Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— 今回の新作に着手するまでの3年半、Khruangbinは欧米をはじめ、アジア、中南米をツアーで回る日々が続いていたわけですが、世界各地で演奏する日々はバンドにどんなものをもたらしたと思いますか?
Laura Lee(以下、ローラ):全てね。何よりも大きいのは団結力。私たちの繋がりをより深くし、ひとつにしてくれた。ただ一緒にいるだけじゃなくて、一緒にいながらチームとして何か大きなことを成し遂げていくって、すごく大きなことよね。人々の前で毎晩演奏が出来るなんて、贈り物みたいな経験だった。
Donald ”DJ” Johnson(以下、ドナルド):あと、一緒にずっと演奏し続けることで、サウンドもよくなったと思う。それは今回のアルバムにも反映されていると思うね。
— さらに、ツアー先でその街のレコードショップに行ったり、その土地の音楽に触れる機会も当然多いですよね?
ローラ:しょっちゅうよ。やっぱり実際に音楽に触れる方が、インターネットよりもずっと深いものに出会うことが出来る。だから、各国を回ってそれぞれの地でその場所の音楽やレコ屋に行けるというのは、私たちにとって強い特権なの。
— そんなツアーの日々の間に掘り当てた音楽、夢中になっている作品があったら教えてください。
ローラ:ありすぎて答えるのがむずかしいわね(笑)。DJ、何かある?
ドナルド:France Joli(フランス・ジョリ)の”Gonna Get Over You”かな。デンマークのコペンハーゲンで見つけたんだけど、見つけてから頭に残って、ツアー中、皆で結構ずっと聴いていたんだ。
ローラ:私はDiane Tell(ダイアン・テル)の『Chimeres』っていうアルバム。彼女の存在はまずマークが見つけて、それからDJも聴き出して。私もハマったんだけど、ツアー中にやっとレコードを見つけたの。その時から私の生活の大きな一部になっているわ。
— Khruangbinの土台を成すドラムブレイク、ファンクやヒップホップはもちろんですが、楽曲に取り入れているタイ・ファンクやターキッシュ・ディスコ、あるいはブラジリアン・サイケといった非英語圏の音楽は、例えば、Diplo(ディプロ)が世界に紹介したBaile Funkがそうであるように、ここ10年、15年のDJカルチャーによるディスカバリーだったりしますが、KhruangbinがDJ、ダンスミュージックのカルチャーから受けた影響も当然大きいですよね?
ローラ:かなり影響されてるわ。DJが空間を指揮するのは、パフォーマンスに通じる部分がある。旅の中に観客を誘って、彼らを導いていくっていうのはDJと同じ。それが上手く出来れば、何かスペシャルなものを作り出すことが出来るし、良いDJというのはそのプロだと思う。
ドナルド:そうだな。やはりパフォーマンスの面でより影響を受けていると思う。ステージに立つとオーディエンスの様子や反応を伺って、ショーをより盛り上げていこうとする。DJは、彼らが求めているものを察して、それを提供するだろ? その面では確実に影響を受けていると言えるね。
— 一方で、KhruangbinはDJカルチャー特有のコラージュ的なセンスであったり、情報過多な音楽の在り方から一定の距離を置いているようにも感じるのですが、Khruangbinのミニマリズムに立脚した発想はどこから生まれたんでしょうか?
ドナルド:俺たちは、”Less is more(より少なきはより多きこと)”という思想を持ってる。
ローラ:その通り。あと、私自身が生活の中で好むものがシンプルなものが多いのよね。シンプルなものこそスペシャルさを感じたり。それがサウンドにも現れるんだと思う。
— サウンドそのものも音圧が過剰に盛られていないというか、空間を活かしたナチュラルなアンビエンスが活かされています。Khruangbinが目指す音響、音響に対する考え方について教えてください。
ドナルド:ビッグなフェスティバルや小さなリビングルームまで、演奏する場所は色々あるけど、その空間それぞれが与えられた長所だと思って、その空間に合わせた音の出し方をしている。例えば、ビッグなフェスでは、人々をより音の中に引き込むためによりダイナミックな音響を意識しているし、目的や空間が持つ可能性を考えて音を奏でるんだ。俺たちは、ラウドにも演奏できるし、しっとりとも演奏できる。声みたいなものだね。空間が狭ければソフトな声を出すし、大きく声を出す必要がある環境では叫ばなければいけない。そうやって、その時々の状況を利用して、ベストなサウンドを作るんだ。
ローラ:空間を活かしたアンビエンスに関しては、私たちって3人だから、1人1人が音を出しすぎる必要がないのよね。考え方としてはハーモニーを作ろうとするというより、3人で空間を埋めていってる感じなの。
— Khruangbinのレコーディングは、一貫して地元ヒューストンから数時間の人里離れた納屋で行われているということですが、冬に制作したこれまでの作品とは違って、今回は春に録音したということですが、季節の違いは作品に影響がありましたか?
