MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。
作詞作曲、演奏、ビートメイクを自ら手がけるシンガーソングライターであり、ベースミュージックを軸に、ジャンルや国境を自在に横断するDJとしても活躍してきた彼女。独自なクロスオーバーに個性を見出してきたこれまでの流れから一転、新作アルバムでは、もともとのルーツである80年代のブギーファンクや90年代のR&B、アーバンミュージックと向き合ったポップで艶やかな楽曲が展開される。大きな心境の変化が感じられる彼女のインタビューとDJミックスを通じて、新たに切り開かれた音楽世界に出会ってほしい。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
ゲットーで育ったわけではないのに、ゲットー・ミュージック好きな自分をどうしたらいいのかっていう話になるわけですよ(笑)。
— もともと、G.RINAさんは、ヒップホップやR&Bを含むブラックミュージックがルーツにありながら、それを独自の解釈でさせるかのように、UKのベース・ミュージックのクロスオーバー指向へのシンパシーを感じさせる作品をリリースしてきましたよね?
G.RINA:そうですね。ブラックミュージックはずっと好きだったんですけど、そういう音楽にある身体的な強さを自分は持ってないと思っていて。それと同時にいろんな音楽が好きだったので、自分の音楽をヒップホップやR&Bの様式やマナーに則ったスタイル一本に絞るのに違和感があったというか、いろんな音楽を自分なりに咀嚼、折衷することに時間を費やしてきたんです。
— 身体性の違いをいかに克服するかというテーマは、ブラックミュージックに影響を受けた日本人アーティストが長らく取り組んできた課題ですよね。
G.RINA:ソウルとかR&Bは好きなんですけど、日本人の私には同じような歌い方でソウルは表現出来ないなと思っていたし、初期はDISC SHOP ZEROの飯島さんのレーベル、ANGEL’S EGGから作品をリリースしていたんですが、ジャマイカン・レゲエではなく、UKジャマイカンによるレゲエとかイギリス人がやるフォーキーなR&Bとか、ワンクッションある作品をリリースしていたところが自分にしっくりきたからなんですね。(飯島氏が長らくシーンをサポートしてきた)イギリスのブリストルで現地のアーティストたちと会った時も、彼らが車で普通に聴いている音楽はアメリカのR&Bだったりもしたし、ダブステップ以降は特にそうなんですけど、みんな、アメリカのヒップホップへの憧れとコンプレックスの両方持ちながら、表現は直輸入じゃない独自なものになっているんですよね。そのとき、ああそうなんだ、って。
— 育ちも違えば、文化も違うわけだから、表現を突き詰めていった時に独自な解釈に向かっていきますよね。
G.RINA:そう、ゲットーで育ったわけではないのに、ゲットー・ミュージック好きな自分をどうしたらいいのかっていう話になるわけですよ(笑)。
— そうした葛藤もありながら、2007年のサードアルバム『大都市を電車はゆく』は、G.RINAなりの日本語ポップスを提示した作品でしたよね。
G.RINA:そうですね。実はそのリリース・ツアーでは、今回のような80’sっぽいアレンジでライヴをやっていて。そのまま、同じ路線でバンドスタイルのアルバムを出そうと思ったんですけど、出産や子育てもあって、8年越しでようやく形に出来たんです。打ち込みで作ってはいるんですが、随所でプレイヤーに登場してもらうことで、サウンドにバンド的な広がりをだしました。実際に当時のバンドメンバーだったキーボードのIg-arashiさんにもソロパートとかを弾いてもらったりして。
— そんないきさつがあったんですね。ただし、『大都市を電車はゆく』以降はメロディや歌に寄っていたそれまでの流れから一転して、2009年の『Melody & Riddim #1 mashed pieces』と2010年の『MASHED PIECES #2』はフロア寄りの作品でしたよね。
G.RINA:DJ活動もやっているので、フロアに直結した作品も作りたかったんです。それ以前は、フロアを意識せずに作品を作って、そのリミックス盤を出すことで自分の中でバランスを取っていたんですけど、その時期はビートジャックがしたくなって、勝手に人のトラックで歌を作っていたんですね。『Melody & Riddim #1 mashed pieces』は、そうやって作った曲をアンオフィシャルでリリースしたものなんですけど、それをオフィシャルで出そうと、オリジナルなビートに差し替えたのが、『MASHED PIECES #2』なんです。だから、日本語のポップスというテーマで作ってきたそれまでの流れとは別ではあるんですけど、DJ活動との距離を埋めるべく、DJミックスを作るような感覚でフロア向けの作品を作ったんです。
— ダンスミュージックに限っていえば、G.RINAさんはベースミュージックの進化と並走してきたと思うんですけど、G.RINAさんにとって、ベースミュージックとは?
