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MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回は、ビートメイカー/DJ名義、16FLIP a.k.a. DJ KillwheelやMONJU、SICK TEAMでの活動でお馴染み、ラッパーのISSUGIとNY在住のビートメーカー、GRADIS NICE。
8月に行われたフリースタイルMCバトル「KING OF KINGS」の東日本大会で見事優勝を果たしたISSUGI。バトルのためのラップではなく、ヒップホップのラップを見せつけた彼が、5lackや仙人掌、KID FRESINO, B.D.、IOの作品を手掛けるビートメーカー、GRADIS NICEとタッグを組んだ新作アルバム『DAY and NITE』を完成!音楽と向き合う日常を一日一日積み重ね、それをとある一日の流れに落とし込んだ作品の説得力は、ブームに浮き足立つヒップホップシーンにあって、一朝一夕では生み出し得ない圧倒的な存在感を放っている。今回は、そんなISSUGIのラップ哲学を紐解くとともに、GRADIS NICEを交えた新作インタビューと彼ら2人によるスプリットDJミックスを通じて、彼らが考える普遍的なヒップホップ観に迫った。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
フリースタイルが流行ってる今、HIPHOPとかラップについて「ダセーな」って誤解されたくない気持ちがあるからだと思います。
— まずは先日のMCバトル「KING OF KINGS 2016」東日本大会優勝おめでとうございます。
ISSUGI:ありがとうございます。
— ISSUGIくんはそれまで続けていたMCバトルへの参加を2009年くらいに止めて、昨年から再び参加するようになっていますけど、その経緯については?
ISSUGI:去年、ひさしぶりにMCバトルに出たのは、「MCバトルに出てよ!」って、連絡をくれたダース(レイダー)さんがきっかけですね。そもそも、自分が最初にMCバトルに出るようになったのは、MONJUがまだ作品をリリースしてなくて、誰もオレのことを知らないくらいの時期だったと思うんですけど、当時は無名のヤツでもMCバトルでヤバいラップをしとけば、アンダーグラウンドなシーンだけど、そのなかで噂が広まる感じがあって。丁度同じグループの仙人掌もCCGとかで注目され始めた時期だったから、そういう注目がうまく重なるタイミングでMONJUで作品を出そうと3人で考えていたんですよね。
その後、結構フリースタイルが面白くなっちゃって、CD出した後もちょこちょこ出てたんですけど、優勝とかは出来ないままダラダラ続けていたら、ある大会で「こういう感じのやつが勝つんだ!?」っていう気持ちになった時があって、「それだったら、もう俺は出なくていいかな」って思って、出るのをやめたんです。
— こういう感じのやつ、っていうのは?
ISSUGI:競技的な、スポーツっぽいラップというか。感じ方は人それぞれだと思うんですけど、俺はそういうラップにHIPHOPを感じられなかったんですよね。自分が最初に参加した2005、6年頃のMCバトルはHIPHOPの空気があったんですよ。それはラップが上手い下手っていうことじゃなく、出てるやつがB-BOYだったというか。でも、今は「ぶっちゃけHIPHOPとか良くわかんないけど、フリースタイルは面白いからラップをやってるし、バトルにも出ます」っていうやつもいると思うんですね。
— MCバトルのイベントは満員の大盛況でも、通常のクラブイベントの集客に全く反映されてないって話もよく聞きますもんね。
ISSUGI:ラップに興味を持ってるやつが増えてるなら、それはそれでいいじゃないかっていう意見もあると思うんですけど、俺にはやっぱり、HIPHOPを感じないラップはダサく聴こえちゃうんですよね。
— バトルのテクニックを極めても、それがHIPHOPの現場で活かされていないっていう。そして、例えば、ロックの世界でも超絶テクのギタリストが必ずしもいい音楽を作るわけではないように、そもそも、テクニックの優れたラップは必ずしもいい音楽ではないし、バトルではない現場のライヴを積み重ねて初めて、音楽としてのラップは熟成されていくんだと思うんですよ。
ISSUGI:そう、バトルといえど、ラップは音楽ですからね。でも、ほとんどのバトルラップは圧倒的にノれなくて、音楽性という意味においても低いし、海外のフリースタイルと比較して、根本的に違うのはまさにその部分なんですよね。あとラッパーのHIPHOPに対するメンタリティも関係あると思います。