ローラ:どんなマジックが起こったかって? それは寒くなかったってこと(笑)!
ドナルド:ははは。
ローラ:でも、冗談抜きで、気温って、想像以上に結構影響するの。前は寒かったから、身体に毛布を巻きつけたり、着込んだり、演奏するのがホントに難しかった。手がかじかむのも演奏に影響するし。皆が思っている以上に、気候の影響は大きいのよ。ただ、近くに養蜂家がいて、超ビッグな蜂の巣があるから、春は春で、蜂が大問題だった(笑)。でも、寒いのよりはマシだったわね。
— ”Pelota”のようなスパニッシュテイストの楽曲もありつつ、今回のアルバムは、これまで吸収してきた音楽が今まで以上に溶け合っているような印象を受けました。サウンド面での変化についてはいかがですか?
ドナルド:マークがひとつだけ新しいペダルかエフェクトを使ったことくらいかな。彼はアルバムを作る時は毎回新しいペダルかエフェクトを使うんだ。それがサウンドに新しいテクスチャーをもたらしているのかもね。
ローラ:私たちは常に様々な場所の音楽から影響されているから、特に今回のサウンドが変化したとは感じないかな。変化があるとすれば、前よりも表現方法に広がりができたのかもしれないわね。
ドナルド:前のアルバムとの間で沢山ショーをやったのも関係あるかもしれない。もっと経験を積んでいたから、それがサウンドにでてきたのかもしれない。あと、大きな違いは、ツアーで忙しかったから、今回は曲作りからレコーディングまでの間に前ほど時間を費やすことができなかったんだ。その分、ポストプロダクションにいつもよりも時間をかけた。それは今回初めてだったね。それでもやっぱり、アルバムはKhruangbinっぽいサウンドに仕上がっているとは思うけど。
— さらに今回は今まで以上にヴォーカルをフィーチャーしているところが大きな特徴ですが、ローラさんがアルバムタイトルにもなっている『Mordechai』さん家族と出かけたピクニックが作詞を行う大きなきっかけになったそうですね。どういうことなのかご説明いただけますか?
ローラ:それがきっかけになったわけではないのよ。ただ、当時個人的に色々書き溜めていたの。スタジオで作業していた時に曲に言葉を入れることになって、その時に自分が書いたものを読み返してみて、私たち全員がそのピクニックの部分を気に入ったから、歌詞として残すことにした。スタジオに入る前にMordechaiファミリーと一緒にピクニックをしたんだけど、そのピクニックが私に与えたインパクトが大きかったから書き留めたの。数年間も帰る家がなくずっと旅をしていると、ゆっくりとピクニックをするという経験は、想像以上に特別な瞬間になる。Mordechai自身からも多くを学んだわ。この作品は、私が個人的に彼に捧げる歌みたいなものなの。
— 歌詞は人との繋がりや記憶を描いていますが、そのタッチはマジック・リアリズムや象徴主義的なものであるように思いました。インストゥルメンタルによって想像力を刺激してきたバンドが言葉を用いることでその想像力を狭めてしまうリスクもあったと思いますが、作詞において腐心したポイントとは?
