#15 Inner Science – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Mastered編集部

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回登場するのはInner Scienceです。

Inner Scienceは西村尚美のソロ・プロジェクトとしてスタート。ヒップホップのフレッシュネスを追求しながら、ジャンルを超越したビート・ミュージックを生み出してきた彼は、2011年に5作目となるアルバム『Elegant Confections』をリリース。瞬くような電子音とうねりを内包したビート・メイクが立体的に描き出すサウンドスケープが高く評価された。

そして、Inner ScienceとしてのライヴやDJのほか、日本科学未来館のプラネタリウムで上映されているプログラム『BIRTHDAY』のサウンドトラック、映画監督・脚本家、大宮エリーの展覧会『思いを伝えるということ』の会場音楽を担当。さらにはアンビエント・プロジェクト、PORTRALとしての活動やサウンド・エンジニアとして、親交の深いアーティストの作品を手掛けるなど、その活動は広がりを見せている。そんな彼が制作したノンビートのDJミックスとインタビューから、Inner Scienceの突出した個性に触れてみて欲しい。

※ダウンロード版の提供は一週間限定となります。お早めに。

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Interview & Text : Yu Onoda
Editor : Yugo Shiokawa

それぞれのジャンルのスペシャリストがそれぞれ居る中で同じことをやってもしょうがないと思っちゃったので、自分の音楽は自然とハイブリットなものにならざるを得なかったというか。そこに楽しみを見いだしたんですよね。

— 今年はしばらくヨーロッパに滞在されていたとか?

Inner Science:ライブやDJなどの活動だけで、というわけではなく、プライベートな用事も込みでオランダ、スイス、あとベルリンに行ったんですけど、クラブ・ミュージックがダンス・ミュージックとして機能しているヨーロッパの音楽状況を肌で実感することで色々考えることは多かったですね。

— というと?

Inner Science:自分の音楽はヒップホップを土台に、後から色んな音楽が混ざっているし、日本の音楽はハイブリッドなものも多いじゃないですか。だから、海外に出ることで、自分の音楽や日本の音楽って実は少し特殊なんじゃないか?ということを改めて感じましたね。それは良くも悪くも両方あるのかもしれないけど、その特殊性をどう捉えるのか。これまで音楽を輸出するより輸入することが多かった日本の音楽は、捉え方によっては世界中のどこにもない可能性があるよなってことをヨーロッパ滞在中に考えていたんですよ。もちろんそれは日本の事だけじゃなくても言えるとも思いますし、そう考えてたらなんか楽しいなと(笑)。

— その混ざっていく下地はInner Scienceの場合、ヒップホップなんですね。

Isao Suzuki × KILLER-BONG『KILLER-OMA』
ライブでのセッションをきっかけに今年突如BLACK SMOKERからリリースされた、Killler-Bomb(K-BOMB)と伝説のジャズマン、OMAこと鈴木勲の異色コンビによるアルバム。とにかくドープ。

Inner Science:そう。一番最初はヒップホップ。ラップからビート・メイクに入っていったんですけど、ラップをやっていた時代、今から15年くらい前にK-BOMBとか、BLACK SMOKER周りの人たちと知り合ったんですね。で、あの人たちはラッパー、ビート・メイカーである以前に超遊び人で(笑)、その当時からダンス・ミュージックがかかるパーティーへ普通に行っちゃうっていう遊び方の人たちだったから、そういう人たちが身近にいてくれたことが大きかったというか、ハイブリッドであることが自分にとってもなんか当たり前のことだったんです。

— ヒップホップと出会って、初めて音楽を作るようになったんですか。

Inner Science:一番最初は中学の時に組んだX JAPANとかBUCK-TICKのコピー・バンドなんですよ。でも、その時に受けた影響は今も残っている気がするというか、マーシャル・アンプではなく、ジャズ・コーラスのアンプ、レスポール・ギターじゃなく、フェンダー・ストラトキャスターの綺麗でクリーンな鳴りは深い部分で今の作品にも通ずるところがあるかもしれないですね。
でも、高校に入ると、バンドがどんどん自分の思い通りにいかなくなってきて、その一方で「ヒップホップだったら一人で出来るみたいだぞ」ってことを知るんです。でも当時、金がなくてDJは出来ないってことで、ダンスかなって思って、ダンスをやってる知り合いのところに行ったら、かかってたのがハウスで、「あれ、違うな」って途中で気付いて(笑)。だから、そういう紆余曲折を経て、ラップを選んだという。

