Vol.45 Kuniyuki Takahashi – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、独自の音楽性が世界各国のDJ、プロデューサーから高い評価を得ている北海道在住の音楽家、Kuniyuki Takahashiです。


Joe Claussellのレーベルよりリリースした札幌の名クラブのトリビュート・チューン「Precious Hall」やDIGO(4Hero)主宰レーベルのコンピレーション参加によって、その名を一躍世界に知らしめた彼は、Kuniyuki Takahashi(Kuni、Kuniyuki)名義で先鋭的なダンス・トラックの数々をリリース。さらにジャズ・ピアニストの板橋文夫、プロデューサーのDJ Nature、Mr Raoul Kらとコラボレーションを行いながら、サカナクション、mouse on the keys、朝崎郁恵らのリミックスを担当し、即興性とダンス・ミュージックを融合した独自のスタイルでのライヴも国内外で精力的に行っている。


その一方で、彼はアンビエント、ミニマルを土台に、音楽の実験的な側面を探求するKoss名義でも活動しており、2001年にはイギリスのフェス、Big Chillに出演したほか、近年はMuseum Of Plateの塚本サイコ、MINILOGUEとの共作アルバムを発表。そして、去る3月25日に、単独作としては2008年の『Ancient Rain』から実に7年ぶりにリリースされた新作アルバム『SILENCE』では、生楽器や弦楽器を用いながら、美しさのなかに狂気を秘めた心象風景を描き出している。今回は、アンビエントからニューウェイヴ、ノイズ/インダストリアルへと移ろい、その先へと広がってゆく彼のルーツと音楽遍歴をインタビューとDJミックスで紐解いた。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

Kuniyuki名義でリリースしている作品は4つ打ちを用いつつ、クラブという場で知的なものとプリミティヴなものを共有したり、ハートを感じるための音楽として作っているんですけどね。

— クニユキさんは、音楽活動するにあたって、いくつかの名義を使い分けていらっしゃいますよね?

Kuniyuki:はい。そもそも、自分はジャズだったり、クラシックだったり、色んな音楽が好きなんですね。そして、現在のようにコンスタントに作品をリリースするようになる前から地元の札幌で曲を作り続けていて、当時は自分のなかで名義分けは考えていなかったんですけど、2001年にディーゴ(4ヒーロー)のレーベル、2000BLACKから初めて作品(コンピレーション・アルバム『The Good Good』収録の「Nu Way」)を発表する時に自分の名前がクニユキだから、シンプルに"Kuni"という名義にして。その後も引き続き音楽活動を続けるなかで、自分がやりたいことをリスナーに近く、分かりやすく感じてもらうために名義を分けた方がいいなと思うようになって、フルートやパーカッションといった生楽器の要素を取り入れた作品をリリースするのは“Kuni”、“Kuniyuki”名義。そして、その2つと区別として、実験的な側面を追求するべく“Koss”という名義での作品制作をスタートさせたんです。

Kuniyuki Takahashi『Feather World』 2012年に発表されたKuniyuki Takahashi名義の最新オリジナル・アルバム。ジャズ・ピアニストのBugge WesseltoftやプロデューサーのHenrik Schwarzらをフィーチャーしたオーガニックかつディープなダンストラックを展開している。

Kuniyuki Takahashi『Feather World』
2012年に発表されたKuniyuki Takahashi名義の最新オリジナル・アルバム。ジャズ・ピアニストのBugge WesseltoftやプロデューサーのHenrik Schwarzらをフィーチャーしたオーガニックかつディープなダンストラックを展開している。

— これまで色んな音楽を聴かれてきたということですが、そのルーツには80年代のニューウェイヴ、ノイズ/インダストリアルがあるとうかがっているのですが。

Kuniyuki:そうですね。自分が初めて色んな音楽に触れ合うようになったのは中高生の頃だったんですけど、当時、レンタル・レコード屋に行っては変わったジャケットのレコード、普通じゃないレコードを借りることが多くて、そのなかでもブライアン・イーノのような実験的な音楽、新しい音楽表現に向かっていくエネルギーが魅力的に感じされた自分にとって、実験的な音楽がニューウェイヴにつながっていったのは、すごく自然なことでした。そして、クラフトワークからデペッシュ・モード、ニック・ケイブからアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンという感じで、分かりやすい音楽からより抽象的な、濃厚な音楽に向かっていきながら、兄と2人でユニットを始めたんです。当時、全国的にインディーズ・ブームが起きるなかで、札幌にもそういうシーンがあったんですけど、2人で始めたバンドは、兄がドラム缶やその辺のものを鉄パイプで叩くメタル・パーカッション、僕は同じようなことをやりならが、もうちょっとテクニカルにキーボードやドラムの音を入れるというスタイルでライヴハウスに出るようになったんです。

— 音楽を始めるうえで触発されたのは、ノイバウテンやキャバレー・ヴォルテール、テスト・デプト、23スキドゥーといったノイズ/インダストリアルということになるんでしょうか?

