MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回登場するのはgrooveman Spotです。
ヒップホップのDJ・トラックメーカーとして本格的なキャリアをスタートしながら、昨年にはディスコ〜ビートダウンの流れを汲むダンスミュージックアルバム『Runnin’ Pizza』を2月にリリース。そしてその直後、文字通り日本中を震撼させたあの大震災を機に、彼は地元・宮城県仙台市へ戻る決断をする。
そこから約1年半のあいだ、さまざまなミックスCDの作成や、grooveman Spotのルーツのひとつであるニュー・ジャック・スウィングを2012年式に再提案したZEN-LA-ROCK『NEW JACK UR BODY』のプロデュースなど、彼らしい振り幅の広さで精力的に活動を続けてきた中で完成させたのが、通算4枚目となるニューアルバム『Paradox』だ。前作同様インストゥルメンタルトラックを中心としながら、そこには彼にこの1年半で起こったさまざまな心境や環境の変化が、色濃く反映されていた。
今回は、「架空のラジオプログラム」がテーマの名ミックスCD『The Stolen Moments』シリーズの延長とも言うべきカラフルに彩られたDJミックスを楽しみながら、彼の「変化」、そしてそこから生まれた「パラドックス」について耳を傾けてみてほしい。
※今回より、ミックス音源はストリーミング形式のみの配信となります。ご了承ください。
矛盾や葛藤が渦巻く状況下であっても、こうやって自分の音楽を作れるんだっていうことも提示したかったし、そこは自分なりにブレずに取り組んだつもりです。
— 活動の拠点を地元、仙台に移されたんですよね?
grooveman Spot:はい。去年の6月30日なので、1年4ヶ月経つんですけど、、自分のなかで「東京にいなくても活動出来るんじゃないか?」って考えていた時期に震災が起きて、「このタイミングかな」って思い立ったんです。
— 「東京にいなくても……」っていうのは?
grooveman Spot:確かにDJするのは都内が多かったりするし、南に行くのも遠くなったりするので、多少はリスクがあるかなとは思ったんですけど、仙台に帰ってもオファーがあるかどうかっていうのは、自分がどのくらい必要とされているのかを確認できるいい機会なのかな、と。あと、音楽制作に関しては東京じゃなくても可能なんですよね。
そして、10年離れていた仙台に帰ることで、東京で積み重ねてきたものを消化しながら、仙台の音楽カルチャーをもっともっと全国に発信出来るんじゃないかなって思ったんですよね。
— 生活環境を変えたことで、音楽への取り組み方は変わりました?
grooveman Spot:東北の人って、寒い気候だからこそ、ゆっくりしてたり、混雑してるところが苦手な人、引っ込みがちな性格の人が多いんですね。そんな仙台に生まれ育った僕から見ると、決して悪く言いたいわけではないんですけど、東京は時間の流れがすごい早いし、どうしてもストレスが生まれる環境だったりもして。でも、仙台に帰ったことでそうしたストレスがなくなって、自分の120%を音楽につぎ込める自由さが生まれましたね。
— そして、今は地方にいながらにして、インターネットを介して、ある程度の情報は網羅できますしね。
grooveman Spot:インターネットってホントに便利ですよね。自分はレコードを買い続けてきた世代なんですけど、昔は通販するにしたって、試聴はもちろん出来ないし、リストをチェックして買ったり、あとはお店に足繁く通って掘っていたじゃないですか? でも、今はYouTubeでレアなレコードの音源を聴いて事前に判断も出来るし、欲しいものも簡単に手に入りますからね。しかも、そういう環境に変化したことで、色んなもののアベレージが上がって、10代にしてヤバいビート・メイカーだったりDJが生まれてきてる状況は、いいことだなって思いますね。
— かつて、サンプリング世代のヒップホップは、誰も使っていないネタのチョイスも表現に含まれていたじゃないですか。でも、レアなレコードがどんどんアーカイヴ化され、配信データに移行する流れのなかで、ヴァイナルやサンプリング・カルチャーについては、どんなことを思われていますか?
