※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
その時々で演奏やグルーヴは毎回違うから、練習しない方がより自然な音楽が生まれるんですよ。
— 2011年にリリースしたSick Teamのアルバム以降、現在までの2年間で、Budaくんはかなりの数の作品をリリースしてきましたよね。
Budamunk:そうですね。過去に作ったまま溜まっていた作品がようやくリリース出来る環境になったことも大きくて。Dr.Oopと作ったアルバム『Black Love Oriented』は2009年に録ったものだし、自分がLAにいた時に活動していたKeentokersのアルバム『The Fresh Speech』は2003〜4年頃に録った曲をまとめたものだったり、Bandcampで配信しているSoul Jugglerzも2009年以前に録った曲をまとめたものだったり。そういう過去の作品を振り返ってみると、自分の作りたい感じの音はずっと決まっていて、ただひたすら曲を作ってきて、作れば作るほど、クオリティが上がっていってると思いますね。
— 今も制作のペースを落とさずに日々制作に没頭している?
Budamunk:誰でもそうだと思うんですけど、最初はどうやって作ったらいいか、よく分からなかったし、上手く作れなかったので、面白さがよく分からなかったんです。でも、そこからちょっとずつ作り方を覚えて、クオリティが上がっていくにつれて、どんどんハマっていって。ビートを作らない日はないくらい、毎日作り続けていた日々が何年間か続いていましたね。自分の人生において、その頃が一番トラックを量産していた時期なんですけど、今は作ったり、作らなかったり、作る時は1日に10個くらい作る時もあるし、今はリリースを考えて、きっちりミックスをしたり、ビートを作る以外の作業もあったりするので、毎日作っているわけではないんですけど、時間をおいて作ることで新鮮な気持ちでいいものが出来たりするんですよね。
— そして、2011年の年末にはmabanuaくんとのプロジェクト、Green Butterのアルバム『Get Mad Relax』もリリースされました。
Budamunk:Green Butterは、自分がビートを作る以上のことをやるのがなかなか難しいので、その部分を演奏からビート・メイクも出来るmabanuaに担ってもらったプロジェクトですね。僕はビートだけで聴かせるのも好きなんですけど、さらに生音を乗せることによって、ヒップホップに馴染みがない人にも聴きやすくなるんじゃないかと思うし、色んな意味で幅が広がりましたね。
— Budaくん自身、過去にはネオ・ソウルを聴き込んでいた時期もあったとか。
Budamunk:もともとヒップホップ以前に中学生の頃に聴いていたネオ・ソウルだったり、70年代のソウル・ミュージックを通じてブラック・ミュージックの洗礼を受けたんですよ。だから、Green Butterもそうだし、つい最近出したBudaMunk × Takumi Kaneko × mimismoothのアルバムにしても、自分のなかにある別の側面を形にすることが出来たんじゃないかと思いますね。
— 生楽器を交えることで、その録り方だったり、トラックの構築の仕方だったり、当然、作り方も大きく変わってきますよね。
Budamunk:そうですね。例えば、スネアの代わりに指を鳴らした音を使ってみたり、ハンド・クラップやヒューマン・ビートボックスを録ってみたり、自分のアイディアもさらに広がって。思いついたらタンバリンの音を録ってみたり、キーボードの音も足したり、そういうスキルも自然に身についてきましたね。
— トラックを作るようになる以前、楽器を手にしたことは?
Budamunk:いや、楽器が弾けないから、ビートなら作れるかなっていう発想でトラックを作り始めたんですよね。ただ、楽器は出来る人にしか出来ないことだし、せっかく自分の周りに楽器が出来る人がいるわけだから、そういう人に任せようと(笑)。だって、自分がトラックに乗せる音とmabanuaが乗せる音は、仮に同じフレーズだったとしても、タイミングとか楽器のタッチが違うし、出る音も明らかに違いますからね。
— ミュージシャンとの共同作業はいかがです?
Budamunk:過去の音楽制作はヒップホップの仲間内だけで完結していたので、ほぼ初めての経験だし、共同作業についてもこれまで考えたことがなかったんですよ。だから、生の楽器でトラックを作るmabanuaとの作業は新鮮に感じましたね。それが今は、Taku(Takumi Kaneko:cro-magnonのキーボーディスト)さんにmimismooth(ヴォーカル)、石黒(祥司 aka Gropas:犬式ほかのベース)さんに俺がMPCでドラムっていうバンド編成でライヴをやるようになったんですけど、自分が普段作っているトラックもシンプルなものが好きだし、今のバンドもシンプルなところが気に入ってます。
— そのシンプルなバンドにMPCプレイヤーとして参加して、その場で即興的にグルーヴを生み出している、と。
Budamunk:ドラム・ループの基本は四小節じゃないですか。最初はその四小節を録る時、ハイハットとキックとスネアを別々に録っていたんですけど、何年もビート作ってるうちに、気が付いたら、全てを一気にライヴ的に録れるようになってたんです。しかも、その方が全部の音の動きがまとまるので、よりよく聞こえるんですよ。そのノリで今のライブでも演奏してる感じです。
— MPCプレイヤーって、どうしても飛び道具的なパフォーマンスになりがちだったりしますけど、演奏を志しているところがBudaくんらしいな、と。やはり、ライヴ前には巷のバンドマンのように、リハスタに入って練習したりするんですか?