— だから、ISSUGIくんがふたたびMCバトルに出るようになったのは、競技的なMCバトル全盛の今、ヒップホップのMCバトルを若いオーディエンスに見せるという意味もあるのかなって。
ISSUGI:そうですね。俺みたいなやつが1人くらい出てカマさないとダメでしょっていう気持ちはあったりします。フリースタイルが流行ってる今、HIPHOPとかラップについて「ダセーな」って誤解されたくない気持ちがあるからだと思います。
— 実際、ISSUGIくんのバトルラップは、言葉遊びだけに終始せず、グルーヴにノリながら、ホントに思ってることをぶつけるスタイルですよね。
ISSUGI:それ、色んな人に言われるんですよ(笑)。「こんなきつい事言う人とは絶対に戦いたくないですね」って。
自分、今のバトルのシーンについては、まったくと言っていいほど知らないんですけど、ほとんどの人はバトルの時だけのラップをやってると思うんですよね、ホントに思ってないことも韻を踏むためとか、そんな幼稚なことが今のお前の言いたいことなの?っていう。目の前にいる相手を倒す為の小手先のラップというか、それだとマジじゃないんですよね。そういう人は知らず知らずのうちに、フリースタイルにこき使われているというか、その人自身がラップに振り回されているように感じます。
俺は目の前の相手を倒すためだけにラップをしているわけじゃなく、常に考えていること、普通に思っていることをラップしてるし、その場で考えた些細な悪口ではなく、これまで培ってきたヒップホップ観の違いを問いかけているっていう、そんな感じですね。
— そういう意味で、若手とはスタイルが異なるISSUGIくんのバトルラップが、図らずもフリースタイル・ブームの問題点をあぶり出しているというか、一石を投じているところは大いにあると思いますね。
ISSUGI:聴く人が増えるのは、すごくいいことだと思うんですけど、格好いいままのヒップホップが広まってくれないと、これから先も何も変わらないと思うんですよね。
あと、折角だから言っておきたいことがあって。KING OF KINGSの自分のバトルにも字幕がついていたと思うんですけど、MCバトルに字幕はいらない。特に、今の段階の日本のHIPHOPには必要ないと思いますね。やっぱり字幕は、聴く側の意識をグルーヴから遠ざけてると思っていて、特にHIPHOPを聞いたことがない人に最初から字幕付きのラップを見せていたら、字幕ばっかり目で追っちゃって、多分、フロウやグルーヴを一生理解できないと思うし、聴いてる人の頭がどんどん馬鹿になっていってしまうというか、退化してしまうと思います。もっと自分で考えることや感じることを学ばないと。ラッパーの声は全員違うし、間の空け方も一人ずつ違うのに、同じフォントに統一して、大体2小節1セットで字幕を流していくっていうのは、ラップを聞くにあたって単純にもったいないし、大事なノリを破壊してる。もっと楽しみ方があるよ、って思います。
— あと、ここ最近、若い子の間では売れてるものこそが正義というか、逆にいうと、売れる売れないという価値観にとらわれず、自分の美学ややりたいことを極めるためにアンダーグラウンドでありつづけるというスタンスが、理解されなくなっている気がして。
ISSUGI:HIPHOPに限らず、どんなことにも当てはまると思うんですけど、何をやるか、何をやらないかっていう選択があると思うんですね。“やる”ということに関しては、自分が格好いいと思うものをただやり続ければいいんですけど、重要なのは“やらない”っていう部分だと思うんですよ。これだけは絶対やれないでしょ、やらないでしょっていうものがないと、いちアーティストの本質が聴いている人にも伝わらないと思うんですよ。俺自身はリスナーとしても、そういう明確な価値観を持っているアーティストが好きだし、HIPHOPが好きな人にもそうあって欲しい。もっと本質に踏み込んで、流行とかじゃなくても「誰がなんて言おうと、俺はこれが好きだから、聴くのはやめられない」とか「みんなはダサいと思ってるけど、俺は格好いいと思ってるから、ずっと聴くよ」とか、音楽だけじゃなく、服とか、何にでも当てはまると思うんです。周りを気にせず、自分の価値観を貫いて欲しいなって思うんですよね。
— そういう意思表明の場でもあった「KING OF KINGS 2016」東日本大会優勝に続き、完成したニューアルバム『DAY and NITE』はGRADIS NICE全面プロデュースの作品ですよね。そもそも2人はいつどういうきっかけで知り合ったんですか?
GRADIS NICE:mySpaceなんじゃないかな?
