MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、3月5日に単独作としては4年半ぶりとなるアルバム『VG+』をリリースした仙台のヒップホップ・グループ、GAGLE。
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東日本大震災後も、「うぶこえ」「聞える」という2曲のシングルを通じて確かな言葉とビートを届けてきた彼らが、MCやシンガー、外部プロデューサーをフィーチャーした新作アルバムで辿り着いた境地とは? 彼らのインタビューとともに、前半をDJ Mu-R(インタビューは欠席)、後半をDJ Mitsu the Beats、そこにHUNGERがシャウトを乗せた三位一体のDJミックスをお楽しみください。
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
単純に「あったかい」とか、聴き馴染みがいいヒップホップっていうのは、沢山生まれては朽ちていったし、自分たちが踏ん張って見せたいのはそういうところじゃないんですよね。(HUNGER)
— 単独のアルバムとしては前作『SLOW BUT STEADY』から4年半経っていたんですね。
DJ Mitsu the Beats(以下Mitsu):そうですね。でも、自分たちのなかで、そんなに時間がかかったとは思っていなくて。その間、僕のソロ(2010年の『UNIVERSAL FORCE』、2012、3年の『Beat Installments Vol.1 & 2』)やOvallとのコラボ・アルバム(2012年の『GAGLE×Ovall』)もありましたし、今回の『VG+』も制作にはそこまで時間がかかっていないんですよ。
HUNGER:そう、今回のリリックもここ1年ちょっとの間に書いたものですからね。
— ただ、この4年半の間には東日本大震災がありましたよね。その前後で音楽に対する意識に変化はあったと思いますか?
HUNGER:個人的にはだいぶ違いますね。というのも、仙台という場所で長く活動しているということもあって、自分たちがそこまで意識しなくても、その土地出身のアーティストとして、音楽が作る、メッセージを発する、作品をリリースするということは、その土地代表と思わたりもするわけで、よりしっかりした、ちゃんとしたもの、がっちりGAGLE色で、作品としてばっちり決まったものを出さないとなって。そういう責任感みたいなものはありますね。
Mitsu:僕の場合、震災から数日間は「音楽はもう出来ないかもしれない」って、正直そういう気持ちになったんですけど、あれはいつだったか……結構早い段階でHUNGERにトラックを送って、その時点から「また音楽をやろう!」と走り出した感じですね。その後、もちろん、色んなことがありましたけど、曲作りに関して、僕の意識は何も変わってないというか、自分にはDJとビート作りしかないし、ずっと音楽を作り続けよう、と。
— 続けるという意味で、GAGLEは結成が1996年なので、キャリアとしては18年目ということになりますよね。
HUNGER:ははは。それ、ヤバいよ! 人生の半分だよ。
Mitsu:あれ? え! そうか、それは自分でもびっくりですね(笑)。まぁ、でも、昔は先輩ばっかりだったけど、今は下ばっかりですからね。
HUNGER:5年くらい前に「これから若い子がどんどん出てきて、シーンがひっくり返るぞ」っていう空気があって、当時、「すごいな」って思ってましたけど、今は10代の子たちが当たり前のように出てきてる、そういう戦国時代ですよね。
— 長く音楽を続けていくうえで、GAGLEにとって持久力の源はどこにあるんだと思います?
HUNGER:これはひとつしかなくて、ラップが好きだということですね。誰が一番かということはないと思うんですけど、自分はトップレベルでラップを聴いていると思えるくらいのファンなんです。テクノロジーや時代の変化や進化と共に、新しいリズム、新しいラッパーが次々に生まれるし、そうしたものを聴けば、常に発見がある。自分はそういう流れのなかで、意識せずしてラップに接してきたし、やってきたんです。好きこそものの上手なれ、じゃないですけど、そういう自分にとっての絶対的なものに出会えてよかったなって。
Mitsu:僕の音楽制作は、サンプルに負う部分が大きいので、常に新しいネタを知りたいという欲求があって、たまたま出会った音楽をメモったり、こないだもテレビで『世界ふしぎ発見』を観てたら、いい曲がかかったので、それをShazamで調べたり。常にそういう姿勢ではいるんですけど、いいサンプルに出会えなかったり、いいコードが思いつかなかったり、一年間に何度か、どうしても「作りたくない!」と思う時期があって、そういう時はすっぱり作るのをやめますね。トラック・メイカーは無職に毛が生えたようなものだと思っているんですけど、そういう時はただの無職になるっていう(笑)。でも、最近はとくに豊作で、すごくいい音楽といっぱい出会えていて、まだ使えてないネタがものすごいあるっていう、何年かに一度のピークが来てるんですよ。
HUNGER:え、それ聴かせてよ!(笑)
— はははは。
Mitsu:僕の場合、サンプリングにしてもそうだし、自分が弾くフレーズや曲作りも誰かにインスピレーションをもらっているからこそ成り立っているわけで、昔の人がいい音楽をくれていなかったら、自分の音楽制作は終わってますね。ジャズに関して、日本で一番知識があると思っている福島のLITTLE BIRDというレコード屋をやってるMARCYさんっている人がいるんですけど、そういう人ですら、「知らない曲はまだまだ存在する」って。それを聞いて、「自分はまだまだ大丈夫なんだ」って安心しましたね。
— “ディグ”のカルチャーはインターネットの発展とともに変わったと思います?
