EYESCREAM.JPレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「EYESCREAM.JP Mix Archives」。今回登場するのは、人気ヒップホップグループ、Fla$hBackSの一員にして、ラッパー、ビートメイカーとして引く手あまたの活躍をみせているKID FRESINO。
昨年9月に渡米した彼が、ニューヨーク・ハーレムで続けてきた1年に渡る音楽修行の最新リポートである新作アルバム『Conq.u.er』をリリース。盟友のjjjをはじめ、B-Money、Gradis Nice、noshといったビートメイカー、B.D.、ISSUGI、C.O.S.A.、IOといったラッパーが海を越えて参加。これまでラッパーとしての活躍が先行していた彼が7曲のビートメイクに加え、録音、プロデュースを手掛けるなど、目覚ましい成長を遂げている。今回、ニューヨークでストイックに音楽制作を続けている彼にインタビューを行うとともに、DJミックスを制作を依頼。ニューヨークでの生活は彼の音楽に何をもたらしたのか?
Interview & Text : Yu Onoda | Photo : Yuta Kawanishi | Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
いいトラックがあるとして、誰かがダサいラップを乗せるんだったら、自分が乗せたいって思っちゃうんですよ。
— 音楽の勉強をするべく、去年の9月からニューヨークに滞在中ということですが、「やっぱり、ヒップホップはニューヨークでしょ」っていう選択だったわけですか?
KID FRESINO:うーん、ニューヨークとLAで、6対4くらいですかね。実はニューヨークへ行く前にLAにも行ったんですよ。その時はBUDA(MUNK)くんに付いて行って、一緒に2週間くらい滞在したんですけど、ちょっとしっくり来なくて。
— ゆるすぎた?
KID FRESINO:それに尽きるっすね。LAは、自分にとって脳天気すぎたッスね。
— では、ニューヨークではどんな日々を過ごしているんですか。
KID FRESINO:今は学校に通いながら、部屋にこもって、音楽を作ってることが多いですかね。まぁ、たまには気になるやつらのライヴを見に行ったりもするんですけど、東京と違って、どこかに遊びに行っても誰かがいることはないから、それが単純に心地いいですね。
— つまり、異国の地で誰ともつるまず、独り音楽修行をしていると。
KID FRESINO:最初からそのつもりでしたからね。DJ Scratch Niceがたまに遊んでくれます。あと川西兄弟。
— 2013年のデビュー・アルバム『Horseman’s Scheme』から始まったソロ活動を異国の地で振り返ってみて、いかがですか?
KID FRESINO:大きな変化を感じますね。というか、自分のことをアゲてくれている人がいるからこそ今があるというか、この状況は「なるべくしてなった」とは思ってないです。
— とはいえ、ラッパーとして作品をリリースする以前は、トラックメイカーとしてFla$hBackSのアルバムにかっこいい曲を提供していたわけだし、2012年の秋に初めてラップを録った「Come In」が良くなかったら、DOGEARから作品リリースの声は掛からなかったと思いますけどね。
KID FRESINO:まぁ、でも、作品をリリースするようになった流れは、(Mr.)PUGくんとかSORAくんのギャグというか、面白半分なノリもあったと思うし、自分としては、そういう話にあやかって、みんなに力を借りている感じなんですよ。
— 『Horseman’s Scheme』は、ラップを始めてから半年足らずでリリースしたアルバムでしたが、当初のラップの取り組みは自分に何が出来るのか。いい意味での遊び感覚というか。
KID FRESINO:そうですね。まぁ、自分とは耳が違う人がどう思うのかは分からないですけど、そんな感じでラップを始めたので、自分としては聴けるものじゃないかもしれない。うん、正直、俺は聴けないですね。"Champion" は好きです。
— ただ、ラップというのは、スタイル・ウォーズというか、まず、自分のスタイルをいかに提示するかということが重要で、その点、ファースト・アルバムの時点で、KID FRESINOらしいストロング・スタイルは確立されていますよね。
KID FRESINO:そういうラップが出てきたのは、自分にも謎だったりもして。ただ、普段の自分からキャラ作りのために人間性を豹変させていたとしたら、勘のいいやつは分かっちゃうと思うんですよね。でも、自分としてはキャラを作っているつもりはまったくないし、ホントにそういうやつなんだなって、みんな思っているはずなので……だから、自分の素の部分が現れているというか、いかに自分が最低の人間であるか、ラップでさらけ出しているというか(笑)。まぁ、普段の生活で誰かに物申すことはないので、自分のなかで消化しきれていない気持ちをラップにしている感じですね。
— 同じラッパーの立場から、Fla$hBackSのFebbとjjjのラップについては?
