MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、今年、デビュー25周年を迎えるスチャダラパーのトラックメイカー/DJのSHINCOです。
チャットモンチーや清水ミチコ、ロボ宙、かせきさいだぁらをフィーチャーした6年振りのニュー・アルバム『1212』を1月28日にリリースしたばかりのスチャダラパーにあって、ファンクネスがにじむシンプルなプロダクションによって、長きに渡るグループのキャリアを揺るぎなく支えてきた彼に、レアなソロ・インタビューを敢行。併せて、こちらも非常にレアな、ライヴ感あふれるDJミックスを提供していただいた。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— この間、20周年を迎えたと思ったら、気づけば、今年、スチャダラパーはデビュー25周年になるんですね。
SHINCO:そう。時間経つのがあまりに早くて怖いよね(笑)。
— 近年は作品ごとのインターバルの長くなっていますが、トラックはコンスタントにスタジオに通って作ってるんですか?
SHINCO:そうでもないんですよね。尻を蹴られて、なんとかかんとか(笑)。テクノロジーが進化したことで、家でも作業が出来るようになったから、毎日、作業場に通っているわけでもないし、作品を出す時は貯めておいたトラックから選んだものが半分、もう半分はその都度作る感じかな。でも、今年は新年の決意として、トラックのストックを貯めようかな、と(笑)。
— 25年の活動を通じて、ヒップホップの機材の進化やトレンドの変化に立ち会ってきたと思うんですが、SHINCOさんご自身の制作環境の変遷というのは?
SHINCO:最初の頃はAKAIのサンプラーS-900とシーケンサー、ターンテーブルとミキサー、それから2箱のレコードをスタジオに持っていって、その場で作ることが多かったですね。当時はすでにMAJOR FORCEが始まっていて、工藤(K.U.D.O.)さんや(高木)完ちゃんがいたから、エンジニアに困ることもなく。ただ、その後、機材をアップデートするにも金がなかったから、みんなで1万円ずつ出し合って、ローンでS-1000を買ったりしてましたよ。
自分のなかでは、今でも思い出したようにたまに使う(ヒップホップの制作現場でお馴染みの名機)SP-1200を手に入れたことが大きかったかな。それからMPC2000、MPC2000XLを使うようになって、作品の多くはその2つでトラックを作ってたんですけど、2000年くらいからおっかなびっくりコンピューター、Logicを使うようになって、プロデュースしたAFRAの『Always Fresh Rhythm Attack!』(2003年)からそっちに移行していった感じですね。
使っているソフトは一貫してLogicなんですけど、ラップが録れるようになったり、スタジオに行かなくても作業出来るようになったことは自分にとって大きくて。まぁ、同時にトラックを作ってる横で2人がリリックを書いてたりもするから、家で全てを完結させるつもりもないんですけどね。
— SHINCOさんのトラックはその時々で変化しつつ、大きく捉えると、音数を絞ったシンプルな佇まいとにじみ出るファンクネスに特徴があると思うんですが、その土台はもちろんサンプル・ループですよね?
SHINCO:そう。まずはサンプリングしてみて、そのフレーズから発想を得ることが多いですね。当たり前ですけど、なるべく人が使ってなくて、バレないネタ、人が聞いたら、がっかりするようなレコードから取ってますね(笑)。
— 初期は「太陽にほえろ!」のサントラを使ったり、ECDさんと並んで、SHINCOさんは和モノをいち早くレアグルーヴとして扱っていましたよね。
SHINCO:今また和モノが盛り上がってますけど、当時はレコードをあまり持ってなかったということもありつつ、レアグルーヴを聴いてる耳で和モノを聴いたら、「あ、これもイケるじゃん」って思ったんですよね。最近はネタ用のレコード買いも昔と比べると落ち着いて、持ってるレコードを再利用するようになってるんですけど、サンプリングをベースにしたトラック作りは今も昔も変わらず。音数が多くないのは好みとしか言いようがないんですけど、(2000年のアルバム)『ドコンパクトディスク』は作っていたのが世紀末だったせいか、リリックも含めて、あまりに音数が少なくなりすぎて、あれはどうかしてましたね(笑)。