— その時代っていうのは、ヒップホップ人口が一気に増えた90年代後半だと思うんですけど、当時、ヒップホップ人口が増えた結果、そこから頭一つ抜け出していくのが大変な時代でもあったというか。

Inner Science:結果的には過酷なトーナメントって事ですよね。僕の場合、自分でラップするためのトラックを作るところから、ビート・メイクに傾倒していくんです。その作り方っていうのは、当時の機材が短いサンプリング・タイムだったので、ちょっとずつサンプリングのパーツを積み重ねていくやり方ですよね。もちろん今は積み重ねている量が増えているし、積み重ねるのもサンプリングだけじゃなく、自分で作った素材だったりもするんですけど、積み重ねていくプロダクションのアプローチは今の作品制作にも受け継がれています。

— 西村くんがラップからビート・メイクに傾倒していったほぼ同じ時期にレッキン・クルーやザマギのような、オルタナティヴなヒップホップ・アクトが活動していたと思うんですけど、彼らは後にトラックス・ボーイズCOS/MESとなって、ヒップホップをルーツにどんどん進化していくじゃないですか?

Inner Science:僕もその世代の末端にいたので、そういう進化の仕方はよく分かります。

— そして、上の世代には、ヒップホップからエレクトロニカのフィールドへ切り込んでいったインドープサイキックスのようなユニットがいて。

INDOPEPSYCHICS『INFINITE IN ALL DIRECTIONS』
「ヒップホップ以降」の音を鮮烈に提示した、DJ KenseiとエンジニアのD.O.I.を中心としたプロダクションチーム、インドープサイキックス。こちらは昨年PROGRESSIVE FOrM10周年を記念し、未発表音源を加えてリリースされたベスト盤。

Inner Science:そう。自分が今に至るアイデンティティを作るにあたって、その間には色んな段階があったと思うんですけど、最初はビートもののプロデューサー・チームとして始まって、最終的には音響的なアプローチにまで楽曲の幅を広げていったインドープの進化はものすごい刺激的でしたね。しかも、その変化が見える形での進化だったから、腑に落ちたというか、リスナーも違和感なく移行していったんだと思いますしね。

— 機材にしても、サンプラーからデスクトップのプロダクションに移行していった時代の流れも同時並行にあって。

Inner Science:しかも、インドープ時代のKenseiさんはそうやって作ったトラックをプレイすることで、現場でも機能させていたし。ただ、僕はパソコンを導入するのが遅かったので、当時、インドープのトラックがどうやって作られているのかさっぱり分からなかったんですけどね(笑)。

— そういう時代背景からInner Scienceは誕生した、と。

Inner Science『10 Track Sampler』
Inner Scienceとしてはじめて2002年にリリースした、全編インストの記念すべきファーストアルバム。

Inner Science:そして、2001年に自主制作で500枚限定のインスト・アルバム『10track Sampler』をリリースしたんです。タイトルにあるように、その時点では「これが作品です」っていう感じではなく、「こういうトラックを作ってます」っていうような作品ですよね。まぁ、デタラメな……そのデタラメさのなかにメロディアスなものを封じ込めようとしている自分がいたりして(笑)。その最初のアルバムから去年出した5枚目のアルバム『Elegant Confections』に至るまで、僕はそれぞれのアルバムのなかから特に好きな要素を抽出して、それを次に繋げる形で作品を作っていったっていう。

— メロディアスな要素、その断片がちりばめられた光輝くような作風は、Inner Scienceの一つの個性だと思うんですけど、最初の段階でその点は意識していたわけですね。

Inner Science:そうですね。メロディックな部分、サンプリング・フレーズごとのコード感や音程を合わせることは最初の段階から意識して延々と作業してました。

— トラックを作るうえでコードや音程を合わせることが出来るというのは、つまり、その前提として音楽の基礎知識をお持ちなんですね?

