MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、東京、新潟、ロンドンにメンバーが散らばる謎の音楽集団、Y2FUNX(ワイニーファンクス)。
OUTLOOK FESTIVAL 2015 JAPAN LAUNCH PARTYの異種格闘技DJ/ライヴ・コンテスト「ROAD TO OUTLOOK JP」にて3位入賞を果たし、一躍その名が広く知られるようになった彼らは、メンバーにDJとビートメイカー、シンガーとラッパーを擁し、LUVRAW主宰のレーベル、IMAGE CLUVよりミックステープを公開。クルーのラッパーである蝉丸のアルバム『THE MATERNITY』、シンガーであるKICK A SHOWのEP『RIDE or DIE』のリリース、ZEN-LA-ROCKとのコラボEP「Y2-LA-ROCK」など、精力的に活動を行っているものの、その実体は不明なまま。
さらに、DJでは、フォーマットを限定しないビートミュージックやダンスミュージックを自由自在にミックス。その音楽性もどこかミステリアスな彼らにインタビューとDJミックスの制作を依頼。謎の音楽集団の正体に迫った。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
ない方向ない方向へ、そして、よりニッチな世界に向かっていってますね。(Sam is Ohm)
— まず、Y2FUNXのメンバーを紹介してもらえますか?
Kick a Show:メンバーは6人いるんですけど、僕がシンガーです。
Juicy Jun:DJです。
Sam is Ohm:トラックメイカーです。
Juicy Jun:それから新潟に2人いまして、ラッパーの蝉丸とDJのFreshman。さらにロンドンでY2FUNXの全てを司るChupacabrasman。彼は唯一の東京出身で、他のメンバーは全員新潟出身です。
— もうこの時点で何がなんだか分からなくなりつつあるんですけど、今の話からすると、Y2FUNXは新潟で結成されたクルーということになるんですか?
Juicy Jun:Kick a Showは年下なんですけど、それ以外のメンバーは高校生の頃から一緒なんですよ。
Sam is Ohm:当時、僕はブレイクダンス、Juicy Junはバンドをやっていたんですけど、新潟は街が狭いので、自然と変わったやつが集まってきて。それでなにかおもしろいことをやろう、みたいな感じになり、それを今も続けてるっていう。
Juicy Jun:その後、Sam is Ohmが大学、僕が専門学校への進学でそれぞれ上京するんですけど、僕はその専門学校でChupacabrasmanと出会って、2人でスタッフとして働いていた新宿のクラブ、WIREでパーティをやるようになったんです。卒業後は一度新潟に戻ったんですけど、そのあいだも洋服屋で働きながらパーティはやっていて。その時のお客さんだったのがKick a Showです。それから、その頃にゲストDJとして新潟まで来てもらったLUVRAWさんのレーベル(IMAGE CLUB)から、のちにY2FUNXとしてDJミックスを発表させてもらったりもしました。
Kick a Show:僕は新潟でニューディスコのDJをやったりしてたんですけど、他の街も見てみようということで上京して、今年で2年半かな。最初の1年はY2FUNXの一員ではなくて、先輩たちのパーティが好きで、ただ客として遊びに行っていただけなんですけど、Y2FUNXのことが好きすぎて、パーティの宣伝を勝手にやったりしてるうちに、加入を認められたという。
— Kick a Showは今年の1月にシンガーとしてデビューEP「RIDE or DIE」をリリースしていますが、もともと、シンガー志望だったんですか?
Kick a Show:いや、それも突然始まったんですよ(笑)。「歌いたい!」とは以前から言ってたんですけど、Ohmさんがなかなかトラックを作ってくれなくて、当初はGoProでみんなのDJを動画に撮ったり、全然うまくないサイドMCをやったり、中途半端な立ち位置でしたね。
— そして、話をY2FUNX本体の話に戻すと、クルーの名前が知られるよういなったのは、昨年OUTLOOK FESTIVAL 2015 JAPAN LAUNCH PARTYの一貫で行われたDJ/ライヴの異種格闘技コンテスト「ROAD TO OUTLOOK JP」になるんですか。 Y2FUNXはそこで3位入賞を果たしたんですよね?
