Vol.65 仙人掌『VOICE』リリース記念特別編 feat. J.Columbus & ZZY – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回は、MONJUの一員でもあるラッパーの仙人掌とJ.Columbus a.k.a. LIL MERCY、そして、北海道のDJ、ビートメイカーであるZZYをフィーチャー。


仙人掌が所属するDogear Recordsがレーベル設立10周年、LIL MERCYが主宰するWDsoundsが12周年が迎えた2016年の年末、両者がタッグを組み、正式なファーストアルバムにして、新たなクラシック『VOICE』を完成させた仙人掌。そのディレクションを手掛ける一方、ラッパー・J.Columbusとして、CJ&JC名義のアルバム『STEVE JOBBS』をリリース。さらにWDsoundsからCPF限定作品のリミックスアルバム『5014CompMostWANTED -REVISIT-』をリリースしたLIL MERCY。2000年代後半以降の東京のヒップホップ・シーンにおける最重要プレイヤーに作品誕生秘話やレーベルについて語ってもらった。そして2人の推薦により、DJミックスは『VOICE』誕生の鍵を握るビートを手掛けた北海道のDJ、ZZYに依頼。そのインタビューとDJミックスを通じて、現行ヒップホップの最前線にキャッチアップしていただきたい。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

こういう厳しい時代だからこそ、ヒップホップをやってる人間にとっては取り上げるべきことがたくさんあるし、その表現がより力を持つんじゃないかなって思う(仙人掌)

— 今回リリースされる仙人掌のアルバム『VOICE』はWDSoundsとDogear Recordsが初めてタッグを組んだ作品ということですが、その2つの繋がりは、WDオーナーである(LIL)MERCYくんがDOWN NORTH CAMP所属ということもあり、さらにMERCYくんとERAくんがヴォーカルを務めていたハードコアパンク・バンド、WIZ OWN BLISSも接点になっているんですよね?

J.Columbus a.k.a. LIL MERCY(以下、MERCY):そう。WIZ OWN BLISSのベースとドラムがDOWN NORTH CAMPのゆうきとPENNY-Oなんですよね。

— MERCYくんから見て、Dogear Recordsはどんなレーベルですか?

MERCY:ホント好きな音楽を作ってますね。個々で考えると、割と音が違っていると思うし、それをタイミングで出しているイメージですね。

— では、仙人掌から見て、WDsoundsはどんなレーベルですか?

仙人掌:WDsoundsは、東京でヒップホップに関わっていたら、避けて通ることができないレーベルですよね。そこまで深くは分からないですけど、MERCYくんにも歴史があると思うし、街の色んなところで見てた人たちだから、単純に僕たちとしてもすごく興味があったんですよね。

仙人掌『VOICE』 東京を代表するヒップホップグループ、MONJUのラッパーである仙人掌が自身の音楽観をストレートに追求。盟友の16FLIPやMASS-HOLE、Febbから初顔合わせとなるZZYやTrinitytiny1といったビートメイカー、ERAやBRON-K、KANDYTOWNのMUDらラッパー、女性ヴォーカリストの鎌田みずき、サックス奏者のchi3cheeをフィーチャーし、ここに完成した2016年度屈指の名盤。

仙人掌『VOICE』
東京を代表するヒップホップグループ、MONJUのラッパーである仙人掌が自身の音楽観をストレートに追求。盟友の16FLIPやMASS-HOLE、Febbから初顔合わせとなるZZYやTrinitytiny1といったビートメイカー、ERAやBRON-K、KANDYTOWNのMUDらラッパー、女性ヴォーカリストの鎌田みずき、サックス奏者のchi3cheeをフィーチャーし、ここに完成した2016年度屈指の名盤。

— 元々、ハードコアパンクのレーベルとしてはじまったWDsoundsは、2008年のコンピレーション『DMB CAPITAL PUNISHMENT』を境に、ヒップホップの作品を出すようになりましたよね。

MERCY:俺はもともとOUT TA BOMBっていうレーベルで働いていたんですけど、バンドもずっとやってるし、ヒップホップもずっと聴いているし、一番面白いと思うところに遊びに行くじゃないですか。だから、それが反映されたものがレーベルのカラーになってるっていう。

— そして、ハードコアが土台になっているからこそ、WDsoundsはヒップホップでも常に他とは違う、オルタナティヴな作品を出している印象があります。

MERCY:まぁ、そう見えるのはいいことだと思うんですけど、意図して、オルナタティヴなことをやろうと思ってるわけではなく(笑)、常に自分のなかでど真ん中なことをやってるつもりなんですけどね。

