Vol.117 AQUARIUM aka 外神田deepspace with 惨劇の森クルー – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Nobuyuki Shigetake

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、ダンスミュージックフリークの間で話題となっているパーティ『惨劇の森』クルーの一員でもあるDJ、プロデューサーのAQUARIUM aka 外神田deepspace。
11月7日(土)に最新12インチシングル”Waitin 4 Summer”をリリースする彼は東京・中野出身。都会に突如出現した熱帯雨林のサウンドスケープを描く“AQUARIUM”、柔らかなディープハウスを夜の東京に乱反射させる“外神田deepspace”という2つの名義を使い分け、ロンドンやマンチェスター、デトロイト、ブダペストのレーベルからリリースした作品が世界的な高評価を獲得。ドイツを代表するプロデューサー、DJのMove Dも一目置く活躍をみせている。
また、彼のもとに、Ko Umehara、Phonehead、BUSHMINDが集結。不定期開催のパーティ『惨劇の森』は、4人のDJがバック・トゥ・バック・スタイルで予想不可能なグルーヴを紡ぎ、アンダーグラウンドなダンスミュージックシーンに新たな衝撃をもたらしている。今回はAQUARIUM aka 外神田deepspaceの突出した才能と謎めいたバックグラウンドを紐解くべく、縁の深い八王子の道程レコードにて、『惨劇の森』のDJ3人をフィーチャーして行ったインタビューとDJミックスをお届けする。

Interview&Text:Yu Onoda | Photo:Keiichi Ito | Edit:Nobuyuki Shigetake | 取材協力:道程レコーズ

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「パンクのDIY精神、自然発露的なローカリズム。僕の音楽において、その影響は計り知れないものがあります」

— AQUARIUMと外神田deepspaceという2つの名義を使い分けて、2016年以降、海外から多数の作品をリリースされていますが、活動を始めたのはいつ頃からですか?

AQUARIUM:2015年ですかね。

BUSHMIND:どっちの名義が最初だったの?

AQUARIUM:最初は外神田deepspace名義はデトロイトテクノやディープハウス、AQUARIUM名義はアンビエントというか、素の自分という感じで、名義をはっきりと使い分けるつもりだったんですけど、マンチェスターのレーベル、Natural Sciencesから一番最初に出した『Midnight At The Tokyo Central』は片面がAQUARIUM名義、もう片面が外神田deepspace名義だから、結果的には同時だね。

— トラックを作り始めたのは?

AQUARIUM:音楽制作の原初体験という意味では、MTRで重ね録りを始めた17、8歳の頃ですね。当時やってたのは、ノイズミュージックというか、ギターを弾いたり、拾ってきたヤカンを叩いて、気持ちいい音をマイクで録ってみたり、そういう音源ですね。

— どういうきっかけで多重録音をやってみようと思ったんですか?

AQUARIUM:自然な成り行きだったと思います。当時聴いていたのは、ハードコア、そのなかでもクラストコアがベースにあって、それに加えて、キング・クリムゾンとかモーターヘッドとか。だから、高校生の時に友達の家で、ギターを歪ませて、絶叫したりとか(笑)、19歳の時、 Abraham Crossの元メンバーでもあって、Abraxasというグラインドコアのバンドもやっていたアッキーという人とToxik/Trashっていうバンドを始めて。2004年にUKのメタルクラストバンド、Heavy Weatherとのスプリットシングルを出したりしていたんですけど、そういうパンクのDIY精神というか、自然発露的なローカリズムとして、一人でMTRの多重録音を始めたんです。

— ローカリズムという意味では、外神田deepspaceとAQUARIUMの作品タイトルや曲名には、新宿や中野、秋葉原や外神田といった東京の地名が付けられていますけど、ご出身はどちらですか?

AQUARIUM:中野です。今は再開発されて、子供の頃とは風景が大きく変わりましたけど、めっちゃいい街で。僕の実家は、かつて、G.I.S.M.やDEATH SIDEがライブをやったりしていた中野公会堂の近くだったこともあって、当時、近所のコンビニに行ったら、トロージャンヘアのパンクスが店内で寝っ転がって、雑誌を読んだりしてたんですよ(笑)。その時、子供だった僕は父から「指さしちゃいけない」って言われたりしてたんですけど(笑)、子供心にパンクの人は超カッコイイって思いましたね。

— ははははは。そういう衝撃的なパンクの原体験がMTRの多重録音を経て、今作っているダンスミュージックにどう繋がっていくんですか?

