MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、grooveman Spotとのユニット、77 KARAT GOLD名義で6月17日にアルバム『WANNAFUNKWITU』をリリースしたDJ、プロデューサーのsauce81。
過去には、バンドでの活動経験や名門コーラス・グループに参加していたこともある彼は、ヒップホップをきっかけにビート・ミュージックに目覚め、2008年にスペインはバルセロナで開催されたRed Bull Music Academyに参加。のちに世界各地で活躍することになる未来の才能と交流を図りながら、音楽制作を学んだ。 そして、帰国後の2009年より世界に向け、を発信するポッドキャスト・メディア、cosmopolyphonicを運営しながら、sauce81、N'gaho Ta'quia(ンガホ・タキーア)、そして、77 KARAT GOLDという複数の名義を使い分けて精力的に作品をリリース。ビートメイクから楽器演奏、自身のヴォーカルを駆使して生み出す独自のファンクネスがShing02やフローティング・ポインツなどからも高く評価されているsauce81の音楽観をインタビューとDJミックスから掘り下げます。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
今は自分の時間軸で音楽をやることに興味があるし、音楽を作る際に心掛けているのは、心地いいんだけど、どこか違和感のあるもの。
— sauce81の活動は非常に多岐に渡っていますよね。
sauce81:もう、勝手にやりたい放題やらせてもらってます(笑)。
— そのキャリアを考えるうえでは、Red Bull Music Academyに参加したことが大きかったと思うんですけど、去年秋に東京で開催されたRed Bull Music Academyは、そもそも、どういったものなんでしょうか?
sauce81:毎年、世界のどこかの都市で1ヶ月(全後半2週間ずつ)に渡って行われるワークショップ、スタジオワーク、イベントが組み合わさったもので、ワークショップとスタジオワークに参加出来るのは世界中から選ばれた60人だけ。すべて英語環境で行われて、ワークショップ/レクチャーの動画の一部が翻訳されて公開されているだけなので、日本ではイベントとしての認知度が高いと思います。
— sauce81はその60人に選ばれた、と。
sauce81:はい。僕は、スペインはバルセロナで行われた2008年の回に参加したんですけど、旅費から何から全ての費用を負担してくれて、2週間、知らない者同士が著名なアーティストやエンジニア/プロデューサーの指導を受けながら、音楽制作を学びました。そこでは、通常であれば、交流がないジャンルの人と一緒に音楽を作ったり、自分が知らない制作のアプローチを見たり、体験したりすることにもなって。一番刺激を受けたのが、今は自分のスタジオを運営していて、Ubiquityからリリースしていたオークランド出身のニーノ・モシェラ。それから、今でもよく連絡を取っているのは、フランス人プロデューサー、ONRA。フローティング・ポインツのEglo recordsに在籍しているFatimaやLAのビートシーンで活躍しているTeebsも僕と同じ回に参加していたんですけど、彼らの音楽制作は刺激的でしたし、変化するきっかけにもなりました。
— どのように刺激を受けたんですか?
sauce81:僕のなかでは、新しいものを求める時期と古いものに戻る時期が波のようにあって、当時はジャジーなヒップホップだったり、ブロークンビーツを作っていたんですが、Myspaceを使って、新しいものを求め始めた時期だったんですね。だから、Academyでは一気に新しい音楽の刺激を受けて、当時だと、ビート・ミュージックとか。その2年前にはフライング・ロータスが参加したこともあって、その流れを汲むプロデューサーも多かったですし、その時は一緒に作ることはなかったんですけど、4つ打ちのトラックを作ってるプロデューサーもたくさんいたので、そういう音楽も自然と入ってくるようになりましたね。
— ビート・ミュージックを作る以前はバンドをやっていたとか?