G.RINA:何でしょうね(笑)。私は歌モノでもベースが歌ってる曲、ベースにもう一つのメロディを感じられる曲が好きで、常にベースに耳がいっちゃうんですよ。ベタなところだと、例えばルーサー・ヴァンドロスの「She’s A Super Lady」とか、あの手のファンクですね。そして現代のベースミュージックについては、根っこにあたるレゲエもベースがすごく歌っていますよね。それをズドンと風が出るまで出してしまうゆがんだベース愛(笑)に共感してしまいます。あと、私はロックはそんなになんですが、Fleaのファンキーなベースがあるからこそレッチリは聴けたりするんですよね。
— さらにいえば、ゲットー育ちではないG.RINAさんがゲットーミュージックに惹かれるのは何故なんでしょうね?
G.RINA:そういう音楽の嗜好を自分でもどうしたらいいか分からないんですよ(笑)。ダンスミュージックの中では日常と違う景色が見たいっていう部分があるかなと思うんですが、その最たる感じでしょうか(笑)。ゲットミュージックって、女性蔑視の言葉を連呼している曲が沢山あるじゃないですか?例えば、DJ ASSAULTの音楽がすごく好きなんですけど、言ってることがホントにヒドくて、DJする時はかけるのをためらうくらい、この倒錯した趣味ホントどうしたらいいですか?(笑)。
— はははは。ただ、ヒドいところがなくなったら、ゲットーミュージックは牙が抜かれちゃいますからねー。
G.RINA:日本だったら音だけに反応すると思うんですけど、言葉が分かる海外でゲットーテックをかける女性DJっているんですかね? それと、そういうところで、ビッチ!ビッチ!って言われながら、踊ってる女の人の映像も見かけたりしますけど、よくよく考えるとおかしいですよね(笑)。だから、DJする時は多少表現がかわいいの(笑)を選ぶようにはしてます。
— まぁ、現地ではNGでも、言葉を気にしない日本ならではのプレイが他にはない個性にもなりますからね。
G.RINA:まぁ、ゲットーミュージックの多くはその土地や地域の限られたサークルやクルーがやってるものだったりするから、そういう音楽を輸入して混ぜている時点で別モノの音楽なんですよね。
— こうしてお話をうかがっていても、ゲットーなファンキーさは微塵も感じないんですが(笑)、ひとたびDJブースに立つと……
G.RINA:そういう音楽に対しては超アガるー!って感じなんですよね(笑)。体が勝手に踊りだしちゃう。あと、新しい音楽が好きっていうのもあると思うんですね。その点、ベースミュージック、ゲットーミュージックはずっと進化しているじゃないですか。新しい音楽と古いものを横断して混ぜるのが私のスタイルでもあります。雑食なスタイルは時として分かりづらいし、フロアの足が止まらないようにかけるのが難しくもあり、楽しくもあって。音楽遍歴としては、ヒップホップやR&Bの後にドラムンベースを好きになったんですけど、ドラムンベースのBPMを半分で捉えるとヒップホップやR&Bがミックス出来るので、交互にかけたりしていて。そんな中、数年前から注目されるようになったジュークは、BPM160を半分の80で捉えてミックス出来る音楽なので、その存在を知った時は「これこれ!」って思いました。
— そういうクロスオーバーのさせ方はDJの技量も問われますけど、そのトラックをどう捉えるかという批評性の面白さもありますよね。
G.RINA:そうですよね。目の前にいる人を踊らせなければっていうこともあるんですけど、目の前にいる人を聴いたことのない曲の組み合わせ踊らせたり、新しい音楽の出会いや発見が出来るDJが出来たらいいなって、いつも思っているんですけどね。
— そして、2010年の『MASHED PIECES #2』から今回のアルバムまで5年のインターバルがあったわけですけど、その間の活動はどんな感じだったんですか?