AQUARIUM:ハードコアと同時に聴いていたプログレッシヴロックを掘り下げていくなかで、Ashra(Tempel)のようなダンスミュージックにも影響を与えたジャーマンロックバンドを聴くようになり、その流れでデトロイトテクノをはじめ、ダンスミュージックにも興味を持つようになったんです。

— クラストコアやジャーマンロックのサイケデリックミュージックとしての側面であったり、D.I.Y.やローカリズムの発想というのは、ダンスミュージックとリンクしますもんね。

AQUARIUM:そうですよね。その後、バンドの活動が面倒臭くなってしまって、一時期は音楽を作っていなかった時期もあるんですけど、知り合いが中野でやってるタトゥースタジオに行って、そこに設置されているDJブースで好きな音楽をかけたりもしつつ、もともとが引きこもり気質なこともあって、家で色んな音楽を聴きまくっていましたね。当時は若かったから現場に行くと変な影響を受けたり、自分の感覚が濁るのがイヤだったので、ライブハウスやクラブにはほとんど行かず、AQUARIUM名義で曲を作るようになったのが10年くらい前かな。シンセとYAMAHAのシーケンサー、あと、AQUARIUMではAudacityっていうソフトを使って、自分で楽しむための気持ちいい音楽を日記のように作るようになったんです。

BUSHMIND:Audacityって、音楽制作用のソフトじゃないよね?

Ko Umehara:波形編集のソフトですよね。録り音がすごくいいと言われているんですけど、それを使って、曲を作ってる人は聞いたことないかも。あと、カセットに録音した音源を曲に使ったりしてるって言ってなかったっけ?

AQUARIUM:そうそう。僕がかつて一緒にバンドをやってたAbraxasっていう人が機材オタクで、彼が使っていたリズムマシンなんかをテープに録音させてもらったんですけど、その音源をサンプリングして、リズムを組んで曲を作ったりもしているんです。

— 多くのダンスミュージックは、『TR-808』のような名器といわれるリズムマシンであったり、Ableton Liveのような現行のDTMソフトを用いた音楽制作が一般的だと思うんですけど、そうではなく、手近にあって、気に入った音の出る機材や音源を使うのが、AQUARIUM、外神田deepspaceのスタイルだと。

AQUARIUM:そうかもしれないですね。みんなが使っているような機材もめちゃめちゃ欲しいんですけど、自分にとって気持ちいい音を鳴らす機材であれば、なんでもいいかなって。

BUSHMIND:だから、アキラくん(AQUARIUM aka 外神田deepspace)は自分で音を楽しむ方法を色んな角度から見つけられるっていう、そういう印象ですね。

AQUARIUM:それはパンクから学んだものというか、その影響は計り知れないものがありますね。

— 自分で楽しむために作っていた音楽が、2016年に日本ではなく、マンチェンスターのレーベルからリリースされるようになった経緯というのは?

AQUARIUM:2016年に初めてリリースした『Midnight At The Tokyo Central』は、中野で生まれ育って、ずっと生活してきたなかで、僕が好きだった街を照らす夜の光を表現した作品なんでけど、2015年にそれまで自分のために作っていた曲をSoundCloudにアップするようになって。僕は音楽をずっとやってきて、自分の音楽がめちゃめちゃいいのは分かっていたから、日本はどうか分からないけど、海外の人なら絶対にいいって言ってくれるだろうなって軽い気持ちで行動してみたら、その通り、海外の人から色んなリアクションがあって、Natural Sciencesからリリースが決まったんです。

Ko Umehara:アキラくんのtwitterは、(ドイツを代表するエレクトロニックミュージックアーティスト、DJ)Move Dからもフォローされているし。

— Move Dもダンストラックだけじゃなく、アンビエントだったり、枠に捕らわれない音楽を作ってるアーティストですもんね。

BUSHMIND:同じ匂いを感じたんだろうね。

Phonehead:さすが、Move Dだなー。

— ご自分の音楽に対する自信、確信が裏付けられるように、その後もロンドンのCoastal HazeとSilver Lake、デトロイトのClave House、ブダペストのBlorpと、海外のレーベルから次々にAQUARIUMと外神田deepspaceがリリースされていますよね。