sauce81:そうですね。大学に入るまでは、全然情報が入ってこない秋田の田舎に住んでいたので、少ない情報を頼りに、ロック、ミクスチャー、パンク、ハードコアの影響を受けたバンドで歌ったり、ギターを弾いていました。子供の頃にアメリカに住んでいたので、その当時チャートに入ってたヒップホップとかにも既に触れていたし、友達の兄ちゃんの影響でアシッド・ジャズとかは少し知っていたんですけど、インターネットが普及する前だったので、あまり深く掘り下げられる環境もなくて。その後、大学進学で上京して、友達から教えてもらって一気にブラックミュージック、ヒップホップ、エレクトロニカ、ブロークンビーツ、ワールドミュージックなんかを聴くようになったんです。そして、その影響からデモ制作のつもりで始めた打ち込みやサンプリングが面白くなっちゃって、DJシャドウとかケニー・ドープ、ケヴ・ダージの流れからディープファンクやストーンズ・スロウ周辺のサウンドが好きになっていったんです。それと同時にゴスペルをやっている幼なじみのお姉ちゃんから「ヒマだったら一緒にやらない?」って誘われて、その人が所属しているTHE VOICES OF JAPANっていうゴスペル主体のコーラス・グループに誘われたんです。
— MISIAや久保田利伸、平井堅、小沢健二のボイストレーナーとしても知られる亀渕友香さん主宰の名門グループじゃないですか。
sauce81:ホントはオーディションを受けないと入れないグループなんですけど、ちょうど男性パートが少なかったのと、僕は英語がしゃべれたので、その点も買われて、推薦で入ったんですよ。正直、当時はあまり歌に興味が向いている時期ではなかったんですけど(笑)、友香さんの元でなら、自分が好きなファンクやソウルのルーツを探求できるかなと思って始めたんです。3年くらい続けたら、自分のなかでグルーヴやハーモニーのセンスが磨かれていったし、そのグループのいいところは、友香さんがゴスペル誕生の時代背景や歴史を教えてくれたり、歌詞に向き合う時間もあって、僕を含めたほとんどのメンバーがクリスチャンではない中でも、理解を深めながらゴスペルに接することが出来たところですね。そこで改めて歌う楽しさに立ち返ることが出来たし、そこで多くを学んでから、Red Bull Music Academyに参加したんです。
— そして、Red Bull Music Academyから帰国後は、Kez YM、RLPと共に、ポッドキャスト・ラジオ、cosmopolyphonicをスタート。このポッドキャストでsauce81の名前が知られるようになりましたよね。
sauce81:そうですね。cosmopolyphonicをはじめたきっかけというのは、それ以前にやっていたMyspaceを通じて、色んな人とつながっていたんですけど、彼らが作っている素晴らしい作品を日本から海外に向けて発信するメディアがなかったんですよね。幸い、僕は英語が出来るので、英語と日本語で、国内、海外の両方に向けたポッドキャスト・メディアを2009年に立ち上げたんです。
— 音楽活動においては、sauce81名義でWONDERFUL NOISE PRODUCTIONSとCatuneという2つの日本のレーベルから2013年に12インチを2枚リリースした後、音楽ライター原雅明さんのレーベル、Disques CordeからN’gaho Ta’quia(ンガホ・タキーア)という変名で2014年にはアルバム『In The Pocket』が発表されました。
sauce81:実はsauce81名義の作品より先に、あのアルバムがリリースされる予定だったんですけど、諸事情あって、リリースまでに2、3年かかってしまったんです。あのアルバムでは自分のルーツであるファンクだったり、マッドリブのようなビート・ミュージックから受けた影響を自分なりに形にして、そこから変化していく過程をその後の作品で見せていきたかったんです。
作品それ自体は、以前からブラックスプロイテーション・ムービーのサントラのような作品を作りたいと思っていたこともあって、そういう作品を聴き込んでいたし、同時期にはマーヴィン・ゲイの作品を集中的に聴いていたんですね。そういう経験が自分にとってはすごく大きかったんです。
— 『In The Pocket』は映像的で、一貫した世界観に貫かれた作品ですもんね。
sauce81:先日、Red Bull Music Academyのサイトで公開されたソウルクエリアンズの記事を読んだら、クエストラブがディアンジェロと『Voodoo』を作るにあたって、エレクトリック・レディ・スタジオにずっと入り浸って、夕方からプリンスやマーヴィン・ゲイのライヴ映像を集中的に観て、その音楽を研究しながら、スタジオで音を出してたらしいんですね。まぁ、その話を自分と重ね合わせるのはおこがましいんですけど(笑)、特定の音楽を深く掘り下げながら制作したあのアルバムのレコーディング期間は自分にとって本当に濃密な時間だったんです。
— そして、『In The Pocket』から1年を経て、今回、grooveman Spotとのユニット、77 KARAT GOLD名義でアルバム『WANNAFUNKWITU』がリリースされたわけですが、grooveman Spotとの出会いは?