G.RINA:DJは夜動けるようになったら、時々受けたりしてたんですけど、曲に関しては作る余裕がなかったし、リリースの予定が見えないと作っていても終わりのない作業になってしまうので。実は数年前から90年代っぽい音楽をやりたくて、若いトラックメイカーとラッパーを組み合わせて、今の音の感覚でベタベタに90年代なコンピを出しませんかっていう話をしてたんですけど、気づいたら「まずソロ・アルバムを出しませんか……」っていう話になって、アルバムを出すことになっちゃいました(笑)。私自身、アルバムを作らねば!とは思ってなかったというか、もう作れないかな、くらいに思っていたんですけど、8年前にバンドでやろうと思っていた80年代的な要素と、そのコンピでもやりたかった90年代的な要素を反映させつつ、今回のアルバムを作ることにしたんです。
— 新作アルバム『Lotta Love』の制作に関して、クロスオーバーの中から自分の個性を確立していった以前の作品とは臨み方が大きく違いますよね?
G.RINA:自分の制作を休んでいる間に、フィーチャリングで歌ったり、メロディを紡いだ曲が多くの人に聴いてもらえて、その反応がフレッシュだったんですね。そしてそういうことをやっているうちに、自分のトラックがユニークでなければならないっていう気負いが少なくなったのかもしれないですね。ことばやメロディ、歌声がすでにわたしなんだな、って思えたというか。だから、様式美や自分が好きなものをそのまま形にすることへのためらいも減って、80年代、90年代の音楽を意識すること以外は、悩まず素直に出来たと思います。
— 今回「愛のまぼろし」というアンサーソングで応えたtofubeats「No.1」の客演であったり、この5年で新しい世代のプロデューサーやG.RINAのことを知らないリスナーとコネクト出来たことはどういった刺激になりました?
G.RINA:自分の作品リリースはなかったんですけど、そういうコラボで初めて知ってくれた人も多かったと思います。それとtofuくん世代がたとえばBOOKOFFとかで買って好きになった音楽が、私の青春時代に流行ってた音楽だったりする感じ。好きな音楽を教えてもらうと、不思議に繋がったりして、「あれ!? そうなんだ!」と思ったりおもしろいですね。それと感じるのは、彼らは音的な部分で屈折があんまりないというか、わりと素直な気がするんですよ。振り返ると、90年代とかってヒップホップをとっても西だ東だ、あれはワックだってすごいあったじゃないですか。いまみたいにフラットな感じじゃなかった。いや、今もあるのかな…?でも当時から広範囲にすきなものはすきって言いたかったわたしとしては、若い世代の素直な感覚はすごくいいなって思います。
— 「Back In Love (Music)」でコラボレーションしているPUNPEEくんなんかは、ここ5、6年で頭角を現した才能だと思うんですけど、彼とのやりとりはいかがでした?
G.RINA:PUNPEEくんとは直接繋がりはなかったんですけど、作ってる音楽がいいなーとずっと思っていたんです。それでいつだったか、twitterで私のある曲が好きだとつぶやいてくれた時があって「え、そうなの? じゃあ…」って感じでダイレクトメールをやり取りするようになったんです。PUNPEEくんの他には過去にイベントで共演したり、作品で関わったことがあったアーティストを招いていろいろ作りました。さっき話していたフィーチャリングの手応えなんかを踏まえて、みんなに喜んでもらえる作品になるように、やけのはらくんやLUVRAWくん、Kashifくんや思い出野郎Aチームのホーン隊にも力を貸してもらいました。
— みんなに喜んでもらえる作品という意味では、歌詞に関しても内面を掘り下げたものというより、カジュアルな言葉を歌い綴っていますもんね。
G.RINA:音的に陽気なものも増えた気がするので、以前と比べて客観性があって引いた視点も持ちつつ、ホントはすごく熱い音楽…それが今回のアルバムだと思いますね。
— そして、5年ぶりのアルバムを経て、今後の音楽活動についてはいかがですか?