ISSUGI:かもしれないね。俺は同時期にmySpace経由でいろんなやつと知り合ってて、Buda(monk)くんもそうだし、5lackもそう。でも、GRADIS NICEとDJ SCRATCH NICEは池袋Bedで会った気もするな。当時、2人は大阪でやってたクルー、COE-LA-CANTHにあまり関わってなくて、東京に出てきてたんだよね?
GRADIS NICE:そうだね。当時やってたAFRA & INCREDIBLE BEAT BOX BANDの活動が忙しくなって、東京に住まないと無理やなってことになって、それからは池袋Bedでよく遊ぶようになったという。あそこはみんな自分の音楽で戦ってない?
ISSUGI:ホントそうだね。
GRADIS NICE:それがみんなのレベルアップに繋がってる場所だし、ISSUGIくんのことを知ったのもBedでライヴをやってたISSUGIくんのトラックがヤバすぎたんですよ。その時にバックDJをやってたCHANG YUUに誰のトラックか聞いたら、(ISSUGIのビートメーカー名義である)16FLIPって言われたのを覚えてますね。
ISSUGI:それで、2010年にセカンドアルバムの『The Joint LP』を出す頃にはGRADIS NICEとDJ SCRATCH NICEとかなり仲良くなっていて、当時、2人が別々で住んでいた下北沢の家に遊びに行くようになって、1日にそれぞれの家を渡り歩いて、遊んだりしてて(笑)。どっちの家に行っても、ビートを作ってるっていう。その時、俺が作ったビートも持っていって、お互いのビートを聴かせあっていたんですけど、そのなかの1曲を『The Joint LP』で使わせてもらって、同時発売のファースト作『Thursday』のリミックスアルバムでもGRADIS NICEに1曲リミックスで参加してもらったんです。
— その後、GRADIS NICEとDJ SCRATCH NICEはニューヨークに渡ったんですよね?
GRADIS NICE:そう。以前から英語が完璧に話せるようにならないと、人生の半分損しているって思っていたし、子供の頃からニューヨークに行きたいと考えていたんですけど、そのタイミングがやってきたって感じだったんですよね。
— しかも、2人は名前も似てるし、大阪で同じグループでの活動を経て、東京、ニューヨークに移住する流れも一緒っていうのは相当仲がいいですよね。
GRADIS NICE:DJ SCRATCH NICEとは高校生の時にどこかのクラブで出会って以来の付き合いなんですけど、仲がいい……っていうか、まぁ、いつも一緒にゲームをやっていることは確かですね(笑)。
— そして、2013年にアルバム『EARR』を出した後、ISSUGIくんは2人がいるニューヨークに遊びに行ったんですよね?
ISSUGI:そうです。DJ SCRATCH NICEの家に1週間滞在したんですけど、どこか観光に行きたかったわけでもなかったので、Malikの家に行ったりしつつ、ほぼ彼の部屋でビートを作ってました(笑)。初めてのニューヨークだったので、街の空気感にぶち上がっちゃって。キッチンの窓から外の音が聴こえるようなところだったんですけど、今作ったら絶対ヤバいビートが作れると思って、部屋のドアも開けっ放しで、結構デカい音でビートを作ってましたね。そしたら日本帰る日に、1個下の階の部屋に住んでる黒人が「お前のbeatずっと聴こえてたぜ、良かったよ」みたいなことを言ってくれて嬉しかったです。
その間、GRADIS NICEと会ったのは2、3回くらいかな。そこまでがっつり遊んだわけではなかったんですけど、俺はGRADIS NICEのビートも好きだし、DJも好きなので、SoundCloudにアップしたビートを含め、やった仕事は大体チェックしていて。そんななか、GRADIS NICEとアルバムを一枚作りたいと漠然と考えるようになったんですけど、俺はアイデアを形にするのに結構時間がかかるんですよ。だから、去年、DJ SCRATCH NICEと作ったアルバム『UrbanBowl Mixcity』の作業が終わった後、ようやく制作を始めて。ちょこちょこ聴かせてもらってたビートだったり、GRADIS NICEがNYに行く金が欲しくて、下高井戸のTRASMUNDで売ってた50枚限定のビート集で俺が気にいってるビートを送ってもらったり。そうこうしているうちに溜まったビートをまとめて、今回のアルバムを完成させたんですよ。
— ということは、まとめて録ったというより、じわじわ形にしていったアルバムなんですね。
