— その後のニューエイジ・リヴァイヴァルを遥かに先駆けていたニューエイジアーティスト、Iasosの『Inter-Dimensional Music』やバレアリック・クラシックとして再評価されているスペインのFinis Africaeだったり、クラブミュージックの流れと合致した作品も多いですよね。
江村:2005年にリリースしたIasosは、当時、アメリカに輸出したら、向こうの人はもうどん引きだったんですよ。彼の『Inter-Dimensional Music』はスペシャルなアルバムなので、今でもすごく好きなんですけど、ニューエイジというのは、近いニュアンスだとLOHASと同じようなマーケティングのワードとして、ある時期から企業の金儲けの手段みたいな方向になっちゃって、本場の人にとってはタイミング的にもオワコンだったんです。それがですよ、2010年代に入ったらニューエイジ・リヴァイヴァル。あれはすごいですよね。生き返りましたからね。ちなみに一昨年会ったRVNG Intl.のマット社長はIasosとFinis Africaeをはじめ、エムの作品をめちゃめちゃ買ってくれてたことを知りました。
— EM Recordsは国内外のレーベルスタッフやDJ、ミュージシャンに大きな影響を与えていると思いますよ。
江村:海外の取材を受けた時、とあるジャーナリストが“Insider’s Favorite”っていう微妙な言葉で紹介してくれたんですけど、良くも悪くもEM Recordsはアーティスト向けのレーベルなのかなあ。で、それにセールスがリンクしない。何故かというと、アーティストは吸収したものを作品でアウトプットするけど、宣伝はしてくれないんだよ(笑)。名前は出しませんけど、あの人もこの人も「支持してますよ」って会うと声かけてくれる。なら宣伝してくれって(笑)。まぁ、でも、我ながら呆れるくらいの貧乏性で、音楽にしかお金を使ってこなかったから、こうして今でもレーベルを続けられているのかなって。
— そして、近年は、映画『バンコクナイツ』のトリビュート企画での坂本慎太郎 × VIDEOTAPEMUSIC、stillichimiya × COMPUMA、井出健介と母船 × Hair Stylisticsだったり、以前、この連載でも取り上げさせてもらったSugai Ken、YPY、Synth Sisters、7F0をはじめ、新譜のリリースが増えていますよね。
江村:それは実は世のデジタル化と結びついていて、ワクワク感の減退というか、はっきり言えばシラけてしまった。レーベルを始めた当初はリイシューにおいてもクリエイティヴィティを発揮する余地があったんですけど、デジタル化によって、状況が様変わりしてしまった。そして、一時期、うちのリリースは海外のレーベルにめちゃくちゃ真似されたんですよ。同業者だから分かるんです。それもシラけた原因ですね。アメリカ、韓国、カンボジア混合のJee Jee Bandのアルバム『Glass Fish』(2015年)のライナーノーツでVOX MUSICの織田(一弘)くんが言い得て妙なことを書いてくれたんですけど、世界全員強制参加の過酷なレースであるグローバリズムにおいては、例えば、今まで秘密にされていたデトロイトのアンダーグラウンドのダンスミュージックだろうが、日本の田舎の端にある民謡だろうが、全てが白日の下にさらされて商品になる、と。リイシューに関してもその流れは避けられず、あらゆるものの蓋が開けられてしまい、自分はそこで何が売れるのかが読めてしまうので、はっきり言えば、面白くなくなってしまったんです。