Vol.124 TCS – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJ、アーティストのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、ブルータルフューチャージャズバンド、TCS。
TCSは、ハードコアバンド、TIALAのベーシスト、谷口圭祐が小岩のライブハウス、BUSHBASHにて行っていた即興演奏のイベント『PASSING』に出演していたドラムの藤巻鉄郎(ex - group)、ギターの岡田了(EXTRUDERS)、モジュラーシンセサイザーの野本直輝からなるハードコアをバックボーンに持つ4人を軸に2017年に結成。ジャズやハードコア、ヒップホップやエレクトロニックミュージック、ノイズ/アヴァンギャルドなど、多様な音楽要素が渦巻く先鋭的なサウンドがDJやビートメイカーを含む耳の早いリスナーの間で噂になってきた。独ダブテクノのパイオニア、Poleがマスタリングを手掛けた2018年の1stアルバム『TCS』、Ramzaによるリミックスを収録した2019年の2ndアルバム『FUTY』でリードパートを担っていたピアノ/キーボードの武田理沙に代わり、2021年のサードアルバム『TREE』では、新たにサックス/ターンテーブルで大谷能生、パーカッションでマルコス・フェルナンデスが加入。フリーインプロビゼーションに渦巻くエネルギーを糧に、ある瞬間はミニマルに、またある瞬間はフリーキーに、自在に伸縮するスリリングな演奏を進化させつづけている。
そんなTCSの突然変異的な音楽性の謎に迫るべく、バンドゆかりの地であるBUSHBASHにて初インタビューを行うとともに、DJミックスの制作を依頼した。なお、インタビューには、前日、BUSHBASHでライブを行ったRAMZAが途中から同席。そのハプニングは、音楽と人が行き交う場が宿すマジックによって、TCSが生まれ、育まれていることをまざまざと思い知らされた。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo:Takuya Murata | Edit:Keita Miki | 協力:BUSHBASH、PHONEHEAD

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「BUSHBASHでヒップホップやクラブミュージックに触れ、ヒップホップ経由でジャズが好きになりましたし、そうやって吸収してきた色んな音楽が即興演奏やTCSに投影されているんだと思います」(谷口圭祐)

— まず、TCS結成のいきさつについて教えてください。

谷口:もともと、僕は2013年から2017年まで、(小岩のライブハウス)BUSHBASHで『PASSING』というインプロビゼーションのイベントを毎月主催していたんです。その企画は、自分が毎回が出て、組み合わさったら面白そうなミュージシャンを集めて、デュオやトリオ、カルテットだったり、自由な編成の完全即興からどういう音楽が生まれるのかを楽しんでもらうというものだったんですけど、『PASSING』の企画が終わった2017年にそれまで積み重ねてきた即興経験をもとに、自分がコントロールできるバンドを新たに始めようと思ったんです。

野本:この4人はみんな『PASSING』に出演した面々だったりするしね。

谷口:そう。ドラムの藤巻くんなんかは同じリズム隊として、息が合う彼に出てもらうことで、セッションが上手く成立するということもあって、開催した『PASSING』の半分くらい出ているんじゃないかっていうくらいの常連なんですよ。もっと前の話をすると、僕はTIALAっていうハードコアバンドをやっているんですけど、みんな、その頃からの繋がりなんですよ。野本くんもハードコアバンドをやっていたし、ギターの岡田くんもTIALAとよく対バンしていたEXTRUDERSで活動していたり、それぞれに個性やバックボーンがあって、演奏を重ねるなかで、この4人で一緒に音を鳴らしたら面白いことになるんじゃないかと思って、まずはセッションに集まってもらいました。ざっくりした構成をもとにした即興演奏の形態だったんですけど、それが想像以上に面白いものだったので、同様のセッションを2回やったのかな。その後、ピアノ/キーボードの武田理沙ちゃんが加わってもう1回。そして、すぐにファーストアルバム『TCS』のレコーディングを始めたんです。

— ハードコアとインプロビゼーションは近しい表現だったりもしますが、バンドや曲から解放された即興演奏の世界はプレイヤーとして、すんなり入っていけましたか?

