Photo:Kazuki Miyamae | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
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— 今回、6年ぶりの作品リリースということで、改めてプロフィールを拝見したら、山口や埼玉、熊本、現在の東京と、これまで色んな土地にお住まいだったんですね。地元はどちらなんですか?
CHIYORI:生まれは山口の岩国です。父が音楽好きだったこともあって、幼少の頃からピアノを習っていたんですけど、一向に楽譜が読めるようにならなくて、先生から「でも、あなたは音楽好きなのはよく分かるから違う音楽をやったほうがいい」って言われて。教師をやってた母にそのことを話したら、「知り合いの音楽の先生に歌を習えば?」って言ってくれたので、独唱コンクールを目指して、歌を習うようになったんです。でも、中学生の時、ヒップホップとかレゲエを知り、15歳の時、寮生活をしながら埼玉の高校に通うことになり、入学したら、そういう音楽を好きな人たちがいっぱいいて。こないだ友達に言われたのは、高校入ってすぐの頃、廊下でひとりラジカセで”証言”を流してアピってたらしいです(笑)。
— はははは。
CHIYORI:高校時代は、ダンスホールレゲエのバンドをやったり、(Arrested Developmentの)SPEECHのカバーバンドや、女子寮の子たちとフォークバンドをやったりしていて。同じ学校には(ex -JUSWANNA)のMUTAがいて、彼のビートでオリジナル曲を歌うようになり。そして、高校卒業後は東京で生活する準備のために、実家に一端戻って、しばらくお金を貯めようと思っていたんですけど、同じように実家に戻ったMUTAのところに遊び行ったのを機に、そのまま熊本で活動していました。
— そのまま?
CHIYORI:街や人が気に入っちゃったんです(笑)。私はずっと歌っていたくて、音楽の専門学校にでも入ろうかなと簡単に考えていたんですけど、この頃からTHA BLUE HERBのストイックなスタンスが注目され始めていたし、MUTAからも「熊本で俺の兄ちゃん(DJ琥珀)たちとクルーを作って一緒に下積み期間として音楽しようや」ってなって。そのクルーや地元のルーツレゲエバンド、Poly Riddimの一員として歌うようになり、きっかけになったMUTAが上京してからも私はしばらく熊本に残っていて、上京したのは3年半後ですね。
— その後、自作曲がShing02経由で渡ったMary Joy Recordsから2009年にリリースしたファーストアルバム『CHIYORI』は、当時のアンダーグラウンドシーンで最も勢いのあったShing02、Temple ATS、DOWN NORTH CAMP、stillichimiya周りの錚々たる才能が集結した作品でしたね。
CHIYORI:まず、歌といったら楽器を使ったシンガーソングライター、バンドだったりするんでしょうけど、インストのビートにMTRで感覚的に声を多重録音しながら作ることに夢中になっていった私には一般的なボーカリストとしての活動や制作の仕方とは少し違っていたのかもしれません。でも、遊んでる界隈にはプロデューサー、ビートメイカーがいっぱいいたのでラップのような制作の仕方と近いのではないかと思います。
— 交友関係がそのまま反映されたアルバムだったと。
CHIYORI:池袋BEDや中野のheavysick ZEROでレギュラーをやったり、オーガナイズのパーティーもやっていて、その時の経験や人との繋がりが当時も今も活かされていますね。みんなが楽しめるパーティーの場を作ることが外と繋がる大切な機会だったというか、そこで元気をもらったり、制作の上でも刺激を受けたり、そういう影響が自然に反映されていますね。
— ファーストアルバムは、ヒップホップ、R&B、レゲエを軸に、様々な民族音楽や昭和の歌謡曲、昔習っていた声楽の要素なども織り交ぜることで、オリジナリティを模索した作品でしたよね。
CHIYORI:ファーストは色んな音楽を聴いて研究する前に歌い始めた生のままの歌世界という感じがしますね。当時は天然の音楽好きだったというか、歌を通じて自分の感情を伝えたいという一心でしたからね。誰かの真似をしようとは全く思わなかったですし、ワン・ループのビート上で、民族音楽の節回しや歌謡曲の良さを取り入れてみたり、そういう試行錯誤から自分のオリジナリティを見つけたかったんです。