— ははは、なるほど。じゃあ、真っ直ぐに曲がってるレーベルだと訂正させていただきます。かたや、Dogearの一般的なイメージは、オーセンティックなヒップホップにこだわってるレーベルだと思うんですけど。

仙人掌:まぁ、そういうことをやりたいと思って、レーベルを立ち上げたんですけど、やっていくなかで色んなものを取り入れて、にじんではみ出した部分がWDと重なる部分なのかなって。

MERCY:90年代のヒップホップにしても、今でこそオーセンティックなものとして捉えられていますけど、今改めて聴いてみると、音もおかしいし、意外と無茶苦茶で、ジャケットもヤバかったりして、実はすごく変な音楽だと思うんですけどね。

Various Artists『5014 COMP MOST WANTED - REVISIT -』 WDsoundsがCREATIVE PLATFORM参加者限定でリリースしたアルバムのリミックス盤。これまでになかったラッパーとビートメイカーの刺激的な組み合わせを提示したオリジナルを、16FLIP、DJ HIGHSCHOOL、STARRBURST、RAMZA、tofubeatsらがさらにリミックス。新たな音楽の可能性が提示された1枚だ。

Various Artists『5014 COMP MOST WANTED – REVISIT -』
WDsoundsがCREATIVE PLATFORM参加者限定でリリースしたアルバムのリミックス盤。これまでになかったラッパーとビートメイカーの刺激的な組み合わせを提示したオリジナルを、16FLIP、DJ HIGHSCHOOL、STARRBURST、RAMZA、tofubeatsらがさらにリミックス。新たな音楽の可能性が提示された1枚だ。

— 今回、仙人掌のアルバムをWDsoundsとDogearのジョイントリリースするようになった経緯というのは?

MERCY:仙人掌と頻繁に遊んでるなかで、俺が「ソロ出そうよ」ってずっと言ってたんですよ。で、まぁ、タイミングも合ったので「じゃあ、やろうか」って。その時点で何曲かすでにあったと思うんだけど。

仙人掌:そう、そこから先、自分の思い描いてたイメージにもっと近づけたかったんですよね。僕らの周りにはかっこいいヒップホップのビートを作れる人はたくさんいるんですけど、さらに一歩踏み込んで、出てくる音がいびつだったり、面白かったり、にじみ出ている、そういう僕が好きなヒップホップを形にしたかったし、MERCYくんも僕の音に対する嗜好に引っかかったんじゃないかなって。

MERCY:そういう話をしてた時に北海道に行って、ビートメイカー、DJのZZYに会ったら、ぱっとCD-Rを渡されて、1曲しか入ってないのかなって思ったら、すごい数の曲が入ってて。それで東京に帰ってきて、仙人掌に「こないだ話したのは、こういうトラックなんじゃない?」って聴かせて。

仙人掌:そう。今回、メインでトラックを提供してくれてるのは札幌のZZYくんなんですけど、彼のビートを聴いた時、基本はヒップホップのドラムブレイクを使いつつ、音が醸し出す空気とか音のバランスや面白さにワールドミュージック感があって。そのCD-Rには20曲くらい入っていたんですけど、どのビートもマジで格好良くて。そのなかから抜粋して、それだけで作品を作りたいっていう勢いで話してたんですけど、最終的に今回のアルバムではもうちょっと色んなビートメイカーに参加してもらったうえで、その核となるものをZZYくんに提供してもらった感じですね。

CIAZOO『THE LOGIC WORK ORANGE』 Hi-DefとTONO SAPIENSからなる北海道出身のヒップホップ・グループ。ハイフィーもクランクも飲み込んでファンキーにバウンシーに進化した2008年作。オリジナルメンバーのZZYも『Night Ride』などで参加している。

CIAZOO『THE LOGIC WORK ORANGE』
Hi-DefとTONO SAPIENSからなる北海道出身のヒップホップ・グループ。ハイフィーもクランクも飲み込んでファンキーにバウンシーに進化した2008年作。オリジナル・メンバーのZZYも『Night Ride』などで参加している。

— ZZYがビートを手掛けた「HUSTLE AND BUSTLE」は、エスニックなスピリチュアル・ジャズ感がありますもんね。

仙人掌:ああいうビートに反応しないラッパーもいるような気がするんですけど、MERCYくんが家で流してた、そういう音楽に反応したのが俺だったり、ISSUGIだったり。Dogearにもそういうオルタナティヴな部分があるんですよね。

