MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。10回目となる今回登場するのは、川辺ヒロシです。
結成20周年のアニヴァーサリー・イヤーを経て、今年3月に会心のニュー・アルバム『Grinding Sound』をリリースしたTOKYO No.1 SOUL SET。そのトラック・メイカーにして、DJとしても20年以上のキャリアを誇る彼は、蓄積された経験と研ぎ澄まされた現場感覚をそれと感じさせずにテクノ、ハウス中心のプレイに活かした日本を代表するDJでもあります。
今回はそんな彼にとってDJとは? そして「音楽を聴く」こととは? さらにはTOKYO No.1 SOUL SETのお話も交えながら、これまで語られたことがなかった川辺ヒロシの世界に迫りました。そして、今回はエクスクルーシヴ・ミックスをご協力いただいた渋谷のDJ BAR、KOARAでレコーディング。ワンアンドオンリーなミックスをお楽しみください。
※ダウンロード版の配信は終了しました。
それぞれの生活や人生の「今」をぶつけ合って作っていくのがSOUL SETであって、3人それぞれがちゃんと生きてないと出来ない音楽なんだと思う
— お忙しいなか、今回のミックス音源をわざわざ渋谷のDJ BAR、KOARAで録音していただいて、本当にありがとうございます。
川辺ヒロシ(以下川辺):人のミックス音源をああいうクラブ音響で聴く機会なんてなかなかないと思うけど、KOARAは音がいいから、ああやって録るのは気持ちいいよね。
— 聴く方としても非常に贅沢な体験でした。お願いしたミックスは、川辺さんのなかで何かしらのテーマがあったんですか?
川辺:70分くらいのミックスになっているから、イメージとしては、朝起きて、目覚まし代わりに聴き始めて、学校とか会社に着くくらいまでの流れっていうことになるのかな。まぁ、いつ聴いてもらってもいいんだけど。
— 今回、使ってるレコードはここ最近、DJの現場でプレイしているものなんですか?
川辺:エクスクルーシヴな内容、日常的に聴かれるものということを考えて、フロアのピークタイムではなく、もうちょっとテンション低めに設定したんだよね。
— ちなみに今回のミックスの録音時にお客さんはいませんでしたけど、普段のDJ中はどんなことを考えているんですか?
川辺:DJやる前とやった後はものすごく考えるんだけど、DJ中は同時に色んなことを高速回転で気にしている状態っていうのかな。その場の気配を感じてはいるんだけど、現場っていうのは常に予想しない方に行くし、そういうことの連続じゃない? だから、その変化に対して、臨機応変に反応していくことに精一杯なんだよね。
— では、DJする前、その夜の現場にもっていくレコードを選んでいる時は?
川辺:自分のなかのブームみたいなものもあるし、どういう箱でプレイするかにもよるよね。ageHaとKOARAでは持っていくレコードもずいぶん変わるし、レコード選びも臨機応変だよ。そのなかで新譜もあれば、自分のなかでの旬が何周かして、またかけるようになるレコードもあるし、今回に関しては、「わりと静かめなレコードを……」ってことで選んだから、長い間かけてなかったレコードが多いかな。
— 21歳の時にDJを始めて、今年で24年近くのキャリアになりますが、作品単位ということで考えると、レゲエやヒップホップを皮切りに、2000年スタートのオールミックスなミックステープ・シリーズ『RISE』、そして、2002年スタートなオルタナティヴハウスなミックステープ・シリーズ『SURRRRROUND』、そしてテクノに傾倒した2007年のオフィシャル・ミックスCD『DADADA』では、プレイするレコードが大きく変化していますよね。
川辺:そうだね。ちなみに今回のミックスの1曲目は『SURRRRROUND vol.2』の1曲目に使った曲を持ってきて、同じ始まり方にしてみたんだけど、『RISE』の頃のような曲を引き立たせたDJというのは、まぁ、オファーがあれば出来るけど、今の自分はまた違うモードだからね。
— いま積極的にプレイしているテクノは、どの部分に魅力を感じているんですか?