Kuniyuki:そうですね。そうした音楽は、色んな音楽を聴きながらも、未だに好きで聴いているんですけど、ノイズ/インダストリアル、エレクトロニック・ボディ・ミュージック(EBM)は、アヴァンギャルドな、肉体的な表現だし、それを突き詰めて、会場や自分を壊したり(笑)、スゴいところまでいく音楽家もいる音楽ですけど、やっている人は内に思想を持っている人が多いし、すごく知的な音楽なんですよね。だから、そうした音楽を掘り下げた時に出会う知的な表現は、時代を超えて、これから先も理解していくことになるんだろうなと近年改めて再認識しているところなんです。

Einsturzende Neubauten『Halber Mensch』 ブリクサ・バーゲルトを中心に、西ドイツで結成されたインダストリアル・バンドによる1985年のサード作。サンプラーを交えつつ、メタル・パーカッションやノイズ、騒音を音楽的に構築した名作アルバムだ。邦題は「半分人間」。

Einsturzende Neubauten『Halber Mensch』
ブリクサ・バーゲルトを中心に、西ドイツで結成されたインダストリアル・バンドによる1985年のサード作。サンプラーを交えつつ、メタル・パーカッションやノイズ、騒音を音楽的に構築した名作アルバムだ。邦題は「半分人間」。

— ちなみにクニユキさんがお兄さんとやっていたバンドは、その後、インダストリアルからEBMへと移行していったんですよね?

Kuniyuki:そうですね。当時、EBMがさかんだったベルギーのレーベル、Body Recordsが僕と兄貴でやっていたユニット、DRPに興味を持ってくれて、90年に『Electro Brain 586』というアルバムをリリースして。そのレーベル・オーナーとは未だに親交がありますし、翌年録音して、お蔵入りになっていた『Peace Offensive』というセカンド・アルバムが、ついこの間、限定リリースされたばかりなんですよ。

— 当時の札幌は、同じくベルギーから作品をリリースした2nd CommunicationというEBMのバンドがいたり、濃密なニューウェイヴのシーンがあったんでしょうか?

Kuniyuki:そうですね。ちなみに2nd Communicationは、兄と仲のいい友達がやっているユニットだったりして、しかも、3月31日にPrecious Hallでニューウェイヴだけをプレイする「STEAM PUNK NA-YORU」というパーティにDJで参加するんですけど、一緒にプレイする先輩DJがその2nd Communicationのメンバーの一人なんですよ。

— 現役でご活躍なんですね。しかし、ニューウェイヴと一言で言っても、その大きな括りのなかには、ダブだったり、ラテンやアフロだったり、様々な音楽要素が溶かし込まれていたと思うんです。

Kuniyuki:そうですよね。自分はその後、民族音楽に興味を持つようになったんですけど、インダストリアル・ミュージックのなかに民族音楽を取り入れた作品が色々あったんですよね。だから、自然と民族音楽を聴くようになったのも、ニューウェイヴを経由したことが大きかったのかもしれない。そして、87年から90年にかけて、通うようになったクラブでかかっていたシカゴ・ハウスやアシッド・ハウスは現場で吸収するようになるんですけど、そういうレコードを自分で買うことはなく、90年代はワールド・ミュージックとダブにどっぷりだったんです。

— インダストリアルとワールド・ミュージックということでいえば、インダストリアル・バンドの23スキドゥーはイギリスの先駆的なワールド・ミュージック・フェス、WOMADに出演していますし、そのWOMADの主宰者の一人であるピーター・ガブリエルの作品やU2、ブライアン・イーノともコラボレーションを行っている世界的なエンジニア、ダニエル・ラノワはクニユキさんがフェイバリットに挙げるアーティストの一人ですよね。

Kuniyuki:そうですね。ブライアン・イーノの作品をあれこれ聴くなかで、作品のテイストがそれぞれ違うので、「どうしてなんだろう?」と思って探っていったら、ダニエル・ラノワの名前が出てきたんです。彼が手掛けた作品を聴き始めるようになったのはそれからですね。ただ、彼が手掛けた作品はニューウェイヴではなく、彼の母国であるカナダの土地や空気を意識させる独特なタッチ、音処理が本当に魅力的で、グラミー賞を受賞したボブ・ディランの『Time Out Of Mind』やエミルー・ハリスの『Wrecking Ball』をはじめ、彼のソロをチェックするようになったんです。彼の尊敬出来るところは、レコーディングは機材や環境がきれいに整ったスタジオがベストだという考え方ではなく、そのアーティストや作ってる音楽によって、レコーディングする場所を決めて、使われていない映画館や古い邸宅や教会で録音したりするんですよね。音楽はどこから生まれるのか?ということを考えた時、彼の場合はそのライフスタイルから生まれるんだと思うんですけど、その作品からは生活から生まれるオーガニックな響きと、僕がインダストリアル・ミュージックに感じるものと近い知的な表現が融合しているような、そんな印象を受けるんですよね。僕もそういう両極端なものが好きだし、作る作品にもそうした要素が共存している気がします。

Daniel Lanois『Flesh and Machine』 U2やボブディランをはじめとする数々の歴史的名盤に携わってきたプロデューサー、エンジニアによる2014年作のインスト・アルバム。アンビエントやダブステップ、インダストリアルとも共振する先鋭的な音響セッションが繰り広げられている。

Daniel Lanois『Flesh and Machine』
U2やボブディランをはじめとする数々の歴史的名盤に携わってきたプロデューサー、エンジニアによる2014年作のインスト・アルバム。アンビエントやダブステップ、インダストリアルとも共振する先鋭的な音響セッションが繰り広げられている。

— 確かにクニユキさんの音楽は、オーガニックなものとエレクトリックなもの、知的なものとプリミティヴなもの、そういう両極にあるものがせめぎ合っているように思うんですけど、ご自身にとって、ダンス・ミュージックはどういうものなんでしょうか?