KID FRESINO:ラップの多くは、自分のことを簡潔にさらけ出しまくってますけど、そういうラップは俺からしたら、「うるせえわ」って感じなんですよね。その点、Febbのラップは何言ってるか分からない人も多いと思うんですけど、あいつのなかにはちゃんとしたロジックがありながら、隠す部分は隠していて。それを紐解くのも聴く側の楽しみじゃないですか。jjjのラップもそういうところがあると思うんですけど、俺自身はそういう分からない部分を含んだラップが好きだし、自分のラップは、2人がやっていることと、簡潔に物を言うラップのちょうど中間に位置するものだと思っているッスね。
— 物申すスタイルのラップについて、周りのリアクションは?
KID FRESINO:まぁ、それで波風が立ったことはないし、自分としては、誰かを攻撃するというより、自分に対して言っているのかもしれない。いつだったか、ISSUGIくんが「前の自分のリリックにディスられないように……」って歌ってるのを聞いたことがあるんですけど、自分のラップもそんな感じなんですよ。俺、自分の曲をよく聴くんですけど、そのたびに背筋が伸びるし、無意識でダサいことを考えている時に聴くと、自分の言葉にはっとさせられるんですよね。そんなこともあってか、当初、自分はトラックメイカーだと思っていたんですけど、ラップをやっているうちに自分のなかではそっちの比重が高くなっていった感じですね。
— KID FRESINOにとって、ラップの魅力というのは?
KID FRESINO:ヒップホップのトラックって、他の音楽と比べると異質というか、みんな、その曲を誰が作ったのかを気にするし、自分もそうなんですけど、いいトラックがあるとして、誰かがダサいラップを乗せるんだったら、自分が乗せたいって思っちゃうんですよ。そして、自分がラップを乗せれば、少なくとも自分が聴けるものにはなるから、音楽を楽しむなら、自分でやりたいっていう。まぁ、自分にとってのラップはそんな感じなんですよ。
— ビートメイカーとしてのKID FRESINOは、当初、ソウルフルな、オーソドックスな作風でしたよね。
KID FRESINO:ただ、最近はソウルフルなトラックだったり、単純な4小節ループのトラックは、自分のなかでアガらなくなってきてて。やっぱり、ニューヨークで1年生活していると、好みも変わるというか、こないだ出たドレイクとフューチャーの『What a Time to Be Alive』なんか、出た次の日にぱっと家から出たら、それを爆音で聴いてる車が目の前を通ったんですよ。別に曲はいいとは思わないけど。自分はそういう環境で生活しているし、どこのクラブに行っても、メロウなソウルはかかっていませんからね。DJをさせてもらっても、ソウルをかけると、フロアからわーっと人がいなくなるんですよ。DJやってる時はアガってるフロアを見て、自分もアガったりするし、そんななか、聴く音楽、かける音楽も少しずつ変わっていってるんですよ。日本にいた時、自分はソウルに対して救いを求めていたんですけど、英語が少し分かるようになって、好きなソウルも歌ってる内容が分かると、いつまでもそんな気分に浸っててもしょうがないな、って。だから、今は新しい音楽をたくさん聴いているし、作る音楽も自然と変わっていってるという。
— どう変わっていってると思います?
