MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、5月14日に2015年屈指の傑作サード作『SWEET TALKING』をリリースするサイケデリックB-BOY、BUSHMINDです。
この作品は、瞬き、豊かな色彩を放つ先進的なビートによって、チルアウトなダウンテンポからテクノ、アシッドハウスといったジャンルを横断。NIPPSとB.D.をフィーチャーした「FRIENDS KILL」にMaryJaneのLUNAとO.I.をフィーチャーした未来的なヒップホップ・ソウル「FRIDAY」、ERAを要するDUO Tokyoと小島麻由美の共演曲「LIPS」をリード・トラックに、現行シーンの最前線を切り開くラッパー/シンガー、トラック・メイカーとの共演が全21曲にわたって展開される。
今回は、DJミックスを聴きながら、BUSHMINDのキャリア集大成にして、シーンの良きガイド盤でもあるアルバムを大解剖するインタビューをお楽しみいただきたい。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
現行のヒップホップもジャンルの垣根がなくなってきていることもあって、今回は自分のやりたいことが作品に落とし込みやすかったんですよね。
— MIX ARCHIVESには2回目の登場となりますが、新作アルバム『SWEET TALKING』があまりに素晴らしかったので、今回、再登場をお願いした次第です。
BUSHMIND:どうもありがとうございます。アルバムの話を最初にもらった時、まだ出すのは早いかなって思ったんですよ。というのも、この4年で色んな出会いがあって、交友関係が広がり続けていたので、この先もまだまだ出会いがありそうだなって。まぁ、でも、もうちょっと後だったら、アルバムにまとめるのはもっと大変だったかもしれないです(笑)。
— 今回のアルバムですら、70分近い濃密なヴォリュームがありますからね。
BUSHMIND:ははは。そうなんですよ。しかも、結局、やりたかったアイディア全ては形に出来ませんでしたからね。
— それだけ充実したレコーディングだった、と。シンセサイザーの曲がり具合がマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを彷彿とさせる「FLY MUZIK」からして、新機軸の打ち出し方が強烈ですよね。
BUSHMIND:更新された自分のスタイルを打ち出したくて、イントロ終わりの1発目は、この曲にしようと早くから決めてたんです。今回は前作でほとんど使わなかったシンセを自分なりのやり方で多用しているんですけど、この曲ではフレッシュさも出したくて、COOKIE CRUNCHっていう若いラッパーとストロング・スタイルにチェンジしたMASS-HOLEをフィーチャーしたんです。
— 振り返ると、2007年の『BRIGHT IN TOWN』はファースト・アルバムと銘打っていたものの、実質的にはコンピレーション・アルバムでしたし、前作も半分は昔作ったトラックを使ってましたもんね。
BUSHMIND:そういう意味で、3枚目にして純粋な新作がようやく出るという。そして、アルバムの話を受けて、最初に取りかかったのが、「LIPS」。これはかなり長い期間かけて作りましたね。「泡になった恋」のリミックスをやらせてもらった小島麻由美さんとD.U.O TOKYOという他では出来ない組み合わせのゲストをフィーチャーさせてもらいました。
— 「泡になった恋」の名作ダウンテンポ・リミックスは、小島さんご本人も大絶賛されていましたもんね。
BUSHMIND:その後は色んな曲を作りながら、曲に合いそうなラッパーを決めて、曲を渡していったんですけど、制作環境をPCに移行したことで、『GOOD DAYS COMIN’』を作っていた頃より技術的な部分で出来ることが一気に増えたんです。その変化が一番分かりやすいのはBPMですね。制作を進めながら、「これだけBPMが広げられるんだ」と自分でも実感しつつ、今のヒップホップ自体、BPMの幅が広がりながら、それを乗りこなす色んなラップのスタイルが出てきているし、そういうラッパーが周りにいるので、曲が形になる度にアガってましたね。
— そして、歌モノでは、MaryJaneのLUNAとラッパーのO.I.をフィーチャーした未来志向のヒップホップ・ソウル「FRIDAY」もこの作品の目玉曲ですよね。
BUSHMIND:そうですね。「FRIDAY」はトラックが先にあって、友達のトラック・メイカー、MAMIMUMEMOSUがそのトラックに歌のアカペラを乗せて送り返してきて、「この曲は歌が乗るよ」って。それで歌モノをやろうと思い立って、LUNAさんにお願いしたんです。グウェン・ステファニーが「Luxurious」っていう曲でスリム・サグをフィーチャーしているみたいに、実力のあるラッパーをヒット・チャートに引っ張ってくる曲がアメリカではよくあるじゃないですか? 男もアガれて、女もアガれる、そういう曲を自分でもやってみたかったんですよね。それでO.I.に白羽の矢を立てたんですけど、音楽的にはデトロイト・テクノのシンセ感とシカゴ・ハウスでよく使われているスクエア・ベース、それからヒップホップ、R&Bを上手く融合出来たんじゃないかと思います。
