要かもしれない。

須田:さすがに曲作りは4人で進めていきますけど、それ以外の部分は垣根なく、みんなでアイデアを膨らませているところがミツメにとっては大きいなって思いますね。

— この先の作品に関して、現時点ではどんなことを考えていますか?

川辺:シングルなり、アルバムなりを出す、その曲を決めるまでに、試行錯誤する時期があるんですけど、今まさにそのタイミングだったりして。

nakayaan:そのために1曲を時間かけてこねくりまわすっていう(笑)。

— では、引き続き、作品の完成を楽しみにしつつ、最後にDJミックスについて一言お願いします。

nakayaan:テーマは“初夏”。

大竹:初夏と、あと裏テーマは“虚無”(笑)。

nakayaan:自分たちでもよく分からないんですけど、まぁ、そういうミックスです。