Vol.126 佐藤優介 – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJ、アーティストのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、2021年8月に2年ぶりとなるシングル”UTOPIA”を発表した鍵盤奏者にして、プロデューサー/アレンジャー/コンポーザーの佐藤優介。
KID FRESINOやスカート、ムーンライダーズ、カーネーション、jan and naomi、Kaede(Negicco)など、幅広いアーティストから絶大な信頼が置かれている彼は、ライブにおいて猫背気味に鍵盤に向かう寡黙な佇まいと鍵盤を踊る指先から紡ぎ出されるプレイの雄弁さがよく知られているが、寡作な音楽家は2019年の初EP『Kilaak』から2年ぶりとなる最新シングル”UTOPIA”において、膨大な音を重ね、唯一無二のポップ世界を濃密に、多弁的に描き出す。今回は、時にシンフォニックに、またある時はリズム・オリエンテッドに、予想がつかないサウンドスケープを描き出す彼にインタビューを敢行すると共にDJミックスの制作を依頼。未体験のフレッシュネスを追い求める音楽家のルーツに迫った。

Photo:Takuta Murata | Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「曲作りで一番面白いのは、想像していたのと違う方向に進んでいって、「これどうなっちゃうんだろう?」と思う瞬間なんです」(佐藤優介)

— 佐藤さんは、今年70歳のムーンライダーズ鈴木慶一さんを筆頭に、カーネーション、スカート、jan and naomi、KID FRESINOまで、世代、ジャンルを超えた幅広い作品やライブに参加されていますよね。

佐藤:そう言われてみれば、Kaede(Negicco)さんのようなアイドルの方もいるし、みなさん年齢もタイプもバラバラですけど、自分にとってあんまり違いはないんです。例えば鈴木慶一さんは、年は確かに上かもしれないけど、同じ世代のような感覚もあるし、新しいものに対してもすごく敏感だし。そういう面ではFRESINOも一緒で、自分にはなかった考え方とか、新しい音楽を教えてもらうことが多いし。世代は確かに幅広いかもしれないけど、自分の中ではバラバラに存在しているみたいな感じではないんです。

— ある意味で、鈴木慶一さんとKID FRESINOが繋がっている、みたいな。そうやって分け隔てなく、フラットに音楽を捉える佐藤さんは音大出身でもありますよね。かねてから、ポップフィールドでの活動を念頭に音大に進学されたんですか?

佐藤:音大というとアカデミックなイメージがあるかもしれないけど、自分のいたところは結構フランクで、バンドマンみたいな奴もいっぱいいて。僕自身、音楽理論の勉強とかよりも、記憶にあるのは廊下でサッカーをやってたとか(笑)、自分にとってはそういう勉強よりも人との出会いの方が大きかったですね。

— 例えば、大学の2年先輩であるスカートの澤部渡さんであるとか?

佐藤:そうですね。あと、大学の先生に、フリッパーズ・ギターのプロデューサーだった牧村憲一さんがいて、その人の授業がすごい面白かったんですよ。1コマの授業で、ゴダールの映画を1本みたり、シュトックハウゼンのような現代音楽も混ぜながら、ポップスの歴史を行ったり来たりするような講義で、色んな音楽や音楽の発想、もっと大きな意味でのカルチャーとの出会いの方が自分にとっては大きかったですね。かたや、音楽理論というのは数学における公式みたいなものであって、自分が具現化したいイメージになるべく早く到達するための手助けくらいにしかならないので、音楽理論に頼っていると自分のイメージの範疇から逃れられないというか、その外に飛び出すためにはアイデアや発想が必要になってくるので、自分にとって音楽理論はそこまで大事なものではないんです。

— では、自分独自の音楽を作るためには、音楽理論を勉強しただけでは足りないということに早い段階から気づいていたと?

佐藤:そうですね。例えば、(現代音楽家の)John Cage(ジョン・ケージ)もサイコロを振って、出た目で曲を作る、みたいなことをやっていましたけど、自分も五線譜にずっと向かい合うより、そっちの方が面白いなと思ってしまったんですよ。

— ちなみにポップミュージックとの出会いは?

佐藤:子供番組『ポンキッキーズ』でずっと流れていたThe Beatlesですね。この音楽はなんだろうと思ったのが最初で、小学生の頃は親に買ってもらったベストアルバム『1』をずっと聴いていましたね。俺の母親は、家で近所の子供にピアノを教えていて、家で自由に弾ける環境はあったんですけど、基本である指の練習があまりにイヤすぎて、クラシックピアノが習えなかったので、その代わりに買ってもらったThe Beatlesの楽譜を弾くようになって、楽譜の読み方より先にコードを覚えたんです(笑)。

— そして、The Beatlesの次は?

