Vol.59 Hi’Spec (SIMI LAB) – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、6月1日に初のソロアルバム『Zama City Making 35』をリリースするビートメイカーのHi’Spec。


相模原を拠点とするヒップホップユニット、SIMI LABの一員でもある彼は、SIMI LABの作品やOMSBのアルバム『Think Good』ほかのプロデュースを担当しながら、生まれ育った座間の自室でソロアルバムの制作を3年に渡って続けてきた。そして、完成したアルバム『Zama City Making 35』には、SIMI LABのOMSB、RIKKIに加え、先行公開された「BUG」にフィーチャーしたABC(Air Bouryoku Club)やKOJOE、B.I.G. JOE、RITTO、田我流、Campanella、C.O.S.A.、K-BOMBという全国各地のラッパーが参加。サンプリングを活かしたトラックはパーカッションネタを多用した中毒的な作品世界を描き出している。


果たして、Hi’Specは地元である座間の地でどのようなヒップホップ観を熟成してきたのか。彼のDJミックスとインタビューが、その独自の音楽世界を知るきっかけになれば幸いだ。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo : Norihisa Tsukamoto (His father) | Edit : Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

アルバムでは、変わらず同じ場所から音楽を発信する意味のあるものにしたいなって思ったんです。

— 今回のアルバムは資料に「SIMI LABのでんでん太鼓ことHi’Spec」と書かれていますよね。

Hi’Spec:SUMMITの増田さんがOMSBと話してた時に決まったみたいです。その後、今回のアルバムの2曲目「Stomp」のリリックでOMSBが「我がSIMI LABのでんでん太鼓~」って歌ってて、さらにしっくり来てしまったという。

— ソロアルバムを作るうえで、どんな構想がありました?

Hi’Spec:最初は漠然とアルバムを作りたいっていうだけで、トラックも揃ってはいたんですけど、どうもしっくりこなかったので、作業を進めながら、だいぶ入れ替えたりしつつ、構想が固まったのは、ここ2年くらいかな。漠然とアルバムを作りながら、自分はどうしてアルバムが作りたいのか?と考えているうちに、その理由というか、動機が見えてきたんです。

— というのは?

Hi’Spec:僕は今回のアルバムジャケットに映ってる家に昔も今もずっと住んでいて、それが自分にとっては当たり前のことだったんですけど、周りの話を聞くと、自分のように引っ越さず同じ場所に住む人が少なかったんですよね。だから、アルバムでは、変わらず同じ場所から音楽を発信する意味のあるものにしたいなって思ったんです。そう考えるようになったら、そういえば、たまたま、このアルバムにはB.I.G.JOEさんやKOJOEさん、田(我流)さん、C.O.S.A.くん、CampyくんにRITTOくんと、地方のラッパーが客演で参加してくれてるよなって。

— SIMI LABの活動拠点は相模原ですが、今回のアルバムタイトル『Zama City Making 35』にあるように、Hi’Specくんの地元は座間なんですよね?

Hi’Spec:そうです。俺が住んでるところはちょっと行くとすぐ相模原市なんですけど、座間には遊ぶところがなくて、あるのはバーとか居酒屋くらい。俺以外にも、SIMI LABの何人かは座間に住んでます。遊ぶとなったら、相模原駅の辺りとか、SIMI LABがパーティ(「GRINGO」)をやってるクラブ、FLAVAがあったりする町田になるんですよね。俺の地元は、かなりの面積を占めてる米軍基地があったり、タンザニアやナイジェリア、タイ……そういった色んな国の貿易に携わっている人がたくさん住んでいたり、はたまた、ザマイカと呼ばれてたりとか。どうして、そう呼ばれるのか。まぁ、街の空気感としては分からなくもないんですけど(笑)、レイドバックしてて、何もないところですよ。

Hi'Spec『Zama City Making 35』 SIMI LABのトラックメイカー・DJのHi'Specが満を持して完成させた、初のソロアルバム。盟友OMSBをはじめ、日本全国から集った名うてのMCたちによるヴォーカル曲はもちろん、インストゥルメンタルトラックも充実の、バリエーション豊かな全15曲。なお、現在2曲公開されているMVは、「THE COCKPIT」で知られる映画監督の三宅唱が手がけている。

Hi’Spec『Zama City Making 35』
SIMI LABのトラックメイカー・DJのHi’Specが満を持して完成させた、初のソロアルバム。盟友OMSBをはじめ、日本全国から集った名うてのMCたちによるヴォーカル曲はもちろん、インストゥルメンタルトラックも充実の、バリエーション豊かな全15曲。なお、現在2曲公開されているMVは、「THE COCKPIT」で知られる映画監督の三宅唱が手がけている。

— そんな街に生まれ育って、ご家族も一緒の実家で音楽を作っていると?

Hi’Spec:そうです。だから、夜中に曲作りは出来ないんですよ。しかも、家は木造なので、たまにノっちゃって、音を出しすぎると、下の階で寝ている親から電話がかかってくるんですよ(笑)。

— ということは、今回のアルバムは深夜に作られたものではないわけですね。

Hi’Spec:そうなりますね。夜に詰めの作業をやった曲もあるんですけど、ほとんどの曲は昼間に作ったものですね。ちなみに今回の作業をしていた僕の部屋の隣が兄の部屋だったんですけど、中学生の時、隣からヒップホップが聞こえてくるようになって、「なんだ、この音楽は?」と思ってたら、Ja Rule「Down 4 U」のミュージックビデオを見せられて。それが格好良くて、ヒップホップにハマったんです。それである時、友達とヒップホップのグループを組もうということになったんですけど、DJがいなかったので、兄がターンテーブルを持ってる自分がDJをやることになって、そのまま今に至るという。

— トラックを作るようになったきっかけは?