川辺:言葉がないっていうところが大きいかな。まぁ、たまに入るぶんにはいいんだけど、踊る時に言葉や歌が邪魔だなって感じた時があったんだよね。以前かけてたレゲエやヒップホップは基本的に歌や言葉が入っているけど、英語がネイティヴではないから、歌詞が分かるわけではないし、それなのに言葉で乗ったり、乗せることに抵抗が出てきたんじゃないかな。それで『SURRRRROUND』の頃からディスコ・ダブやハウス、テクノをかけ始めるようになるんだけど、あの頃は四街道ネイチャーがFORCE OF NATUREになったり、状況が変わって面白くなっていったじゃない?。
— そうですね。2000年前後でそれ以前の流れが変わって、川辺さんのDJはダンス・ミュージックの新譜中心になっていきます。
川辺:ただ、自分ちの膨大な中古レコードを一日中ずっと聴いてループを組む、っていうのも、自分の日常であり仕事だったりはするんだけど。
— ちなみに今回、SOUL SETのアルバムでミックス・エンジニアを務めたILLICIT TSUBOI氏はレコードを聴く時にDATを回して、いいサンプル・フレーズを録っておくそうで、そのストックが膨大にあるとか。
川辺:ちなみにヤン(富田)さんのところは、サンプル・フレーズのストックがコード別に分類されてるっていう都市伝説を聞いたことがある(笑)。もちろん、俺もそこまでじゃないけど、忘れないように録っておいたサンプル・フレーズのストックはあるよ。ただ、録っておいても、その時に気になったものが今も気になるかっていうと、そういうことでもないんだけどね。だから、結局、もう一回聴かなきゃいけないことになるっていう(笑)。サンプル・ネタを探している時の音楽の聴き方っていうのは、好きな音楽を聴いているのとは違って、例えば、ギャーッっていってる、よく分からないサイケなんかを、面白いと思わず仕事として聴いてる感じ。でも、そういうなかに「あれ? 今一瞬スゴいのあった」っていう発見があるんだよね。
— では、川辺さんにとって音楽を聴くことというのは、DJのため、それからサンプル・フレーズを探すために聴き方の違いがあるわけですね。では、仕事とは関係なく音楽を聴いている時はどんな音楽を好んで聴かれているんですか?
川辺:家で好きな音楽を聴いてる時はジャズからスロッビング・グリッスルまで、toeも聴くし、アークティック・モンキーズも聴くし、ヘビメタ以外、ホントにありとあらゆる音楽を聴いてるよ。ただ、ジャンル問わず聴くなかで、そこにはある一定の好みがあるから、ジャズでも全てのジャズが好きなわけじゃなく、聴くのはその一部分だけ。各ジャンルそんな感じだから、幅広くは聴いているけど、聴かない音楽もすごく多い。
— そして、DJについて話を戻しますが、DJにはレアなレゲエやレアグルーヴを掘ってプレイする方向性もありますよね。
川辺:俺の場合、ある時からレアなレコードを掘ることに全く興味がなくなっちゃったんだよね。恐らく、レコードが高騰した時に嫌気がさしたっていうことなんだと思う。一枚のレコードに3万円払うかっていわれたら、まぁ、相当欲しかったら払うんだろうけど、今はそこまで欲しいレコードはないからね。
— ゴミのようなレコードを最高のダンス・チューンにすることがDJの醍醐味でもあったりしますし。
川辺:そうそう。そういうところに惹かれるんだよね。俺がDJを始めた頃っていうのは、100円コーナーで買ったレコードを宝に変えることが出来るところにDJの面白さがあったからさ。その話で思い出したんだけど、こないだ、ageHaでALTZがバナナラマの「ビーナス」をオリジナルの12インチでかけてて、すごい盛り上げていたんだけど、レコードのかけ方一つでそういう状態を作り出せるところがやっぱりDJの醍醐味だよね。ただ、経験は積んでも、歳とか経験は関係ないというか、重い存在にはなりたくない(笑)。
— はははは。レゲエやヒップホップをプレイしていた頃とテクノをプレイしている今とでは、DJとTOKYO No.1 SOUL SETの距離感は変わりました?