Sam is Ohm:そうですね。僕らの土台にはヒップホップがあるんですけど、それをそのままやるんじゃなく、カッティング・エッジでおもしろいいことをやりたいと思って、ベースミュージックのフェスであるOUTLOOKに、マイアミ・ベースのDJミックスを作ってエントリーしたんです。そうしたらそれが予選を通過して、決勝まで行けて。だから、現行のUKベースシーンを意識して、そういうことをやろうとしたわけではなかったんですよね。僕たちのなかで、ヒップホップは「誰もやっていないことを発明する音楽」だという意識があって、トラップみたいな現行のスタイルをそのままやるんじゃなく、誰もやっていない何かを探したり、提示したりするのが、Y2FUNXのスタイルなんです。
Juicy Jun:僕の場合、ラプチャーとかLCDサウンドシステムに影響を受けて、高校生の時からバンドをやってたんですけど、エレクトロの盛り上がりを受けて、DJをやるようになって。Ohmからヒップホップを教えてもらったり、お互いの音楽を交換し合って、いろんな音楽を吸収したことがY2FUNXにつながっていったんですよ。
Sam is Ohm:それがY2FUNXの分かりにくさにもつながっているんだけどね(笑)。
— かつてブレイクダンサーだったSam is Ohmがビートメイカーで、かつてバンドマンだったJuicy JunがDJをやってるというところも、混沌にさらに拍車をかけているという。
Sam is Ohm:音楽の興味がいろんなところに飛び火しているので、そういう部分がY2FUNXの面白さでもあるんですけどね。
— Y2FUNXが、去年フリー・ダウンロードでリリースした蝉丸くんのアルバム『THE MATERNITY』もバラエティに富んだヒップホップ・アルバムでしたけど、クルーのトラックを一手に手掛けるSam is Ohmくんのトラックは作風が幅広くて、本当に器用ですよね。
Sam is Ohm:そう言ってもらえてうれしいです。ただ、トラックを作る時は、使うサンプリングのネタだったり、具体的なアイデアを投げていくれるし、メンバー間で共有している感覚もあるので、トラックを作るうえではかなり助かっていますね。
— 共有している感覚ということだと、Y2FUNXはほとんどのメンバーが新潟出身ということも影響が大きそうですよね。これが東京だと、それぞれのジャンルで音楽シーンが成立してしまっていて、他ジャンルの音楽が混ざりにくいと思うんですけど、地方都市は色んなジャンルの人達が自然と一同に会して、面白い化学反応が生まれやすいと思うんですよ。
Kick a Show:新潟にはプラハっていうクラブがあって、昔からNYハウスの流れが揺るぎなくあるところなんですけど、そこがみんなのミーティング・スポットだったんです。
Sam is Ohm:それこそ、Chupacabrasmanもプラハで一緒に遊んだこともありましたし。
Juicy Jun:なぜか、みんなでハーヴィーのDJで遊んだよね?
Sam is Ohm:そうそう。ぶっ飛ばされたよね。
Juicy Jun:あまりにヤバすぎて、一杯も酒を飲まずに呆然と立ち尽くす、みたいな。
— へぇー。じゃあ、Y2FUNXはハーヴィーに食らった人の音楽でもある、と。ちなみにChupacabrasmanは東京のどこ出身なんですか?
Chupacabrasman:渋谷です。若いKick a Showを除いた僕らは、世代的にいうと、DEXPISTOLSが出てきて、エレクトロが盛り上がっていた時にちょうど高校生だったんですね。Juicy Junはその時、バンドをやってたんですけど、僕はDJを始めて。その後、ディプロの影響もあって、バイレ・ファンキやボルチモア・ブレイクス、マイアミ・ベースだったりを聴いたりしていくうちに、今のY2FUNXのテイストが出来上がっていった感じですね。
ただ、今、僕は、洋服の勉強のためにロンドンの大学に通いつつ、ア・チャイルド・オブ・ザ・ジャゴーなどをやっていたバーンズリーに道でスカウトされて、今、サンダーズという彼の新しいお店で働いています。そして、こっちの新しい音楽を吸収しつつ、ロンドンから僕が司っているのは、Y2FUNKSのPR全般ですね。
— ロンドンの音楽事情はいかがですか?
Chupacabrasman:ロンドンでは、日本で言われているほど、グライムは流行ってなくて。というか、むしろコマーシャライズされて、日本だったり、海外に行くようになったことで、みんな、シーンから離れつつあるぐらいです。若い子は普通にUSのトラップを聴いてますね。
Sam is Ohm:Chupacabrasmanがそんな感じでロンドンから俯瞰してくれていることもあって、僕らはシーンで音楽を捉えることよりも、自分たちから人とは違う何か面白いものをアウトプットしようという意識が強いですね。
— Y2FUNXは、タイニー・パンクスをもじった名前でもあるわけですけど、人とは違う何かを提示するという意識は、若いながらも、藤原ヒロシさんのイズムを継承しているところもあるんでしょうかね?
Sam is Ohm:あ、それはあると思いますね。僕らは、単に音楽というだけでなく、カルチャーを含めて……というか、ストリート・カルチャーが好きなので。
— ここ最近では、去年10月に出たZEN-LA-ROCKの限定EP「Y2-LA-ROCK」でコラボレーションをしたり、Threepee Boysとのパーティ「MACK SHAKE」を主催したり、活動が精力的なY2FUNXがいま注目している音楽は?
Juicy Jun:個人的には、ブラーのデーモンのユニット、Gorillazに再注目していますね。これからリヴァイヴァルがあるんじゃないかなって。
Sam is Ohm:次に何が来るのか、予想しながら音楽聴くのが楽しいんですよ。トラック制作では、例えば、スカスカなビートをファットにしてみるとか、ない方向ない方向へ、そして、よりニッチな世界に向かっていってますね。
— では、最後に今回作ってもらったDJミックスについて一言。
Juicy Jun:このインタビューで話していたようなことを全部凝縮しました。
Sam is Ohm:それでいて、流れで聴いても違和感のないもの、パッケージされたものになっているといいんですけどね。