藤巻:僕は『PASSING』に参加する少し前から即興演奏をやり始めて、まぁ、その初めての即興演奏をやったのもBUSHBASHでしたし、バンドをやりつつ、即興演奏をすることは自分にとっては自然なことでしたね。

野本:もともと、僕はハードコアバンドでギターやベースを弾いていて。曲があるバンドもやっていたんですけど、曲がないハードコアバンドもやっていましたし、BUSHBASHの前身のライブハウス、eM SEVEN時代に、スケジュールが入っていない平日にプレイヤーを集めて即興セッションをやったり、即興演奏をやる土壌が周りにあったんですよ。それこそ、藤巻くんと出会ったのも、フリージャズの流れを汲む即興の現場だったりしたので、『PASSING』に誘われることは全く違和感がなかったんです。

岡田:僕はEXTRUDERSの活動一筋でやってきたんですけど、バンド内で流行る音楽って、定期的に変わったりするじゃないですか? 当時は若かったから、フリージャズの山下洋輔トリオがパンクっぽくて格好いいという話から「これなら俺らでも出来るんじゃない?」って(笑)。同じように、大友良英さんのターンテーブルやギターのパフォーマンスを見た時にも「これ、自分でもやってみたいな」と思って、やり方が分からないなりに一人でリハスタに入って、即興演奏を試行錯誤するようなったんです。それで、そろそろ、人前で演奏してみたいなと思っていたところに『PASSING』からお誘いがあって。しかも、その時、一緒に演奏したのは藤巻くんだったんです。

谷口:BUSHBASHの店主、カッキー(柿沼実。TIALAのボーカリストでもある)がeM SEVEN時代から試行錯誤してきたことをみんなが面白がって、バンド界隈の色んなプレイヤーが集ってきたというか、TCSに関しては、BUSH BASHが育んできた即興演奏のカルチャーに影響を受けたというのが大きい気がしますね。

— それこそ、TIALAもハードコアを土台に、ノイズやニューウェーブからブラックミュージック、ダンスミュージックを消化した独自の作風を発展させてきたバンドですよね。

谷口:BUSHBASHが自分の遊び場だったりするので、そこで触れてきたヒップホップやクラブミュージックも大好きだし、ヒップホップ経由でジャズが好きになって、そこからジャズの勉強をしたり、色んな音楽を吸収してきたので、即興演奏もそのなかの一部として、ジャンルは関係ないと思って、活動を続けてきたTIALAに反映してきましたし、自分がやってる即興演奏やTCSにもハードコアを含め、これまで吸収してきたものが投影されているんだと思います。

— ハードコアはアウトプットこそラウドで激しかったりしますけど、その背後には豊かな音楽的なバックグラウンドがあるというか、個人的には、鋭い感度で様々な音楽を探究している方が多いシーンだと思っていますし、それこそ、ハードコアバンドでギター、ベースを弾いていた野本さんは、TCSではモジュラーシンセサイザーを担当されていますよね。

野本:僕は、多感な時期を過ごした1990年代中頃に、ハードコアはもちろん、テクノとかヒップホップ、大友良英さんがやてったGROUND ZEROのようなアヴァンギャルドミュージックだったり、ジャンルがごちゃっとしたなかで色んな音楽を聴いてきたんですね。だから、ハードコアバンドのギターにも興味があるんだけど、テクノで使われているシンセサイザーにも興味があって、それが自分のなかで当たり前のように共存していたので、沢山持ってるエフェクターを交えて、ギターやベースを演奏する行為とテクノから興味を持ったシンセサイザーを組み合わせて演奏する行為は自分のなかで全く矛盾するものではないというか、むしろ、ギターやベースのフィードバックサウンドとシンセサイザーのモジュレーションには共通するものを感じているかもしれないですね。

— 時にミニマルに、時にダイナミックに、しなやかに変化させるリズムアプローチもハードコアからテクノやヒップホップまで、様々な音楽からの影響が感じられます。

谷口:藤巻くんのドラムは、ミニマルだけど、抑揚というか、瞬発力もすごいので、かっちりするところはかっちりして、曲の流れによって、色んなアプローチで叩いてくれるので、自分が具現化したいヴィジョンに柔軟に乗っかってくれるし、想像を超えたものを生み出してくれるところが自分には合うのかなって。

藤巻:TCSでは、曲が出来る前に、ドラムとベースだけでスタジオに入って。そこで生まれたリズムのアイデアを固めるところから曲作りが始まるんですよ。

— つまり、TCSの音楽はリズムセクションが起点になっていると。

谷口:そうですね。僕と藤巻くんそれぞれのアイデアをまとめ上げることで生まれるグルーヴと『PASSING』で培ってきた即興性を上手く組み合わせたいというのが、TCSの始まりというか、自分の好きなリズムを織り交ぜながら、DTMのようにそれぞれのプレイヤーが担うセクションや絡みを時系列に構成して、その構成を念頭に置きながら、インプロビゼーションとして演奏するのがTCSの大枠になっているんです。

