Photo:Kazuki Miyamae | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
■Track List
01. Cuco – Bossa No Sé feat. Jean Carter
02. BIM – Veranda
03. Enjoy ! – Why Do I Try?
04. Yung Bans – Ridin feat. Landon Cube & YBN Nahmir
05. lilbootycall – Hate Me
06. Lil Rae & Hella Sketchy – Whoa!
07. $ofaygo – Hits on Hits
08. ggravee – love letter
09. iann dior – emotions
10. lilspirit – Bury Me
11. JUMEX – Loner
12. Juice WRLD – Robbery
13. Lil Capi – My Way
14. Robstar – One More Kiss
15. Lil Xan – Baby You Love Me
16. JMIN & Lo-g – Dont Trip
17. Hella Sketchy – Sketchy 180
18. koi – hi
19. Mall Boyz – mallin (Tomggg Remix)
20. Cold Hart & Yawns – Leo Szn
21. iann dior – don’t want to fall
22. Landon Cube – 17 feat. Lil Skies
23. Powfu, Rxseboy & Slipfunc – Laying On My Porch While We Watch the World End.
— お2人がこの企画に登場するのは、2011年以来、実に9年ぶりになります。
SHINGOSTAR:一番最初に放課後ラップのDJミックスを作ったのは、そのちょうど1年前になるので、放課後ラップを勝手に提唱するようになってからちょうど10年になるという(笑)。
— Weeknd『House Of Ballon』、Frank Ocean『NostalgiaULTRA』、Tyler, The Creator『Goblin』、A$AP Rocky『Live.Love.ASAP』がリリースされた2011年は、10年代を特徴付けるクラウドラップやオルタナティブR&Bの最初期ですよね。BACK TO SCHOOLのお2人はそのなかでもサンプリング主体で、ヒップホップとインディーロックを横断する文系ヒップホップに着目されていましたが、この10年のシーンの変遷はいかがですか?
SHINGOSTAR:前回お話したと思うんですけど、そもそも、僕らが放課後ラップを提唱するきっかけになったのは、Mac Miller(マック・ミラー)なんですね。彼のミュージックビデオは監督も出演者も周りの友達だったりしたのが当時としては画期的だったというか、制作を手がけたのはRex Arrow Filmsという映像クルーだったんですけど、今はLyrical Lemonadeをはじめ、色々なクルーが出てきているし、以前は仲の良い子たちのなかで音楽を作る子、映像を撮る子というような役割分担があったのに対して、今は1人でラップもすれば、映像も作る、さらにイラストも書けば、楽器も弾くというようなマルチプレイヤーが増えてきている。だから、状況もずいぶん変わりましたし、映像もどんどん進化していますよね。
YO!HEY!!:前回のインタビューは、CANONの『EOS 5D』のような一眼レフでミュージックビデオを撮るようになった時期だったと思うんですけど、その後は撮った映像にヴェイパーウェイヴ的なグラフィックやアニメーションをパソコン内で加工できるようになって、今となっては曲を出す際にはミュージックビデオが必須というほどに、映像が手軽な表現になりましたよね。
— CGにアニメーション、ドローンの空撮だったり、かつては莫大な予算や手間がかかっていたことが気軽に出来るようになってきていますもんね。そして、音楽的には、10年前に提唱した放課後ラップのナードな感覚がアメリカだけでなく、ここ日本でもより一般的なものになったように思います。
YO!HEY!!:僕は昔も今もUSヒップホップのメインストリームを追いつつ、そのオルタナティブな流れといえる放課後ラップと、インディロックも聴いていて、自分のなかにはそういう2つの軸があったんですけど、10年前だと僕のようにロックも聴くヒップホップ好きは馬鹿にされていたところもあったし、当時は放課後ラップという偏った指向性がメインストリームになることは考えられなかったんですけど、最近はUSのメインストリームであるエモラップと放課後ラップがサウンド的にはイコールになってきたというか。
SHINGOSTAR:僕らはそれをエモ放課後ラップと呼んでいるんです。
— エモ放課後ラップ!