— 歌に関していえば、メインボーカルを追って、さらっと聴いても気持ちいいんですけど、延々と多重録音したであろうコーラスワークのアプローチ、フレーズひとつひとつにCHIYORIさんの創造性が発揮されていて、作品の深みになっていますよね。
CHIYORI:ボーカルを楽器のように扱える人は数学的な引き算の発想ができるんでしょうけど、アレンジが整然としていて、もうちょっと声が曲に溶け込んで、アンビエントな、自然な感じになると思うんですけど、このアルバムでのコーラスワークは和音とかキーを考えたものではなく、インプロビゼーションのように、その場の当てずっぽうで重ねていく面白さを追求していて、不協和音になっている部分もあったりしますし、自己主張の強いラップを聴いていた影響なのか、感情的な思いがはみ出していて、作品としては足し算の発想で成立しているものなんですよね。それは当時の私の天然の作家性というか、今の自分には狙って表現できないものだと思いますね。
— それに対して、2011年のセカンドアルバム『WALKING TO THE SUNRISE』はヒップホップ、R&B、レゲエをストレートに極めた作品ですよね。
CHIYORI:セカンドの制作は、20代後半を迎えて、生活しながら、どう音楽を続けていくか。そのバランスがなかなか見つけられなくて、自分のなかで葛藤がありました。そして、レコーディングの終盤には東日本大震災も起こって、みんなそうだったと思うんですけど、音楽をやることの意味や意義を問われて、何を発するのか、特に歌詞は悩みましたね。
— アルバムタイトルの”SUNRISE”は苦悩の裏返しだったわけですね。
CHIYORI:音楽的には、レコーディング終盤がちょうどJ Dillaにハマっている時期で、言葉よりリズムとかグルーヴ、それまで無意識的に捉えていたものを意識して曲作りをしていました。J Dillaのビートって、ジャストじゃなく、ズレてるじゃないですか。DOWN NORTH CAMP周辺の人たちはそれを当たり前のようにやってるし、それまでジャストなリズムの音楽をやってきた私にとって、初めて聴いたBudamunkくんのビートはホント衝撃で(笑)。でも、ズレから生まれるあのグルーヴがどんどん癖になっていったり、歌以外の部分の考えも深まっていきました。
— そして、セカンドを出した2011年に今回のアルバム『Five Waves』を作ることになる新バンド、CHIYORI with LOSTRAINSを結成したんですよね?
CHIYORI:結成したのはたまたまだったんですけど、そうですね。今は脱退しちゃったんですけど、ベースの(小林)樹音くんとSNS経由で知り合って「私もバンドを組みたいんだよね」って話をしたら、「僕がメンバーを集めます」って。だから、他の4人のメンバーは一緒にスタジオに入った時に初めて会ったんですけど、すでに私の曲をコピーしてきてくれて、ファースト、セカンドの曲をみんなで合わせたんです。それまで独りで活動していたのでみんなで音を出すってだけでブチ上がったし、元々は打ち込みの曲だったのが、生きた演奏になっていく感覚は衝撃的な感動でした。
— 音楽を続けていくうえでの悩みを抱えつつ、偶然の出会いから結成されたバンドが歌う喜びを思い出させてくれた、と。
CHIYORI:そう、みんな、私より年下で、ギターのラブアンリミテッドしまだんなんかは8歳下なんですけど、感性がソウル大好きおじさんだったり(笑)。(TAMTAMのドラマー)高橋アフィとは音の趣味も近いし、みんな相性も良くて、あのタイミングで出会えたのは私のなかでかなり大きくて、今でも感謝していますね。
— そして、バンドとしては、STUTSがオリジナルのビートを手がけた”LOVE&LIGHT”とCHIYORIさんが客演したEVISBEATS”AGAIN”のセルフカバーを含む最初のEP『LOVE&LIGHT』を2013年に出した後、同じ年に降神の志人とのコラボアルバム『家の庭』を発表してますよね。
CHIYORI:『家の庭』は、プライベートでも仲がいい志人から「バンドサウンドであたたかいサウンドを一緒に作ろう」ってなって、そこから早かった。鉄は熱いうちに打て、じゃないけど、志人の熱量はものすごいので、何度か合宿してセッションして、録音は1日で一気に終わった奇跡的なアルバムですね。
— あのアルバムはいまや入手困難なレア盤ですもんね。でも、その勢いのまま、アルバムを作るのかと思いきや、今回の『Five Waves』リリースまでに実に6年。その間、クラブやライブではお見かけしていましたが、音楽制作の状況はいかがでしたか?