MERCY:今回、ミックスとマスタリングをお願いしたエンジニアの得能(直也)くんとも、今年5月に神戸でやったERA、BUSHMINDのイベントで初めて会って。そのまま、別のイベントで朝まで一緒に遊んだり、その後も京都だったり、何度か会う機会があって、「なんか一緒にやりたいよね」って話してたんですけど、仙人掌のアルバムを作る時、得能くんにお願いしたら、絶対面白いものが出来ると思ったんですよね。彼はヒップホップのエンジニアではないんですけど、そういう提案が今回いい感じにハマったと思うんですよ。

— そうですね。得能くんは、ceroのアルバムだったり、ダンスミュージックのフィールドで石野卓球さんやKeita Sanoのアルバムを手掛けているエンジニアですけど、音の伝わり方、そのスピード感が早く感じる彼の音作りはこのアルバムのオルタナティヴ感を象徴してますよね。ただ、そういう関係性は仙人掌にも許容する器がないと成り立たないわけで、仙人掌の音楽観を考えると、Slow Curve名義でDJをやってる経験も大きいのかなって。

仙人掌:僕はパーティが好きで、誰も知らないようなパーティに一人で遊びに行ったりもするんですけど、何が起こるんだろう?っていうワクワク感を音の世界で感じていたいんですよね。もちろん、「この人はひたすらこれだよな」っていう格好良さもよく分かるんですけど、自分の根底には「この人、次に何してくれるんだろう?」とか「このDJ、次に何かけるんだろう?」っていう期待感が常にあるんです。

— 前回、GRADIS NICEと一緒にインタビューに応えてくれたISSUGIくんもそうなんですけど、広い視野で音楽としてのヒップホップをいかにかっこよく捉えられるかが重要な気がするんですよね。

仙人掌:そうですね。MERCYくんから教えてもらう音楽もそうだし、そこはかなり重要で、だからこそ、こういう関係が続けられるんだろうし、今回のような作品が生まれるんじゃないかと思いますね。

— 2011年のストリート盤『LIVE ON REFUGEE THE MIXTAPE』にはじまり、仙人掌はCPF限定のアルバム『Be In One’s Element』とそのリミックス、2015年にはQROIXとのアルバム『Inbound』をリリースしつつ、今回のアルバムが正式なファーストソロアルバムということで、制作に臨む気持ちはこれまでと違うものがありましたか?

仙人掌:今回がファーストっていう気持ちは、僕のなかにはもはやないんですけど、唯一違うとしたら、今回が初めてのスタジオ・アルバムなのかな、っていう。制作の進め方もこれまでとは違って、作りながら学んでいったところはありますね。

MERCY:今回は色々言ったし、トラックも俺が持ってきたりしましたからね。

仙人掌『BE IN ONE’S ELEMENT THE REMIX』 CREATIVE PLATFORMのクラウドファンディング参加者限定でリリースされたアルバムのリミックス盤。BudamunkとILLSUGIのビートでその大半を再録、改変したラップが展開される2013年作。

仙人掌『BE IN ONE’S ELEMENT THE REMIX』
CREATIVE PLATFORMのクラウドファンディング参加者限定でリリースされたアルバムのリミックス盤。BudamunkとILLSUGIのビートでその大半を再録、改変したラップが展開される2013年作。

— じゃあ、MERCYくんがプロデューサー、ディレクターの役割を担って、2人でアルバムを作り上げていった、と。

仙人掌:そういう意味で今回は俺とMERCYくんのアルバムと言っていいんじゃないかなっていうくらいですね。

MERCY:提案もあれこれしたし、そういう2人のやり取りはちょっと気持ち悪いものがあるかもしれない。

仙人掌:確かにあれは見られたくないっすねー(笑)。

MERCY:自分でも「ヤベぇ、また気持ち悪いメール送っちゃったな」って。

仙人掌:なんて返していいか分からなくて、そのまま寝ちゃったりして(笑)。そういうエモいことをやってましたね。

— それから今回のアルバムでは、ERAくんのアルバムにトラックを提供していたり、仙人掌も参加しているジュークのコンピレーション『160OR80』のオーガナイザーでもあるtrinitytiny1のテクノ的なトラックが衝撃的だし、そのチョイスに仙人掌の音楽性の幅広さを実感しましたね。