Inner Science:母親がエレクトーンの先生だったこともあって、幼少の頃、自分もエレクトーンを習わされていたんですね。それから父親もバンドでキーボードを弾いていた経験があったり、そういう生い立ちが潜在的に影響を与えているのかもしれませんね。それからトラックを作るうえでは、一聴した時の聴きやすさと、よく聴けば、構造的に複雑であるっていう両面性を目指してもいて。僕の音楽でその聴きやすさにあたるのはキラキラした音色だったりすると思うんですけど、実はよくよく聴いちゃうと目眩というか目が回っちゃうくらい過剰なレイヤーになってる、みたいな(笑)。

— 毒を注入するのも忘れてない、と。

Teebs『Collections 01』
フライング・ロータスが主宰するレーベル「Brainfeeder」に所属するティーブスの2ndアルバム。ジャケットのアートワークも自身によるもの。2011年リリース。

Inner Science:毒ってだけじゃなくて、例えば、Brainfeederから出てるTeebsのアルバムにしても、音色の瞬きだけでなく、肉体的な生々しいグルーヴ感も聴き取れるし、それこそ、BushmindくんがやってるBBHにしても、すごいグルーヴィーだったりするけど、それと同時に作っている彼らの人間性が透けて見える奥深さも感じられるわけで、そういう多面的な音楽にシンパシーを覚えますね。

— その後、サンプリング・オリエンテッドな初期の作品から、Inner Scienceがリリースした5枚のアルバムを追っていくと、オリジナル素材を緻密に構築していく作風に変化していくと同時に、サンプラーのようなハードウェアからコンピューターを用いたプロダクションへと移行していきますよね?

Inner Science:コンピューターを用いた楽曲制作への移行はすごい時間がかかりましたよ。2002年に出した2作目の『No name, No place』ではミックス作業にパソコンを使うようになって、2004年の『Material』はソフトとハードの間で素材を行き来させてましたし、その後、PORTRAL名義で始めたアンビエント・プロジェクトは、あれは全部サンプリングなんですけど、2006年にリリースしたPORTRALのアルバム『Refined』はサンプラーをメインで使った最後の作品ですね。それ以降、ようやく、コンピューターを用いたプロダクションへ全面的に移行するんです。ただ2007年の『Forms』でもまだ一部素材はエフェクター的にサンプラー通してますけど。そういうハードとソフトのプロダクションの両方を知っているところがヤング・アダルトな自分の個性というか(笑)。

— アンビエントということでいえば、一昨年リリースしたInner Scienceの2枚組アルバム『Elegant Confections』は1枚がアンビエントになっているという意味で、PORTRALでやっていたアンビエントがInner Scienceの作品を浸食してきたっていうことなんですかね?

PORTRAL『Refined』
西村尚美によるInner Scienceとは異なるプロジェクト、PORTRAL名義によるアンビエントアルバム。2006年リリース。

Inner Science:一応、PORTRALとInner Scienceのアンビエントは明確な違いがあって。PORTRALはレコードのサンプリングで作ったザラザラした音像、Inner Scienceのアンビエントは全くサンプリングしていないパキッとした音像っていう棲み分けがあるんですよ。

— さらにいえば、Inner Scienceの作品はヒップホップをベースにしつつ、アルバム・リリースを重ねるごとに、アンビエントやエレクトロニカ、テクノやハウス、ドローンやノイズといった様々な要素のハイブリッド感覚がどんどん高まっていますし、ナチュラルなものになっていっていますよね。