HUNGER:例えば、兄貴(編注:実兄Mitsu the Beatsのこと)がレアなネタを使ったミックスを試聴用にYouTubeに上げたら、その後、そのネタが海外のトラック・メイカーに使われていて、「この人、ホントにディグったのかな?」って(笑)。今はそういうYouTubeからも普通にサンプリングする時代ですよね。あと、僕がヒップホップを掘ってると、兄貴のトラックでラップしてる曲がBandcampで売られてたりして(笑)。「見つけたよ!」って、連絡したりとか。
Mitsu:まぁ、実際に掘った人とそうじゃない人の違いは音楽に表れるとは思うんですけど、今はそういう時代だから、あんまりやっきになってもね(笑)。掘るという意味で、Discogsのようなサイトでは再発なのにオリジナルであるかのような値段がついていたりする問題もありつつ、恩恵を預かっているところは間違いなくあるし、ホントにレアな音源はYouTubeでもVIEW数はそんなになかったり、Discogsにも載ってなかったりしますからね。
— そうやって仕入れたネタからサンプルを組んで、トラックを作ったら、まずはHUNGERくんが聴いて、好きな曲を選ぶ、と。
HUNGER:だといいんですけど、最近のトラックはなかなか送ってくれないっていう(笑)。
Mitsu:そりゃ、自分用にもとっておきたいので、渡さないものもありますよ(笑)。それに世に出てないストックが膨大にありますからね。今回のアルバムでも一番古いものだと、2007年のものになるのかな。ただ、作ったトラックから選んでもらうだけじゃなく、HUNGERのラップが乗ることを想定して作ることもあって、「屍を越えて」みたいに、みんなに好きだといってもらえるようなレベルの曲は大事に育てるべく、(HUNGERに対して)敢えてキープしてあるんで!
HUNGER:はははは。でも、選んだ時、兄貴に「え、それ選ぶの?」って言われた曲でもラップを乗せたことで、「ああ、なるほど!」ってなったりとか、ラップを乗せることでがらっと変わる曲もあるよね?
Mitsu:作った時から経験を積んだり、音楽の嗜好も変わったりするので、今のテイストが加わることで、曲が化けることもやっぱりありますよね。
HUNGER:兄貴が作るビートや世界観は直感でいいと思って形にするものなので、自分がラップを乗せる時は自分の方に強引に引き寄せるんじゃなく、兄貴の世界に表情や色をつけるような感覚で臨んでますね。というのも、ファーストの『BUST THE FACTS』はあまりにも僕の独壇場だったんですね。今となっては、若さゆえの勢いといういい面も感じられるんですけど、2003年に兄貴のソロ・アルバム(『New Awakening』)が出た時、「兄貴のトラックって、こんな風に聞こえるんだ」って驚いたんですよ。そこで自分のやり方を変えていかないと、「GAGLEは太く短い活動で終わってしまうな」って思ったし、人間としても成長したかったので、その後はトラックのキーにラップを合わせたりするようになりました。でも、今はキーを合わせるのは大前提なんですけど、キーを合わせることで弱まってしまうダイナミクスを、言葉のチョイスでいかに引き立たせるか。今はそういう段階に入っていますね。
— ラップのアプローチも着実に進化していると。
HUNGER:ただ、これはいいところでもあり、悪いところでもあるんですけど、ゆるいラップにどうしてもならないんですね。ラップのキーやテンションが落ち着き、年も取ってくると、スロウにラップした方が聴きやすかったりはするじゃないですか。でも、いつだったか、スチャダラパーのBOSEさんが「ラッパーはキャリアを積んでいくとラップがスロウになっていく」みたいなニュアンスの話をしていて、「それが定説なら、俺はそれには乗らない」と思ったんですね。分かりやすい例を挙げると、例えば、言葉を詰め込んでラップをするエミネムなんか、今も勢いを失わず、魅力的な音楽を作り続けていますからね。だから、自分も兄貴のトラックのなかでスロウ・ダウンせずともイケるはずだ、と。
— 言葉が聞き取りやすいファスト・ラップのスタイルは着実に洗練されていってますよね。
HUNGER:兄貴のトラックは、ただ音がいいだけじゃなく、すごくシンプルで音の配置も細部までこだわり抜いているので、僕のように早口で、言葉の角が立つような発音の言葉を選ぶ人が兄貴のトラックにラップを乗せたら、恐らく難しく感じるんじゃないかな。そういう全体のバランスを考えながら、ラップをしてきたことで培われたものは大いにあるんじゃないかなと思いますね。