KID FRESINO:周りからトラックを集めて、ラップを始めたんですけど、人のトラックでやってると気になる部分がどうしても出てきちゃうんですよね。そんなこともあって、自分でトラック制作を研究する気にもなっていたところで、ニューヨークに来て、自分の使っている機材をいちから学び直しているですけど。直感だったり、初期衝動のヤバさも理解しつつ、「4節ループを組んだから、これでいいっしょ」っていうことはなくなって、出来る限りトラックを練るようになりました。やっぱり、ラッパーとしては、jjjのトラックでラップするのが、一番幸せなことじゃないですか。あいつのトラックが一番かっこいいことはよく分かっているんですけど、あいつはあいつでやってるし、「お前が作ってるかっこいいトラックは全部俺にくれ」って駄々こねるわけにはいかないから、俺は俺で、出来る限りのことをやらなきゃダメだなって。
— そして、昨年9月にフリーダウンロードでリリースした『Shadin’』は、ニューヨークへ旅立つ前の置き土産にあたる作品でした。
KID FRESINO:あの作品に関しては、みんなが協力してくれたから、すぐに出来たし、日本からいなくなるからこそ言っておきたいこともあったというか、逆に日本に居続けたら、意味を成さない曲もあって。
— 自分の尻を叩くみたいな、そういう作品でもあったと。そして、『Shadin’』から1年ぶりのアルバム『Conq.u.er』は、テンポ良く作品をリリースしてきた以前の流れを考えると、じっくり取り組んだアルバムですよね。
KID FRESINO:東京にいた時はトラックを作ることしか出来なかったし、レコーディングはスタジオでやっていたので、今回、ニューヨークで自分で録音するためには何が必要なのか。(Illicit)Tsuboiさんに訊いたりしながら、機材を揃えて、録音のやり方を一から勉強しながら制作を進めていったので時間がかかったんです。そうやって作ったアルバムなので、完成した手応えは今まで以上なんですけど、ずっと一人の作業だったんで、やってるうちにいいのか悪いのかよく分からなくなる瞬間もあって、今回の制作は試練でしたね。
— 取りかかった当初、どんなアルバムをイメージしていたんですか?
KID FRESINO:最初の段階から、イントロ、アウトロ、スキットはいらないなって考えていたんです。ラップ・アルバムって、そういうものだと思っていたし、いらないものを省きながら、アルバムの流れを意識して、ラップするべきトラックを録ったら、今回の13曲に落ち着きました。イメージとしては、無駄はやらない、僕は塩だけで、みたいな、そんな感じですかね(笑)。
— はははは。トラックは共作を含めて、自作曲が全7曲。作風もソウルフルなものから広がりが出ましたよね。
KID FRESINO:そうですね。アルバム・タイトル曲の「Conquer」しかり、ギターをネタにした曲が増えましたね。ギターって、攻撃性が高いし、その攻撃性の高さに、ラッパーとしての自分はアガるんですよ。だから、武器を装備するような感じで、そういう曲が増えたんだと思います。
— 『Shadin’』と今回のアルバムで密にやり取りしていると思しきビート・メーカー、noshというのは? 彼は、KANDYTOWNのアルバム『Kruise’』でも全面的にトラックを手掛けていましたよね。
KID FRESINO:それはね、1個上のいとこなんです。あいつはもともとラッパーで、ライヴでは俺がバックDJをやってたんですけど、ある時期から会わなくなったから、何してるんだろう?って思ったら、トラックを作るようになってたんですよ。ちょうど、そのタイミングで俺もラップを始めたので、ここ2年くらいは攻守交代した感じで、お互いに情報交換しつつ、たくさんもらったトラックから厳選して、自分の作品に使わせてもらっているんです。だから、やつがラップをやる時は俺がトラックを提供したいな…と。