— さらに、歌モノのリード・トラック「LIPS」、「FRIDAY」に対して、ドープ・サイドのリード・トラック「FRIENDS KILL」はNIPPSとB.D.をフィーチャーした難度の高いトラックですよね。
BUSHMIND:そうなんですよ。何人かのラッパーに渡したんですけど、あまりリアクションがなかったトラックで。このアルバムのスペシャル・ゲストでデミさんに参加してもらうことを考えた時、このビートでラップしているところがすぐに想像出来たんです。想像は出来たんですけど、実際、その2人に乗っけてもらったら完全に予想を超えてましたね。B.D.君の存在を知ったのはThe Brobusのファーストで、池袋BEDで遊ぶようになってから知り合ったんです。一年くらい前にANARCHYとB.D.のJ-Scheme名義の「Shawarma」でリミックスをやらせてもらったんですけど、今回新曲を作ることが出来て念願叶った感じです。
— クラフトワークをサンプリングしたテクノ・ラップの先駆け、アフリカ・バンバータの名曲と同タイトルの「Planet Rock」では、混沌としたアシッド・トラックに元ICE DYNASTYのKNZZくんが乗せてるラップもすさまじいですよね。
BUSHMIND:この曲は70小節近くラップしてるんですけど、俺はKNZZくんのラップと人生の大ファンなんですよ。音楽的には俺がトラックを提供したMIKRISの「A5」を皮切りに実践しているテクノとヒップホップの融合。それの最新形をやりたかったんです。KNZZくんはメタルも聞くみたいで、それと同じノリでダブステップを聴いてるんですよね。そういう嗜好と俺のトラックの被る部分を上手く融合した感じです。
— 「GET BACK」にフィーチャーしている千葉のROCKASENは、ダンス・トラックでラップをしていますよね。
BUSHMIND:ROCKASENはファーストからの付き合いだし、一緒に遊ぶのが大好きなんですよ。やつらはFuture Terrorでテクノやハウスの遊び方を覚えながら、ヒップホップをやっているし、音楽的には俺とかなり近くて、自分が何も考えずに作った曲をそのまま受け止めて、ラップを返してくれるんですよね。ただ、彼らが参加した「GET BACK」は本人たちは相当悩んだみたいですよ。俺もハードルが高すぎるかなとは思ったんですけど、これはROCKASENにしか出来ないだろうってお願いしたら、その期待に見事応えてくれましたね。
彼らは新しいEPを出すということで、俺のお気に入りのトラックを何曲か渡したんですけど、作り始めて3年も経ってるんですよ。トラックが古くなっちゃうから早く出してくれって言ってるんで、今年中には出してもらいます(笑)。それから同じ千葉のMIKRISもROCKASENに紹介してもらったんですけど、彼も俺もBack Channelにサポートしてもらっている流れでたまに会ったりして、じゃあ、一緒に曲を作ってみようかっていうことになったのが始まりですね。彼のラップはめちゃくちゃ上手いし、毎回新しい物を見せてくるんで相当くらっています。今回もさくっと予想を超えてきましたね。
— そして、千葉勢に加えて、このアルバムには、2曲にフィーチャーしているNERO IMAIほか、YUKSTA-ILLにCAMPY&HEMPY、C.O.S.A.、RAMZAという今一番勢いがある東海勢が大挙して参加しているのも大きな特徴です。
BUSHMIND:意識して、そうしたわけじゃなかったんですけど、結果的にそうなりましたね。やつらにはかなり刺激を受けているんで……ていうか、みんな、スタイルが違うし、スゴくないですか? 音楽遍歴もそれぞれ違うし、そのうえでヒップホップをやってるところも共感を覚えますね。
— 東海勢は、音楽性とキャラクターの多彩さがSEMINISHUKEIに近いですよね。
BUSHMIND:自分も勝手にそう思ってますね。色んなキャラがいて、ジャンルを越えたところでのスタイル・ウォーズになっているんですよね。CAMPY、RAMZAの地元、小牧市の先輩で、こないだ出したアルバム『BEAUTIFUL LIFE』が衝撃的だったNEROは名古屋ではよくテクノのパーティで遊んでたって聞いたし、彼はHydro Brain MC’sっていうグループの一員でもあるんですけど、テクノを通過したトラックメイカーがいたり、クロスオーバーしてるんですよね。
C.O.S.A.もすごいトラック・メイカーがいるっていう認識だったのに、こないだ出したアルバム『Chiryu-Yonkers』もそうですけど、ラップもとんでもないですからね。