ISSUGI:その間にJJJとフリーダウンロードのミックステープ『LINK UP 2 EXPERIMENT』のリリースを挟みつつ、まさにそんな感じでした。GRADIS NICEのトラックは、最近作ってるトラップっぽいトラックでも、ソウルっぽいトラックでも、とりあえずデカい……何かがデカいんですよ。音量の話ではなく、なんかノっちまう、ノせられちまうって感じなんですよ(笑)。BUDAくんにはBUDAくんのノリがあって、GRADIS NICEにはGRADIS NICEのノリがあるし、GRADIS NICEのビートは聴いていると元気になるんですよね。だから、聴いたら、みんなノっちゃうんじゃないかな。
GRADIS NICE:そうだね。そういうノリがビートメーカーそれぞれのスタイルを形作っていると思う。あと、自分の場合、サンプルネタを切りまくって、それをパズルみたいに組み合わせるんですけど、それがいい感じにハマった瞬間に一番アガるんですよね。
ISSUGI:ラッパーとしても、もらったトラックを初めて聴いた時のアガった瞬間、受けたインスピレーションをどうにかしてラップに変換したいと常に思っているんですね。そして、聴いた人にも自分が感じたインスピレーションが伝わったら最高だなって。言葉がバシッと来ることも大事なんですけど、リリックの善し悪しは聴く人によって様々だと思うし、この例えが伝わるかわからないんですが、「俺は仲間を100%信頼してる、これからも変わらない」っていうフレーズがあるとして、それをダサいフロウで歌ったら、結果ダサい曲にしかならない。それに対して、「俺は嘘もつきまくるし、人もだます、でもそんなの気にしねー」っていう道徳的には問題があるフレーズでも格好いいフローで歌ったら、自分にとっては、そっちの方が勝っちゃうんですよね。
— それこそが音楽の力だと思うんですけど、個人的にもそういう音楽的な言葉の追求に、ISSUGIくんらしさを強く感じますね。
ISSUGI:みんな、人生においてはやりたくないことを死ぬほどやらされると思うんですけど、だからこそ、好きなことをやってる時は徹底的にやりたいじゃないですか。そこで自分は没頭、追求する対象として音楽を選んだし、音楽にやりたくないことは持ち込みたくないんですよ。だから、そういう気持ちが作品からにじみ出ちゃってるのかもしれないですね。
— そんな今回のアルバムは、『DAY and NITE』というタイトルにある通り、昼から夜にかけての時間の流れを感じさせる曲順になっていますよね。
ISSUGI:俺のアルバムの作り方自体、すでに見えてる全体像に向かって作っていくんじゃなく、毎日やってる作業のなかで、アルバムを作り始めた日から終わった日までを切り取ったものが、自分の作品なんですよ。そうやって作っているだけに、タイトルを付けるのはなかなか難しいんですけど、GRADIS NICEからもったトラックは自分のなかで夜っぽいトラックと昼っぽいトラックがあって、このアルバムにはその両方が入っているし、『DAY and NITE』がいいかなって。普通に仕事してる人でも、男でも女でも、HIPHOPとか抜きにしても誰にでも当てはまる普遍的な意味だと思うし、普遍的に楽しんでもらえる、そんなアルバムになっているといいなって思いますね。
— 今回のアルバムは、MONJUからMr.Pug、仙人掌、5lack、BESに加えて、KID FRESINOがビートの共作とラップで参加していますが、彼を含むFla$hBackSの3人と親交が厚いISSUGIくんとGRADIS NICEから見て、今後のシーンの中核を担うであろう彼らはどんな存在ですか?
GRADIS NICE:超ヤバい!
ISSUGI:超ヤバいよな(笑)。分かる分かる、俺もFla$hBackSは3人とも最高だと思うもん。年齢に関係なく、あの3人は格好いいんですよね。もちろん、俺もあいつらから影響受けてるし、そういう流れはいいと思いますね。そして、今度はFla$hBackSの作品を聴いたさらに若いやつがさらにヤバい動きを作り出して欲しいし、そうやって伝わり、広がっていくのが、ヒップホップだと、俺は思ってますね。
— 最後に今回お願いしたミックスについて、それぞれ一言づつお願いします。
GRADIS NICE:聴いてくれて、ありがとう!これからもよろしくお願いします。
ISSUGI:いつも通りかな、好きな曲って感じ。
ISSUGI / DOGEAR RECORDS
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