grooveman Spot:トラックを作る際にサンプリングしないのであれば、自分で楽器を演奏するしかないですよね。でも、サンプリングの良さも理解しているつもりなので、それも捨てきれないし、なくなることもないと思いますし。それと同時に、サンプリングの良さを知らない若い世代に教えていかなきゃいけないとも思っていて。
仙台も、かつて沢山あったレコード屋さんが今は数えるくらいになってしまって、アナログと触れ合える場所自体がなくなっていることが一番の問題で。もちろん、配信で買うのもそれはそれでいいんですけど、触ったり、ジャケットを見たり、実際にプレイ出来るところがひとつのアナログ文化だし、物心ついて街にレコード屋さんがなければ、若い子はその良さを知らないまま育つことになるわけで、そんな流れのなかでアナログ文化を絶やしたくはないんですよね。
— ですよね。
grooveman Spot:震災にしてもそうじゃないですか。すぐに忘れることはないにしても、その時の気持ちは伝えていかないと、残っていかないんじゃないかって思いますし。
僕自身、震災で直接的な影響を受けたわけではないんですけど、街はまだまだ復興していないし、その街に帰って、自分が思ったことをやらないと後悔するって強く思ったんですよね。震災で出来なくなってしまったことも、誰かがやらなければ、それが戻ってくることはないと思うんですよ。震災以降のクラブ営業もいつから始めればいいのか、その時期についてかなり悩んだっていう話も聞きましたし、再開しても、DJがなかなかモチベーションを上げられない現状もあったりして。
でも、そういう人たちががんばってるなら、直接被災したわけではない僕みたいな人間は、それ以上にがんばらなきゃいけないなって思いますね。
— そんななか完成したニュー・アルバムには『Paradox』というタイトルが付けられていますよね。
grooveman Spot:震災や原発問題が表面化して以降、苦しんでいる人もいれば、あまり意識していない人もいるし、例えば、(宮城の)女川原発にしても、その恩恵を受けて街が活性化していた事実がありつつ、それでも反対の声を受けて今は停止している。そうしたことに限らず、何ごとにも肯定派、否定派がいて、でも、人はその中から決断していくわけで、僕も最終的には自分で思ったことを吐き出していかないとっていう意識を強く持ちつつ、矛盾の狭間で製作していた心境を『Paradox』という一つの単語に表したんです。
出来た曲にそうした矛盾や葛藤が反映されているかというと、そういうことではないかもしれないけど、矛盾や葛藤が渦巻く状況下であっても、こうやって自分の音楽を作れるんだっていうことも提示したかったし、そこは自分なりにブレずに取り組んだつもりです。
— 内容的にはディスコ寄りだった前作の『Runnin’ Pizza』に対して、今回はよりディープなものになっていますよね。
grooveman Spot:ヒップホップを全くかけない時もあったり、自分のDJスタイルが変化していくなかで、ヒップホップDJとしての自分を意識するんじゃなく、今の自分を出していこうと思っていた時に、前作の『Runnin’ Pizza』が完成したんですね。あのアルバムは、ヒップホップの僕が好きな人にとっては裏切った内容だと思われるかもしれないですけど、そのことを意識して作品を作ったら、僕のストレスになってしまうわけで、そこは正直に音楽を作っていこうと。
最近だと、ZEN-LA-ROCKの「NEW JACK UR BODY」を作ったことで「なんで、あの人はこういう音楽を作ったんだろう?」って思われたりもするんですけど、僕はああいうニュー・ジャック・スウィングを好きで聴いてきたのも事実だし、今回のアルバムがディープなのも、そういう音楽が大好きっていうだけの話なんですよね。ジャンルの線引きは他の人に任せるとして、僕は自分の出来ることを精一杯やるだけです。まぁ、売る方は大変かもしれませんけど(笑)。
— そういう意味で、今回の作品は、より肩の力を抜いて、自分の作りたい作品に取り組んだアルバムということになるのかな、と。
grooveman Spot:そう、力を抜いて、より自由度を増している感じ。まぁ、自分の軸となる部分にズレはないと思っているんですけど、自分のなかでダンス・ミュージックと捉えているものを色んな形で表現した作品ですよね。
ダンス・ミュージックっていうと、ハウスやテクノ、エレクトロっていうイメージは強いと思うんですけど、ゆるく踊れるジャズも自分にとってはダンス・ミュージックだし、そういう意識のゆったりしたメロウな曲から、すごくディープなハマっちゃう曲、80’S的な明るめの曲からすごい暗いマイナーな曲まで、ヴァラエティーに富んだ作品というより、色んな踊りの形を意識したので、ジャパニーズ・ダンス・ミュージックっていう括りがいいのかな、となんとなく思ったりして。