sauce81:コウジ(grooveman Spot)さんとの出会いは、ONRAがどうしても日本に来たいということで僕が組んだ日本ツアーですね。コウジさんにも出ていただいたので、初めて挨拶したのをきっかけに、その後も色んなイベントでご一緒するようになったんです。そんななか、仲良くなったのは、2010年に音楽フェスのMetamorphoseとのコラボレーションで3泊4日のRed Bull Music Academy Bass Campというイベントがあったんですけど、コウジさんは音楽制作の講師として、僕は過去の参加者として呼ばれて、そこで意気投合したんです。といっても、食べてばかりでしたけどね(笑)。
— (笑)77 KARAT GOLDの77というのは、2人の体重だとうかがっています。
sauce81:そして、2012年にRed Bull Music Academy Bass Campが今度は仙台で開催されたんですけど、2人ともまた同じような形で参加して、空いた時間に一緒にスタジオに入って、「何か一緒にやりたいね」ってことになったんです。そして、2年前に盛岡のイベントに呼んでもらった流れで、仙台のコウジさんの家に3日くらい泊めてもらって、そこで録った4、5曲のうちの2曲を7インチ(「LOVE」)で出した後、反応が良かったのでいずれはアルバムを出そうということになったんです。
— どのようなやり取りから曲を作っていったんですか?
sauce81:僕もコウジさんも独学ですが、耳を頼りに手探りで鍵盤が弾けるので、サンプリングしなくても曲が作れるし、サンプリングのネタから発展させていくこともあったし、最終段階ではファイルをやりとりしたり、曲の作り方は決まってなくて、自由に進めていきました。
この作品では、自分なりのファンク感がアップデートされていて、プリンス、スライ・ストーン、それから今は80年代のエレクトロ・ファンク/ヒップホップにどっぷりハマっていることもあって、そういう影響が反映されていると思います。
— そして、この作品は、sauce81がヴォーカルを披露しているところが大きな特徴のアルバムですよね。
sauce81:ゴスペルの話とかをすると余計に周りからはもっと歌った方がいいよと言われたりはしていたんですけど、ゴスペルをそのまま作品に落とし込むのは難しいので、これまでは声ネタ的に、自分の声を使っていたんですけど、徐々に歌の魅力を再認識していった結果ですね。ただ、自分の内側にゴスペルの感覚は確かにあるんですけど、ゴスペル以降の音楽はいっぱいあるし、ゴスペル自体、色んな解釈で今の音楽に反映されているわけで、自分としてもゴスペルをそのままやることは頭にないんですけどね。
— アルバムに収録されている楽曲も、ダンストラックからビート・ミュージック、そして、オブスキュアなファンクまで、その幅と奥行きに77 KARAT GOLDの独自性があると思いますが、海外シーンとの交流から日本らしい音楽やsauce81らしい個性を意識することはありますか?