CHIYORI:フィーチャリングの曲を作ったり、ソロアルバムの制作は今も続けているんですけどね。あと、音楽を掘るのが楽しい……というか、自分に足りないものを吸収してストライクゾーンを広げたい意識が強いのかな。音楽を長く続けていくためには音楽愛を深めていった方が無駄に悩まないし、楽しくやっていけるんじゃないかなって。そんなこともあって、今回、バンドでアルバムを出すのも時間がかかってしまったんです。
— 歌を高めていくための精神修行というか、音楽との接し方がストイックですよね。
CHIYORI:なのかな(笑)。でも『WALKING TO THE SUNRISE』を出した2011年が自分にとっての転換期になったことは確かで、その時期から色んな音楽を掘り下げるようになったんです。新譜もそれ以前はそこまで意識してなかったんですけど、この年に出た新譜がたまたま私の好みどんぴしゃで。クラウドラップのフワフワした感じもありつつ、尖ったヒップホップを提示したA$AP Rockyの最初のミックステープ『Live.Love.A$AP』、それから内省的な音楽であると同時にヘヴィーなベースミュージックでもあったJames Blakeのファースト・アルバム。ボーイッシュなテイストとキュートなボーカルが共存していたThe Internetの『Purple Naked Ladies』であるとか、そういった当時の新譜をきっかけに、音楽収集をはじめたり、探究に拍車がかかりましたし、それによって、歌の録り方、表現のアプローチも変わって。例えば、エモーショナルな部分をダイレクトに表現しないアプローチにエモさを感じられるようになったことで、以前だったら、張り上げて歌っていたところを、敢えて、囁くようなウィスパーボイスで歌ってみたり、表現の幅が広がりましたね。
— 音楽探究といえば、今はジャズ喫茶でも働いているんですよね?
CHIYORI:そうなんです。ジャズにハマったきっかけは、J Dillaのグルーヴ感を消化してジャズを作っているRobert GlasperとかChris Daveの存在を知って。しばらくしたら、現代のジャズを紹介する『Jazz The New Chaper』が刊行されたんですけど、その本の関連イベントや、dublabのD’Angeloのアルバムを聴く会といったイベントの会場が、今働いているジャズ喫茶だったんです。遊びに行ったら、そこのサウンドシステムがめっちゃ良くて、しかも、18時までは私語厳禁っていう相当にストイックなところなんですけど、クラブとは真逆なお店の雰囲気と、ジャズおやじ達に混ざって爆音を浴びる独特な空気に惚れ込んでしまったという(笑)。どジャズにはそれまで特に興味なかったんですけど、あんなにいいスピーカーだとハードバップも大好きになりましたね。
— 鳴りが素晴らしいと、どんな音楽でもすっと入ってくるんですよね。
CHIYORI:ですよね。そのなかでも一番好きなのは、Weather Reportみたいな、ちょっと実験的なものとかDon Cherryのようなスピリチュアル・ジャズとか、想像力をかき立てられるもの。お店では、Pat MethenyやECMだったり、Robert Glasperなどの新譜もかけたりするし、色んなジャズの扉があるのがいいんですよ。そんなこともあって、ライブで地方遠征したりすると銭湯とジャズ喫茶を探して行くようになりましたね(笑)。ジャズ喫茶も銭湯も、どこも長い歴史があるお店ばかりだから、お店それぞれに独自な世界があるんですよね。そういうところに行きつつ、週末の夜はクラブに行くのがまた楽しいっていう(笑)。
— ディープなパーティでよくお見かけしますし、ハードコアな音楽好きですよね。そういう方であるからこそ、アンダーグラウンドな振り切った音楽を指向するのかと思いきや、ソロもそうですし、今回リリースしたバンド名義のアルバム『Five Waves』では、むしろ、洗練されたアレンジとスムースなグルーヴをベースに、普遍的なソウルミュージックを指向していますよね。
CHIYORI:シンセサイザーの音色やミキシングも、確かにそういう音楽ですよね。曲によっては、ダビーな”Day by Day”とかスペーシーな”Space Operation”とか、深みに誘うような曲もありつつ、そういう曲でも入りやすい入り口とシンプルに気持ちの盛り上がる着地点を設けることは意識していて。そういう音楽のあり方がソウルミュージックのいいところだと思いますし、結局のところ、私の音楽は人のことを知りたい、人の心に影響がある音楽を残したいという気持ちから始まっているので、自然と普遍的な音楽に向かっていくんでしょうね。エクスペリメンタルなこともやってはみたいんですけど、いざバンド作品を作るとなると、時間が経っても変わることがない普遍的な音楽であることを今回は一番に意識していたと思います。
— なるほど。