AQUARIUM:2016年に出したカセット『Rainforest LP』は、もともと、Churchっていうレーベルから出す予定だったんですけど、今後の展開を考えて、新たなレーベルを立ち上げたいということで、Coastal Hazeというレーベルからのリリースになったんです。

BUSHMIND:そのカタログ番号001っていうこと?格好いいねー(笑)。

Phonehead:つまり、アキラくんの作品を出すために出来たレーベルがCoastal Hazeなんですよ。

BUSHMIND:俺もアキラくんのことを知ったのは、毎日観てる海外の音楽ブログですからね。

Phonehead:僕も、マンチェスターのレーベルからアーティスト名に“外神田”という漢字が使われている作品がリリースされたということで、『Midnight At The Tokyo Central』を買って聴いてみたら、当時流行っていたローハウスの音の歪みとはちょっと違う歪み方をしていて、上京したら会ってみたいなって思っていたんですよ。そうしたら、上京した週の週末に(道程レコードオーナーのHiguchi)Takuroくんがアキラくんを連れて遊びに来てくれて。

AQUARIUM:Takuroくんに誘われてizanaiクルーに入って、それまで単発でやっていたDJの頻度が増えた時期にPhoneheadと会ったんですよ。それ以前は音楽を作って、それが海外からリリースされていただけで、対外的に活動らしい活動をするようになったのは、ここ数年の話なんです。

Phonehead:それで初めて会った時に話を聞いてみたら、アキラくんにはクラストコアのバックグラウンドがあるということで合点がいったというか、クラストコアっていうのはディストーション・ミュージックだから、その影響もあって、ローハウスとは音の歪みが違うんだなって。

BUSHMIND:なるほど。ローハウスっていうのは、“歪み”という設定ありきの音楽ですもんね。

— 現行の高解像度なトラックでもなく、その対極にあるローファイな設定ありきのローハウスでもなく、AQUARIUMと外神田deepspaceの音楽は、体に染みついた歪みがそのまま反映された音楽だと。

AQUARIUM:16歳の時に友達とAxCxの真似事をしていた感覚に、家族とか思い出、記憶が混ざった音楽というか(笑)。ハードコアには、声だけめちゃめちゃデカくて、演奏もめちゃめちゃ頑張ってるのにすごい遠くで聞こえる、みたいなあり得ないような音のレコードがいっぱいあって、そういうゴミみたいなレコードを集めるのが昔も今も大好きで、くぐもった、こもった音、出音が悪い作品に惹かれるのは自分にとっては自然なことなんですよ。あと、友達と同じタイミングで服をもらっても、僕のが一番最初にボロボロになっちゃうし(笑)、録音状態のいい音楽も好きだったりするけど、自分が作るとクズっぽくなってしまうっていう(笑)。

Phonehead:言い方が悪いかもしれないけど、敢えて言うなら、これまで沢山あったイエロー・トラッシュがやってるハードコアパンクやヒップホップに対して、イエロー・トラッシュがやってるハウスミュージックはアキラくんが初めてなんじゃないかなって(笑)。

— ちなみに曲によっては、スパニッシュっぽいギターが入ったりしていますけど、あれはご自分で弾かれているんですか?

AQUARIUM:クラシックギターは聴くのも弾くのも好きで、今でも心が追い詰められるとギターで歌を作ったりしますし、例えば、”Rainforest”って曲のパーカッションも全部自分で叩いていて、親指ピアノも含め、その辺の楽器は(インド・ネパール・アジア諸国直輸入衣料雑貨を扱う)元祖仲屋むげん堂で全て手に入れたものだったりするんです。

— あの曲のパーカッションはサンプリングじゃないんですね。

Phonehead:”Rainforest”はスピリチュアルジャズそのものですよね。

BUSHMIND:ラッパーの掌幻とACEがハンドクラップを入れてる曲もあるんでしょ?