Inner Science:それぞれのジャンルの歴史や潮流に対するリスペクトの念はもちろんあるんですけど、それぞれのジャンルのスペシャリストがそれぞれ居る中で同じことをやってもしょうがないと思っちゃったので、自分の音楽は自然とハイブリットなものにならざるを得なかったというか。そこに楽しみを見いだしたんですよね。
あと、機材面の話でいうと、例えば、テクノのサウンドを試すためにローランドのTR-808を鳴らしてみないと分からないとか、アシッドの音を出すのにTB-303じゃないとダメとか、そういう機材購入に関する資金的な制約がコンピューターによってある程度は解消されたというか、いくらでもトライ&エラーを繰り返すことが出来るようになったからじゃないですかね。とくに自分の場合、音の鳴りっていう部分でかつてはなかなか存在が混ざらなかった異なる機材の音を混ぜたり、マスタリングで整えることが出来るようになったことも大きいと思います。

— 近年はマスタリング・エンジニアとしても、BLACK SMOKER関連の作品やWD-SOUNDS関連の作品など、多数の作品を手掛けていますよね。

Inner Science『Elegant Confections』
2011年初頭にリリースされた、Inner Science通算5枚目となる最新アルバム。2枚組というボリュームの、現時点での集大成と言える力作。必聴。

Inner Science:エンジニアリングは初めてパソコンを買った時、KILLER-BONGのレコーディングのヘルプとして関わったのが最初なんですよね。で、その後当時、彼がCD-Rの作品をいっぱい作ってた時期だったので、そうした作品に携わりながら自分なりに試行錯誤していったんです。その後、OIL WORKSやILL DANCE MUSICといった仲良くしてもらっている人たちから、更には仙台のDJ CASINくんや熊本のKeita Yano氏とか、色々なエリアからも声をかけてもらうようになって、ホントありがたいしおもしろいなって思います。そうした外部作業を通じて得た経験を自分の作品にも反映出来ますからね。
あと、エンジニア的な観点でいうと、ラフ・ライダーズ/スウィズ・ビーツ的な流れの後に出てきたカニエ・ウェストの作品の音の抜け加減はすごいなって思ったし、そうやって刻一刻と変化していくヒップホップだったり、テクノもどんどん音がよくなっていっていますし、そういう音質の進化、向上、個性も作品を作るうえでのインスピレーションになっていますね。

— さらにここ最近は、日本科学未来館のプラネタリウムのプログラム『BIRTHDAY』の音楽制作や大宮エリーさんの展覧会「思いを伝えるということ」のための音楽をU-zhaanさんと作ったり、音楽ファンに限定されない不特定多数に聴かれる作品を制作する機会も増えていますよね。

『“BIRTHDAY” Official Guide Book + Sound Track』
お台場の日本科学未来館で上映されている立体視プラネタリウム作品「バースデイ ~宇宙とわたしをつなぐもの~」の、サントラ付きオフィシャル・ガイドブック。楽曲はすべてInner Scienceによるもので、全楽曲の音源を再構築したボーナス・トラック「BIRTHDAY Reprise」も収録。

Inner Science:そうですね。僕のなかで自分個人の作品は、よりフレッシュなものを追求していくなかで生まれるもの。プラネタリウムや展示会だったり、特定の場に向けた音楽や誰かとのコラボレーションは、自分の作品で追求したフレッシュなものを別の角度から捉えて提示する作業なんですね。つまり、その2つのはアプローチもアウトプットも全く違うものだし、その違うものが相互作用を起こしているという意味でどちらも大切なんですよね。

— Inner Scienceとしての新作についてはどんなアイディアをお持ちですか?

Inner Science:リリース形態に関しては、また、アナログを出しながらアルバムって流れが気持ち的にスムーズだったのでその方向で考えています。

— 最後に、今回、作っていただいたミックスのコンセプトをご紹介ください。

Inner Science:今回のDJミックスと同じタイミングでclubberia podcast用のDJミックスを選曲していたので、その2つをセットで考えて作ったんです。普段から現場の状況に合わせてプレイするんですが、この企画ではノンビートなDJミックスをやった人がいないので、敢えてノンビートな楽曲を多めにしたミックスにトライしてみました。そのうえで、このミックスは、アナログをデータ化してTraktorでミックスしたざらついた質感の音源。clubberia用に作ったのはデジタル音源をミックスしたクリアな質感の音源になっていて、その質感の違いなんかもを楽しんで欲しいですね。

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