— このバンドは色んな聴き方ができると思うんですよ。ハードコアをルーツとしたポストロックであるとか、70年代のMiles Davis(マイルス・デイヴィス)に象徴されるエレクトリックでポリリズミックなジャズファンク、ヒップホップに触発された新世代のジャズ、電子音楽やクラブミュージック、ノイズ、アヴァンギャルドまで、TCSが内包する多面的な音楽性を柿沼さんが“ブルータル・フューチャー・ジャズ”と形容されたとか。

谷口:自分がジャズやインプロビゼーションにハマったのは、技術的、形式的、音楽的な話ではなく、プレイヤーたちが音をやり取りするなかで生まれる緊張感とかエネルギー。そういうものがジャズだと思っているし、僕らがアウトプットしたい音楽なんですよ。個人的にはそこにさらにヒップホップやクラブミュージックの要素を加えたかったりするし、メンバーのバックボーンが全く違うから、それぞれが持ち寄った要素のごった煮になるんです。TCSはそこが面白いところだったりするし、違和感を感じるところでもある気がしていて。つまり、ジャズの人から見たら、TCSはジャズじゃないと感じるんだろうし、クラブミュージックの人にとって、TCSはクラブミュージックとは受け取られないだろうなって。

— ただ、個人的に、メディアが取り上げる”現代ジャズ”は、USだとヒップホップやビートミュージック、UKだとアフロビートとのクロスオーバーを特徴としたサウンドにスポットが当たりすぎな気もします。ヒップホップやビートミュージック、アフロビートは現代のアメリカ、イギリスにおけるルーツミュージックということなのかもしれませんけど、過度の偏重はジャズ本来の自由度の高さからかけ離れているようにも思えてしまう。そういう状況であるからこそ、TCSのジャンルに収まりきらない異物感、異質感を感じさせる音楽性がフレッシュに響くんじゃないかなと。

谷口:僕はこの間も『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』を映画館で観て、オーセンティックなジャズもやっぱりいいなって思いましたし、現代ジャズも自分に出来るかといったら出来ない、すごい音楽だとは思うんですけどね。

野本:僕個人では、ジャズというと既成の音楽を壊し続けている音楽だと思っているんですけど、発表当時は既成の何かを壊し昔の作品を今聴くと革新性は薄く感じたりする。まぁ、歴史って、そういうものだったりするじゃないですか。自分は王道のジャズを聴くより、実験的な電子音楽やテクノ由来の屈折したビートアプローチに新鮮味を感じるし、そういう感覚のもとで作られたTCSの音楽がジャズっぽくないと言われるのは至極納得というか。

谷口:TCSにおいて、一番新しい、研ぎ澄まされた感覚の持ち主は野本くんなんですよね。でも、野本くんに限らず、全員のプレイや聴いている音楽は日々進化しているし、僕は自分なりにTCSで具現化したいヴィジョンやアイデアはあるんですけど、メンバーそれぞれが異なるバックボーンからアイデアを持ち寄ることによって、全く別モノの音楽になっていくっていう。TCSはメンバーそれぞれのアイデアを受け入れることによって、開かれた音楽を目指しているんですよ。

藤巻:実際、ライブはアクシデントだらけだったりするしね。

谷口:そう。ライブはメチャクチャなんですよ。ライブ前に、僕が進行表というか、訳の分からない紙をみんなに配って、それを見ながら演奏するんですけど、全部分かってる僕と違って、みんなは大変だろうし、ライブの録音を後で聴き返すと、意図しない面白いところがいっぱいあったりする。そういう経験を繰り返しながら、新たな曲の組み立て方を構想して、それがまた次のライブで崩れるんですけど(笑)、そうやって自分たちの音楽を自由に作っていきたいんですよね。

— 今年5月にリリースしたサードアルバム『TREE』では、ピアノの武田理沙さんが抜け、新たにサックス/ターンテーブルで大谷能生さん、パーカッションでマルコス・フェルナンデスさんが加わった6人体制となり、上モノもボトムも同時に進化していますよね。

谷口:TCSを活動していくなかで、知り合ったり、コミュニケーションを深めていった人のなかからTCSに加わったら面白そうだなと思った2人を誘ったんですけど、今までリードを背負っていた武田理沙ちゃんがいなくなったことで、大谷さんのサックスを含め、それぞれがリードを担うようになったり、リズム隊が増強されて、バンド内のバランスを変化させることが出来て、また面白いことになったなって思いますね。

(ここで何故かBUSHBASHに現れたRAMZAがインタビューに同席)

— RAMZAくんはTCSのセカンドアルバム『FUTY』で前作アルバム収録の”A”をリミックスしていますが、どういう経緯でお願いすることになったんですか?