YO!HEY!!:そして、サンプリングでメロディを補っていた10年前の放課後ラップに対して、トラップの波に吞まれた今のエモ放課後ラップはTR-808の無機質なマシンビートになってきました。代わりに、ラッパーの声がどんどんメロディアスになっていて、サンプリングする必要がなくなってきたのかも。
SHINGOSTAR:Mac Millerが起点となった前回の放課後ラップに対して、僕らがエモ放課後ラップと呼んでる最近の流れの起点はLil Peep(リル・ピープ)なんですよ。彼の音楽が象徴するように、今はグランジ、オルタナロックとトラップのクロスオーバーというか、ヒップホップとロックが当たり前のように融合している。
— かつてはギターを手に、バンドに向かっていた初期衝動的な表現が、ラップトップで作るトラックとラップに取って変わったというか。今はラッパーがメロディを歌いまくっていますしね。
YO!HEY!!:そう。Post Maloneのようにギターを弾きながらラップしたり、ロックやってても打ち込みだったり、ラップしたり。そういう意味で、ロックのフォーマットが変わったと捉えることも出来るのかなって。
SHINGOSTAR:ロックが死んだということじゃなく、ね。うちの息子は中学2年生なんですけど、昔だったら、ロックが主流で、それくらいの年齢でヒップホップを聴いているのは、クラスに1人、学年に何人って感じだったじゃないですか。でも、今は『高校生RAP選手権』や『フリースタイルダンジョン』をきっかけに、ラップに興味を持って、BAD HOPを聴いたり、Mall Boyzやdodoくんを聴いたり、かつてのロックやポップスのように、ヒップホップを聴くのが当たり前になってる。
— この10年でヒップホップは名実ともに現代のポップミュージックになりましたよね。
SHINGOSTAR:今は特定の曲が流行るとすぐに似たような曲が量産されるじゃないですか。昔は似たような曲を出すのは御法度だったけど、二番煎じでも当てにいく今の発想自体がポップミュージック的ですよね。それ以外にも今はライブにDJがいなかったり、オケを流して、口パクみたいなパフォーマンスになっていたり、昔の感覚だとあり得ないことが平然と行われてて、最初は衝撃を受けるんだけど、次に観るとそれが格好良く見えてくるっていう(笑)。
YO!HEY!!:これはヒップホップだ、ヒップホップじゃないっていう面倒臭い話も、今は少ないですからね。
— 今回、ルール無用の現代放課後ラップ、エモ放課後ラップをミックスにまとめるにあたって、選曲の基準はいかがでしたか?
YO!HEY!!:USのメインストリーム化したエモ放課後ラップということで、Juice WRLD(ジュース・ワールド)のような人気アーティストもピックアップしつつ、今回、メインで取り上げたのは水面下にいて、まだ浮上してないラッパーですね。
SHINGOSTAR:もっと言うと、僕が監督したdodo”curtains”のビデオのコンセプトと同じで、”これからイケそうな子の一歩手前の曲”というのが選曲の基準です(笑)。
— はははは。
SHINGOSTAR:だから、シーンの端っこを掘りつつも、そのなかでもYouTubeの再生回数が20万回とか30万回とか、もう一押ししたらブレイクしそうな子たちを取り上げました。
YO!HEY!!:言い換えるなら、Juice WRLDやXXXTentacion(エクスエクスエクステンタシオン)のようなアーティストとどう戦おうかと切磋琢磨しているアーティストですね。例えば、Cuco”Bossa No Se”のようにボサノヴァを取り入れてみたり、他との違いを出そうとしている曲とか。
SHINGOSTAR:あとは、例えば、Migos(ミーゴス)とは仲良くなれそうもないけど、iLoveMakonnen(アイラヴマコーネン)とはハング出来そうとか、自分と一緒に遊べそうかどうか。ビデオが面白いかどうかも重要な選考基準だったりします。
— 映像を見ると、郊外だったり、田舎の子が多いように思いました。
SHINGOSTAR:最近はニューヨークのような都会から放課後ラップが出てこないということもあるし、郊外だったり、田舎の子たちは家に帰ってからやることなくて持て余しているんじゃないかなって。だから、映像を見ると、モールだったり、山の中のシーンが多かったりするんですよ(笑)。
— あと、白人ラッパーも多いですよね。
SHINGOSTAR:そうですね。その現象にはいくつかの側面があると思うんですけど、一つはサイケデリックミュージック好きな白人の系譜。エモラップは抗うつ剤、鎮痛剤とセットになることもあるので、みんな健康に気をつけて音楽を続けて欲しいですよね
— エモラップだけでなく、Billie Eilish(ビリー・アイリッシュ)のようなアーティストが支持されている鬱めいた今の時代は、超格差社会だったり、不安定な政治状況も背景にはあるでしょうし。
YO!HEY!!:そういう気持ちのストレートなはけ口がラップに向かっているんだろうなって。
SHINGOSTAR:そして、状況の変化と共に音楽の移り変わりもどんどん速くなっているじゃないですか。だから、もう既に新しい放課後ラップが生まれているだろうし、放課後ラップの見届け人としては、今のエモ放課後ラップをまとまった形で残しておきたかったんですよね。
YO!HEY!!:今はプレイリストの時代だったりして、こういうミックスは少なかったりしますが、流れのなかでそれぞれの曲を引き立たせるDJらしいプレゼンテーションは出来たと思います。
SHINGOSTAR:それから、今はうちの子もそうなんですけど、日本でもラップが盛り上がるなか、日本語ラップは聴いてもUSヒップホップは聴かないという子が多い印象があるので、USの文系ヒップホップの入り口になりそうなミックスを自分たちなりに作りたかったんですよ。
— ピックアップしたラッパーのなかで特に注目しているのは?