川辺:いや、そうでもないと思うけどね。自分のDJにSOUL SETを混ぜられるかといったら、混ぜられないなっていつも思っていたもん。やっぱり、SOUL SETがやっているのはポップスだと思ってるし、SOUL SETはSOUL SET、DJはDJだよね。もちろん、フィードバック出来る部分もあるだろうし、ヒントになるものも転がってはいるよ。それは細かい話ではなく、現場に立って感じるお客さんのエネルギーとかもっと大きな流れとか、そういうものは影響しているんだと思うけど、今も昔もDJとSOUL SETはダイレクトにつながるものではないよね。
— では、川辺さんのなかで、DJとSOUL SETのバランスは上手く保てていると思います?
川辺:それは俊美くんとBIKKEがものすごくポップだから、そこに俺が混ざるのがいいんじゃない? だって、2人ともアンダーグラウンドなダンス・ミュージック・シーンなんて、全く関係ないから。BIKKEなんかは特に(笑)。でも、逆に俺一人でやってたら、SOUL SETにはならないというか、もっと、ダンス・ミュージック寄りになってるはずだろうし。
— では、川辺さんのなかでバランスを取ろうという意識はないと?
川辺:いや、そこは生まれてこのかた、同時に色んなことが気になる性格だからさ。そういう自分と折り合って生きていかなきゃしょうがないっていう(笑)。
— 確かに常に色んなことに気を配っているのが川辺さんですもんね。そして、TOKYO No.1 SOUL SETとしてはニュー・アルバム『Grinding Sound』がリリースされたばかりです。
川辺:今回の制作は、最初の段階でのんびりしすぎて年を越えたあたりで、「あれ!? 締め切り、すぐそこじゃん!」って。でも、ただ、のんびりしていたわけじゃなく、何かが起こるのを待っていたんだよね。
— ただ、レコーディングのキャリアを積んでいくなかで、イレギュラーなことは当然起こりにくくなりますよね。
川辺:そう。音楽を長く続けているとイレギュラーなことが起こりにくくなってくるんだけど、SOUL SETは洗練さを求めている音楽ではないし、きれいに整っていくことがいいことなのかといえば、音楽とか絵も意外にそういうことではなく、どこか崩れていく瞬間がよかったりする。もちろん、洗練させていくことで映える音楽もあるとは思うけど、少なくとも、SOUL SETの音楽は洗練させていくことで面白いものになるとは思わないんだよね。
— これまでSOUL SETは、その時代その時代の面白い音楽を3人なりに消化した作品をリリースしてきたと思うんですけど、今は時代を象徴する音楽がこれといってないというか、局所的に盛り上がっている音楽があちこちに存在している状態ですよね。そんななか、今回のアルバムも3人の独自性が際立った作品という印象を受けます。
川辺:そうなんだよね。そういう局所的に盛り上がってる音楽を吸い込みつつも、今はSOUL SETっていうジャンルの音楽をやっていこうっていう。そうやって音楽を作り続けていくなかで、俺は俺で変化してるし、俊美くんやBIKKEにもそれぞれ変化があって、それは22年間変わらないんだよね。つまり、それぞれがそれぞれの生活や人生の「今」をぶつけ合って作っていくのがSOUL SETであって、3人それぞれがちゃんと生きてないと出来ない音楽なんだと思う。
— 活動していくなかで、生活が変わったり、音楽性が変わっていくなかで、まとまりが維持出来なくて解散するバンドは山のようにいると思うんですけど、SOUL SETはバラバラなまま、ずっと続いているのがすごく不思議なんですよね。
川辺:まとまろうとしてないから、なんじゃないかな(笑)。だって、そもそもの始まりから「バンドを結成しよう」って感じじゃなくスタートしてるし、バンドを組んでもいないんだから、解散もないって感じ(笑)。活動にしたって、2000年くらいまではレコード会社からアルバム出さないかって話があったから続けてきたっていう超受け身なスタンスだったし(笑)。そこから先は能動的になっていくんだけどね。
— いや、しかし、何回取材しても、SOUL SETはよく分からないバンドですね(笑)。
川辺:はぐらかしてるわけでもなんでもないんだけど、取材現場でインタビュアーがそう言うのを20年くらい見てるよ(笑)。でもさ、SOULSETみたいに、BIKKEが歌詞、俊美くんがメロディ、俺がサウンドっていう感じで役割が分かれてるバンドはあんまりないだろうね。3人集まって、やっと一人前っていう(笑)。たまたま近くでバイトしてたからお互いのことを知ってるっていうだけで、音楽の話が合うわけでもないし、共通点はこれといってないからね。偶然って、怖いよね、ホントに(笑)。