仙人掌:trinitytiny1ことチャンユーさんのトラックは、CPFでアルバムを出した後、すぐに作品を出そうと思ってた時に僕からオーダーして、使いたいって言ってたものなんです。でも、なかなか取りかかれず、そのままになっていたんですけど、今回のタイミングでMERCYくん経由で連絡を取ってもらったんです。

MERCY:そうしたら、彼は20年くらい前、バンドのZINEを出した時にやりとりしてた人だと分かったっていう。

仙人掌:そんな経緯もありつつ、トラック自体は『160OR80』が出た前後、2013年頃に送ってもらったものなんですよね。

MERCY:しかも、今回参加している16FLIPだったり、MASS-HOLEだったりっていう誰が見ても近いビートメイカーじゃなく、ZZYとtrinitytiny1のトラックを今回スキットでも使っているところが、このアルバムの面白いところなんですよね。音としてハマるでしょっていう使い方、そのチョイスも仙人掌の表現だと思うんですよ。

仙人掌:2人ともビートだけで曲が完成していたから、これをインストゥルメンタルのままアルバムに入れられたら、作品として広がりが出るんじゃないかって思ったし、完成したものを聴いて、そのイメージ通りになったなって思いますよね。

Various Artists『160OR80』 当時タイ在住だったビートメイカー、trinitytiny1旗振りの元2013年に配信リリースされた、ジュークのビートメイカーと日本人ラッパーの異種格闘技戦的コンピ。のちにフィジカル盤も発売され、AVレーベル・性格良し子ちゃんが手がけたPVも話題を呼んだ。

Various Artists『160OR80』
当時タイ在住だったビートメイカー、trinitytiny1旗振りの元2013年に配信リリースされた、ジュークのビートメイカーと日本人ラッパーの異種格闘技戦的コンピ。のちにフィジカル盤も発売され、AVレーベル・性格良し子ちゃんが手がけたPVも話題を呼んだ。

— ラッパーだったら、ヤバいトラックに言葉を乗せたくなると思うんですけど、そうじゃないアプローチも取れるところがすごく音楽的ですよね。そして、そのことを踏まえると、DJ FRESHのビートでERAくんとKANDYTOWNのMUDをフィーチャーした「BACK TO MAC」の「まるで誰かのミックステープみたく/俺はイケてるやつだけ聴きてえ」っていうフックの一節がより意味を持ってくるっていう。

仙人掌:そうですね。流れのなかでミックスされているものって、1曲1曲よりもその曲の魅力を倍増させたりもするし、このアルバムはそういう流れが重要だったんですよね。

— それからDOPEYのビートとBUDAMUNKが手を加えた1曲を含む、4曲を提供しているFITZ AMBROSEのビートに女性ヴォーカリストの鎌田みずきさんとサックスのchi3cheeをフィーチャーしているところも面白いですよね。

仙人掌:あの女性ヴォーカルは個人的に友達で、彼女がやってるバンドに参加させてもらったりしてたんですけど、その歌声が好きで、今回、ぜひやってもらいたかったんです。彼女はちゃきちゃきのソウル姉ちゃんって感じで、土砂降りのなか、履いてるヒールが折れちゃったんですけど、そのまま裸足で渋谷の駅に来て、雨宿りしながら歌ってた声が「これが本物のソウルだ!」って感じですごい格好良かったんですよね。chi3cheeは池袋BEDのスタッフとして、僕が17歳くらいの頃からずっとPAをやってた人で、アルバムタイトルも『VOICE』だし、僕がラッパーとして初めて声を預けてたのもその人だったので、そういう意味もあって、今回、サックスを吹いてもらったことで、僕がずっとやってきたことが繋がったなって。

— リリックの面では、「HUSTLE AND BUSTLE」で歌っている「解放しろ/解放しろ/眠らせたままの本当のVOICE」という一節に象徴される、市井の人のプロテスト感を含めた精神的な意味でのブラックネスを強く感じました。

仙人掌:実はアルバムの話を出すタイミングで周りに迷惑をかけてしまって、MERCYくんやみんなに助けてもらって。喋ったり、笑ったりするのは当たり前のことなのに、それが出来ない状況や立場にいる人たちがたくさんいるんだなっていうことを考えさせられたんですよね。そのうえで、自分がずっとやってきたラップの役割を自覚して、声を発して行動していくことを積極的にやっていくべきだなって思ったりもしていて。そういう思いがラップににじみ出ているのかもしれないですね。