Hi’Spec:DJからの流れで、MPCは買って持っていたんですけど、周りに音楽をやってるやつ自体がいなかったし、全然使い方が分からなくて、そのまま1年くらい放置していたんです。で、その後、出会ったOMSBやQNと仲良くなって、「せっかく、MPC持ってるんだから、トラック作りなよ」って話になって、同じ、MPC-2500を持ってるQNから使い方を教えてもらいつつ、トラックを作るようになったんです。あと、影響を受けたという意味では、SD JUNKSTAの存在も大きくて。20歳くらいの時に自分と同じ最寄り駅、相武台出身のNORIKIYOさんが最初のソロ・アルバムを出したんですけど、その影響を受けて、自分も本気で音楽をやろうと思うようになりましたね。

NORIKIYO『EXIT』 SD JUNKSTAのリーダーNORIKIYOによる初ソロ作にして、クラシックの誉れも高い名盤。2007年作。

NORIKIYO『EXIT』
SD JUNKSTAのリーダーNORIKIYOによる初ソロ作にして、クラシックの誉れも高い名盤。2007年作。

— トラックのベースになっているサンプリングの楽しさを知ったきっかけは?

Hi’Spec:高校1、2年の頃、ヒップホップに詳しい友達から「ほとんどのヒップホップには元ネタがある」って教えてもらって。そこから元ネタを調べたり、掘り下げて音楽を聴くようになって、自分でトラックを作る時もサンプリングするのが当たり前になっていったんです。サンプリングが全盛だった90年代のヒップホップは、今の時代、すごく新鮮というか、当時のサンプリングの感覚をアップデートして、新しい音楽を作りたいと思ってますね。個人的には、ここ1年くらい、ジェイ・ディラのトラックにハマってて、一時期は作り方を研究してみたんですけど、どうやったらこんな風になるんだ?てのが多くて、かなりびっくりさせられました。

— Hi’Specくんのトラックは、ジェイ・ディラのように、ビートがもたってないですもんね。

Hi’Spec:そうですね。僕の場合、ネタを聴いて、ヤバいと思ったところをMPCに落として、チョップして叩いたら、こうなったって感じ。ただ、想像した通りのトラックが出来ても、自分としては面白くなくて、そのサンプルフレーズのピッチを落としたり、加工することで偶然の事故が起こると、ぶち上がって、一気に仕上がるっていう。あと、自分の場合、ドラムから作っていくと、曲が似通ってしまいがちなので、今回のアルバムは、上ネタのループを最初に組んで、そこにドラムを足したトラックがほとんどなんですよ。

— SIMI LABでは、ストリングスのサンプルを使ったトラックが印象的でしたけど、このアルバムは、パーカッションや金物を使った作風が特徴的ですよね。

Hi’Spec:パーカッションの音が好きで、一時期はそういうトラックを作りまくってたんですけど、パーカッションを使いすぎだなと思って、自分でセーブしてたくらい。でも、自分のなかで一番しっくりくるのが、パーカッションによって生まれる揺れやポコポコキンキンした音を活かしたトラックなんですよね。

— そのパーカション使いが、恐らくはHi’Specくんの「でんでん太鼓」感なんでしょうね。

Hi’Spec:そうなんだと思います。自分はその時に食らってるトラックに引っ張られて、似たようなトラックを作ってしまったり、トラックを作る時にどうしても考えすぎてしまう傾向があるので、頭がクリアな状態にある起き抜けにトラックを作ることが多いし、制作のテンションも波があるので、作る時には一気にたくさん作るし、調子が良くない時は作っても消しちゃうんですよ。だから、このアルバムも最初のビートから考えると、完成まで3年かかりましたね。

— 今回、SIMI LABからフィーチャーしたラッパーをOMSBとRIKKIの2人に絞ったのは意図的なセレクションなんですか?

Hi’Spec:そうですね。外部の人とは全然やったことがなかったので。実際、SIMI LABのみんなとはやり方も考え方も違うラッパーとの制作は、ホント新鮮でしたね。歌を乗せてきたK-BOMBさんは一番の衝撃でしたし、田さんは家まで来てもらって、RIKKIを交えて、一緒に遊んでから作業しましたし、挨拶くらいでまともに話したことがなかったKOJOEさんとの曲も福岡まで会いに行きました。作ってる途中は、これ完成するのかな?って思ったりもしたんですけど、OMSBが「リリック書けた!」って送ってきたのが、地元について歌った「Going Back To Zama City」で。この曲が出来たことで、ようやく、このアルバムの落とし所が出来ましたね。自分の部屋から見える座間の街の景色はだいぶ変わったし、都内で働くためにみんな出ていっちゃって、地元に友達はいなくなっちゃったんですけど、それ以外は何も変わらず。自分も変わったのかどうなのか。でも、この先、もっと音楽に取り組む時間を増やしていきたいと思っていますし、今回はラップアルバムなんですけど、今後はもっと自分のビートを出していきたいですね。ここ最近は自分のビートでライブすることも多いですし、もっと色んなラッパーと一緒にやってみたいですね。今回もいい意味で予想を裏切られるのが、自分としても楽しかったし、予想を裏切っていきたいんですよ。

— では、最後にミックスについて一言お願いします。

Hi’Spec:自分のアルバムに関連した音源が入っていたりもするので、合わせて聴いてもらえたら、よりおもしろいんじゃないかなと思います!