— 今回収録されている、「聞える」に七尾旅人くんをフィーチャーしたアップデート版「聞えるよ」は、攻撃的で前のめりなビートに対して、力強く、優しく聞こえるラップがネクスト・レベル感あるなって。
HUNGER:あれはドラムに乗せられた感じです(笑)。
Mitsu:ホントはもうちょっとマイルドだったんですけど、エンジニアの奥田さんのアイディアでドラムがああいう攻撃的な質感になって(笑)。それによって、ただキレイなだけじゃない、いいグルーヴに溢れる曲になったと思いますね。
— GAGLEは"大人も聴けるヒップホップ"と形容されることが多いと思うんですけど、そこには成熟したまろやかさだけではない攻撃的なドラム・サウンドやうねるベースラインも共存していますよね。
HUNGER:それはもう、他と一緒にされちゃ困るところだよね(笑)。
Mitsu:(笑)そうだね。
HUNGER:単純に「あったかい」とか、聴き馴染みがいいヒップホップっていうのは、沢山生まれては朽ちていったし、自分たちが踏ん張って見せたいのはそういうところじゃないんですよね。
Mitsu:そんなね、メジャーで売ることを諦めた人たちがきれいなことだけやっててもしょうがないですよ(笑)。それに今回、どこかのレコード会社ではなく、JAZZYSPORTから出すのは、EP以外では初めてなんですよね。だから、そういう体勢でこそ出来るアルバムということもありますし、自分たちとしてはアップデートしながら、真っ当なヒップホップをやってるつもりなんですけど、気づいたら、そこには誰もいないっていう(笑)。
HUNGER:でも、今回、(レゲエシンガーの)PAPA U-Geeさんだったり、旅人さんだったり、他ジャンルの人を呼んでるんですけど、以前よりそういうことがより自然に出来るようになったということはあって。
Mitsu:昔は「この人を呼んだらヒップホップじゃなくなる」とか、そうやって自分たちでハードルを設けていたところもあったんですけど、今回、そういうことは一切考えなかった。その間にヒップホップ・アーティストが呼ばれないようなフェスに呼ばれたりして、繋がりがつながっていった結果、自分たちの気持ちも自然な形でオープンに解放されていったんでしょうね。
— オープンになったといえば、今まではMitsuくんが一手に引き受けていたトラックも今回はgrooveman Spotはじめ、複数のプロデューサーが参加していますよね。
Mitsu:そう、何も考えずに、「この人いいんじゃない? このビートいいんじゃない?」って、やっていったら、参加メンバーも自然に決まっていったんですよね。
HUNGER:まぁ、問題は印税が減るくらいだもんね(笑)。
Mitsu:ああ、それは先に考えときゃよかったよ(笑)。ていうくらい、何も考えてなかったんですよ。昔は「バランスを考えると、こういう要素が足りない」とか、すごく細かく考えてやってたんですけど、気が付けば、今回、参加メンバーも男だけになってましたからね(笑)。
— ラッパーのフィーチャリングもShing02に加えて、KGE THE SHADOWMENを迎えた「舌炎上」も男臭いし、濃くて熱い(笑)。
HUNGER:フロー巧者とのフロー勝負ですよね(笑)。KGEくんとはライヴで何回か対戦したことがあって、今回、作品でもお手合わせ願いたかったんですよ。そうしたらラップはキレまくり。書いてくるリリックも自分には書けない面白いことを言ってるし、お願いしたら、すぐに録って、この完成度ですからね。ホント嫉妬する才能ですよ。
— そんなアルバムに対して、中古盤のジャケや盤のコンディションを意味する『VG+』というタイトルを付けた、その心は?
Mitsu:"VG+"のレコードって、がしがしプレイされているイメージがあるし、
最上級の"ほぼ新品同様”を意味する"mint"じゃない控えめな感じが自分たちらしいんじゃないかなって思ったんですよね。
HUNGER:いつもは後からタイトルが決まることが多いんですけど、今回は2年前から「これでいこう」ということになって、何をやってもそこに落ち着く作品のテーマになったんですよ。かすれても色褪せないもの、傷ついても自分らしくあるもの。そんなアルバムになっているといいなと思いますね。