— ただ一ついえるのは、今回は3人ともモチベーションが高いというか、それぞれがエネルギーを発しているように思うんですね。
川辺:BIKKEのなかにあるかどうかは知らないけど(笑)、それぞれのなかに怒りみたいなものもあるだろうし、今を生きていれば、なにかしら思いはあるわけでさ。
— 実家が福島原発から20キロ圏内にある俊美さんのなかに複雑な思いが渦巻いているのは気配として伝わってきますしね。ただ、日々感じる憤りを表に出している川辺さんは見たことがないというか。
川辺:そう。そういう憤りを表に出すタイプではないし、無駄に感情を吐き出すことさえ、もったいないと思ってしまう。だから、ため込んだ負のエネルギーを注ぎ込んで、本当にきれいな曲を作るとか、アウトプットとしてはそんな感じ。
— SOUL SETとしても、DJとしても20年以上やってきて、この先のこと、5年、10年先のことは考えたりしますか?
川辺:いや、全く考えないね。DJを始めた当時、20年後にまさかこういうインタビューを受けるとは思ってなかったし、今は今で経験的にいって、そういうことを考えてもしょうがないなって思うし。ただ、音楽には携わっていたいよね、聴いている人がいる限り。
— 結局のところ、自分でやりたいと思っても、それを求めている人がいなかったら成立しないわけですもんね。音楽を長く続けていくことのタフさはそういう部分にもあるように思います。
川辺:そう。だから、先のことを考えてもしょうがないんだよ。ただ、SOUL SETにしても、個人としても、ようやく社会性を持ち始めたというか(笑)、人の目を見て話せるようになってきたこともあって(笑)、「今年は自分のソロを作りたい」とようやく思えるようになったね。まぁ、ソロをやるとしても、誰かが参加することになると思うけど、ただ、問題なのは、やりたいことがありすぎるってこと。どうしたらいいんだろうって感じだよ(笑)。
TOKYO No.1 SOUL SET 公式サイト
http://www.t1ss.net/
TOKYO No.1 SOUL SET 公式Facebookページ
http://www.facebook.com/tn1ss
川辺ヒロシ Twitter
http://twitter.com/Firoshi1
TOKYO No.1 SOUL SET『Grinding Sound』
発売中
AVCD-38452/B / 3,800円(CD+DVD)
AVCD-38453 / 2,857円(CD)
(avex trax)
TOKYO No.1 SOUL SET『Grinding Sound』リリース記念 単独公演
<大阪公演>
タイトル:Grinding Sound
日程:2012年6月16日(土)
会場:(難波 千日前) ユニバース<http://cavaret-universe.com/>
開場:18:00 開演:19:00
料金:(前売)4,700(税込/ドリンク代別)
チケット一般発売日:4月21日(土)
★プレイガイド:
チケットぴあ(Pコード:164896)
ローソンチケット(Lコード:55809)
イープラス(http://eplus.jp)
問合せ:キョードーインフォメーション
06-7732-8888 http://www.kyodo-osaka.co.jp/
主催/ミューベンツ・ジャパン
企画・制作/Melody Fair
後援/avex entertainment
<東京公演>
タイトル:Grinding Sound
日程:2012年6月23日(土)
会場:東京キネマ倶楽部 <http://www.kinema.jp/>
開場:18:00 開演:19:00
料金:(前売/1F立ち見)¥5,250(税込/ドリンク代別)
チケット一般発売日:4月21日(土)
★プレイガイド:
チケットぴあ(Pコード:165031)
ローソンチケット(Lコード:71690)
イープラス(http://eplus.jp)
問合せ:HOT STUFF PROMOTION
03-5720-9999 http://www.red-hot.ne.jp
主催/HOT STUFF PROMOTION
企画・制作/Melody Fair
後援/avex entertainment