Vol.100 江村幸紀(EM Records) – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、世界の音楽シーンに多大な影響を与えている大阪のレーベル・EM Recordsのオーナー、江村幸紀。
1998年の設立から今年で21年目を迎えるEM Recordsは、ネットが未発達だった時代に所在が判然としない、しかし、独創的な音楽性を誇る海外の知られざるアーティストの丁寧なリイシューを手がけ、全世界のオーセンティックなポップス愛好家に衝撃を与えると、その後、レーベルはよりオブスキュアな方向へ。ニューエイジに異形のコールド・レゲエ、ヒッピーフォークに知られざるバレアリックミュージック、快楽性の際立ったディスコレゲエなど、ジャンルを問わず、リスナーの度肝を抜くリイシューによって、海外レーベルやハードコアなリスナー、耳が早いリスナーがリスペクトするレーベルとなった。そして、近年は新作やアジア圏の作品リリースに軸足を移し、坂本慎太郎やVIDEOTAPEMUSIC、stillichimiya、COMPUMA、Hair Stylisticsらが参加した映画『バンコクナイツ』関連のプロジェクトや日本の民謡、タイ音楽のリイシュー、SUGAI KENやYPY、Synth Sistersといったレフトフィールドな現行アーティストの作品を精力的にリリースし、未踏のフィールドを開拓し続けている。
そんなEM Recordsの最新作は、stillichimiya、鎮座DOPENESSが全面協力した日泰共同体制のもと、2年の歳月をかけて制作したレーベル初のヒップホップアーティストであるタイのJuu & G.Jeeのアルバム『ニュー・ルークドゥン』だ。グローバリズムの広がりと共に均質化しつつある音楽シーンに一石を投じるアジアのローカリズムに根ざしたこの作品をリリースするに至った経緯をEM Recordsの歴史を紐解きながら語ってもらうと同時に、江村氏が初めて制作したという貴重な、そして、とことんディープなDJミックスを提供していただいた。

Photo:Shimpei Hanawa | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki | Engineered & Mastered:Takuto Kuratani ©︎ 2019 Eel's Bed Productions

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※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「音楽におけるミニマリズムと生活におけるミニマリズムは根本的に違う話だし、無駄を削ぎ落としたら、確実に音楽がつまらなくなりますよね」

— EM Recordsは設立から今年で21年目になるんですよね?

江村:はい、もう21年経ってましたね。本当は去年、20周年のタイミングでがっつり商売しないといけないんでしょうけど、乗り気がしなかったということもあり(笑)。というのも、自分はもちろん、レーベルの作品を買ってくれるお客さんも毎日音楽と向き合って、日々大切にしている人たちですからね。

EM Records
西のHonest Jon’sと双璧をなす大阪が世界に誇る最重要レフトフィールド・レーベル。1998年の設立からリリースを重ねてきたセンセーショナルな作品の数々は数年先のシーン動向を先取りし、RVNG Intl.やBokeh Versionsといった第一線のレーベル、BEN UFOや坂本慎太郎、COMPUMAをはじめとする全世界のDJ、音楽家に多大な影響を与え続けている。

— レコードストアデイも同じですよね。その時の盛り上がりも悪くはないんでしょうけど、こちらは毎日レコードを買ったり聴いたりしているわけで。

江村:例えばネットラジオ、NTSの番組『Japan Blues』のホスト(元Honest Jon’sのレジテント)Howard Williams(ハワード・ウィリアムス)だったり、Honest Jon’sとかその周辺は全くタッチしていませんし、そういうイベントごとをやる人とやらない人がはっきり分かれますよね。

— 今、名前が出たHonest Jon’sは、ロンドンの老舗レコードショップにして、クオリティの際立った多種多様なリイシュー作品と新作のリリースで世界から一目置かれるレーベルですよね。EM Recordsも知られざる音楽、それもただレアなだけでなく、類い希なるオリジナリティと強度を誇る作品を数々リリースしてきて。海外の音楽シーンに大きな影響を与えているという意味において、歴史や規模の差こそあれ、自分はEM Recordsを極東のHonest Jon’sとして捉えているんですけど、レーベル設立当初はオーセンティックなポップスのリイシューが中心でしたよね。

江村:EM Recordsを始める前、僕は大阪のJellybean Recordsっていう、レコードショップと服屋を合体した、かなり尖った店で働いていました。当時、Discogsも何もない時代に60’sポップの知られざる名作、名曲を際の際まで紹介していたVandaという雑誌を起点に、60’sのポップスがすごく盛り上がっていて、そうした音楽のマーケットがあったんですね。僕はレコード店の視点を常に持っているので、その状況下で何が売れるか見えていたし、いくつかの作品に目星を付けて、1998年にレーベルを立ち上げたんです。日本のCDの製造枚数がピークだった時期でもあり、自分が思っていた通りに作品が売れたのはラッキーでもあったんですけど、当初はあくまでビジネス目線で始めたんですよ。

— 1990年代はVandaやモンドミュージック、High Llamasの登場などの後押しもあって、The Beach Boysの再評価がピークの時期でしたけど、最初期のEM Recordsは、Harmony GrassやChris Rainbowといった知られざるビーチボーイズ・フォロワーの作品を時代に合致する形でリリースしていましたよね。

江村:まぁ、それこそがレコードショップの視点だったというか、立ち上げたからには結果を出さないとね(笑)。ただ、レーベル1本でやっていこうと決断するまでに2年ほどかかりました。というのも作品はまあ売れていたんですけど、製造費用が今とは比べものにならないくらい高かったんですよ。