— そして、ラップに関しては、殺傷能力の高いパンチラインを含んだ曲だけでなく、自分の内面をディグった曲が増えているし、トラックにハメた英語を日本語に置き換える書き方だけじゃなく、ダイレクトに日本語でアプローチしたり、KID FRESINOの進化を感じました。
KID FRESINO:そうですね。20代前半の1年、2年って、ものすごい勢いや密度で日々が進んでいくというか、そんななか、言ってることはそんなに変わらないかもしれないけど、周りが見えるようになってきた感覚があって。個人的には、C.O.S.A.くんと出会ったことが大きいかな。ラップっていうのは今までの経験や体験を身から剥がしていく行為だと思うんですけど、それを曲や作品という形にしていくと、自分にはなにもなくなっていっちゃうんですよね。でも、内面をどんどん掘り下げていくC.O.S.A.くんの赤裸々なラップを聴くと、ラッパーはそれでいいんじゃないかなって思わされるんですよ。そういう、ものすごい勢いと素晴らしい心意気をC.O.S.A.くんから感じるし、彼のラップを聴いて、自分も少しぐらいホントのことを言おうかなって思うようになりましたね。
— フィーチャーしているラッパーに関して、7曲目の「Front!」は、"feat. jjj"ってクレジットされてますけど、この曲にjjjのラップは入ってないですよね。
KID FRESINO:そう。もともと、違うトラックでjjjと一緒にやってたんですけど、アルバムの情報が出た後、完成のぎりぎりであいつから格好いいトラックが送られてきたので、曲名の「Front!」に合わせたラップを自分一人で録って、曲を差し替えたんですよ。そんな感じでレコーディングは最後までドタバタだったんですけど、そういうことがぎりぎりまで出来たのは自分一人で作っているからこそ。メジャーでは許されないことだと思うんですけど、それを許してくれるDOGEARの融通の利く自由なやり方が魅力的に感じてもらえるように、俺はがんばりたいんですよね。
— C.O.S.A.やISSUGIくん、B.D.、IOといったラッパーとのやり取りは?
KID FRESINO:こちらから注文はせず、俺のラップを入れたトラックを送って、曲を理解してもらったうえで好きに入れてもらいました。B.D.氏はトラックを送ったら、すぐに「書き始めてるよ」って連絡がきて、すごいアガりました。IO先輩に関しては、こないだ日本に帰ったその日にやってたライヴを観に行ったんですけど、ライヴの後にKANDYTOWNのGottz君が話しかけてくれて、知り合ったばかりですぐに先輩に繋いでもらって、ラップを入れて欲しいとお願いしたんです。で、その後、「ニューヨークに行くからPV撮りたい」って連絡があって、一緒にやった「Special Radio」は自分もPVを撮りたかった曲だったので、願ったり叶ったりでしたね。彼のラップはサックスの気持ち良さを感じるし、行動もテンポ良くクイックなところが自分の感覚に近いなと思いましたね。
— KID FRESINOは動きがとにかく早いというか、今回お願いしたミックスもすぐ作ってくれたものの、待ちきれなくて、「公開してもいいですか?」って言ってたくらいですもんね(笑)。
KID FRESINO:そうなんですよね。自分はぽんぽんやっちゃうし、気分にムラがないので、音楽制作もずっとやっていられるんですよ。今回、初めて、一人で録りからやってみて、大変ではあったけど、自分なりにかなり手応えもあったので、ここから先、自分がニューヨークに着た理由であるプロダクションの質をどんどん上げていきたいですね。
— 最後に、恐らくは多くの人にとって、いい意味の驚きをもたらすであろう今回のミックスについて一言お願いします。
KID FRESINO:最新のニューヨーク産ヒップホップじゃなく、和モノで攻めるテーマのもとで作ってみましたね。Tシャツも和柄着て(笑)。完全に普段は聴かないですけどね。直感で “はい。いい。” って感じた曲を覚えてて、改めていい音楽を自分で自分に紹介するような、盛り上げるような、そんなミックスです。あと音だけじゃなく、歌詞の恋愛の模様だったり、風景や情景が見えるような描写の妙を感じてもらえたらうれしいですね。