谷口:もともと、僕はRAMZAくんの音楽の大ファンなんですけど、TCSがファーストアルバムを出した後、BUSHBASHでやっていたRAMZAくんのライブを観に行って、そこで初めて話してCDを渡して。それからしばらく経って、また会った時、単刀直入にリミックスをお願いしたんですけど、それもまたTCSにとってのセッションというか。RAMZAくんがリミックスすることで、また何かを変えてくれるんじゃないかって。実際、こちらに送られてきたのは、自分が想像していたものとは全然違うものだったので、すごく感動したというか、俺はこのままじゃダメだなって、打ちのめされたくらいでしたね。

RAMZA:逆にこの場で聞いてみたいんですけど、あのリミックスを聴いて、皆さんどう思いました?

野本:単刀直入にいうと、すごく意外だったし、それが素晴らしかったです。

RAMZA:たしかに、普段、ダンスミュージックの機能性に則った音楽をやっていますからね。僕がTCSのファーストアルバムを聴いた時、武田理沙さんのピアノの録音の仕方、ビビッドに鳴らして、ちょっとリヴァーヴをかけている透明感のある感じがECMに近いなって。そこにモジュラーシンセサイザーの音が入っている意外性がそこにありながら、ギターやベースがフュージョンではなく、ハードバップ的に支えていて。僕は今までジャズが好きで色々聴いてきたんですけど、今までにない音楽だなと思いましたね。そういう構成はすごい意外というか、なかなか生まれるものではないと思うんですけど、じゃあ、何でだろうと考えた時、TCSはBUSHBASHそのもの。集結したみんなの才能をBUSHBASHが支えて、形にしているように感じたし、そういう認識のもと、リミックスを引き受けたんです。だから、手を抜けなかったし、先に繋がるようなこと……要は予定調和なものは作りたくないなって。まぁ、TCSはBUSHBASHそのものって、本人を前にそう言うのは失礼かもしれないですけど、僕はBUSHBASHって、ホントにすごい場所だと思っているし、TCSはそこで生まれたエラーなんじゃないかって。

— ”場の音楽”という意味では、70年代ニューヨークのロフトジャズ~ノーウェーヴシーンに近いものがあるのかもしれないですね。

RAMZA:ああ、それはめっちゃ分かります。フュージョンじゃなく、色んな音楽が混ざり合ったエクスペリメンタルな様がそのまま投影させているっていう。そういうBUSHBASHとTCSの関係性を踏まえつつ、僕のリミックスは、Ricardo Villalobos(リカルド・ヴィラロボス)とMax Loderbauer(マックス・ローダバウアー)が『RE:ECM』で、ECMの音源をサンプリングして、電子制御によるジャズ・サンプリングの世界を作り上げたじゃないですか。あれは僕にとって衝撃的な作品なんですけど、ECMとは違って、突然変異的な定義できないTCSの音楽を『RE:ECM』とは違ったアプローチで形にしたかったし、みんなに対して「どう?」って感じで、刺激になるような曲を聴かせたかったんですよ。

谷口:RAMZAくんのリミックスはもちろん僕たちの刺激になったし、BUSHBASHでライブをやったり、そこで色んな人と出会うなかで、次にやりたことも自分のなかで決まっていくんですよ。そうやって違うことをどんどんやっていくのがTCSなんですよね。

— 呼んだわけではないRAMZAがふらっと現れて、こうしてインタビューに参加してくれた今回のインタビューもBUSHBASHという場やハプニングも肯定して、その音楽世界を拡げていくTCSのオープンな即興性を象徴するエピソードだと思いました。

RAMZA:昨日、僕はBUSHBASHでライブをやった後、近くのホテルに泊まって。今日、ホテルを出て、名古屋に帰る前に飯を食おうと歩いていたら、そこの交差点で柿沼さんにばったり会って、BUSHBASHでTCSのインタビューをやってることを教えてもらったんですよ。だから、このインタビューはミラクルだと思いますよ。

— では、最後にDJではないTCSの4人に制作をお願いしたDJミックスについて一言お願いいたします。

谷口:メンバーがそれぞれ選曲したものと、それぞれのソロ作品や参加している作品を持ち寄り制作しました。かなり滅茶苦茶なものができましたが(笑)、とても楽しかったです。TCSらしいものになったかと思います。

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