Budamunk:(笑)いや、しないんですよ。ほぼ、ぶっつけ本番ですね。その時々で演奏やグルーヴは毎回違うから、練習しない方がより自然な音楽が生まれるんですよ。
— それはスゴい。MPCプレイヤーとしてのBudaくんは、ラッパーがフリースタイルをやるように、ヒップホップの即興性に則っている、と。
Budamunk:そうですね。毎回、何が起こるか分からないスリリングな瞬間を楽しんでいるというか、曲の尺も決めずに、自分のなかで「ヤバい!」と思いながら演奏してますね(笑)。
— BudaMunk × Takumi Kaneko × mimismooth名義のアルバム『First Jam Magic』もそんな感じで即興的に作ったんですか?
Budamunk:俺が用意したビートにTakuさんの演奏とmimiの歌を乗せる作り込んだレコーディングで2曲完成させた後に、フリースタイルのセッションも録音して。その音源を持ち帰った後、3曲に切って、音を足したのがイントロの「Early Birds」と「260412」、アウトロの「Sailing To The Moon」なんですよ。だから、その日のレコーディングでは1日に5曲出来たっていう。
— ジャム・セッションがベースになっている曲も収録されているわけですね。
Budamunk:あと、他の曲のドラムもループさせずに、メトロノームを聴きながら曲の最初から最後までMPCを叩いたりもしましたね。
— ループを用いないということは、つまり、ライヴ演奏ならではのリズムの微妙な揺れが活かされていると。もともと、Budaくんの作るトラックのグルーヴも、人間が持ってる生身のグルーヴにより近いものを生みだそうとしていたわけで、今はそれがライヴで表現出来るようになってきているわけですね。
Budamunk:やっぱり、音楽を聴いてる時、音の揺れとか動いてるグルーヴが面白かったりしますからね。あと、今のバンドはTakuさんもmimiも即興演奏に慣れているところが安心でもあり、スリリングでもあり、ゲストで参加してくれた元(春:SOIL&"PIMP"SESSIONSのサックス奏者)さんなんて、曲も知らないまま、会場に駆けつけて、客席から演奏しながら登場しましたからね。
— そういう意味でBudaくんが今やっているのは、普段は自宅で時間をかけて曲を作るトラック・メイカーもバンドに混じってプレイヤーになれるという一つの可能性の追求ですよね。
Budamunk:ビートだけを作っていた頃はヒップホップのことしか考えてなかったし、ましてMPCを使ったパフォーマンスはどうやってやればいいのか分かってなかったので、そう考えると今のバンドは自分を成長させるいい機会になってるなって思いますね。
— そして、BudaMunk × Takumi Kaneko × mimismoothに続くBudaくんの最新作がSick Teamの『SICKSTRUMENTALS』になるわけですが、これは一昨年リリースのアルバムのインスト・アルバムなんですよね。
Budamunk:ドラムを組み直した「踊狂」以外、トラックの素材は前のアルバムそのままなんですけど、インスト・アルバム用にミックスし直したんです。ここ最近、サンプラー、エフェクターのSP-404とか303でライヴやるのが流行っていて、自分も持っていたんですけど、あまり使ってなかったんですね。でも、ここのところ、よく遊んでるILLSUGIっていう若いビート・メーカーから、その使い方を教えてもらったりしながら、インストで聴いても聴く人を飽きさせないように、ここ2年で幅が広がったミックスを『SICKSTRUMENTALS』で実践してみた感じですね。
— Jay Deeの『Welcome 2 Detroit』をリリースしたBBEやStones Throwしかり、一時期盛り上がっていたインスト・ヒップホップもエレクトロニカやテクノ、ダブステップとクロスオーバーしている一部のシーンを除いて、ここ最近は落ち着いた感があるように思っていたんですけど、ISSUGIくんの『EARR』インスト盤しかり、ラップ・アルバムのインスト盤を聴く楽しみを再確認させれられたというか。
Budamunk:今は最初からインスト付属の2枚組になっていたり、配信でリリースされたりしてて、そこまでインストを意識しなくなっているようにも思うんですけど、改めてインストを意識してもらう機会にもなるかなって。
— 2011年に出たSick Teamのアルバム自体、現行のヒップホップ・シーンのバキバキな流れに一石を投じた作品でしたしね。
Budamunk:シンプルかつオーソドックスでありつつ、立体感や解像度なんかは確実にアップデートされてるし、もっとこういうシンプルなヒップホップをやってるやつが他にもいっぱいいていいんじゃないかなって。
— そして、このインスト盤が出るということは、Sick Teamの新作にも期待していいんですよね?
Budamunk:まずはリミックス・アルバムを出す予定ですね。5lackやISSUGIくんともたまに会ったりしてるし……ていうか、ISSUGIくんとは一緒にアルバム作ってるんですよ。でも、それより先に出るのがLA時代から一緒にやってるMCのJoe Stylesと作ったアルバムですね。ビート・メイクを学んだり、本気で音楽をやるようになったのも、ヤツの存在が大きかったりするし、俺が日本に帰ってきてから6年経ってるんで、お互い進化したところでまたやってみようと。
— 2009年に出した『Budastyles Classics』の続編というわけですね。
Budamunk:あと、自分のビートも作ってるんで、そのビート・テープも何枚か出したいし、Green Butterだったり、今のバンドのインスト盤だったり、ホントやりたいことはいっぱいあるんですけど、時間が足りないという(笑)。
— 相当に充実した今後の展開も楽しみにしつつ、最後に今回お願いしたDJミックスについて一言。
Budamunk:"Feel Better"っていうタイトルを付けたんですけど、ヒップホップからソウル、ビート・トラックまで色々混ぜながら、クールな音色の曲を沢山入れたので、夜、車のなかで流したり、チルな感じで家聴きしてもらえたらうれしいですね。