CHIYORI:歌詞もそう。具体的な固有名詞を入れた歌詞や何かを言い切るような歌詞も書いてはみたいんですけど、具体的すぎる歌詞は時と共に色褪せてしまうし、何かを言い切るのが怖いというか、そういうものは信用出来なかったりするじゃないですか。だから、具体的すぎず、抽象的になりすぎないギリギリのところを常に探しているんですよ。バンドは私ひとりの世界ではなく、メンバーの関係性で成り立っているし、コード進行だったり、曲構成やアレンジもしっかりあるものだから、このアルバムでは、サウンドはもちろん、私としては歌詞の世界観は大事にしていましたね。
— では、この6年は、ライブをやりつつ、そういう曲作りをじっくり続けていた、と。
CHIYORI:2013年以降の活動としては、アルバムを出さなきゃという気持ちがありつつも、私は私でソロ活動があり、メンバーそれぞれやっているバンドが忙しくなり、集まるのは月1回くらい。だから、ライブも何年もやっていなくて、バンドとしては制作を第一に考えていて。ギターの子が元となる曲を打ち込みで作ってきてくれたりして、それをみんなでバンドアレンジしていくんです。そして、その演奏を録音したものを私が家に持って帰って、メロディと歌詞を付けるというプロセスで曲を作っていくんですけど、誰かが中心になって、方向性を決めたり、判断して作っていたわけではなかったので、気づいたら、すごい時間がかかってしまい。でも曲は沢山あったので、そのなかから10曲を厳選しました。
— アンビエントやダブ、サイケデリックのテイストを程良いバランスで織り込んだ楽曲に対して、歌詞も日常とその延長にある宇宙が繊細なタッチで描かれています。
CHIYORI:そうそう。素朴な日常とすごい遠くの宇宙。私はいつも音楽を楽しむ時、その距離感を意識するんですけど、日常からあまりに離れてしまうとスピリチュアルになりすぎてしまうので、分かりやすく言うなら、俗世と浄土が同居した世界を描こうと心がけました。音楽それ自体は形がなかったりするし、スピリチュアルなものだと思うんですけど、日常の素朴さや誠実な気持ちは忘れないよう意識していたいです。
— さらっとポップスとしても聴けるし、ヘッドフォンやいいスピーカーでじっくり聴くと、ボーカルの多重録音が織りなす深遠な世界が浮かび上がってくるアルバムの構造も同じですよね。
CHIYORI:ライブはライブでボーカル1本で成立させるアレンジを考えるのも面白いし、一発録りの格好良さにも憧れるんですけど、私の作品はボーカルの多重録音ありき。ソロのファースト、セカンドもそうなんですけど、声を重ねていくのが未知で面白いんですよね。だから、そういうことを踏まえて、ポップにもディープにも聞こえる音楽は意識していますね。
— しかも、今回、バンドで作った曲をDJ形態のライブは、原曲のメロディと歌詞はそのままに、それに合うビートを探してきて、ビートジャック・スタイルで歌っているんですよね。先日拝見したライブでは、アルバムとは全く違う曲になっていて、あれには驚かされました。
CHIYORI:そういうインストトラックを探すのが趣味じゃないけど、SoundCloudとかインストだけを扱うサイトにアップされている音源をひたすら聴いて、コードが合う曲を見つけてきて。しかも、そこに歌を乗せてるだけじゃなく、歌に合うようにトラックを切り貼りしたり、コーラスを入れたりもしているんです。今回のアルバムに収録の”Last Station”と”Gravitation”のソロライブ用に仕込んでるビートジャックを、SoundCloudにアップしたんですけど、コーラスも少なめのライブ仕様にしてあるので、作品とは違う生々しさも楽しんでもらえればと思います。
— そういう意味で、バンド形態とDJ形態を行き来して楽しめるアルバムでもあると。長年の念願だったバンドのアルバムに続くトラックものの作品も引き続き楽しみにしつつ、DJでもあるCHIYORIさんに制作をお願いしたDJミックスについて一言お願いします。
CHIYORI:心底好きなジャズ、ソウル、ファンク、それからメンフィスのヒップホップの面白さを伝えたくて、多めに入れました(笑)。そう、化石化したトラップのご先祖様ですからね、崇めております。LR逆のままレコーディングしてたり、お金がないからか、録音環境があまりに悪すぎて、90年代前半の曲なのに、80年代初頭みたいな音になっちゃってたり、下品にも程があるだろってリリックも突っ込み所多すぎて、もはや癒されます(笑)。そんな感じで、歌の世界観とはまた違った、でもめっちゃ自分らいしいミックスになりました。是非楽しんでください!
開催日時:2019年11月1日(金) OPEN 19:00
開催場所:幡ヶ谷 FORESTLIMIT
料金:2,000円(ドリンク代込)
RELEASE LIVE:
CHIYORI with LOSTRAINS
LIVE:
tajima hal & good neighbors
DJ:
BUSHMIND
藤井洋平
CHIYORI with LOSTRAINS (B2B)
FOOD:
petfood
VJ:
PhaseOne