AQUARIUM:そうですね。あとは僕の奥さんとか友達の奥さんで小3から付き合いがある幼なじみの声とか。身の回りの音や声を使う曲作りは昔からずっとやってきましたし、かつて、解体の仕事をしていたこともあって、ゴミはまず叩いてみて、気持ちいい音が出るものは多重録音のために持ち帰ったりしていましたからね。

Ko Umehara:確かにアキラくんの家に行くと確かに色んなモノが転がっているんですよ。

— 『惨劇の森』クルーがやってるバック・トゥ・バック・スタイルのDJで、ハウスやテクノに混ぜて、かけていたジャズのレコードも解体作業で出てきたレコードだと言ってましたもんね。

AQUARIUM:そう。ピアニストのWalter Bishop Jr.が50年代に参加したレコードですね。でも、その解体の仕事がめちゃめちゃ大変で、これ、人間にやらせちゃダメだろっていう仕事がたまにあるんですけど、そういう時、昼休みにiPadでそれこそAshraなんかを聴いて、溜まったフラストレーションを解放したりしていたんですよ。でも、『惨劇の森』クルーのおかげで、DJを通じて解放出来るようになって、今は幸せです。

BUSHMIND:あと俺が気になっているのは、作品やDJでうかがわせるラテンの要素。ああいう要素はどこから来ているんだろう?

AQUARIUM:ブラジル音楽とか? その洗礼を受けたのは、23歳の時に聴いたジョアン・ジルベルトだね。そこからエグベルト・ジスモンチやカエターノ・ヴェローゾ、さらにカルトーラだったり、ディープなサンバを聴くようになっていったんですけど、DJの時、サンバに思いを乗せてかけるようになったのはここ最近。カルトーラなんかは昔から好きだったんだけど、歳と共に理解が深まり、どんどん良くなっていって、最近は海と山が混じり合ったような、あの一音が鳴っただけで涙が出そうになるね。

BUSHMIND:そうなるとAQUARIUMのネイチャー指向というのは、親御さんのルーツとも繋がってくる?

AQUARIUM:そう。母が沖縄・石垣島出身なんですけど、沖縄の人は上京しても沖縄のコミュニティーと接点があるというか、家に遊びに来る人も沖縄の人が多かったりするし、子供の頃は石垣島に帰っていたから、その頃の記憶と海と山が混ざり合ったブラジル音楽が結びついて、さらに最近はそれが沖縄音楽とも繋がって、DJの時にそういう音楽をハウスミュージックとして意識的にかけたりしているんですよ。

— まだまだ謎多き『惨劇の森』クルーのバック・トゥ・バック・スタイルのDJでは、アキラくんが時折、ロックをかけたり、ジャズをかけたり、ブラジル音楽や沖縄民謡をかけたりして、流れを変える役目を果たしていますけど、それが非常にスムーズというか、奇をてらったように感じないのはそこに意味があるからなんですね。

BUSHMIND:アキラくんがそういう曲をかけた後、俺が次の曲に繋ぐ時、その2曲が同じノリであることに気づかされたりするんですよ。

AQUARIUM:ハウスミュージックには色んな音楽を内包した自由度の高さがあると思うんですけど、『惨劇の森』としてパーティを初めてからその傾向がより強まっていて、毎回毎回楽しいし、成長できている気がするんです。

— 中野の新たなナイトスポット、Bar Smithでスタートしたパーティ『惨劇の森』は、AQUARIUMが新たにリリースする12インチシングル”Waitin’ 4 Summer”のリリースパーティとして11月7日に西麻布の某所で行われるということですが、そのパーティを大いに期待させるAQUARIUM aka 外神田deepspace制作のDJミックスについて一言お願いいたします。

AQUARIUM:1曲目のルー・リードからずっと青空で夏な曲が続くので、1日の始まりに聞いて欲しいです。

惨劇の森 – Aquarium “Waitin 4 Summer” 12” Vinyl Release Party –

開催日時:2020年11月7日(土) OPEN / START 23:00
開催場所:Somewhere in Nishiazabu
料金:1,500円
来場者特典:惨劇の森 Live Mix MP3 (後日メール送付)
※要事前予約(sangekinomori@gmail.com)。入場は50名限定。

■Live
Hydro Brain MC’s(Nero Imai / Karavi Roushi / C.J. Cal / Kuroyagi / Phonehead)
Yamaan(VHS Live)

■DJ
Chiyori & New Age Pimp
DJ Abraxas(Aquarium)
Bushmind
Ko Umehara
Phonehead

■P.A
MASSIC inc.

■Shop
Dotei Records