佐藤:同じ小学生の頃に知ったのがムーンライダーズですね。

— え、小学生でムーンライダーズ?

佐藤:スーパーファミコンの『MOTHER2』っていうゲームがあって、その音楽に衝撃を受けたんです。曲がいいのはもちろんなんですけど、人の声のサンプリングとか、TR-808とかテクノ系の音もいっぱい使われてて、子供心に「めちゃくちゃ音がいいな」って思って。

— 『MOTHER』シリーズは音楽性の高さが未だに語り継がれる作品ですもんね。

佐藤:自分にとっても音楽の教科書みたいなゲームだったんです。それで調べてみたら、ムーンライダーズの鈴木慶一と(アニメ『ポケットモンスター』の楽曲を手掛けたほか、テクノやレゲエを取り入れたゲーム音楽が世界からリスペクトされる音楽家)田中宏和さんという人が音楽をやっている、と。それでライダーズを聴くようになるんですけど、時代ごと、作品ごとに音楽性が全然違っていて、その自由度の高さに驚かされたという。

— 鈴木慶一さんはポップセンスもさることながら、1991年にThe Orbにいち早くリミックスを依頼されたりしていますしね。

佐藤:そう、新しい音楽に対する反応が早いんですよ。そうやって70年代からずっと活動されてきた慶一さんの音楽を、後追いも後追いの僕が聴かせてもらって、作品ごとにこんなバラバラなことをやっていいんだと思ったんです。先日ムーンライダーズのライブに参加させてもらったときも、リハ中に曲のアレンジがどんどん変わっていったりして、メンバー全員がすごく柔軟で。そういう自由なスタンスから受けた影響の大きさを再認識しましたね。

— 曲を作り始めたのはいつ頃から?

佐藤:中学生の頃ですね。これもまたゲームなんですけど(笑)、ゲームボーイ版の『beatmania』に”RYDEEN”が入っていて、当時流行っていた音楽とは全く違う音に衝撃を受けて。「この音楽、この音色は何なんだ!?」というところからY.M.O.を聴くようになり、シンセに興味を持ったんですけど、たまたま、叔父さんがROLAND SH-01というアナログシンセを持っていたので、それを譲ってもらったんです。今のシンセはあらかじめ作られた音、いわゆるプリセット音が沢山入っていますけど、アナログシンセはツマミをいじって音そのものを作るところから始まるので、無限に遊べるんですよね。だから、シンセで聴いたことのない音を作ってはそれを多重録音するところから僕の曲作りは始まりました。

— そこから200以上のトラックを重ねながら制作している現在のソロとも繋がっているわけですね。

佐藤:そうですね。「これをやったらどうなるんだろう?」と、頭で分からないことをやってみる。その繰り返しかもしれないです。

— ここまでお話をうかがってきて、The Beatlesやムーンライダーズ、Y.M.O.だったり、自分より世代が上のミュージシャンにインタビューしているような気分なんですけど(笑)、今年、30歳の佐藤さんの世代は、使える音色に制限があった時代のゲーム音楽からの影響が少なからずあるというか。佐藤さんご自身も田中宏和さんのプライベートデモ集『Lost Tapes』の監修、編集を担当されていますし、ヴェイパーウェイヴのようなエレクトロニックミュージックから実際にゲーム音楽からの影響を公言しているThundercatやKamasi Washington(カマシ・ワシントン)のようなジャズミュージシャンまで、同世代、近い世代の音楽家を語るうえで、ゲーム音楽からの影響は無視できない気がします。

佐藤:ゲーム音楽と一言でいっても、僕が影響を受けたゲーム音楽は大体2000年くらいまでのものなんですよ。今のゲーム音楽は使える音色に制限がなくなって、普通の音楽と変わらないんですけど、2000年以前のゲーム音楽は制約があるなかで、生まれたものだったりする。僕はインターネットが今ほど発達していない90年代に福島の田舎で生まれ育ったので、情報も音楽そのものもなかなか手に入らなかったりして、制約のあった音楽環境が今の自分の音楽に繋がっているような気がします。

— 佐藤さんが発表した2作、2019年のEP、そして今回のシングル”UTOPIA”は、あらゆる制約から解き放たれたような、目まぐるしい展開、場面の切り替わりが大きな特徴というか、それはまた映像的でもあるように感じました。