Kuniyuki:自分にとってのダンス・ミュージックは、知的なものとプリミティヴなものが混ざっているところに魅力があって。人間の生そのものがリズムというか、ダンスは生きていくうえで必要なものだと思うし、Kuniyuki名義でリリースしている作品は4つ打ちを用いつつ、クラブという場で知的なものとプリミティヴなものを共有したり、ハートを感じるための音楽として作っているんですけどね。
自分のキャリアを考えると、2002年にニューヨークのジョー・クラウゼルのレーベル、Natural Resourceから「Precious Hall」っていうシングルをリリースしたことで、ディープハウスのアーティストと認識されたことが大きいんでしょうけど、じつは当時、ジョーの名前を認識しつつも、ディープ・ハウスを積極的に聴いていたわけではなかったですし、彼がどういう音楽をやっているのか知らなくて。友達の家で音楽を聴かせてもらっているなかで、「この曲いいね」って言ってた曲に彼のレーベルから出た作品がたくさんあったという、そういう繋がり方だったんですよ。

— そういう意味で自然とディープハウスとリンクしていったわけですね。

Kuniyuki:ちなみに、じつはジョーもパンク、ニューウェイヴが好きなんですよ。あまり知られていないと思うんですけど、彼も当時は安全ブーツと黒づくめの服装で、そういう音楽を聴いていたらしいです(笑)。そういう意味において、今、僕がKuniyuki名義でやっている音楽が、ダンス・ミュージックやディープ・ハウスと捉えられることは否定しませんし、受け取り方は人それぞれだと思っているんですけど、例えば、一般的に環境音楽やアンビエントだと言われるブライアン・イーノの音楽を聴いた時、僕がそこに狂気性を感じたりするように、表面上の美しさの裏に狂気があるというような、そういう表現のバランスが、あらゆる芸術やライフ・スタイルに存在しているように思います。僕自身、そういう音楽を意図的に作ろうとは思っていないんですけど、色んな音楽を聴いてきた自分の内面は自然と出てしまうというか、音楽はウソがつけないし、音楽によって、まだ自分たちが知らない未来を感じ取れることがあったりしますから、音楽のバランスや多面性はこれからも考えていきたいですね。

Koss『SILENCE』 7年ぶりとなるKossの最新作。生楽器や弦楽器を用いた立体的かつ叙情的な音響空間が心を揺さぶる、深く美しい一枚。

Koss『SILENCE』
7年ぶりとなるKossの最新作。生楽器や弦楽器を用いた立体的かつ叙情的な音響空間が心を揺さぶる、深く美しい一枚。

— 前作『Ancient Rain』から7年ぶりにリリースされたKossの新作アルバム『Silence』に関してはいかがですか?

Kuniyuki:この7年間は、Kuniyuki名義の制作やリミックスのプロダクションで動くことが多かったんですけど、僕は両極を行き来するタチなので、なかなか制作に取りかかれなかったKossをこのタイミングで動かすことにしたんですけど、『Silence』に関して言えば、室内に共鳴する空間的な表現を意識して、バイオリンをはじめとする弦楽器や生の音を扱ったオーガニックな世界ではあるけれども、自分のなかで追求しているのは、インテリジェントな側面ということになるのかな。僕がやっている音楽は、いつも、端と端の何かを動かしたい欲求に突き動かされているというか、真ん中でいられなくて、いつもギリギリなんですよね(笑)。だから、美しくもありながら、深い印象を残す、そういう作品を目指したんですけどね。

— 風の噂で聞いたんですが、今回、『Silence』にノイズ・アルバムをボーナス・ディスクに付けて発表するアイデアがあったとか?

Kuniyuki:ボーナス・ディスクなのか何なのか(笑)。そういうことを考えたものの、結局、また別の機会にとも思いまして。

— さらにいえば、去る2月にはSPKやTEST DEPT、D.A.F.といったインダストリアル・バンドに触発された12インチ・シングル「Newwave Project #2」をKuniyuki名義で発表されましたけど、ここに来て、クニユキさんはルーツに立ち返りながら、新たな側面を追求されているという印象を受けます。

Kuniyuki:チャレンジは続けていきたいと思っているんですけど、自分が思っているほどにはまだまだできていないんですけどね。そういう意味でやりたいことはたくさんあるし、クラブという場においては、それをみんなで共有しながら、今後も活動していきたいと思っていますね。