G.RINA:そこは悩むところですよね。限られた時間でどういうことをやっていくのか。例えば、DJをやっていくのか、それともライヴをやっていくのか。DJしながら歌うスタイルもあるんですけど、12月2日のリリースパーティではG.RINA & MIDNIGHT SUNというバンド名義でフルバンドセットの準備をしていて、ダンサーも入れる予定なんですけど、ソウル、ファンク、ヒップホップも含めたカルチャー全体のワイワイした感じを形にしたくて。そんなこんなで、現時点ではもう少しライヴ活動が出来たらいいなって思っていますね。今回アルバムを作って、「やっぱり、私、音楽をやるんだ」と思ったというか(笑)。一日子育てした後「起きて、音楽を作るんだ!」と決めて、どうにかこのアルバムを作りました。だからこの作品を少しでも聴いてもらえるような活動をまずはしたいですね。
— 最後に、今回作っていただいたDJミックスについて、一言お願いします。
G.RINA:ふりかえるとこのアルバムは自分なりのモダンソウルになったかなと思っているんですが、ここ数年は近いアプローチのブギー・フューチャーファンク界隈も盛り上がっていますし、わたしが愛聴している曲もあわせて、お楽しみいただけたら。あと、結構冬らしいミックスができたかなと思っています。
G.RINA “Lotta Love” Release Party
開催日:2015年12月2日(水)
時間:OPEN 19:00/END24:00
場所:NOS EBISU http://nos-ebisu.com
チケット:ADV 立見 ¥3,000 / 着席(45席限定)¥3,000 + ご飲食代(¥2000)
・LIVE
G.RINA & MIDNIGHT SUN
・MIDNIGHT SUN
guitar:KASHIF(PPP)
keyboard:Ig-arashi
Bass:厚海義朗(藤井洋平 & TVSCOT/cero)
drums:光永渉(cero/Alfred Beach Sandal)
trumpet:高橋一(思い出野郎Aチーム)
Baritone Sax:増田薫(思い出野郎Aチーム)
Dancer:Yacheemi(餓鬼レンジャー)、FUMI、NAMImonroe
・GUEST
tofubeats
PUNPEE
やけのはら
LUVRAW
・DJ
DJ JIN(RHYMESTER)
MAL(PART2STYLE)
やけのはら
MC:ZEN-LA-ROCK
VJ:VIDEOGRAM(Tajif・RTR・de-sheevo)、Kazuki Homma
Photographer:Tsuneo Koga
Flyer Artwork:Oumi Futagami
Shooting & Editing:Do.Stock Works
<特典>
※着席・立ち見のお客様に先着順でG.RINAからのおたより & スペシャル音源「Midnight Sun feat. ZEN-LA-ROCK」をプレゼント。
※特典はお帰りの際、入り口にてDLパスワードを配布。
<予約方法>
予約受付はNOS EBISUオフィシャルHP予約フォームにて先着順受付。
お名前、電話番号、予約人数、最後に「G.RINAリリパ希望」と必ず明記の上、お申し込み。当日券もご用意する予定でおりますが、規定人数に達した場合は販売しない場合有り。
<注意事項>
※着席のお客様はメニューから¥2,000以上のご飲食をお願いしております。
※着席のお客様はスタッフがお席まで誘導、ご飲食に関してご説明致します。
※当日は安全上の理由により喫煙はバーカウンター・入り口デッキのみとなります。
イベントFacebookページ
https://www.facebook.com/events/1698227503746195/