ローラ:これまでも、歌詞を書くということは常に私たちにとってチャレンジのひとつだった。私たちの中で、作詞に精通しているメンバーは誰もいない(笑)。だから、私たちにとっては一仕事なのよね(笑)。ある意味、私たちにとっては歌詞のない曲の方が作りやすかったりもする。ヴォーカルは私たちにとって他の楽器と同じくフィーリングを表現する手段のひとつで、その曲のフィーリングを表現するのにヴォーカルや歌詞がいい役目を果たすと感じた時は使うし、感じない時は使わない。それは曲によるの。
— そして、例えば、García Márquez(ガルシア・マルケス)のマジック・リアリズムがコロンビアに伝わる神話や伝承に触発されていたように、Khruangbinの音楽はテキサスの音楽文化が影響しているようにも思います。個人的に、Khruangbinの音楽は、13th Floor Elevators(13thフロア・エレベーターズ)やRed Krayola(レッド・クレイオラ)といった60年代のテキサスサイケや90年代初頭にDJ Screw(DJ スクリュー)が生み出したChopped and Screwedといった音楽の延長線上にあるようにも感じるのですが、テキサスの音楽的な背景がバンドに与えた影響については?
ドナルド:大きいと思う。Khruangbinの音楽は世界中のサウンドに影響を受けているけれど、そもそも、ヒューストンは世界中の文化が集結している街なんだ。オイルやガス産業が盛んで、様々な場所から人々が移り住んでくるんだよ。その人々とともに、文化も運ばれてくる。その様々な文化がブレンドされて、ひとつのスペシャルなものを作り出しているんだ。今回のアルバムも、色々な影響や要素が詰まってひとつの作品が仕上がっているし、俺たちにとってはホームのように感じられる作品なんだよ。
— アルバムに先駆けてリリースされた同郷のLeon Bridges(リオン・ブリッジズ)とのEP『Texas Sun』はテキサスのランドスケープを想像させる作品でしたが、テキサスと一言でいっても、ヒューストン、オースティン、ダラス、サン・アントニオ、あるいは砂漠にあるアートの街、マーファであるとか、街の個性は様々だと思いますが、テキサスのランドスケープはバンドにどんなインスピレーションをもたらしていると思いますか?
ローラ:テキサスって本当に広いの。場所によって雰囲気も文化も違う。だから、テキサスで暮らすというのは、あらゆるものの一部に囲まれて、それぞれを少しずつ目にして影響を受けるということなのよ。
— テキサスというと、保守的、排他的といわれることも少なくない土地ですが、そうした土地から、開放性、多様性や寛容性を内包したKhruangbinの音楽が生まれていることは希望であるように思います。ヒューストンが地元であるジョージ・フロイド氏の事件を契機にアメリカ社会を大きく揺さぶっている人種差別の問題についてどんなご意見をお持ちですか?
ドナルド:黒人として生きている俺にとってはとても重要なことだと思う。自分だって、今流れている動画の一部になる可能性があるわけだからね。明日は我が身かもしれない。そういった問題への認識が高まるのは良いことだと思うし、Khruangbinだって皆に知ってもらうまでに5年近くかかっているわけだから、人種問題も徐々に皆に知られるようになり、人々が関心をもってくれるようになるといいよね。テキサスは保守的で排他的なイメージがあるかもしれないし、実際にそういう人たちも存在はしているけど、実はそうでない人たちも多い。俺たち自身ももちろんそうだし、俺たちの周りの人たちも保守的ではないんだ。テキサスを排他的な土地と決めつけることも人種差別の問題の一つである”ステレオタイプ”と同じなんじゃないかな?
ローラ:何事にも色んな面があるということよね。様々なものが存在している中で、自分というものを持って、それをしっかり保っていればいいと思う。そして、ひとつ確実に言えるのは、Khruangbinは排他性とは対極にある音楽だということね。
レーベル:DEAD OCEANS / BIG NOTHING
ASIN:B087V1CYLB
JAN:4526180525042
■収録曲
01. First Class
02. Time (You and I)
03. Connaissais de Face
04. Father Bird, Mother Bird
05. If There is No Question
06. Pelota
07. One to Remember
08. Dearest Alfred
09. So We Won’t Forget
10. Shida
11. Time (You and I) (KARAOKE VERSION)※日本盤ボーナス・トラック
12. If There is No Question (KARAOKE VERSION)※日本盤ボーナス・トラック)