SHINGOSTAR:Lil PeepとXXXTentacionが亡くなった後、僕が一番注目していたのはHella Sketchy(ヘラ・スケッチー)だったんですけど、彼も昨年19歳の若さで亡くなってしまって。顔も可愛くて、自分で作るトラックも格好良かったし、あとはヒット曲を出すだけというところだったので、ものすごい残念でしたね。それから今も存命のラッパーだとあの手この手を駆使して頑張ってるLil Xan(リル・ザン)かな。
YO!HEY!!:それからIann Dior(イアン・ディオール)。彼はTrippie Redd(トリッピー・レッド)をフィーチャーした曲を出したり、楽曲が突出していいので、今後、活躍しそうだなって。
SHINGOSTAR:あと、Bad Bunny(バッド・バニー)をはじめ、去年のラテンブームともリンクしているのか、LA在住のメキシコ人アーティスト、Cuco(クコ)は歌もイケるし、ラップもイケて、ナードな見た目なんですけど、首の痛いところまでタトゥーがガッツリ入ってたりして、面白い才能だなって思いますね。
YO!HEY!!:Cucoしかり、昨年はボサノヴァの要素を取り入れた曲が気になったので、今回のミックスではそういう要素も盛り込みつつ……
SHINGOSTAR:最後はエモく泣くっていう、そういう内容のミックスになっています(笑)。
— そして、今回提供していただくミックスに続いて、近日中にフィジカルのミックステープもリリース予定だとか。
SHINGOSTAR:ティーンのマイファーストUSエモ放課後ラップの入門編として、それからエモラップ好きおじさんまで、幅広い層に楽しんでもらえるミックステープを絶賛制作中です。
— エモラップ好きおじさん?
SHINGOSTAR:僕含め周りで増えつつあって(笑)。僕が薦めていたら、漫画家の天久聖一さんとバカサイの椎名基樹さんがエモラップに興味を持ってくれて、天久さんとは一緒にLEX、dodoのライブをを観に行ったし、椎名基樹さんとはゆるふわギャング、Tohjiのライブを観に行ったし、カメラマンの米ちゃん(米原康正)の還暦パーティーではdodoがライブしたり。どうやら、エモラップはパンク、ニューウェーブ世代の琴線に触れるものがあるみたいなんですよ。パンク、ニューウェーブといえば、2年前くらい前にLAへ行った時も若い子の間で80年代のBilly Idol(ビリー・アイドル)が再評価されているという話を聞いたし、こないだ見た映像も夜中の高架下で、トロージャンヘアに(パンクバンド)CRASSのTシャツ着た子がいたり、MetallicaのTシャツを着た子がいたり、ごっちゃまぜのクラウドが騒いでいて、どんなバンドのライブをかと思いきや、かかってるのは延々トラップなんですよ。それを観た時、今はいい意味で価値観がひっくり返って、新しい音楽が生まれつつあるんだなって。しかも、バイオレントじゃなく、みんな楽しそうで優しそうだし、面白い時代だなって思いますね。