sauce81:東京って、色んな音楽があるじゃないですか。例えば、シカゴという土地から生まれた音楽だけでも、ブルースのような古い音楽が好きな人たちがいれば、シカゴ、アシッド・ハウスのようなダンス・ミュージック、ゲットーハウスやジューク、フットワークが好きな人たちもいる。そして、東京では、そうやって細分化された音楽を体験しようと思えば、色んなところに行って体験出来るじゃないですか。僕は海外とやりとりすることが多いので、様々な音楽がミックスされているところに東京の音楽の個性を意識させられることが多いんですけど、個性という意味で、sauce81の81というのは、日本の国番号(国際電話等の+81)でもあるし、自分が生まれた1981年を意味してもいるんですけど、自分で音楽を作る時は、ジャンルとジャンルの隙間、色んなシーンとシーンの隙間に入り込める音楽を作りたいと思っていますね。
— 今のお話にもあったように、近年、音楽の細分化と消費のスピードが加速していると思うんですが、そうした流れはどうご覧になっていますか?
sauce81:MyspaceはMyspace Japanが立ち上がる前から使い始めて、当時は新しい表現の発信をすごく意識していたんですけど、その後、出てきたTwitter、Soundcloud、Bandcampを介して、情報の行き来が加速していくなかで、自分はその流れにどんどん付いていけなくなっちゃったんです。だから、マーヴィン・ゲイの音楽にじっくり向き合ったりしていたんですけど、世の中のタイムラインをなんとなく把握しつつ、それだけだとタイムラインを追ってるだけになってしまうし、本当に新しいものを生み出すのは難しいと思うんですね。そうではなく、その人なりの音楽探究が結果的にその時代性やタイミングと合うことで、新しい音楽だと捉えられるというような、それくらいのスタンスがいいんじゃないかなって。だから、今は自分の時間軸で音楽をやることに興味があるし、音楽を作る際に心掛けているのは、心地いいんだけど、どこか違和感のあるもの。当然個人差はあるけど、心地いいだけの音楽は後々残らないような気がするし、違和感が多過ぎる音楽だと、衝撃は与えられてもなかなか耳に入ってこないと思うので、そのバランスは大事にしていますね。
— 今後の予定について教えてください。
sauce81:昨年、Shing02が監督・脚本の短編映画『BUSTIN’』でディスコ・トラックを作ったんですけど、そのShing02とも作品を作っている最中です。
それからmabanuaくん、marterさんとバンドっぽいプロジェクトも立ち上げたんですが、みんな忙しくて、そちらは今止まっている状態です(笑)。
sauce81名義では、Egloから「Natural Thing」という7インチ・シングルをリリースしたばかりなんですけど、そちらの製作も引き続き進めるつもりです。
他にもいろいろありますが、まずは7月17日に代官山のUNICEでアルバムのリリースパーティがあって、そこで77 KARAT GOLDのライヴ初お披露目になります。ビート・ミュージック、クロスオーバーという意味において、僕たち2人がリスペクトするKENSEIさんにも出演してもらえるので、すごく楽しみです。
その後もライヴであちこち回る予定で、9月4日に代官山のAIRでやる4ヒーローのディーゴのリリースパーティにも77 KARAT GOLDとして出演します。かつて、僕はブロークンビーツを作っていたこともあるし、あのシーンは色んなジャンルがクロスオーバーするポイントで発展したじゃないですか。だから、そのイベントは楽しみにしてますね。形態としては、コウジさんのDJに僕がシンセで絡んだり、歌ったりするセッション的なスタイルでやろうと思っているんですけど、細分化して混ざりづらくなっている今の現場で、若い子たちに音楽のジャンルとしてではない、いい感じの“クロスオーバー”を楽しんでもらいたいなと思っています。
— 最後に、作っていただいたミックスについて一言お願いします。
sauce81:このミックスは、77 KARAT GOLDのアルバム「WANNAFUNKWITU」を作る上でもインスピレーションを受けたプリンスを軸に、その前後に広がるドラムマシンやシンセを取り入れたファンクがテーマです。テーマに沿ったもので入れられなかった物もたくさんありつつ、そのくせテーマからちょっとずつ脱線しながら、メローな歌ものからアップテンポなダンストラック、ジャズ/フュージョンまで、ある種のファンク感を通して、世間的には別物として扱われがちなジャンルを紡いでみました。
77 Karat Gold “WANNAFUNKWITU” リリースパーティ