— 今は世界的に見ると、ブラック・ライヴズ・マター・ムーヴメントしかり、不安定な社会状況下で人種的、経済的に一般の人たちへの不当な抑圧とそれに対する反発があったりしますし、日本では音楽をやってる人の社会的立場が弱かったりもするじゃないですか。

仙人掌:それはこないだもMERCYくんと話してたんですけど、こういう厳しい時代だからこそ、ヒップホップをやってる人間にとっては取り上げるべきことがたくさんあるし、その表現がより力を持つんじゃないかなって思うし、今後のヒップホップは音的にも大きく変わっていくんじゃないかなって気がしているんですよね。

— 仙人掌のリリックとtrinitytiny1のトラックが醸し出すサイエンスフィクション感覚であったり、WATTERがビートを手掛けた「愛」の、胸に刺さる近しい感情であったり、このアルバムにはストーリーがあるし、込められた感情が真っ直ぐで強い。

MERCY:そう、このアルバムにはブラックサイエンスフィクションの要素も若干入ってますよね。黒人音楽って、壮大だと思うんですよ。このアルバムにもそういう広がりを感じるんですけど、それが何なのか。感覚的には分かるんだけど、言葉で説明するのは難しくて。ただ、ストレートなものって強さが違うと思うし、今はそういうストレートなものが求められている時代なんじゃないかなって。今回はそういう時代性とも合致したアルバムだと思うし、何かに合わせず、全開でストレートにやったら、それがオルタナティヴな、他とは違うものとして受け取られるのも分かる気がするんですけどね(笑)。

— あまりにストレートゆえの圧倒的な存在感、異物感というか。

MERCY:このアルバムは結構色んなタイプのビート、色んなゾーンがあって、そこにはBRON-Kをフィーチャーした「HERE WE COME」みたいな曲もあって。仙人掌とBRON-Kでやってる曲が実はないんだよなっていうところから、ファン目線で聴きたい組み合わせとして提案させてもらったんですけどね。

仙人掌:僕の頭にそのアイデアは全くなかったんですけど、BRON-Kを無理矢理くっつけたつもりもなくて、アルバムの流れにハマっていると思うんですよ。

MERCY:流れという意味では、俺は先月出たISSUGIとGRADIS NICEのアルバムもすごい好きなんですけど、それとは完璧に対照的な仙人掌のアルバムが続けて出るのはすごくいいことだし、みんな食らうんじゃないかって思うんですよ。ただ、聴こえ方は対照的ではあっても、ISSUGIも仙人掌もスピリットは同じというか、どちらも真っ直ぐがっちり作った作品ですからね。

— それに対して、MERCYくんがJ.COLUMBUS名義でCENJUと組んで7月にDogearからリリースしたCJ&JCのアルバム『STEVE JOBBS』は完全な劇物指定のヒップホップですよね。

MERCY:一切そんなことをやろうと思ってたわけじゃないんですけど、完全にサイケデリックな音楽になっちゃいましたね(笑)。あれは前からCENJUとやろうやろうって言ってた流れで、今は海外のビートがMP3で安く買えたりするから、そういうトラックを集めるところから始めて、16FLIPとかWATTER、DOPEYのトラックはレコーディングの終盤に揃ったんです。しかも、あのアルバムはレコーディングもスタジオを借りて全部自分でやりましたからね。だから、ヴォーカルがあんな感じになっているんですよ。ラップ自体はただの心の声だし、それをQROIXにミックスしてもらって、LAのB.CORDER周りのエンジニア、BEER&BREATSにマスタリングしてもらったら、完璧によく分からないアルバムになったという(笑)。

— CJ&JCは、WDsoundsの挑戦的なスタンスを象徴する作品ですよね。

MERCY:頭のなかでシミュレーションしてみて、確信出来ないことを自分の作品で敢えて挑戦してみて、そうした経験を経て、得られたいい部分、確信出来る部分をレーベルの作品に反映させてる感じですね。

仙人掌:MERCYくんのそういうスタンスが僕にとって助かるというか、自分がやりたいアイデアを人に話して「え?」って言われることも、MERCYくんだったら、「それいきましょう!」って言ってくれるし、CJ&JCのアルバムもここまでやっていいんだって思えたことが、今回のアルバムを作るうえでもすごく参考になったんですよね。