— tofubeatsのリミックス・アルバムにも参加していたRAMZAも元ラッパーだったと聞いてますし、彼のトラックはエレクトロニカ・ヒップホップだったり、LAのビート・メイカーにも通じる作風でもありながら現場感があるヒップホップにきっちり落とし込んでいます。
BUSHMIND:あのバランス感覚はスゴいですよね。作品が常に変化していて、彼の最新の音を聴くチャンスがライヴの現場というのもすごくいいなと思いますね。
— 現場でライヴを観ても、素性がよく分からないR61BOYSをフィーチャーした「LOOSE SET」はニューカマーでありながら、ラップがヌルッとしてますよね。
BUSHMIND:(笑)そうですね。全く力が入ってないというか、等身大というか。地元伊勢原のスラングなのか、何のことを言ってるのか、よく分からないことをラップしてて、レコーディング中、やつらに質問しまくっちゃいましたね。個人的にやつらはD.U.O TOKYOに似てるところがあるなと思っていて、ERAは外に向いた曲もやってますけど、その2組に共通しているのは、ラップが外に向かっていないというか、自分たちが楽しむために音楽をやっているところなんじゃないかな、と。
— ラッパーでは、その他にMedullaのILL-TEEとヒップホップ/ハードコアの最重要レーベル、WDsoundsのボスでもあるJ.COLUMBUS、それから、DOWN NORTH CAMPのオリジナルメンバーCENJU。さらにスキットでは、DJ HIGHSCHOOLにSTARRBURST、DJ BISON、OVERALLにHATACHEMIST、ISSAC、RAMZAというトラック・メイカーともコラボレーションをしています。
BUSHMIND:トラック・メイカーとのコラボレーションは、(CIAZOOのTONO、DJ PKとのプロジェクト)D.O.D.の制作でその楽しみ方を覚えて以来、自分以外のトラック・メイカーと一緒に作ることで刺激をもらえるし、自分にとって共作は自然なことなんですよ。
— サイケデリック・ヒップホップの三銃士、BBHの2人、DJ HIGHSHCOOLとBUSHMINDのソロ作が完成したわけですから、次はSTARRBURSTですよね。
BUSHMIND:そうですね、もう何年もアルバム作れって言ってるんですけど。STARRBURSTがアルバムを出さない限り、BBH第2章の扉は開かれないという話ですからね。でも、DJ HIGHSCHOOLはこないだ出たアルバム『MAKE MY DAY』がホント最高で、このアルバムを作るにあたってもかなり影響を受けましたし、『MAKE MY DAY』の最後の曲「The Dawn」をリミックスした「QUIET DAWN」を俺のアルバムの1曲目に持ってきて、2枚のアルバムをつなぎました。今回、自分としてはキラー・チューンのみで構成されたアルバムを作るつもりで取り組んだんですけど、作り終えて、自分には渋い、いぶし銀のアルバムは作れないんだなって再確認しましたね。
— というか、ドープなヒップホップ、テクノの良さも知りつつ、BUSHMINDのトラックは色彩が豊かでメロディアスな、キラキラした作風が魅力であることは、このアルバムが物語っていますよね。
BUSHMIND:そうですね。そういう部分を活かしながら、表現の幅は広く、聴く人によって好きな曲が違う、そんなアルバムが作りたかったし、現行のヒップホップもジャンルの垣根がなくなってきていることもあって、今回は自分のやりたいことが作品に落とし込みやすかったんですよね。しかも、ROCKASENの仲間であるWACK WACKが、ポップさと毒を併せ持ったアルバムの世界観をアートワークに上手く落とし込んでくれて、仕上がりにはとても満足してます。今回は制作環境をPCに移行して、前作よりハイファイなプロダクションになっていると思うんですけど、そういうものとアナログとの融合をこの先もっと進めていきたいですね。
それと去年末、自分たちがデトロイトから呼んだ(元トランスマット・レコーズのDJ、プロデューサー)ケヴィン・レイノルズが「DJを止めるか、ヨーロッパでやるかどっちかだよ」とまで言ってくれて(笑)。まずはテクノ、ハウスでヨーロッパを目指すべく、作品を作ろうと思ってます。
— では、最後にミックスについて一言お願いします。
BUSHMIND:今年の2月に代官山UNITでCRACという企画にPAYBACK BOYS、MIKRIS、MC KHAZZ、BLAH MUZIKと一緒に出演させてもらって。その時に仕込んだMIXを元にAbelton Liveで仕上げました。このミックスのお薦め曲は23分過ぎに始まるS54のリミックス、2年前ぐらいにYANAGI、MATAGI、Mamimume Mosuと4人で作った曲です。SFPのメンバーでもあるMATAGIのドラムが最高にかっこいいんで、是非聞いてみてください。