— 確かにニュー・ジャックネタのビートダウン「A Little Step」を含めて、この表現の幅は日本人ならでは、grooveman Spotならではだな、と。
grooveman Spot:音楽を作り始めて、技術を培っていくうえで、どこかのシーンや特定の音楽を意識したり、真似することも必要だとは思うんですけど、大事なのはそこから先なんですよね。残るトラックを作るためには、自分の持っている「我」とかクセみたいなものを隠さず出していくことがオリジナリティや強みに繋がっていくんだと思うんですよ。だから、仙台に帰ってからはそういう意識を強く持って、音楽性が混ざってしまってもいいから、やりたいこと、分かりやすく言えば、僕は軸をズラさずに、自分らしい変なグルーヴの曲を作りたいんですね。
まぁ、口で言うのは簡単で、実際、そのバランスはすごい難しかったりするんけど(笑)。
— ダンストラックというと、どうしてもインストに偏りがちですけど、このアルバムにはヴォーカリストのHollie Smith & Isaac Aesiliをフィーチャーした「Pretending」と、ラッパーのCapitol Aをフィーチャーした「Inevitable」が収録されていますし、ご自分の作品以外でも七尾旅人「サーカスナイト」や曽我部恵一「サマー・シンフォニーver.2 feat. PSG」のリミックスや、ミックスCD『FLOORnet presents CHOICE』でのヴォーカル曲の扱い方に長けている点も、grooveman Spotらしいですよね。
grooveman Spot:ロングセットだったり、ラウンジDJの時にもよく「選曲の振れ幅は相当に広いけど、ヴォーカル曲が多いね」って、よく言われるんですね。インストもかけてるはずなんですけど、そう言われるってことは、意識はしてないんですけど、ヴォーカル曲が好きなのかもしれないですね。
自分の作るトラックやリミックスに関していえば、ヴォーカルとリズムが同じ比率で入っていれば、どちらをフォーカスして聴いても踊れると思うんですね。だから、その点を意識しつつ、あと大事なのはテンポ感ですかね。ヴォーカルで速い曲だとヴォーカル・ハウスになりがちですけど、そこは敢えて意外性を持たせたいし、自分がかける時のことも考えますしね。
— 現行のヒップホップはどんなものをチェックされています?
grooveman Spot:ハードなものよりはメロウなもの、東より西って感じですかね。スヌープ周りの作品はいつ聴いても良かったりしますし、あと、僕の音楽にはテディ・ライリーが落とし込まれているってよく言われるんですけど(笑)、自分の体に染みついているメロウネスとか、80年代のブラコンにある哀愁漂うコード感に共通するものがあるかもしれないですね。実際、僕、仙台でGAGLEのMu-Rくんと一緒にやってるパーティでは、ハウスをかけたあと、急にGUYの「Teddy’s Jam」をかけたりしてるんですよ。そのパーティはびっくり箱みたいなパーティなんですけど、一番最後にMu-Rくんから大貫妙子の「都会」をかけてくれって、毎回リクエストされるっていう(笑)。まぁ、好きなものは好きなんで、そんな感じで作った今回のミックスも何が飛び出すか、楽しみに聴いてみてください。
http://ameblo.jp/groovemanspot/
http://twitter.com/groovemanspot
発売中
JSPCDK-1011 / 2,310円
(JAZZY SPORT)
Stussy × grooveman Spot “PARADOX” Tee
『Paradox』の発売記念ツアー「Stussy Presents “grooveman Spot“Paradox Release” Tour」の開催を記念して、なんとあの『ステューシー(STUSSY)』とのコラボレーションによるTシャツをリリース!
STUSSY SENDAI CHAPTでのみ発売される「STUSSY SENDAI Ver.(黒ボディ×ホワイトプリント)」と、JAZZY SPORT MUSIC SHOPおよびJAZZY SPORTのディーラーで発売される「JAZZY SPORT Ver.(ホワイトボディ×グリーンプリント)」の他、全国のステューシーチャプトで発売される「STUSSY Ver.(ホワイトボディにブラックプリント)」の3バージョンが用意されている。
Stussy × grooveman Spot “PARADOX” Tee / 各5,250円
問い合わせ先:
STUSSY JAPAN Tel: 0548-22-7366
STUSSY SENDAI CHAPT Tel: 022-716-8666
JAZZY SPORY Tel: 03-6452-3918