MERCY:自分たちがやりたいことをやる時、誰もやってないことだったら、実験しないといけないじゃないですか。そこでやらないっていう選択肢もあるんですけど、やってみないことにはいつまでも枠の中でしかないし、同じ音になっても面白くないと思うんですよね。

CJ & JC『STEVE JOBBS』 WDsoundsオーナーにして、CRACKS BROTHERS、DOWN NORTH CAMPにも所属するJ.Columbusが、同じくDOWN NORTH CAMP所属のラッパー、CENJUと組んだユニット、CJ & JCのファーストアルバム。16FLIP、WATTER、QROIX、RCslumのATOSONE、NERO IMAIらが参加。レフトフィールドかつトリッピーなヒップホップアルバムとなっている。

CJ & JC『STEVE JOBBS』
WDsoundsオーナーにして、CRACKS BROTHERS、DOWN NORTH CAMPにも所属するJ.Columbusが、同じくDOWN NORTH CAMP所属のラッパー、CENJUと組んだユニット、CJ & JCのファーストアルバム。16FLIP、WATTER、QROIX、RCslumのATOSONE、NERO IMAIらが参加。レフトフィールドかつトリッピーなヒップホップアルバムとなっている。

— 先日、WDsoundsがリリースしたCPF限定コンピレーションのリミックスアルバム『5014CompMostWANTED -REVISIT-』をハイレゾでリリースしたり、Bandcampで先行の全曲配信をやったり、常に新しい試みに挑戦しているし、コンピレーション自体、ラッパーとビートメイカーの新しい組み合わせの提案そのものですもんね。

MERCY:そう。そうやって実験してるんですよ。例えば、CENJUのアルバム『Cakez』でAYATOLLAHのトラックを使ったんですけど、仙人掌がそれに超反応してたのがうれしくて、もう1曲あったトラックで仙人掌の「TRIAL & ERROR」を作ったり。リミックス盤ではR61BOYZがラップとリミックスをしているBBH×MONJU「SPACE BROTHERS」なんかは、バスケの3on3からアイデアを得て、BBHとMONJUが一緒にやったら面白いじゃんって。そうやって、俺が実験、実現したアイデアやその経験は周りの人に喜んで教えるし、それこそが長らくレーベルをやってきて、俺がみんなに渡せるものだと思うんですよね。

— そして、2016年にDogear Recordsがレーベル設立から10周年、WDsoundsが12周年を迎えたわけですが、作り手一人でレーベルを名乗って、配信で簡単に作品がリリース出来る今の時代にあって、お二人はレーベルについてどんな思いがありますか?

MERCY:ヤンキースがワールドシリーズで優勝した2009年にニューヨークへ行った時、友達と仲良かったFRANKの社長と話したんですけど、その人は「これからはレーベルじゃなく、プロモーション・カンパニーの時代だ」って言ってて。当時、フリーのミックスが流行り始めた頃だったんですけど、その時に話したことをずっと考えてて、レーベルとして、CDを出して無理にお金にするより、レーベルやアーティストの価値を高めることによって、マーチャンダイズやライヴをお金にしたほうがいいし、今はそのためにレーベルがあるというか。たぶん、同じことをずっとやってたら、レーベルは存続出来ないと思うし、時代によって形が変わっていくことを前提にレーベルの見せ方を提案していきたいと思ってますね。

仙人掌:MONJUの作品を出すためにレーベルを立ち上げて10年。みんな口にはしなくても、転換点に来てると思っています。来年からDOWN NORTH CAMP以外のアーティストもレーベルとしてフックアップしようと、その候補として考えているアーティストもいて。そういうことでレーベルがより活性化するだろうし、今は色んな楽しみ方や枝分かれの仕方があると思うんですけど、その大元である大きい木として、Dogearを見せたいと思っていますね。

— 最後に、今回、DJミックスの制作をお願いしたZZYについて紹介をお願いします。

MERCY:ZZYはCIAZOOのオリジナル・メンバーで、グループの音の核を作ってた北海道のビートメイカー、DJですね。彼は何でも聴くし、何でもかけるDJで、昔、ブログで紹介してた音楽も掘ってる人しか知らないようなハードコアからヒップホップ、4つ打ちまでめちゃくちゃだったんですけど、北海道ではヒップホップと4つ打ちを混ぜてかけるDJの先駆けらしいです。こんなDJがいるんだっていう驚きも含めて、ZZYのDJを聴いて欲しいっていう、俺からの提案でもありますね。