佐藤:曲を作る時、なんとなく思っているのは、自分の作品は映画っぽいものにしたいということ。普通のポップスだと、Aメロ、Bメロ、サビ、その繰り返しで成り立っていますけど、俺は1番を聴いて、また2番が来ると、さっき聴いたじゃんって思っちゃうんですよ(笑)。でも、映画だとそうはならない。起承転結があるというか、流れがあって、オチがある、そういう時間の流れを有効に使った方がいいんじゃないかって。恐らく自分は飽きっぽいんですよ。聴くものもそうだし、作ってる曲も飽きたら、途中で止めちゃうので、自分が飽きないための仕掛けが必要なんです。映画でもダラーッっとした時間が続いたなと思ったら、絶対その後に何かが起こるじゃないですか。そういう映画のリズムを音楽に持ってきたいというか、近づきたいなと思っていますね。

— そして、目まぐるしい展開と共に、音が洪水のように溢れてくるというか、曲を構成する音数が尋常じゃないなって。

佐藤:そういう部分ではオーケストラの影響があるんですけど。オーケストラの、全部の楽器が1枚にずらーっと並んでるスコアを見てると、混ざると絶対聴こえないような音が書かれてたりするんです。でも、「じゃあ、いらないじゃん」って、その音を取り除くと、やっぱり音楽の鳴り方が変わってしまったりする。色んな楽器、メロディが重なって生み出されるモヤーッっとした音像がオーケストラの魅力というかマジックでもあって、それを自分なりにやってみたかった。

— その音像を再現するために、 1曲にとんでもない労力と時間が注ぎ込まれています。

佐藤:どんどん引きこもりになって、社会性も失われていって……(笑)。ずっと独りでやってると、そこが大変ですね。曲作りって、どうしても最初は頭の中にあるイメージをゴールに設定しがちなんですけど、一番面白いのは、想像していたのと違う方向にどんどん進んでいって、「これどうなっちゃうんだろう?」と思う瞬間だったりして。その瞬間をどうやって生み出すか。例えば、間違えて弾いたフレーズをもう1回弾けば、それがパターンになって成立するので、間違えるまで同じフレーズを弾き続けてみたり。そういう意外なもの、ドキッとする瞬間をどう持ってくるかでいうと、やっぱり映画が近いのかなと思うんですけど。

— ちなみに佐藤さんが一番感銘を受けた映画作品というのは?

佐藤:リズムが明らかにおかしくて衝撃を受けたのは、ソ連時代のSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』。オフビートのゆるいSFなんですけど、描写の抜け落ち方というか、省き方がエグいんですよ。あとは、Alejandro Jodorowsky(アレハンドロ・ホドロフスキー)の『エル・トポ』、David Lynch(デヴィッド・リンチ)の『ワイルド・アット・ハート』とか、展開のドライヴのかけ方が極端すぎて笑っちゃったりすると、これは音楽にもできるんじゃないかと思ったりして。

— 自分の脳内で鳴っているイメージを具現化したチェンパーポップ、独りオーケストラ的な2019年のEP『Kilaak』に対して、最新シングル”UTOPIA”は異形のファンクというか、佐藤さんなりのリズム解釈がテーマであるように思いました。

佐藤:最初にまず理想のグルーヴを見つけようというところからスタートして。キックの位置とかを細かくずらしていって、DAWの画面上だと240分の1秒とか、そういう単位で自分の気持ちいいポイントを毎日延々と探して(笑)。だから、クオンタイズしてたら絶対に作れないグルーヴになってると思います。

— サウンド的には80年代に一世を風靡したシンセサイザーが用いられていて、80’sポップスの影響が色濃く反映されています。

佐藤:そうですね。ソフトシンセではあるんですけど、E-Mu Emulatorだったり、Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)とかArt of Noiseなんかが80年代に使っていたシンセの音が好きなんです。スーパーファミコンとかのゲーム音楽にも当てはまるんですけど、当時の低ビットの荒い音が今また新鮮に聞こえるような気がします。

— つまり、音楽における未知なるフレッシュネス、その飽くなき探求が佐藤さんの音楽になっていると。

佐藤:「これをやったら面白いんじゃない?」っていう直感的なものが一番好きなんです。

— では、最後に普段DJをされない佐藤さんに無理言って制作していただいたDJミックスについて一言お願いいたします。

佐藤:無機的なものと有機的なものが交錯してて、多分そういうものに惹かれるんだろうなと再認識した感じです。ありがとうございました!