あと、ヒップホップって、テンポの制限というか、どうしても、作るトラックのテンポが固まりがちだったりするんですけど、例えば、DEV LARGEだったり、北ちゃん(KZA)とKENTがだんだんForce Of Natureになっていく過程を見ているうちに、ハウスが聴けるようになったり、色んな面白いレコードを教えてもらったことで、テンポの縛りから解放されて。象徴的だったのは、30歳の誕生日の時にフランソワ・K.の『ESSENTIAL MIX』とU-STAR時代の作品をあつめたイジャット・ボーイズの『More Or Less』をもらったんですよね。その2枚のミックスCDは自分のなかでものすごい新鮮だったし、R.M.N.のWATARUde経由でそれまで音楽的な側面を知らなかったSarcasticのポール(・T)がやってるパーティに連れていってもらったり。あの時期は自分にとっての転換期だったかもしれない。
— 2004年の『The 9th SENSE』以降、トラックにハウスやディスコの影響が投影されるようになりましたもんね。
SHINCO:そう。コンピューターを使うようになったこともそうだし、シンセも使うようになったし。ヒップホップ自体のトレンドも変わっていった時期でもあって、TRITONっていうMIDIキーボードが多用されるようにもなって、プロデュースしたロボ宙のソロ(2002年の『銀河飯店』)はそういう音楽性の移り変わりがダイレクトに反映出来たのが面白かったんですよね。あの時期、川辺(ヒロシ)くんのDJも生音から4つ打ちに変わっていったり、うちらのライヴや作品でもベースを弾いてもらってる(SLY MONGOOSEの)笹沼(位吉)くんなんもそう。だから、アイディアをライヴや作品にフィードバックさせやすかったということもあって。
— さらに言えば、そういう流れのなかで、スチャダラパーとSLY MONGOOSE、ロボ宙さんによる10人組バンド、THE HELLO WORKSも始まって、チャットモンチーとのコラボしかり、生音を扱う機会も飛躍的に増えましたよね。
SHINCO:そうですね。気心が知れているから、SLY MONGOOSEの2人、笹沼くんと松田(浩二)さんと一緒にやるのは楽しいし、Pan Pacific Playaの(ギタリスト)Kashifもソロでライヴやってた時にナンパして、ここ最近、一緒にやるようになったり。Latin Quarterをはじめ、横浜の若い連中はオープン・マインドだったりして、いいなーと。まぁ、若いと言ってもみんな30過ぎてるけど(笑)、自分より下の世代だと大阪のneco眠る、BIOMANとか、こんがりおんがく周辺も面白いですよね。
— そうした変遷も踏まえつつ、新作アルバム『1212』は自主制作でリリースした2枚のミニ・アルバム『3000』と『6ピース バリューパック』、「哀しみturn it up / Boo-Wee Dance」を軸に、新曲を加えた内容になっていますよね。
SHINCO:過去にも配信のリリースで実験してみたり、市場全体でCDの売上は落ち込んでるけど、ライヴに人が集まるという現状を踏まえて、会場だけで作品をリリースしてみたり、『余談』っていうインディー雑誌を出してみたり。作品を作りながら、同時に『余談』を作るのはなかなか大変だったというか。そういう意味では意外に忙しい時期を過ごしていたんですけど、今回の『1212』はそういうここ最近の活動をまとめたベスト盤的な内容でもあるという。音楽的な部分では、一人でトラックを完結させるより、誰かを交えて、イレギュラーなものを活かしていくのが楽しいし、仕上がりも良かったりするので、今、ライヴでやってるバンド形態をなんらかの形で今後の作品に反映していきたいなと思ってますね。
— 新レーベル、ZENRYO RECORDSを立ち上げたからには、1999年のM.I.B.(Meguro Incredible Beats)以来となるSHINCOさんのソロも期待したいところなんですが。
SHINCO:昔、天久(聖一)さんちに行った時、連載がない時でも漫画書いてるのを見て、「すごいなー。こういう感じでやらなきゃダメだなー」と思いつつ、ソロ・アーティストとしての意識は希薄というか、どうしてもグループを優先してしまうというか。まぁ、でも、周りからずっと言われてるし、作ってみたいとは思うんですけどねー(笑)。
— DJとしてのSHINCOさんは一貫してヴァイナルの使い手ですけど、今回のミックスについて一言お願いします。
SHINCO:年齢的に、レコードの持ち運びで腰やっちゃうんじゃないかっていう物理的な限界を感じつつ(笑)、Seratoに移行する準備はもう出来てるんですけど、どうしてもヴァイナルは捨てられなくて。パーティもOrgan Barの「ELECTRIC THUNDER」を不定期でやりつつ、今は下北沢MOREのレギュラーで「YELLOW CAVE MIX」をやってるんですけど、今回のミックスもMOREでやっているような、だいぶゆるめな感じ。あそこはお客さんがDJブースを見てないし、おしゃべりしながらゆらゆら体をゆらしてる感じなんですけど、今回もそんな風に楽しんでいただければうれしいですね。